第18話「バレた?!」
二人にほっぺにチューされた俺は頭が真っ白なまま帰って来た。途中どこをどう歩いてきたかあまり覚えてない。たぶん途中で二人はいつもの通り静流の家の車に乗って帰ったと思う。
そこまではふわふわしたまま帰って来た俺だけどエレベーターを降りて正気に戻った………。それはもちろん目の前に鬼がいたからだ。
麗「おかえりなさいませ。改太様。」
改太「ごめんなさい!」
俺はあまりの恐怖に謝ってしまった。そもそも何で怒られてるのかもわからない。だけどとにかくまずは謝った。
麗「………何のことでしょうか?」
怖い!もう下げた頭を上げれない。足がガクガク震える。何で謝っているのか。それはつまり何で麗さんが怒っているのかだ。俺には麗さんに怒られなければならない理由はわからない。
何か仕事でミスでもしたか?でも俺はほぼミスなんてしないしたまにミスしてもそんなに怒られるようなことはない。人間がすることである以上は誰でもミスをする。そのミスをカバーするための体制こそが大事であってコンクエスタムも何重にもチェックする体制があるからミスがそのまま通ることはない。途中でチェックに引っかかって戻ってきて訂正されるから最終的にミスが出ることはない。
じゃあ何だ?麗さんのおやつのプリンを食べたことか?でもあれは後で同じ物を買ってきて入れておいたからばれてないはずだ。仮にばれてたとしてもおやつを食べたくらいで麗さんがこんなに怒ることはない。わからない…。とにかく謝り倒そう。
改太「ごめんなさい!」
麗「ですからそれは一体何に対してでしょうか?」
駄目だ…。麗さんはあくまで突っ込んでくる。何で謝ってるのかもわからないのにとりあえず謝ってますなんて言ったら余計火に油を注ぐことになる。
どっ、どっ、どっ、どうしたら………。
改太「………麗さん。」
麗「え?」
頭を上げた俺は一気に麗さんに近づきそっと肩に手を乗せる。そのまま俺は唇を近づけて………。
麗「改太様………。あっ…。」
チュッ
改太「これで許して。」
俺は麗さんのおでこにキスをした。麗さんは俺にキスされたところを手で押さえながら呆然としてる。
麗「………はっ、はぃ。」
麗さんは赤い顔をして赤べこのように首をカクカクと上下させていた。よしっ!今のうちだ!俺はさっさと自分のオフィスへと逃げ出したのだった。
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とにかく麗さんが怖くて必死で逃げてきたけどもしかして俺ってさっきとんでもないことをしてしまったんじゃないだろうか?オフィスで着替えてから冷静になった俺はさっきの俺と麗さんの事を考えると書類に手がつかなくなってしまった。
俺はさっき麗さんのおでこにキスしてしまった。何で俺はあんなことをしてしまったんだ?普段の俺なら絶対に考えられないことだ。
………あれか。今日緑地公園であの二人にほっぺにチューされて俺が我を失ったから麗さんにも同じ手を使って誤魔化そうと思ったのか………。
やべぇ…。何がやべぇって次に麗さんの顔をまともに見れる自信がない。麗さんとしっかり意思疎通しておかないと仕事にならないのにその麗さんと顔を会わせるのも恥ずかしい。むしろさっきのキスをしたせいで俺の方がダメージ大きかったんじゃないか?
ああぁぁ!もうどうしていいかわかんね!
麗「失礼致します。」
改太「ひゃい!」
麗さんが入ってきて驚いた俺は変な返事をして飛び上がってしまった。麗さんの方を見れないけどさっきの声の感じからして麗さんの方はもうそんなに気にしてないのかな?普通っぽかったぞ。
麗「次はこれをお願いします。」
改太「うっ、うん…。」
ツカツカと近づいてきた麗さんが一枚の書類を差し出した。俺は麗さんの方を見上げられずに下を向いたまま手を伸ばして受け取った。
改太「って、うぉい!これ婚姻届じゃん!しかも麗さんの方はもう書いてあるよ!」
受け取った書類は婚姻届だった。麗さんの方はもう記入済みだ。俺はその書類を見て思わず顔を上げて麗さんを見てしまった。
麗「あのようなことをなされたのです。責任を取ってください。」
麗さんはまだ真っ赤な顔をしていた。ちょっと震えてる。麗さんも恥ずかしさを我慢しながらここに立ってるんだ。
改太「あのようなことっておでこにキスで責任取って結婚しないといけないの?!」
麗「そんな大声で言わないでください…。恥ずかしいです…。」
………確かに恥ずかしいのは同意だけどそんなにか?麗さんは両手を頬に当ててイヤンイヤンしてる。
あっ。麗さんがぶっ飛びすぎててそれを見てる俺の方はちょっと落ち着いてきたぞ。そうだよ。ちょっとおでこにチュッてしただけじゃん。確かに恥ずかしいけどそれくらいたまにはしても変じゃないよな?実際今日俺は二人にされているし…。
そうそう。挨拶みたいなもんだよ。海外じゃ口でチュッてすることもあるんだ。手や額やほっぺにちょっとするくらい………、まぁ恥ずかしいけどそんなに悶え死ぬほどのことじゃない。
改太「はい。これは返しておくからちゃんと処分するか保管するかしておいてね。きちんと麗さんのサインと捺印が入ってるから誰かに勝手に出されたら受理されちゃうからね。」
俺は麗さんに婚姻届を返す。けど麗さんはそれを受け取らない。
麗「私の心と体を弄んでおきながら責任は取っていただけないのですね………。」
改太「………麗さんちょっと落ち着こうか?何なら弁護士におでこにキスされたのに責任を取って結婚してくれないから結婚を迫れるか、とか慰謝料を取れるかって相談してみる?」
麗「………。まぁいいでしょう。あの二人より私の方が一歩進んでいるのは間違いありませんから…。自分からするのと相手にしてもらうのでは相手にしてもらえる方が愛されているということです。」
麗さんは急に素の顔に戻ったと思ったらぶつぶつと何か言い始めた。婚姻届は引き取ってくれたから納得してくれたんだろうと思う。
それからは麗さんと二人で書類を処理していったのだった。
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デスクワークが終わるとコンクエスタムの会議室へと向かう。また新たな敵が現れて色々と面倒なことになりそうだ。
スクイッドエスタム「我々が打って出てはどうでしょうか?」
スクイッドエスタムは相変わらず熱血漢だ。皆を救いたいっていう気概は買うけど正義感だけで突っ走ればいいってもんじゃない。
改太「それは最終手段だろ?敵はまだ一般人に手は出してないし今無理に俺達の力を見せてまで表に出るべきじゃないと思うぞ。」
スクイッドエスタム「ですが被害が出てからでは遅いんじゃないでしょうか?」
改太「確かにその通りだ。だから被害が出ないように監視はしてる。どうしても被害が出そうになったらもちろん介入する。だけど今俺達が派手に動けばこちらの能力もばれるし基地もばれるかもしれない。あるいは敵が逃げて隠れるかもしれない。ここで確実に敵を始末しないと後々もっと厄介なことになる。その方が被害が出るかもしれない。そんなことわかってるだろ?」
スクイッドエスタム「うっ…。はい………。」
スクイッドエスタムは俺の言葉を受けて項垂れた。本当はスクイッドエスタムだってこの程度のことはわかってるんだ。だけどどうしても人々を助けたいという気持ちの方が先に出てしまう。
スコーピオンエスタム「ところで何でこんなところに普通の学院生がいるんでしょうねぇ?俺達は秘密結社コンクエスタムだし攫ってもいいのかな?」
スコーピオンエスタム君が俺を見てそう言うから俺も自分の姿を見てみる。学院の制服からは着替えたけど今日はデスフラッシュ大佐じゃない。普通の普段着だ。俺がデスフラッシュ大佐になってないからからかってるんだな。
改太「攫うといいと思うぞ。何しろとある企業の御曹司だから身代金もがっぽり手に入るはずだ。」
バットエスタム「あはははっ!それはいいですね。」
会議室にドッと笑いが起こる。
麗「真面目に会議をしてください。」
ウツボカズラン「は~い。」
麗「ふざけているのですね?」
ウツボカズラン君の言葉に麗さんの眼鏡が光った。こえぇ…。
ウツボカズラン「いえ!ふざけてないっす!真面目にやるっす!」
麗さんを怒らせたら駄目だって全員わかってるはずなのに迂闊なウツボカズラン君だな。
ともかくこうして俺達はペルディッソとコケティッシュシスターズへの対応を話し合ったのだった。
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結局のところ新監視網の配備が終わるまでは敵が俺達の監視網を抜けてくるため有効な手段はないという結論に至った。新型が行き渡るまでは今まで通り後手で対処するしかない。新監視網の配備を急ぐことを決定して会議は終了したのだった。
改太「ふわぁ~ぁ。…はぁ。今日はまだ時間が早いな。久しぶりに巡回にでも行くか?」
スパイダーエスタム「おぉ。いいですね。」
ウツボカズラン「俺も行きたいっす。」
麗「駄目です!迂闊なことはしないと決まったばかりではないですか。」
麗さんに止められた。まぁそうだよな。あの二人はもう今日は戦った後だから現れないと思うけど黒幕の方はどこに潜んでるかわからない。
黒幕に見つかったら面倒なことになるだろう。尤も黒幕は俺達が壊滅したと思ってるのかどうかわからないけどな。基地も見つけてなくて怪人が出なくなったってだけでコンクエスタムが壊滅したと思うのは早計だ。
あの二人は操られてる間は思考誘導みたいなものまでされてそうだから簡単に騙されてくれるけど普通に考えたら黒幕はまだコンクエスタムが生き残ってると思っているだろう。そんな俺達がのこのこと町の巡回に出かけたら見つかる可能性が高い。俺達が見つかったらこの秘密基地まで追跡されてしまうかもしれない。
折角今まで潜んで来たのにそんなリスクを犯してまで無理に巡回して得られる物はないだろう。
改太「仕方ない…。今日も研究と実験だけして帰ろうかな…。」
スクイッドエスタム「俺も付き合いましょう。」
スクイッドエスタムが手を上げる。
改太「おお。久しぶりに二人でやろうか。それじゃ俺達は研究室に向かうよ。」
オクトパスエスタム「はい。それでは我々は通常業務に戻ります。」
怪人達はぞろぞろと自分の持ち場へと帰っていった。俺はスクイッドエスタムを連れて研究室へと向かったのだった。
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俺はスクイッドエスタムと一緒に研究室で開発中の兵器の実験を繰り返していた。それはレーザー兵器の小型大容量化だ。便宜上レーザーと呼んでいるが現代科学のレーザーとは違う。魔法科学の理論に基づいて作られた兵器で光線を照射して対象を貫通するものなのでレーザー兵器と呼んでいる。
そのレーザー兵器自体はもうとっくの昔に完成しているが今はさらに小型大容量化を目指しているところだ。何故小型大容量化する必要があるのか。それはもちろん個人携行用に小型の方が良いという理由もあるが大型兵器にとってもその技術は必要なものだ。
例えば現代でもバッテリーなどの小型大容量化の研究が進められている。これは小型化出来れば今まで搭載できなかったような小型の機械に内蔵出来るようになるという理由もあるが同じ容量で小型に出来るということは同じ大きさならより大容量になるということでもある。
つまり同サイズでもより長時間使用出来るようになったりより大きなエネルギーを使う物を動かすことが出来るようになったりする。
このレーザー兵器の場合で言えばより高出力にしたりエネルギーを補充せずに撃てる数が増えたりと色々とメリットがある。
新しい技術や兵器を開発することも重要ではあるがこうしてすでにある技術の改良をすることも大事なことだ。
スクイッドエスタム「これでどうですか?」
改太「ああ。これでデータを取ってみよう。」
二人で改良したレーザー兵器の照射実験を行う。威力を下げずにエネルギー効率を上げたはずなので無駄にロスしていた消費エネルギーが減っているはずだ。
改太「どうだ?」
スクイッドエスタム「う~ん………。思ったよりも改善されてませんね。」
改太「どれどれ?」
俺もスクイッドエスタムと一緒にモニターを覗き込む。
麗「ごほんっ!男同士でそんなにくっつくなんてお二人はそういうご関係でしょうか?」
麗さんがいつの間にか研究室に入ってきていた。俺とスクイッドエスタムが顔を近づけてモニターを眺めていたからからかっているんだろう。
改太「これくらい普通でしょ?麗さんは意識しすぎだよ。」
スクイッドエスタム「あっ………。いえ…。少し近すぎましたね…。」
何かスクイッドエスタムはスススッと俺から離れた。あれれ?何か変な反応だな?俺ちょっと臭うかな?今日はちょっと走ってきたから汗を掻いたかもしれない。………男同士だしまぁいいか。
改太「…それで何でこんなに改善率低いんだろうな?理論値と違うよな………。」
スクイッドエスタム「やはり継ぎ接ぎだらけの試作機なのでどこかでロスが出ているのかもしれませんね。」
改太「う~ん?確かに改造を繰り返してる試作機の設計がまずいのもあるだろうけど何か違和感があるんだよなぁ…。何か見落としてるんじゃないか?」
俺とスクイッドエスタムは頭を捻る。
スクイッドエスタム「……ここをこうして。………いや、こっちがこうで。やっぱりこっちか………。」
スクイッドエスタムの白く細く長いゲソがふらふらと図面の上を移動する。
改太「………。えいっ。」
俺はつんつんとゲソを触った。
スクイッドエスタム「なっ、なっ、何をするんですか?!」
スクイッドエスタムは慌ててゲソを引っ込めた。何か驚きすぎだな。
改太「ん?白いゲソがふにふにと動いてたのが何か面白そうだったから…。」
スクイッドエスタム「あまり悪戯しないでください。」
折角また近くなっていたスクイッドエスタムがスススッと俺から離れた。う~ん………。まぁいいか。今のは俺が悪かったしな。
改太「ごめんごめん。何か柔らかくて気持ち良さそうだったからつい触っちゃったよ。」
何かスクイッドエスタムが俯いてしまった………。あるぇ?何か変な雰囲気だぞ?
麗「ごほんっ!」
おっと!置いてけぼりの麗さんがご立腹のようだ。少しは真面目に考えるか………。
改太「あれ?………これって。」
スクイッドエスタムが撫でていた図面を覗き込む。そこはゲソで撫でられて少し濡れていた。それを辿っていくと………。
スクイッドエスタム「どうかされましたか?」
改太「わかった!こことここの繋がりがおかしかったんだ。こっちをこうして…。ほら、どうだ?」
偶然スクイッドエスタムのゲソが濡らしたところが目立ったので原因がわかった。うっかりの見落としではあったけど小さすぎて中々気付けない。たまたま濡らしてくれたお陰で目についた。
スクイッドエスタム「なるほど。これで良さそうですね。」
原因がわかった俺達はすぐにそこを直して実験を続けたのだった。
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今日はスクイッドエスタムのお陰で研究が進んだ。結果も上々だ。
麗「ずるいです。」
改太「え?何が?」
オフィスへと戻ってきた俺の後ろに付いてきていた麗さんが唐突にそんなことを言い出した。
麗「私は改太様の研究のお手伝いは出来ません。研究の時は改太様を独り占め出来るスクイッドエスタムはずるいです。」
改太「はぁ?」
麗さんの言ってることの意味がよくわからない。確かにスクイッドエスタムは俺ほどではないけど魔法科学への理解と適性がある。コンクエスタムで唯一魔法科学に関して俺を手伝える人材だろう。
だけどコンクエスタムの構成員は全員何らかのスペシャリストがほとんどだ。麗さんだって情報処理のスペシャリストで俺の秘書と観測班のリーダーを兼任している。非常に優秀な人材だ。
実は怪人達も工学や生物学のスペシャリストが多数いる。中にはそういう特殊技能を持たない者もいるけどそれはコンクエスタムの怪人になった経緯が原因だ。
コンクエスタムの怪人達が仲間になった経緯は大きくわけて二種類ある。一つは九条ホールディングス関係の人物だ。九条製薬に勤めていた、というか今でも勤めていて本社ビルからこの秘密基地へと降りて来る者も多数いる。当然そういう者は製薬関連の技術や知識を持っているのがわかるだろう。
他にも九条技研という工学関連の研究所に勤めている者もいる。他の部門でも製造業や設計関係の技術者達がいる。そういう九条ホールディングスの中でも物作りに携わっている者を俺がスカウトして連れて来た。それが専門家集団の方だ。
それじゃもう一つのグループはどういう者達か。それは不治の病や障害を負った者達だ。そのままではいずれ死んでしまう者や二度と歩けないと言われた者達に俺が魔法科学で治療する代わりにコンクエスタムに入って手伝ってもらうという条件で入れた。
どちらの経緯で仲間になるにしても誰でもいいというわけにはいかない。九条ホールディングスの者であったとしても俺がこんなことをしていると教えたら余計なことをしたり言いふらしたりする者もいるだろう。
あくまで秘密結社である俺達の存在をそんなに簡単にしゃべってしまうような者を入れるわけにはいかない。だから慎重に俺の意見に、コンクエスタムの理念に賛同してくれて信頼できる者達だけを集めた。
病気や障害を持った者達も治す見返りに協力しろと迫ったわけじゃない。あくまで治療したあとで本人達が自発的に参加してくれたんだ。ただこれも誰でも入れられるわけじゃないし世界中の治療が必要な人を全て俺達が無償で治すわけにもいかない。
俺達に治療された者は偶々何かのめぐり合わせで知り合い救うことになったにすぎない。同じ病で苦しんでいるのに俺達と出会うことなく亡くなった方達も大勢いるだろう。
………。そういう湿っぽい話をしたかったんじゃないな。とにかくそういう様々な因果でめぐり合った人達の中でも特に信頼できて俺達に賛同してくれる者が集まって出来たのがコンクエスタムだ。
だから九条ホールディングスから来てる者達は皆何らかの特殊技能を持ってる。それ以外の方から入ってきた者達もここに来てから色々学んで学者や技術者になった者も多い。
スクイッドエスタムもある病に侵されて余命幾ばくもなかった。どの医者も匙を投げていたところで偶然俺が助けることになった。それからはコンクエスタムに入って熱心に活動に参加してくれているし俺の役に立とうと必死に勉強して魔法科学への適性を示した。
ただこれは非常に珍しいことで頭の良さとか理解力とかそんな次元ではない。魔法科学への適性は生まれつきの部分が大きい。だから俺以外の四皇帝ですら魔法科学は使えないんだ。スクイッドエスタムがその適性があったのは偶然であり麗さんが持っていなくても仕方ない。
改太「麗さんには麗さんにしか出来ない仕事があるでしょ?皆適材適所だよ。一人で何でもする必要はないんだ。」
麗「………はい。」
しょんぼりした麗さんはそれでも俺の言葉に頷いてくれた。
改太「それじゃ今日は帰るよ。」
麗「え?あの…、晩御飯は?」
改太「ごめんね。今日は家に帰ってやりたいことがあるから早く帰りたいんだ。」
麗「わかり…ました…。」
麗さんはさらに暗い顔になって俯いてしまった。だけど今日は帰る必要があるから仕方ない。何か慰めた方がいいのかもしれないけど気の利いたセリフなんて言えない俺は麗さんを置いて帰ることしか出来なかった。
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暫く歩いていると後ろから追いかけてくる者がいた。
スクイッドエスタム「デスフラッシュ大佐、忘れ物ですよ。」
スクイッドエスタムは俺が研究室に忘れてきたフラッシュメモリを持って追いかけてきてくれた。でもその格好はどうにかした方がいいと思うぞ…。
いくら夜で人通りも少ない路地とは言っても誰に見られるかわからない。スクイッドエスタムに変身したままの怪人が一般市民である俺を追いかけてきてる場面なんて普通の人に見られたらどう思われるかわかったもんじゃない。
改太「ありがとう。でもそんな格好のままじゃ誰かに見られたらどうするんだ?」
スクイッドエスタム「すみません…。でもコンクエスタムの活動は町の人達にも理解されてますし大丈夫じゃないでしょうか?」
確かにこの辺り一帯で俺達コンクエスタムを不審な目で見る者はほとんどいなくなった。それは偏にコンクエスタムの地道な活動のお陰だ。五年以上もかけて住民達と触れ合って信頼を勝ち取った皆の努力の賜物だった。
だけど油断はよくなかった。間の悪い時というのは存在する。それがまさに今だったんだ………。
???「待ちなさい!」
???「まさかコンクエスタムの怪人が残っていたなんて!」
この声は………。暗い路地から街灯の下へと二人の人物が出てくる。
聖香「そこの怪人動くな!」
静流「こちらの指示に従わない場合は即座に排除します!」
………やっぱりあの二人だ。とうとうバレてしまった………。コンクエスタムの怪人と仲良くしてるところなんて見られたらもう言い訳のしようがない。
スクイッドエスタム「…まずいですね。どうしましょうか…?」
スクイッドエスタムも困った顔で俺を見つめてくる。でも俺だって困ってる。どうすればいいのか考えが纏まらないのに二人はどんどんこちらへと近づいてくるのだった。
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