第16話「三条家での出来事」


 ニゲル中将を倒してネオコンクエスタムの日本支部が崩壊してから数日が経ってる。今日は日曜日で学院もないしあれ以来敵が現れないから今日のパトロールはしないことになった。


 久しぶりに一日中自由な時間を確保出来た俺は朝からコンクエスタムの秘密基地へと向かったのだった。


麗「おかえりなさいませ。改太様。」


改太「麗さんただいま。」


 別にどこかへ出かけてたわけでもなく家からここへ来ただけだけど麗さんはいつも俺におかえりなさいと言う。この場合に言う言葉として相応しいか相応しくないかの議論は知らないけどこうして迎えてくれる人がいるっていうのはそれだけで心が温まる。


 麗さんもこの前の晩御飯をご馳走になった時から柔らかい表情をすることが多くなった。………でも元々昔はよく笑う可愛いお姉さんだったと記憶してる。最近の無表情な冷たい表情だったことの方が麗さんらしくなかったんだ。


麗「あの………?私の顔に何かついていますか?」


改太「え………?うっ!」


 可愛い…。俺が麗さんの顔を見ながら考え事をしていたからか麗さんは少し頬を赤らめて上目遣いに俺を見ながらそう聞いてくる。その仕草。その表情。普段の冷静な表情で冷たい印象さえ受ける敏腕秘書の仮面とは違う。少し年上のお姉さんのはずなのに庇護欲を掻き立てられる。


麗「う?」


改太「ああ、いや。ううん。何もついてないよ。いつも通りの可愛い麗さんの笑顔だ。」


麗「まぁ………。照れてしまいます。」


 麗さんは頬に手を当てて少し顔を背けながら恥ずかしそうにしてる。………なんだろう。やばいぞ。とにかく最近の麗さんはやばい。何がやばいって可愛すぎて抱き締めたくなってくる。


 今までなるべく意識しないようにしてたのに…。こんな美人なお姉さんとずっと一緒にいるなんて意識しだしたらもう他の事に気が回らなくなってしまう。


 女の子が苦手な俺としては唯一意識せずに普通に接することが出来た女性だったのに今はもう無理だ。ここ最近毎晩晩御飯をご馳走になって一緒にご飯を食べている。同じお箸で………。あの唇が触れたお箸で俺はいつもご飯をあ~んされているんだ………。


麗「あの?改太様?」


改太「あっ!ううん。なんでもない。さぁオフィスに行こう。」


 危ない危ない…。俺はまた麗さんの唇をじっと見つめてしまっていた。無理やり意識を逸らした俺はズンズンとオフィスへ向かって歩いていったのだった。



  =======



 パラパラと書類を捲って処理していく。その中の一枚の報告書を見て俺は大きな声を出してしまった。


改太「ついに出来たかっ!」


麗「………あぁ。試作機の報告書ですね。」


 俺の声を聞いた麗さんは何事かと俺が見ていた書類を覗き込みすぐにそれが何であるかわかったようで納得していた。


 その報告書には俺が試作した新監視網のために使う機器達の実験結果が書かれていた。結果はもちろん良好。種類の違う複数の監視網を構築することで誤認識や監視漏れがないように出来ている。


 大まかに言えば一つは相手が出す波を観測するもの。これは自然に発生する時空震などとの判別をどうするかで悩んだ。しかし実験で観測していてわかったことがあった。それは自然に発生する時空震は予兆というか理由があって発生するということだ。


 例えばだがどこぞの学者は地震など予知出来ないのにその研究のためにと言って成果の挙がらない研究に無駄な公金が大量に投入されていると言っていた。だが俺なら簡単に予知できる。理由は簡単だ。地震には原因があって結果が起こるからだ。現時点で出来ないから無駄だなどと言っていては研究も技術も進まない。


 現在の技術力ではその予兆を完全に捉えて予知するだけの理論と技術がないだけにすぎない。それを研究することこそが研究者の仕事であるにも関わらずその者は現時点で出来ないんだからそれは無駄なお金を使ってるだけだなんて言うんだから笑えない。


 ともかく地震には地殻が動くだけの原因があり、その原因を理解し把握し観測していれば結果として地震が起こるということは予知できる。


 時空震も同じくそこに時空震が起こるだけの理由とプロセスがある。いきなり何もないところに自然の時空震は発生しないのだ。つまり逆に言えば『本来その場所でそのタイミングで自然に時空震が起こりえない』時空震が発生した場合は人為的な時空震だというわけだ。これを判別することで起こった時空震が自然発生したものか人為的なものかを見分けることが出来るという研究結果が出た。


 それとは別にあと二つの方法を平行して設置することで小さな敵の時空震も捉える。二つ目の方法は現在の地球でも使われている波を利用する方法だ。


 簡単に言えばテレビやラジオなどの電波は世界中に流れている。敵がそれを察知できる技術力があったところで世界中に垂れ流されている波の中から俺達が敵を探すために出している波だけを嗅ぎ分けて逆探知してくることなど実質不可能だ。


 もちろんそういう電波などの少ない未発達な地域ならば俺達が発している波しかなく見つかってしまう可能性もあるがそんな場所には俺達だって迂闊に波を出さない。


 この方法のメリットはもちろん大々的に俺達が世界中を監視していても他の電波などに紛れて見つかりにくいということだ。デメリットはこの観測方法では精度が低いこと。現代科学でも利用されている程度の技術でしかないこの方法による観測では非常に精度が低くなってしまう。


 そして最後の方法が俺が新たに生み出した観測方法だ。これは魔法科学により作り出された機器から極微量のとあるエネルギーを放出させる。そのエネルギーが時空震などの高エネルギーと接触すると反応を起こしその反応を捉えて感知するというものだ。


 実はこのエネルギー自体は元々宇宙中にある。ただ現代科学では観測できていないからその存在自体を知られていないだけだ。だから当然だけど自然に存在するそのエネルギーが自然に発生する時空震と反応してあちこちで反応が起こっている。


 じゃあそんなの観測してたら自然発生してるものを全て感知してしまうじゃないかと思うところだけどそこで出てくるのが今回苦労したところであり目玉でもある新技術なわけだ。


 俺が作り出した機器から放出されるそのエネルギーは簡単に言えばマーキングされている。そしてそのエネルギーが時空震と反応するとその時空震の種類によって観測される結果に違いが出るんだ。


 簡単に言えば自然発生した時空震とそのエネルギーが反応したら緑。人為的時空震と反応したら赤。その他よくわからない場合は黄。のように感知する機械がその反応を判定して表示する。これによって起こった時空震が自然のものか人為的なものかそれ以外のよくわからないものかに分類される。


 この方法も宇宙中に自然にあるエネルギーを利用しているので敵に気付かれる可能性は低い。そしてこの観測方法の違う三種類の監視網を設置することで見落とすことなく即座に敵の反応を捉えることができる。


 名付けて〝いつも見てるよ………監視君〟がついに完成したわけだ。後はこれを順次設置していくだけとなった。


改太「これで敵の尻尾が掴めそうだね。」


麗「はい。コンクエスタムの通常予算の方から捻出した費用で設置を進めてまいります。」


改太「うん。それじゃそっちは頼むよ。」


麗「お任せください。」


 麗さんはにっこり微笑んだ。…やべぇわ。俺の精神力がもたないかもしれない。ほんと女って怖い!急に変わりすぎだよ!麗さん可愛すぎる!


 俺の心の動揺など知る由もない麗さんは俺に仕事を任されたことで張り切っていた。



  =======



改太「さぁ終わった終わった。麗さん今日はもう帰ろうか?」


麗「はい。それでは車を回してきます。」


 コンクエスタムがあの二人に壊滅させられたことにしてから俺はデスフラッシュ大佐になって巡回に出るわけにもいかずデスクワークばかりしてる。


 今日も報告書などの書類の処理と新技術や新兵器開発ばかりしていた。机にへばりついていたせいで固くなった体をほぐしながら立ち上がる。


 ここ最近は恒例となった麗さんの車に乗って三条家のお屋敷に向かう。最近は学院が終わって放課後はあの二人とパトロールに出かけて、それが終わってからコンクエスタムの活動をしていたから帰るのが遅かった。だけど今日は学院も二人とのパトロールもなかったからいつもよりずっと早く帰って来ていた。


 いつもは時間が遅いからか麗さんは普通の家庭料理を作ってくれていたけど今日は時間が早いからと言って手の込んだ料理をするらしい。何を作るのかは教えてくれなかったけど楽しみだ。


麗「お待たせいたしました。」


改太「ううん。全然待ってないよ。今日はどんな料理か楽しみだよ。」


 麗さんが呼びに来たので食堂へ移動する。


麗「まぁ…。改太様のご期待に添えるかはわかりませんが…。」


改太「はははっ。麗さんは料理がとっても上手だから何を作っても大丈夫だよ。」


 そんなことを言いながら二人で食堂へと入った。


改太「おおっ!すごいね!」


麗「ありがとうございます。」


 そこに並んでいるのはどこの料亭かと思うほどに豪華な日本料理の数々だった。


改太「とってもおいしそうだよ。」


 お世辞でもなんでもなく本当においしそうだし実際に麗さんの料理がおいしいことを知っている。それまでそんなにお腹が減ってるつもりはなかったのに急にぐぅぐぅと鳴り出し涎が出てきそうだった。


 いつものように麗さんにあ~んされながらおいしい料理を食べる。何かとっても幸せだな。綺麗な女の人にあ~んまでしてもらっておいしい料理を食べて至れり尽くせりだ。ずっとこうしてるのも悪くない………。


 おっといかんいかん。麗さんに甘えすぎて頭が呆けてきていたようだ。ちょっと気持ちを入れなおして………。


麗「改太様のお口に合いますでしょうか?」


改太「おいしいよ。あっ、次はその筍がいいな。」


麗「くすっ。はい。あ~ん。」


 麗さんが微笑みながらあ~んしてくれる。あぁ。こういうのを幸せって言うのかな。


改太「あ~ん。もぐもぐ…。おいしい。さすが麗さんだね。」


麗「ありがとうございます。次はどれになさいますか?」


改太「そうだね。それじゃ………。」


 ん?さっき気持ちを入れなおしてとか考えてた気がするけど何だか幸せすぎて頭が呆けてきてるな………。まぁいいか。今はこの幸せをかみ締めておけば………。



  =======



 ………。あれ?!俺今なんでこんなところでこんな格好してるんだ?!


麗「お目覚めになられましたか?」


 麗さんが上から俺を覗き込んでる。その顔は最近よく見る柔らかく微笑んだ顔だ。それにしても麗さんの顔と胸が近い。理由は今の俺と麗さんの姿勢が原因だ。


 俺は今ソファで横になっている。麗さんはそのソファに座ってる。俺の頭は麗さんの太ももの上だ。そう………、これは所謂膝枕ってやつだ!


 麗さんの柔らかい太ももの感触が俺の後頭部を通して伝わってくる。麗さんの甘い香りが鼻腔をくすぐる。俺の髪を梳いている麗さんの手が少しヒンヤリしてて気持ち良い。


 ってそうじゃない。何故こんなことになっているのか思い出そう。


 ………確かご飯を食べた後で麗さんと並んでソファに座ってたはずだ。それでお腹が膨れて眠くなってきた俺はいつの間にか眠って…、麗さんの方にもたれかかって膝枕されて眠っていた?


 うん…。多分そんなところだろう。途中から記憶が曖昧になってて最後はプッツリ記憶が途切れてる。そこで寝落ちしたんだろう。


改太「ごめん。俺どれくらい眠ってた?」


麗「二時間ほどでしょうか…。今は午後十一時少し前です。」


 麗さんに言われて時計を見る。もうすぐ十一時になりそうな時間だった。あっ!そうだ。まずはこの姿勢を何とかしよう。恥ずかしすぎる。


改太「ごめんね。重くなかった?」


 俺はそう言いながら上半身を起こす。


麗「いえ。改太様の可愛らしい寝顔が見られてとても有意義な時間でした。」


 麗さんは頬を染めながらそんなことを言った。………ああああぁぁぁっ!恥ずかしすぎる!こんな綺麗な女の人に寝顔をじろじろ見られてたかと思うと頭が沸騰しそうだ。


 俺変な寝言とか言ってないだろうな?涎は…、大丈夫。顔を触っても涎とかの跡はない。


改太「あの…、俺何か寝言とか言ってなかった?」


麗「いえ。残念ながら改太様の寝言を聞くことはできませんでした。」


 ほっ…。よかった。妙なこととか口走って麗さんの顔をまともに見れなくなるような恥ずかしいこととかは言ってないようだ。っていうか麗さん本当に残念そうな顔してるな!そこまで俺の寝言なんて聞きたかったのか?!


改太「あっ!そういえばもうこんな時間だったんだ。ごめんね長い時間お邪魔しちゃって。俺もう帰るよ。」


 寝言のこととか気にしてる場合じゃない。いつまでも俺がいたら三条家にも迷惑がかかる。


麗「改太様はすでにお休みになられており今日は三条家にお泊りになられると九条家には私の方から連絡しておきました。」


改太「え?」


麗「ですので今日はお泊りになられても問題ありません。」


改太「いやいやいや!問題大有りでしょ!若い男女が二人っきりで一晩中一緒って何か間違いがあったらどうするの?」


 そんなのやばいっ!最近の麗さんは妙に可愛い。もし俺が麗さんと二人っきりで一晩過ごしたら何の間違いも犯さない自信はない。もちろん何もしないつもりではあるけどしないつもりなのと我慢出来るのはイコールじゃない。


麗「我が家にも使用人などがおりますので二人っきりではありません。これで問題解決ですね。」


 そうか。三条家だって結構な数の使用人がいるし住み込みの者もいる。二人っきりじゃないし問題ないのか………。


改太「いやいやいや!問題大有りでしょ!三条家の使用人って麗さんが俺と一緒にいる部屋に近づかないようにって言ったら来ないじゃん!」


 むしろこの家の使用人達は俺と麗さんをくっつけようと色々余計なことをしてくれる方だ。俺がこの家に来てると使用人達はなるべく部屋に近づかないようにして俺達を二人っきりにしようとしたり、色んなイベントで俺と麗さんが良い雰囲気になるように仕掛けたり、これまで色々とされてきて身に染みてる。


 例えば俺達がまだ幼かった頃に三条家で肝試しをすることになった。使用人達に散々怖い話を聞かされた後で当然俺と麗さんがペアになって真っ暗なお屋敷を歩いて奥の部屋に置いてあるお札を取ってくるというものだった。


 その当時は俺もちょっと怖かったけど麗さんに良い所を見せようと強がっていた。それに麗さんは怖がって俺にぴったり抱きついていたから俺が何とかしなくっちゃって考えてたんだ。そして使用人達が仕掛けた様々なトラップを掻い潜ってお札をゲットして無事に生還できたわけだけどあれも今になって考えたら色々おかしかった。


 多分麗さんはあの時怖がってなんてなかった。ただ俺に抱きつく口実にしてただけだろう。使用人達が仕掛けてたトラップもおかしなものだらけだった。二人で抱き合って通らないと呪われる廊下とかお札に書いてあるセリフを言わないと脱出できない部屋とか色々ヘンテコな罠ばっかりだ。


 そのお札に書いてあるセリフもお互い見詰め合って『れいあいしてる』と言わなければならないとか相手の手を取って『けっこんしよう』と言わなければならないとかそりゃ~もう麗さんが喜びそうな仕掛けばっかりだ。当時の俺が気付かなかったのが馬鹿すぎるくらいに見え見えのトラップだ。


 それもどこかから撮影されていて後日うまく編集された俺と麗さんの恋愛ドラマ『愛の逃避行』として両家の親族が集まる中で上映されたのだった。


 然る名家の二人はお互いを想い合う仲であった。だがその両家は政敵な上に家格が釣り合わないとして二人の仲を認めなかった。はじめのうちは両家を説得して何とか結婚を認めてもらおうとしていた二人だったが説得は無駄に終わる。そこでついに二人は家を捨てて駆け落ちをすることになり………。


 ってまぁ『愛の逃避行』のストーリーはどうでもいいな。よくもまぁあれだけうまく繋げて編集したものだと感心するくらいよく出来てたのを覚えてる。親族達も『こんなことになっては大変だから二人の結婚は認めないとな!』なんて言って笑っていた。他にも三条家の使用人による数々のエピソードがあるが今はおいておこう。


麗「久しぶりに今夜くらいは泊まっていってください。お願いします。」


 麗さんは少し目に涙を溜めてそう言う。俺は一応最後の抵抗を試みる。無駄だってのはわかってるけどな………。


改太「明日は月曜日で学院もあるし勉強道具とか制服とか登校の準備とかで朝が大変になるから帰った方がいいんじゃないかなぁとか思ったりするんですがどうでしょうか?」


麗「ご心配には及びません。改太様のサイズに合う制服はこの家にも置いてあります。授業のための勉強道具はすでに九条家の方が持ってきてくださいました。朝は私が改太様を学院までお送りいたしますので問題ありません。」


 予想通り俺の逃げ道は全て塞がれていた。流石だよ麗さん。流石敏腕秘書だよ。抜かりなしだ。これで俺が断る口実は全てなくなった。もしこれで俺が断るとすればそれは俺の意思でしかない。やんわり断る理由がないのなら俺が『お前の家で一晩一緒に過ごすなんて嫌なんだよ!』っていう気持ちを持っているからという理由しかない。


麗「それとも………、私と一緒に過ごすのはお嫌ですか?」


 目に涙を溜めて俺にしな垂れかかり見上げてくる。もしこれをされて断れる男がいたらそいつは女性に興味がないあっちの世界の人だ。そして俺はノーマルだ。つまり………。


改太「全然嫌じゃないよ!だから泣かないで!今日は泊まるから!ね?」


麗「本当ですか?うふふっ。それでは今夜は色々とお話をしましょうね。」


 ………。わかってたさ。わかってたよ。嘘泣きだってね………。でも!それでも俺は踊らされて慌てて了承してしまった。もう何度目かわからない。付き合いの長い麗さんにはよくこの手で色んな約束をさせられたりしたもんだ。もう引っかかるまいと思ってもまた同じ手で引っかかる。こうして俺は三条家に泊まっていくことになった。



  =======



 まずご飯を食べてそのまま眠ってたからお風呂に入る。爺ちゃんが風呂好きで豪華な風呂を作ってある九条家ほどではないけど三条家もお屋敷に見合うだけの立派なお風呂がある。俺はこの三条家のお風呂も結構好きだ。何で好きとか言えるかってそりゃ今まで何度も入ったことがあるからだ。


改太「ふぅ…。いい湯だなっと。」


麗「改太様。お背中を御流しします。」


改太「うぇ!」


 俺が風呂に入ってると麗さんが入ってきた!俺は慌てたけど麗さんは流石に裸じゃなくて服を着てるようだ。まぁ服って言うか湯帷子だな。でも着てようが着てなかろうがやばいもんはやばい。そもそも俺は裸なんだ。


麗「さぁこちらへ。」


 ズンズンとお風呂に入ってきた麗さんは洗い場にしゃがんでポンポンと椅子を叩いて催促してくる。


改太「麗さん。それは流石にまずいよ。」


麗「どうしてですか?」


改太「結婚前の男女が裸の付き合いは駄目だ。」


麗「まぁ…。ですが改太様と私はもう将来を誓い合った仲ですし問題ないでしょう?」


改太「将来なんて誓い合ってないし問題あるよ!」


 そう言って俺は一応抵抗したけどどうなったかは皆の予想通りだ。麗さんのウルウルに抗う術を持たない俺は結局大人しく麗さんに背中を流された。もちろん変なことはしてないぞ。ちょっと水に濡れた湯帷子が麗さんの肌に張り付いて素肌が透けて俺が鼻血を噴出しそうになっただけだ………。


 のぼせそうになった風呂から上がって一休みしてる間に麗さんもお風呂に入ってきたようだ。出てきた麗さんは少し濡れてしっとりしていた。ほのかにお風呂上りの良い匂いがして上気した顔が色っぽい。


麗「それでは休みましょう。」


改太「うん。じゃ、俺は客間で寝るから。お休み麗さん。」


 俺はそう言って脱出しようとしたけど麗さんはそう簡単に逃がしてくれない。


麗「駄目ですよ改太様。今日はあの部屋で一緒に休みましょう。」


 あの部屋とは三条家にある呪われた部屋だ。いや、別に呪われてないんだけどね。俺と麗さんが結婚したら一緒に住むために用意された部屋らしい。もちろん俺と麗さんは結婚の約束なんてしてない。許婚とか婚約者じゃないのになぜそんなものを用意してるのかは俺にはわからない。


 ただ昔から俺が三条家に泊まると麗さんと二人でその部屋で一緒に寝ていた。今回もそこで寝なければならないようだ。俺はもう何年も三条家に泊まりに来てない。それは当たり前だ。もういい年の男女が同じ部屋で一緒に寝るなんて色々と問題がある。だから俺は三条家に泊まりに来なかったんだ。


 それなのに今夜は捕まってしまった。どうすればいいのか………。俺は麗さんと清い関係でいたい。だけどもし万が一誘惑されたら俺は抗える自信がない。一体どうすれば………。


 その時俺の灰色の脳細胞が閃いた。


改太「わかった。それじゃ行こうか。」


麗「えっ?えっ?」


 俺がそんなにあっさり了承すると思ってなかった麗さんは想定外のことに固まっていたけど俺はさっさと歩いて呪いの部屋へと入って行った。



  =======



 翌朝俺はすっきり目が覚める。


改太「おはよう麗さん。」


麗「………ひどいです改太様。」


改太「何がひどいの?」


麗「………もう知りません。」


 麗さんは呪いの部屋から出て行った。俺が閃いたこと。そしてなぜ麗さんがあんなに拗ねているのか。それは俺が部屋に入ってすぐに眠ったからだ。


 普通の状態の俺なら麗さんみたいな美人な女性と同じ部屋に居たら興奮して暢気に寝てられない。だけど魔法科学の力を使ってすぐにぐっすり眠ったのだ。もちろんぐっすり眠っていても身に危険が迫れば起きれるようになっている。だから麗さんが夜這いしてきたとしても気付いて阻止できた。つまり麗さんは昨晩少し離れたところで寝ることしか出来ずに俺達の間には何もなかったわけだ。


 こうして俺は麗さんの魔の手から逃れて無事に朝を迎えたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る