第15話「ニゲル中将の最後」


 ニゲル中将は俺を抱えたまま飛び上がってどこかへ向かって行った。こんなおっさんに抱きかかえられるくらいならピンクに抱っこされてる方がよっぽどうれしい。


 静流の…、いや、ピンクのあの立派すぎる胸の感触が懐かしい。ニゲル中将の厚い胸板の感触なんてうれしくない!


 アホなことを考えてる場合じゃないな。こいつらは一体俺をどうするつもりだろう?何故俺をさらったのかよくわからない。


 そんな俺の疑問を他所にニゲル中将は山を一つ越えた辺りで地上へと降り立った。その山の中腹辺りに洞穴があった。俺を連れて中に入ったニゲル中将は最初から用意されていた丸太に俺を括りつける。


 半分埋められて立っている丸太は二メートルくらいの高さがある。洞穴の天井すれすれくらいだ。どうやってこんな狭い洞穴にこんな長い丸太を埋めて立たせたのかと思うがやってやれなくはない。ただ無駄な労力がかかって得られる効果や意味がないから普通は誰もしない。


 この黒幕はなぜ無駄にこんな手の込んだことをしているのだろうか。せめて目的だけでもわかれば良いんだけど………。


ニゲル中将「大人しくしてろ。余計なことをすれば殺す。」


 俺を丸太に括りつけたニゲル中将はそれだけ言うと電池が切れたおもちゃのようにカチリと止まってピクリとも動かなくなった。


 コケティッシュシスターズの二人と言葉を交わしている時はいつも表情に変化があったり声の大きさやしゃべり方に変化があって本当にそこに存在する人間のように見える。それなのにあの二人から離れて俺と二人っきりになってからはまるで感情のない機械のように振舞っている。


 飛んでいた時も二人から離れた途端に無表情になったし俺を括りつけている時も何の感情の揺らぎもなくただ淡々と作業していた。そして今の言葉もまるで機械音声のように一定に何の感情もなく音として出ただけのような声だった。


 今もまるで映像を一時停止しているかのようにピクリとも動かず無表情に洞穴の入り口を向いて立っている。二人が来るまでこのまま待機ということなんだろう。


 これ以上ニゲル中将のことを考えていても得るものはないので別のことを考える。それはコケティッシュシスターズの二人のことだ。


 今日は必殺技を二回も使ったし他にも下っ端ーズとも戦った。それなのに二人の胸のブローチはまだ点滅してなかった。つまりまだエネルギーに余裕があったということだろう。今までなら必殺技一発でほとんどエネルギー切れだったのにどうして今日は平気だったんだろう?


 下っ端相手だから威力を抑えてエネルギー消費を少なくしていたということもない。俺のセンサーが捉えた限りではいつもと同じだけのエネルギーを使っていた。


 ………前から少しずつ二人のエネルギー量が増えてるとは思ってたけど変身してなかった最近の間にもさらにエネルギー量が増えてたってことか?だったら敵の狙いは………、二人を成長させること?そのためにこんな手の込んだことをしている?


 わからない…。情報が少なすぎる。たださっきの秘密基地っぽいところでの戦いでわかる通り黒幕は少なくともあの二人をすぐに殺そうとは思ってない。殺したりピンチに陥らせるだけならもっと他に方法がいくらでもあった。それなのにあれだけぬるい罠で都合良く二人はピンチを脱出出来るだけの猶予が与えられて手加減されていた。少なくとも現時点で敵の目的が二人を殺すことじゃないのは確かだろう。


 だけどだからって俺まで安全かというとそうとは言い切れない。むしろニゲル中将は俺を何の躊躇もなく殺しそうだ。さっきの言葉は俺が暴れないようにただの脅しだけだったということはないだろう。機械音声で感情もなく脅されたからそう感じるってだけじゃない。


 こいつらは何らかの目的に沿って動いてる。そしてそれはもちろんあの二人が中心だろう。その邪魔をするとなれば周りのMOBでしかない俺や他の者達はあっさり殺されると思う。


 実際にはニゲル中将じゃ俺は殺せないけど抵抗すれば俺の能力が黒幕にもバレてしまう。ここは二人が来るまで大人しくしてるしかない。そう思ってピクリとも動かないニゲル中将と二人っきりで洞穴の入り口をじっと見つめて待っていたのだった。



  =======



 暫く待っていると二人が洞穴へとやってきた。変身も解かずにそのまま全力で駆けてきたようだ。二人の呼吸が荒いのが俺のところまで聞こえる。


ブルー「見つけたわよニゲル中将!」


ピンク「九条君は返してもらいます!」


ニゲル中将「来たかコケティッシュシスターズ!おっと、抵抗するなよ。妙な真似をしたらこいつの命はないぞ?くっくっくっ。」


 二人が来た途端に動き出したニゲル中将は表情豊かに反応し声の調子も普通の人のように変化がある。さっきまでの機械のような声や表情とはまるで違う。


 そのニゲル中将は俺にピッケルハウベを向けて刺すぞと脅している。…何て言うかすごいシュールだ。おっさんが被ったピッケルハウベを俺に向けて威嚇している。美少女二人は『くっ!』とか『卑怯な!』とか言ってる。


 何だろうこれは…。多分第三者がこの場面を見たら笑うと思う。コケティッシュシスターズとニゲル中将は至って真面目にしてるんだけどそれが余計にシュールさを際立たせている。


ブルー「一体何が望みなの?」


ニゲル中将「知りたいか?お前達二人を改造して我がネオコンクエスタムの怪人にするのが目的だぁ~!は~っはっはっはぁ!」


ピンク「そんな…。」


 二人は驚いているけどこれはニゲル中将の嘘だな。いや、ニゲル中将はプログラム通りに動いてしゃべってるだけだから嘘を言ってるわけじゃないけど黒幕には今のところそんな気はない。それならさっきの基地で二人を捕まえて改造でも何でもすればよかった。


 わざわざ逃がしておいてこんな面倒で手のかかることをして今捕まえる理由はない。そもそもで言えば二人に魔法科学を与えた者もこの茶番をやらせてる黒幕も同一人物か、少なくとも同一勢力である以上は捕まえなくても二人を改造出来る。つまりこれは今まで同様ただの演出だな。


ブルー「どうして私達を?」


ニゲル中将「お前達の力を手に入れればネオコンクエスタムの野望達成は約束されたも同然だ!」


ピンク「それなら私達だけ狙いなさい!無関係な人まで巻き込まないで!」


ニゲル中将「知らんなぁ。お前達を捕まえるためならどんな手でも使う。当たり前だろう?」


ブルー・ピンク「「くっ!」」


 ………まだ茶番は続くみたいだな。


改太「何で怪人も使わず中将が自らこんなことしてんの?そもそも基地一個自爆までさせて意味あったの?」


ニゲル中将・ブルー・ピンク「「「………。」」」


 俺の言葉に三人とも固まる。


ニゲル中将「ええい黙れ!貴様らのせいで私のネオコンクエスタムでの地位は失われたのだ!日本支部も放棄されることになった!ここで貴様らを捕らえねば…。これが私の最後のチャンスなのだ!」


 どうやら今回がニゲル中将の最後らしい。俺は数えるほどしか出会ってないので何の思い入れも感慨もないけどさようならニゲル中将。君の勇姿は忘れない。


ブルー「―ッ!今よ!たーっ!!!」


ニゲル中将「むおっ!」


 俺と話ていたニゲル中将の隙(?)を突いてブルーが飛び掛る。


ピンク「大丈夫ですか?九条君。」


 ニゲル中将が俺の側から追い払われたところでピンクが俺に駆け寄り縛られていたロープを切ってくれた。


改太「ああ、大丈夫。ありがとう。」


ピンク「いえ………。こんなことに巻き込んでこんな目に遭わせてしまってごめんなさい。」


 ピンクは目に涙を溜めて謝ってくる。


改太「大丈夫。気にしないで。俺は二人の力になれたら良いなと思ってるよ。」


ピンク「九条君………。」


 ピンクはそっと俺の胸元に手を乗せて二人の体が自然と近づき………。


ブルー「ちょっと二人とも!何してるの!私はまだ戦ってるんだけど忘れてるんじゃないでしょうね?」


ピンク「あっ!ごめんなさい。すぐに行くわ。………それじゃ九条君。少し離れるけど気をつけてね。」


改太「あっ、ああ。わかってる。…頑張って。」


 あぶねぇ…。流されて妙な雰囲気になるところだった。うっすら赤くなってはにかんでるピンクが可愛い。やばい。ピンクのこと好きになりそうだ。これがつり橋効果ってやつか?


ピンク「うんっ!」


 眩しい笑顔で応えたピンクが可愛すぎる…。やべぇ…。マジでギュッて抱き締めたくなってきた。けどその願望がかなえられることはなくピンクはブルーの元へと向かった。


ニゲル中将「二対一とは卑怯だぞ!」


ブルー「散々卑怯な手を使っているあなたが言えることじゃないでしょ!」


ニゲル中将「私は悪役だから良いのだ!貴様らは正義の味方だろうが!正義の味方なら正義の味方らしく正々堂々と戦えい!」


ピンク「くっ!それは………。」


 おいおい…。ピンクは真剣に悩み始めたぞ。そんな無茶苦茶な理論はないだろう。それに二対一だから卑怯っていうのもおかしい。


改太「悪役だから卑怯な手を使って良くて正義の味方は使っちゃ駄目ってことはないだろ。それに女の子なんだから二人掛かりでも丁度良いハンデだろう?」


ブルー「そうよ。私達は女の子なんだから二対一でもいいでしょ!」


ニゲル中将「こんな時だけ女だからなんて持ち出すのは卑怯だぞ!普段は男女同権とか男女平等とか言うくせに!」


 ………何かニゲル中将の言葉は妙にリアルだな。非常に人間臭い。この立体映像を操ってる中の人の本音が漏れたのか?そう思わずにはいられない。


ピンク「お黙りなさい!私達は負けるわけにはいかないんです!」


 ピンクも開き直ったようだ。二人でニゲル中将に迫る。


ニゲル中将「くっくっくっ!掛かったな!今だ!」


 ニゲル中将が懐から取り出したボタンを押すと洞穴の入り口付近で爆発が起こって崩落した。俺達は閉じ込められてしまった。っていうかニゲル中将も閉じ込められたよな………。立体映像だから映像を消せば消えるし外に映し出せばまた外に現れることも出来るけど一緒に閉じ込められて何がしたいのかよくわからないぞ。


 それに爆発の衝撃であちこちが崩れてきてる。入り口だけじゃなくてこの洞穴自体が埋まって俺達も生き埋めになる可能性がある。


ブルー「一体どういうつもり?」


ニゲル中将「くっくっくっ。ここでお前達の必殺技を使えば諸共生き埋めになる。」


ピンク「そういうことですか………。まんまと必殺技を封じられてしまったというわけですね。」


 ピンクは苦虫を噛み潰したような顔でニゲル中将を睨みつける。っていうか必殺技を使うまでもなく徐々に崩れてきてるぞ。多分そのうち本当に生き埋めになる。


 三人が戦って暴れるだけであちこち崩れる。それに仮に生き埋めにならなかったとしても入り口が崩れたんだから長時間ここにいたら酸欠で死ぬんじゃないか?


改太「二人を捕まえて怪人に改造するつもりのはずなのに生き埋めにしちゃったら皆死んじゃうぞ?それに入り口が塞がれて空気が入ってこなくなった。暫くしたら皆酸欠で死ぬんじゃないか?」


ニゲル中将・ブルー・ピンク「「「………。」」」


 三人は戦いを中断して顔を見合わせてから俺を注視してる。


ニゲル中将「なん…だと…。」


ブルー「まずいわ!どうしよう?」


ピンク「慌ててはだめよ。まずは酸素の消費を抑えるために呼吸を落ち着けましょう。」


 三人は深呼吸をして呼吸を整え始めた。スーハースーハー三人の深呼吸の音だけが聞こえる。あっ…。そう言えば入り口が崩れたことでこの洞穴の中は真っ暗だった。俺はセンサーで見えてるから気にしてなかったけどこの暗闇で普通に見えてたらおかしいから見えてない振りをしないといけないな。


 あの三人は魔法科学の力で見えているんだろう。真っ暗になってからも普通に戦っていた。


改太「とりあえずまずは協力してここから脱出するのが先決じゃないかな?」


 俺はニゲル中将を説得してみる。だけど効果はなかったようだ。


ニゲル中将「貴様らが酸欠で倒れた後で私だけ脱出する!心配せずとも死ぬ前に連れ出して改造してやるから安心しろ。」


ブルー「ここで倒すしかないようね。」


ピンク「やりましょう。」


 ブルーとピンクもニゲル中将に合わせて臨戦態勢に入る。結局このまま続行か。それから暫く三人の接近戦が続いたのだった。



  =======



 俺は暗闇でよく見えてない振りをしながら壁に手をついて埋まってしまった入り口の方へとゆっくり進んでいく。入り口を掘り返そうかと思ったけど余計崩れるかもしれない。俺が本気でやれば簡単に脱出出来るけどまだ俺の能力を見せてまで慌てる場面じゃない。もう少しだけ様子を見よう。


ニゲル中将「おのれコケティッシュシスターズめ!このまま全員一緒に生き埋めになる気か!」


ブルー「生き埋めになる気なんてないわ。」


ピンク「あなたが私達に倒されてくれたらすぐにでも脱出します。」


ニゲル中将「貴様らこそ諦めて私に捕まれ!」


ブルー「あなたが負けなさい!」


 何かだんだん小学生の喧嘩みたいになってきたぞ………。


ピンク「でも何だか息苦しくなってきた気がします。そろそろまずいかもしれないわよブルー。」


 確かに…。俺も少し息苦しい。センサーも警告を発してる。このままじゃまずいぞ。


ブルー「仕方ないわ。………あれをやるわよ!」


ピンク「あれを?!………でも他に方法はないわね。わかったわ。」


 何かいつもあの二人は『あれをする。』『了解。』みたいなやり取りをしてるけど本当にわかってるんだろうか?俺は二人の会話を聞いてても何をするつもりなのかさっぱりわからない。打ち合わせとか脈絡とかないのに二人はいつもあの会話だけで次にどんな技を使うか意思疎通できてるのだろうか?


 俺がそんなことを考えている間に二人は行動に移っていた。俺が括りつけられていた丸太に二人で手を着いて魔法を使うようだ。


ブルー「マジカルッ!」


ピンク「コケティッシュッ!」


ブルー・ピンク「「ビッグウッドッ!!!」」


 魔法が発動すると丸太はぐんぐん太く大きくなっていく。なんだこりゃ!下の方からは根が出てきて上の方からは枝が出てくる。ただの丸太だったものが木へと変化しているようだ。それもかなりでかい…。


 この洞穴を埋め尽くさんばかりに成長した木はさらに伸びていき洞穴の天井を崩しはじめた。


ニゲル中将「ぬおおおぉぉぉ!」


 ニゲル中将は成長した根に絡みつかれて飲み込まれてしまった。結構えげつない魔法だ…。いや、この二人の魔法はいつもえげつない魔法ばかりだったな………。


ブルー「九条君こっちへ!」


ピンク「早く!」


 二人が木の枝に乗りながら俺に手を差し出す。俺は暗闇で見えてない振りをしながら手探りで二人の方へと向かって手を伸ばす。二人は片手ずつ俺の手を掴んで引っ張り上げた。その瞬間木は爆発的に成長して洞穴を突き破り俺達は外へと放り出されたのだった。


ブルー「見てピンク。」


ピンク「ニゲル中将の最後ですね。」


 二人が見下ろす先、洞穴の中でいつも怪人達がやられた後で光の粒子となって霧散するのと同じ光が見えた。


ブルー「ニゲル中将…、強敵だったわ。」


ピンク「あっ!そろそろ変身が解けてしまいます。今のうちに降りましょう。」


 二人の胸のブローチが点滅していた。それを見た二人は慌ててものすごい大きさまで成長した木の上から俺を連れて降りたのだった。


 今回は三回も必殺技を使った。どれも威力や消費エネルギーは大きなものだった。いつもなら一発でへばるような消費エネルギーを三発分使ってもまだ大丈夫だったのはなぜか。


 もしかしてあの点滅はエネルギー残量を警告しているのではなくて黒幕がそろそろ変身を強制解除するぞという合図なのではないだろうか?もちろんこれは推測のうちの一つにすぎないけどそういう可能性もあるということは考えておいたほうがいいだろう。


 こうしてニゲル中将とネオコンクエスタム日本支部は壊滅したのだった。


 ってめでたしめでたしとはいかない。俺達はまた山の中でエネルギー切れで進退窮まったのだった。



  =======



 昨日はひどい目に遭った。あの後近くの町…、というか村だな。村までなんとか歩いて戻った俺達はほとんど本数のない電車にぎりぎり乗って帰れたのだった。


 そして今日は静流の日だ。何が?それはもちろん………。


静流「はい、あ~ん。」


改太「…あ~ん。」


 今何をしているのか。聞くまでもないだろう。そうだ。ここ数日恒例になりつつある学院での昼ご飯で俺は静流にあ~んをされている。


静流「おいしいですか?」


改太「うん…。味はおいしいよ。」


静流「味は?それでは味以外では何かまずいところがありましたか?」


改太「ううん…。お弁当自体は完璧だよ…。」


 ただそのお箸が問題なんだよ!俺にあ~んすると次は静流が自分の分を食べる。そしてそのまままた俺があ~んされる。つまり毎回交互に同じお箸を使うからずっと間接キスしてるんだよ!


 聖香と比べたら少し厚めの静流の唇に視線が吸い寄せられる。プルプルしてるその唇を触ってみたい衝動に駆られる。


聖香「ちょっと九条君!どこ見てるのかしら?」


改太「ひぇっ!何でもありません!」


 聖香が怖い顔で睨んでいた。こえぇ…。何か俺の周りの女の子達って怖い子ばっかりな気がしてきたぞ。


静流「それでは次はどれにしますか?」


改太「じゃあそっちの………。」


 こうしてドキドキの昼ご飯も過ぎていった。



  =======



 その後放課後にパトロールをしてから二人と別れて秘密基地へと帰って来た。昨日ニゲル中将を倒したからか今日は敵が現れなかった。もしかしたら次のステージに移るための準備期間なのかもしれない。


 そんなことを考えながらエレベーターを降りるとそこには鬼が………。と思ったけど鬼じゃなかった。


麗「おかえりなさいませ。改太様。」


改太「ただいま麗さん。…何か良いことでもあったの?」


麗「…え?いえ。何でもありませんが?」


 いや…。絶対滅茶苦茶機嫌が良い。その日は機嫌の良いキラーレディと書類整理をしてから帰ることにした。けどやっぱりというかなんというかそのまま素直には帰してくれなかった。


キラーレディ「デスフラッシュ大佐。今日もお送りいたしますのでお帰りは私の車までお越しください。」


 今はにこやかにそう言ってるけどここで断ったり反対意見を言ったりしたらまた般若みたいになってしまうかもしれない。俺は素直に従うことにした。


デスフラッシュ「わかったよ。それじゃいつも通り車で待ち合わせにしよう。」


キラーレディ「はい。」


 こうして俺はまた麗さんの車に乗せられて家まで送っていかれる。そして予想通り麗さんは俺の家には向かわない。またしても三条家のお屋敷へと連れていかれたのだった。


 そうなると当然予想される通りまたしても麗さんの手料理であ~んをされる。


麗「あ~ん。」


改太「………あ~ん。」


麗「おいしいですか?」


改太「…うん。おいしいよ。」


 料理の腕もプロ級の麗さんの料理がまずいわけはない。ただ麗さんはあの二人と同じように俺にあ~んをしては自分もそのお箸で料理を食べて俺と交互に同じお箸で食べる。麗さんは何か時々チロッとお箸を舐めている気がする。それが気になって気になって料理の味を楽しめない。


麗「………ここには止める者はおりませんので存分に味わっても良いのですよ?」


改太「え?」


 麗さんが何のことを言っているのかわからないわけじゃない。チロリと唇を舐める麗さんが艶かしい。その唇に釘付けになった俺の視線は………。


改太「ええいっ!」


 俺は自分のほっぺを叩く。


麗「改太様!一体何を?」


改太「うん。麗さんの誘惑に負けそうだったからね。こういうのは良くないと思うよ。その場の雰囲気や勢いでそういうことをしちゃ駄目だと思うんだ。俺は麗さんが大事だからそういうことはきちんとしたい。」


 そうだ。ここで麗さんの唇を奪ったって誰も止めない。三条家の者はこの部屋に近づかないように言われてるし俺と麗さんが何かしだしても止めるようなこともない。麗さんだって俺が押し倒したって嫌がらないだろう。だけどそういうのはちゃんとした場でお互い合意でしたい。


 何か誘惑に負けてとかこの場の雰囲気でそういうことを軽々しくしちゃだめだ。麗さんをそう説得してみる。


麗「………はい。改太様が私をとても大切にしてくださっていることがよくわかりました。あのような小娘達を羨んだり嫉妬したりする必要などなかったのですね。改太様と私はこんなにも愛し合っているのですから!」


改太「ちょっと待てっ!愛し合ってはいないぞ!話を飛躍させるのは麗さんの悪い癖だ。確かに麗さんは大切な人だけどまだ愛し合ってるとかそういうのじゃないから!」


 俺が必死にそう言っても麗さんは遠い目をして俺の言葉が聞こえているのか聞こえていないのかトリップしたまま帰ってこなかった………。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る