第20話「知らされた真実」


 急いで着替えた俺は会議室へと向かった。会議室に入るとすでに皆集まっていて何か会議していたようだ。


デスフラッシュ「何があった?」


キラーレディ「まずはこちらをご覧ください。デスフラッシュ大佐が来られるまでに録画してあった分です。」


 キラーレディが俺の席の前のモニターに映像を出してくれる。そこに映し出されていたのは………。


???『敵の怪人を見逃して一体何をしているクポ?』


 これは静流の部屋だ。そこに聖香と静流の二人がいた。すると突然二人の間の空間が歪み熊のぬいぐるみが現れる。


聖香『クポッ!?』


静流『何の用ですか?』


 どうやらこのぬいぐるみはクポと言うらしい。こいつが以前から現れていた黒幕か?キラーレディが補足してこいつが前回の時空震で現れたものと同じものだと説明してくれた。少なくともこれまで直接二人の前に現れて魔法科学を授けたり指示を出したりしていたのはこいつのようだ。


 なるほど…。このサイズだから時空震も小さくていいわけだ。この程度のサイズなら自然に発生している時空震のような小さな時空震でも通過してこれる。俺達は自然発生する時空震と侵略者の時空震を区別するために捉える時空震の大きさを大きめに設定していた。


 前にも言った通り敵の航空機を監視する防空レーダーで虫まで捉えていればレーダーとして機能しないから捉える対象のレンジを大きくしているのと同じことだ。


 こんな小さな時空震でたった一人で行動してくる敵の監視は考慮に入れてなかった。単独犯はパトロールなどで対処する予定だったんだ。だけど今回のことでそれだけじゃ不十分だったと思い知らされた。


 そもそも敵が人類を抹殺することが目的なら小さな時空震を発生させて空間を繋げて細菌でもウィルスでも毒ガスでも何でも散布すれば済むことだったんだ。


 俺達は今まで本当の侵略者となんて対峙したことがなかった。だから考えが甘すぎたと言わざるを得ない。だけど今回のことのお陰で俺達も色々と学ぶことがあった。今回の教訓をもとに新型監視網の開発が完了し配備も進んでいるはずだ。次は同じ失敗は繰り返さない。


デスフラッシュ「っていうか、あるぇ?何で静流の家の映像なんてあるの?仮に新型監視網が完成してたって家の中の映像なんて撮れないよね?」


キラーレディ「彼女達は敵に通じているのです。監視するのは当然でございます。」


デスフラッシュ「当然て………。年頃の女の子の私室をこっそり盗撮するのはよくないと思うぞ?」


 そうだ。あの二人は操られているだけでプライベートまで全て監視するのはあまりに可哀想だ。


キラーレディ「問題ありません。そのことも考えて二人の映像を確認して監視しているのは観測班の中の女性だけに絞ってあります。」


 それは当然の配慮だろうけどそれでもちょっとひどい…。とは言えこれは俺の失態でもある。キラーレディだけを責めるわけにはいかないな…。俺がもっと真剣に侵略者への対策を考えていればこんなことをしなくとも…、いや、こんなことになる前に気付けたはずなんだ。


 シャレで秘密結社なんて作っていたけど本当に外敵からの侵略があるなんて思ってもみなかった…。コンクエスタムはただ面白おかしく慈善活動でも出来たらなって…、そんな程度の気持ちでやり始めたことだった…。


 皆は俺の言葉を信じて、信頼して、賛同してついてきてくれていたのに…。その俺が一番不真面目でいい加減だった。


 こんな非合法で許されない盗撮ですら厭わず本気で情報収集に励んでくれているキラーレディと観測班。そして俺の指揮を信じてその身を危険に晒してくれている怪人達…。


 俺は皆の信頼に応えられるようなことをしてきたか?敵があまりに馬鹿だからって真剣にならずにただ成り行きに任せてぼんやり過ごしてきただけじゃないのか?自分の私生活は失いたくないからって逃げ道を残して自分の手を汚さずにやり過ごそうとしてただけじゃないのか?


 コンクエスタムにいる者はほとんどが俺より大人だ。だから俺はその大人達に甘えて責任も負わずにぬくぬく過ごしてきただけだったんじゃないのか?………俺は馬鹿だ。今までそんなことにも気付かずに皆に甘えてたなんて………。


 バッチーン!!!


 とキレのある小気味良い音が会議室に響き渡る。俺は両手で自分の両頬を思いっ切り引っ叩いた。


キラーレディ「デスフラッシュ大佐!どうなさったのですか?」


 キラーレディが慌てて俺の頬に手を添えて撫でてくれる。


デスフラッシュ「…うん。今までののんきに腑抜けて甘えた俺との決別…かな。」


怪人達「「「「「………。」」」」」


 会議室にいる者達全員の視線が俺に集まる。俺は一度目を閉じて深く息を吸い込み呼吸を整えてから目を開く。


デスフラッシュ「敵の尻尾は見えてきた。こんな茶番はとっととケリをつけて本来のコンクエスタムの活動を再開するぞ!」


怪人達「「「「「はっ!」」」」」


 全員がはっきりとした意思を持って俺についてくると示してくれた。うれしさと気恥ずかしさと今までの不甲斐無い俺への申し訳なさでちょっと涙腺が緩んでしまいそうになる。


キラーレディ「素敵ですデスフラッシュ大佐………。ですが映像はまだ終わっておりません。」


デスフラッシュ「あっ…。ごめん。」


 途中から見てなかった映像を巻き戻して再度観ることになったのだった。



  =======



 場面を巻き戻して映像を観直す。熊のぬいぐるみが出て来た後の場面だ。


クポ『何の用とは随分な言い草クポ。お前達がやることもしないで暢気にしてるから警告に来たクポ。』


聖香『どういう意味よ?私達はちゃんと戦ってるわ。』


静流『そうです。それに警告とはどういうことですか?』


 二人はクポとやらの言葉に食ってかかる。


クポ『コンクエスタムの怪人を見逃しておいて何が戦ってるクポ。お前達の役目はコンクエスタムの壊滅クポ。』


 やはり黒幕の狙いは俺達か。だけどどうして俺達の存在を知っている?


聖香『コンクエスタムは壊滅したでしょう?』


静流『そうです。それに今はペルディッソの方が脅威のはずです。』


クポ『とことん馬鹿クポ。いいクポ?ネオコンクエスタムもペルディッソもお前達を戦いに慣れさせるためにクポが用意した偽物の敵クポ。これを見るクポ。』


 クポがそう言って手を前に出すと光が照射されて立体映像が映し出される。


聖香『ニゲル中将っ!?』


静流『こちらは殺し屋教授!?』


 二人の前には今まで倒してきた怪人や大幹部達の立体映像が映し出されていた。


クポ『わかったクポ?こいつらとの戦いなんてただの茶番クポ。お前達の役目はコンクエスタムと戦うことクポ。』


聖香『………ちょっと待って。この敵がクポが用意した偽物だっていうのはもういいわ。ここにいる以上は本当なんでしょう。だけど…。』


静流『そうです。コンクエスタムだけは本物だって言うんですか?』


クポ『そうクポ。お前達にも教えてやるクポ。魔法少女はお前達だけじゃないクポ。世界中の諜報機関や裏の組織などを壊滅させるために数多くの魔法少女が今も世界中で戦ってるクポ。』


 諜報機関?俺達だけが狙いじゃないのか?


聖香『どういうこと?』


クポ『本当に察しが悪い馬鹿クポ。クポ達がこの星を侵略するために邪魔になる諜報機関を潰したり乗っ取ったりしている途中ということクポ。』


静流『どっ、どうして諜報機関を?それなら…。』


クポ『それなら軍隊を攻撃して無力化した方が良いクポ?それは大間違いクポ。クポ達にこの星の兵器なんて効かないクポ。力ずくで軍隊を壊滅させることはいとも容易いクポ。だからそんなものは後回しクポ。まずすべきことは情報を握って操作することクポ。だから諜報機関や裏の組織を乗っ取り乗っ取れないものは潰すクポ。』


 なるほど…。確かに魔法科学を持つ者からすれば現代兵器なんてただのおもちゃでしかない。武力による強制占領は簡単だ。だけどそれじゃ徹底抗戦されたり折角今あるインフラ等が破壊されたりしてしまう。


 勝つことは簡単でも占領してインフラを再利用したかったり原住民を奴隷のように使いたければ下手に抵抗されないようにした方が都合が良い。


 メディアや情報機関を乗っ取って情報を握り操作すれば民衆からの反発を抑えたり場合によっては争いもせずに合法的に国を乗っ取ることも可能かもしれない。表から堂々と戦って侵略するのではなく裏からこっそり侵略するのならばこの方法は非常に賢いやり方だろう。


クポ『そしてこの国の担当がクポなんだクポ。この国にはまともな諜報機関はないからメディアを乗っ取って終了だと思ってたクポ。だけどこのメサイアがコンクエスタムという組織が危険だと示したクポ。それに従ってお前達をコンクエスタムと戦わせてたクポ。』


聖香『メサイア?』


クポ『お前達は知らなくても良いことクポ。だけど教えてやるクポ。メサイアは全てを教えてくれる万能の神クポ。このメサイアは全ての因果と森羅万象から誰も知らないことですら答えてくれるんだクポ。それによればこの国で最も厄介な組織はコンクエスタムと出たんだクポ。ただコンクエスタムの情報は中々出てこないクポ。この町にいるとまでは掴んだからお前達を囮にして探し出したんだクポ。それなのにお前達は役に立たないどころか敵を見逃すなんて許せないクポ。』


 メサイア…。どうやら何でも答えてくれる人工知能みたいなもののようだな。………ふん。世界が違っても皆考えることは似たようなものか………。


 どうやらその人工知能のお陰で誰も知るはずのない俺達の存在を知り何とかしようとしていたようだな。だけど当然そういう方法による検知もあるだろうと思って対策はしてある。


 だからあいつらの虎の子の人工知能でも俺達の規模や秘密基地の場所まで答えることは出来なかったんだろう。


静流『ちょっと待ってください………。それじゃ…、それじゃもしかしてクポとその協力者である私達の方こそが………。』


 静流は口元に手を当ててフルフルと震えだした。


クポ『ようやく気付いたクポ?お前達の方こそが侵略者クポ。でも勘違いしないで欲しいクポ。クポ達はちゃんと悪の裏組織も壊滅させてるクポ。クポ達の望みはこの星の秩序とインフラをそのまま奪うことクポ。だから悪の組織だって邪魔な敵クポ。』


聖香『だからって!例え悪の組織を倒してるとしたってあなたの方が侵略者なのは変わらないでしょ!自分達の都合で邪魔な者を排除してるだけじゃない!』


クポ『そうクポ。クポ達にとって使えるか使えないかで排除してるだけクポ。でもそれの何がおかしいクポ?強い者が世界を支配するクポ。お前達の歴史でも常にそうだったクポ。そこに新しい者が入ってきて新たな支配者になるだけクポ。』


静流『だからって平和に暮らしているだけの人々の生活を脅かして良い理由にはなりません!』


クポ『だからお前達は馬鹿クポ。今この世界を支配してる者達だって自分達の都合の良いように世界を動かしてるクポ。例えば新大陸を発見した時どうだったクポ?外部からやってきた者達が原住民を虐殺して土地を奪って今平然と暮らしてるクポ。それと同じクポ。クポ達が今の支配体制を崩して新たな支配者になるだけクポ。それにクポ達は無意味にお前達を殺そうとは思ってないクポ。お前達は今まで通り権力者に搾取されて生きていけば良いだけクポ。』


 ふむ…。確かにこのクポと言う奴が言ってることは間違っていない。この地球内の歴史だけで考えても確かに征服者がそこを支配するという歴史が繰り返されているだけだ。


 今の支配者層にこのクポ達という新たな征服者が挑み勝った方が世界を支配する。今まで繰り返されてきたことと変わらない。


 ただ敵が異星人か異次元人か何か知らないが地球人類ではないから忌避感が強いだけだろう。でもそれは例えば人種差などで今までにもあったことだ。


 地球人同士でも肌の色が違うとか信じる宗教が違うとかで相手を人間扱いせず嫌い合い殺し合い支配し合ってきた。自分達と風習が違うというだけで未開な原人として平然と殺してきた。


 その時侵略された者達の感情はクポ達に侵略されて支配されることを嫌う今の地球人と同じ感情だっただろう。見ず知らずの異人種がやってきて暴力で支配される。今のクポ達と同じだ。


 だから俺はクポの言ってることを間違ってるとは断罪しない。確かにクポの言う通り地球ではそれが繰り返されてきた。そこに新たに支配者としてクポ達が名乗りを上げただけだ。


 だけどだからって『はいそうですか』と支配されてやるつもりはない。当然だが侵略されて支配されそうになれば抵抗する。抵抗されることをわかった上で侵略して来ているのだから後はどちらが勝つか勝負するだけだ。


デスフラッシュ「いいだろう…。確かに力ある者が世界を支配するというのは真理だ。だったらどちらが地球を支配するに相応しいか正々堂々と戦って示してやろうじゃないか。」


 思わず漏れた俺の言葉に怪人達やキラーレディも頷く。だけどモニターの中の映像は違う反応だったようだ。


聖香『そんなことを言われてそうですかってあなたに協力すると思ってるの?!』


静流『その通りです。それを聞いた今となってはもうあなたに協力することは出来ません。』


 二人は激昂してクポに反発する。だけどそれは悪手だろうな。


クポ『別に良いクポ。お前達がクポに従わないなら別の魔法少女を作れば良いだけクポ。た・だ・し・クポ。お前達がこのまま何もなく見逃してもらえると思ったら大間違いクポ。』


 クポが二人に脅しをかける。今までもそういう脅しを使ってきたんだろう。


聖香『もうそんな脅しには屈しないわよ。例え殺されたってあなた達の世界征服の手伝いなんてしない。』


静流『ええ!そんなことに加担させられるくらいなら徹底的に抗います。』


クポ『クッポッポッ!ちゃんちゃらおかしいクポ。クポが何のためにお前達の勝手な行動を見逃してたと思うクポ?従わないのならお前達の愛しい彼に痛い目に遭ってもらうクポ。お前達の目の前で正気を保っていられないくらいの拷問にかけてやるクポ。どうクポ?楽しそうクポ?』


聖香『くっ!彼は関係ないでしょう?!』


静流『そうです!彼だけはやめてください!』


クポ『関係はあるクポ。お前達が巻き込んだクポ。あいつは知りすぎてるから始末するのは当然クポ?お前達のせいクポ。そして彼だけはやめてなんて言う相手だからこそ意味があるクポ。クッポッポッ!』


聖香『そんな………。』


静流『私達のせいで………。ごめんなさい………。』


 ちっ…。厄介なことになった。クポの手段は正しい。二人を洗脳したり操って俺達にけしかけてくるなら洗脳を解くなりいくらでも対抗手段はある。


 だけど二人の意思で従わされているのなら洗脳を解いて終わりとはいかない。二人にとってよっぽど大事な人質を取られているのか二人の顔色は悪い。とても俺達が説得して二人を止められるような雰囲気にはならないだろう。


 二人にとっての大事な人質の安全を確保しなければ二人に戦いをやめるように説得するのは無理だ。だけど恐らくあのクポと言う奴がその人質をどこかへ連れて行って確保しているに違いない。


 二人を止めるためにはまずは捕らわれている人質の救出と身の安全の確保が必要だ。だからまずはその相手が誰か、どこに連れて行かれたのか調べなければならない。


クポ『わかったらクポの言うことを聞いて戦うクポ。それじゃ今日は帰るクポ。見逃した怪人を始末しておくクポ。いいクポ?』


聖香・静流『『………わかったわ。』』


 そこでクポはまた時空震で空間移動して消えていき映像は終わった。


デスフラッシュ「それで敵の居場所は掴めたのか?」


キラーレディ「はい。新型装置のお陰で出現前から感知しておりました。すでに敵が潜んでいる座標も特定しております。ですが…。」


デスフラッシュ「敵の規模もわからず人質もどこにいるかわからないから迂闊には手が出せない…か。」


 俺の言葉を聞いてキラーレディの目が点になっている。何か変なことを言ったか?


キラーレディ「乗り込むのは早計というのは確かですが…、人質というのは?」


デスフラッシュ「え?さっきの映像で言ってただろ?二人の愛しい彼とやらが人質に取られてるみたいじゃないか。クポって奴はその彼の身柄を確保して連れ去ってるはずだろ?でなければあんな脅しの意味がない。」


キラーレディ「………デスフラッシュ大佐。あの二人の愛しい方をご存知ないので?」


デスフラッシュ「確かに俺は黒幕を調べるために二人に近づいてたけど異性に好きな人をしゃべるほど親しいわけじゃないぞ?そんなの俺が知ってるわけないし聞ける関係でもないよ。」


キラーレディ「………。」


 またキラーレディは目が点になってる。


キラーレディ「………わかりました。人質のことはいいでしょう。とにかく敵の居場所を突き止めたと言ってもまだ乗り込むのは早すぎます。敵の情報を集めるためにもまずは時間を稼ぎましょう。そのためにはあの二人をうまくあしらっておいてください。」


 人質をどうでもいいと言うのはどうかと思うが言ってることは正しい。


デスフラッシュ「結局今まで通りか。」


キラーレディ「そういうことになります。ですが今までとは違います。」


デスフラッシュ「ああ。そうだな。ようやく掴んだ敵の尻尾だ。このまま逃がさずに敵を殲滅する。いいな?」


怪人達「「「「「おう!」」」」」


 ついに見え始めた敵の影を必ず捕まえてみせる!


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