第12話「パトロール」
昨晩は色々していて寝不足だ。それでも学院へ向かわなければならない。月曜日は憂鬱だ。
聖香「九条君おはよう。」
静流「おはようございます。」
改太「おはよぅ…。ふわぁ~あ。」
いつもの二人に迎えられて挨拶を返すけど欠伸が出てしまった。
聖香「眠そうだね?」
静流「きちんと眠れなかったのですか?」
改太「あ~…、ちょっとね。夜更かししすぎて寝不足なんだ。」
聖香「ちゃんと夜寝ないとだめだよ。」
静流「なぜ夜更かしされたのでしょうか?お勉強ですか?」
改太「ん~…。まぁ色々だよ。」
聖香「言えないようなことなのかしら?」
静流「言えないようなって……。あっ!………。」
静流は何を考えたのか顔を真っ赤にして俯いてしまった。俺はその話題を適当にはぐらかしながら教室へと向かったのだった。
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昼になるといつも通り拉致されて学院のはずれにあるベンチで三人でご飯を食べる。
聖香「ねぇ。これまでのことでわかってる通り九条君のアドバイスはとっても役に立ってると思うの。」
静流「そうですね。ですから………。」
聖香・静流「「私達をサポートしてくれないかな?」」
昼ご飯を食べながら二人は俺にそう迫ってくる。
改太「う~ん…。そうは言われても具体的にどうするのかよくわからないんだけど?」
俺としても二人の近くにいて二人の身の安全の確保と黒幕の捜査をしたい。だけど何をどうするかもわからずに手伝えとだけ言われても答えようがない。
もし仮にだけど二十四時間ずっと一緒にいろとか言われるサポートなら当然だけど引き受けることはできない。
聖香「九条君のアドバイスはいつも的確だし私達のピンチを救ってくれてると思うのよ。」
静流「ですから私達が放課後にパトロールに行く時に同行して、もし敵と遭遇したら気付いたことやアドバイスを言っていただけたら良いのですけど…。」
それくらいなら今までと変わらないし俺にとっても好都合だ。断る理由はないように思う。
改太「それくらいでいいなら出来る限りそうするけど…。あっ!でも毎回常に大丈夫とは限らないからその辺りは勘弁してね。」
聖香「本当?やったわ!」
静流「九条君にも都合があることはわかってますから出来る範囲でお願いします。」
こうして俺は放課後のパトロールに出来るだけ付き合うことになったのだった。
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今日から早速パトロールに同行することになった。二人は一度帰ってからパトロールに出かけるそうだ。俺は帰る理由もないし秘密基地へ行っても何かするほどの時間もないからそこらでブラブラしながら時間を潰して待ち合わせ場所に向かうことにした。
聖香「九条君こっちこっち。」
改太「あれ?二人とももう来てたの?遅れたかな?ごめんごめん。」
俺が待ち合わせ場所に向かうともう二人はそこにいて俺を待っていた。おかしいな。まだ約束の時間より十分以上早いのに…。
静流「いえ。まだ約束の時間ではありませんからお気になさらないで下さい。」
改太「え?そう?うん。まぁお待たせ。」
やっぱり俺が時間を間違えたわけじゃないようだ。………二人はいつも一度帰ってからパトロールに出かけていたらしい。でも変身する前の二人は俺達が戦ってた時は学院の制服のままだった。だけど今日は着替えているぞ。
聖香はパンツルックで静流はワンピースだ。
改太「………二人ともおしゃれだね。」
そう…。おしゃれすぎてとても戦う気がある者の姿とは思えないくらいだ。おかしいな…。戦う時は変身するとしても普通はもうちょっと動きやすい格好とかするんじゃないのかな…。
二人は普通のおしゃれな女の子という感じで少し動き難そうだ。それほど高くはないけど少しヒールのある靴を履いてるし走るのも大変そうな気がする。
聖香「あっ、ありがとう…。」
聖香は真っ赤になって顔を伏せながらそう言った。
静流「ありがとうございます。九条君が気に入ってくれたのならよかったです。」
静流はにっこりと微笑んだ。
改太「う~ん…。これじゃパトロールっていうかデートみたいだな。」
俺はうっかり思ったことを口にしてしまった。
聖香「えっ!きっ、気のせいだよ!」
静流「そっ、そっ、そっ、そうですよ。三人でデートなんてしようと思っていないです。」
改太「え?うん。ちょっとそんな風に見えるかなって思っただけ。ごめんね。そんなつもりなんてないよね。」
うっかり余計なことを言ってしまったせいで二人に不快な思いをさせてしまったかもしれない。ちょっと的はずれではあるけど二人は二人なりに町の人達のために真剣に悪と戦ってるつもりなのにそんな浮ついたことを言われたらきっと気分悪いよな。
聖香「ううん。いいの。九条君こそ気にしないで。」
静流「そっ、それに普通の人に見えるほうがカモフラージュにもなりますから………。」
改太「ああ。それはそうか。そうだね。」
確かに静流の言うことも一理ある。普通の街中でおしゃれな若者が行き交う中を動きやすくて戦いやすい格好や装備を持ってあちこちに目を光らせながら歩いていたら目立つ。普通の格好をして人々に溶け込みながら自然とパトロールした方が目立たないだろう。
俺は敵の黒幕が二人に魔法科学を授けた相手で二人をいつも監視していることを知っているからこんなものは茶番であって必要ないとわかっているけど、二人からすればどこにいるかわからない謎の敵を追いかけているつもりなんだ。
それなら二人のように目立たずに人に溶け込みながら敵を探そうと考える方が普通なんだろう。今回はちょっと俺の想像力が足りなかったな。
聖香「それじゃ行きましょう。」
改太「どこへ向かうの?」
静流「それは私達にお任せください。」
二人は何か考えがあるのかもう目的地は決まっているようだったので俺はそれに従って付いて行くだけだった。
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聖香「これなんてどうかな?」
改太「ああ…。うん。その色は新道さんによく合って可愛いと思うよ。」
聖香「本当?えへへっ。」
聖香はネックレスを自分の首に当てながら俺に感想を聞いてくる。俺は当たり障りない返答をしておく。
静流「九条君。これはどうでしょう?」
静流は髪飾りを自分の髪に当てて俺に意見を聞いてくる。
改太「う~ん。俺は祁答院さんにはもうちょっと明るい色の方がいいんじゃないかなと思うけど…。」
静流「まぁ!それではこちらはどうでしょうか?」
改太「うん。俺はそっちの色の方が好きかな。」
俺達は今一体何をしているのか………。俺達は今繁華街の店を回っている。………うん。ただのショッピングだ。俺達はパトロールしているのではなかったのか?
二人はアクセサリーや小物、服に靴に鞄に色々な店を回って見ていた。本当に普通の女の子のショッピングっていう感じだ。そして事ある毎に俺に意見を聞いてくる。でも俺は男であって女の子のことについてそんなによくわからない。
だからなるべく当たり障りないようにそれっぽいことを言っておく。ここでよく可愛いよとか似合うよとか簡単なことしか言わないと『ちゃんと見てるの?!』って怒られるから難しい。
店を出て一段落したところで俺は疑問に思ったことを聞いてみた。
改太「俺達ってパトロールに来たんじゃなかったっけ?これもパトロールなのかな?」
聖香「えっ!そっ、それはそうだよ。パトロール。」
静流「自然に周囲に溶け込みながら怪人が出ないかパトロールしてるんですよ!」
改太「う~ん………。そうなの?」
聖香・静流「「そうなの!」」
まぁパトロールって言っても闇雲にあちこち移動し続ければいいってものでもないか。怪しいところに留まって様子を見るのもパトロールのうちだろう。その時に何もせずただじっと見張ってたら俺達の方が不審者になっていしまう。
だからこうして周囲に溶け込みながら異変が起こらないか様子を見ているのは正解なの…か……?俺はあまりこういうことはしたことがないからわからない。
ただコンクエスタムのパトロールはあちこちウロウロしてたんだけどこの二人は今日はこの繁華街から動かないみたいだ。ここが怪しいと思って今日は重点的にここを見張るつもりなのかもしれないから今日のプランを聞いていない俺がとやかく言うことじゃないのかもしれない。
聖香「それより喉が渇かない?」
静流「そうですね。少しあのお店で休憩しませんか?」
改太「ああ。それじゃそうしようか。」
俺は別に平気だったけど女の子二人は疲れたのかもしれない。いざという時にちゃんと戦えるように休憩や体調管理も必要なことだろう。俺達三人は近くのカフェに入った。
聖香はパフェを頼み静流は紅茶とケーキを頼んだ。俺はコーヒーにしておく。
聖香「私このお店の雰囲気好きなんだ。」
改太「へぇ。よく来るの?」
静流「ええ。二人でお買い物をしにこの辺りまで来るとよく寄りますよ。」
どうやら二人の馴染みの店だったらしい。二人はよくこの辺りに買い物に来たりするそうで色々と談笑しながらゆったりした時間をすごしたのだった。
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カフェを出てからもお店を周りながら繁華街のパトロールを続ける。………本当にこれはパトロールなんだろうか?何だかただのショッピングを楽しんだだけのような気がする。
まぁこの二人がそれでいいならそれでもいいか。二人だって年頃の女の子だ。全てを犠牲にしてただ正義のために戦い続けるなんて出来はしないだろう。
今日は偶々敵が出てこなかっただけでこのショッピングも完全に無駄だったというわけでもない。もし本当に敵がこの繁華街に出ていれば二人がすぐに駆けつけることが出来た。
おまわりさんが巡回しても犯罪に出くわさなかったからと言って無意味ということはないのと同じだ。おまわりさんが巡回することで犯罪を防止したり万が一近くで何か起こった時にすぐに駆けつけたり出来る。そのためにほとんどの場合何事もない巡回でもきちんとすることに意味がある。
聖香「今日はもうそろそろ戻りましょうか?」
静流「そうですね。もう随分遅くなりましたし帰りましょうか。」
改太「そうだね。」
もう周囲も暗くなっている。今日は何も収穫はなかったけどそう毎日毎日何かあってもそれはそれで困る。二人は一緒に静流の家の車で帰るそうなので迎えが来る場所まで二人を送っていってから俺も帰ったのだった。
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俺が帰ると言ってももちろん家ではなく秘密基地に帰ることを指す。秘密基地に帰ってエレベーターを降りた俺は腰を抜かしそうになった。
なぜならそこには鬼が立っていたからだ。滅茶苦茶怖い。本物の鬼でもこの人の前に立ったら縮み上がるだろう。
麗「おかえりなさいませ。改太様。」
改太「たっ、ただいま………。」
言葉も動作もいつも通りだ。ただその声は静かではあるけどものすごい怒りを含んでいる気がする。顔も別に般若の顔をしているわけじゃない。ただ無表情なだけのはずだ。それなのに鬼よりも怖い顔に見える。何で麗さんがこんなに怒っているのか意味がわからない。ただ今は逆らってはいけないということだけがはっきりとわかる。
改太「とっ、通ってもいいかな?」
麗「これは失礼致しました。どうぞ。」
そう言って麗さんが前を譲ってくれる。そこを通り過ぎて自室へと向かうけど後ろからついてくる麗さんの気配から怒りを感じるようで怖い。何も言えない俺は逃げるように早足で自室へと向かったのだった。
今日はもう遅いし特にすることもないので自室で報告書の確認だけして帰ろうと思っていた。麗さんが出してくれる書類に目を通していく。
麗「改太様。明日の予定は変更になりました。」
改太「え?何で?明日って何かあったっけ?」
麗「はい。九条ホールディングスのパーティーの予定でしたがキャンセルしておきました。」
改太「………何で?」
はっきり言って俺は九条ホールディングス関係のイベントは嫌いだ。パーティーも出来れば出たくない。でも麗さんが今のうちからそういうところに出て顔を繋いでおくことも大事だと言っていつも無理やり出席させられている。
それなのに明日のパーティーは麗さんが俺に出席しろと言ってたはずなのに麗さんがキャンセルするとはどういうことだ?俺がどれだけ出たくないと言っても有無を言わせず出席させる麗さんがなぜ急にそんなことを言い出したのかわからない。
大体火曜日にパーティーなんてするなよと言いたい。まぁ土曜や日曜にパーティーに呼び出されて折角の休日を台無しにされるのも嫌だけど何で平日にパーティーなんてするのか企画してる奴に問い質したい。
けどちゃんと理由もあるから文句も言えないんだけどな。今は米国支社の上役がこっちに来てる。その上役の接待やこっちの役員との親睦会や顔合わせの意味がある。
俺も会ったことがある奴らばっかりだけど一度顔を合わせたからといってもう会わなくていいということはない。人心掌握のためにはマメに会って親しくしたり色々とやらなければならないことがある。そういうことをして将来会社を継いだ時に信用できる部下とコネを作っておけというのが麗さんの言い分だ。そしてそれは会社を継ぐことを考えれば正しい。
その麗さんがパーティーをキャンセルしてでも俺の予定を変えるほどのこととは一体なんだろうか?
改太「パーティーをキャンセルしてまでしなければならないようなことってあったっけ?」
麗「はい。一度お帰りになって着替えてから午後四時に駅前までお越しください。」
んん?ますます意味がわからないぞ?
改太「何で?」
麗「よろしいですね?」
俺の疑問に麗さんは恐ろしい無表情で迫ってきた。怖い………。
改太「はいっ!」
この状態の麗さんに逆らえるはずもない俺は有無を言わせず従わさせられたのだった。
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翌日学校で二人に今日は用事があって付き合えないことを伝えた。
聖香「そう…。用事があるんだったら仕方ないね。」
静流「毎日付き合わせるわけにもいきませんから…。お気になさらないでください。」
改太「ごめんね。昨日の今日なのにいきなり一緒に行けなくて悪いんだけど今日はどうしても外せないんだ。」
二人は残念そうな顔をしていた。昨日出来るだけ二人に協力するって約束したところなのに今日いきなり一緒に行けないなんて何か申し訳なくて言いにくいんだけどあの麗さんには逆らえない。
聖香「ううん。いいの。九条君って前から結構色々と忙しそうだったもんね。」
静流「そうですね。私達の用にばかりも付き合わせるわけにはいきません。それではまた明日お願い致しますね。」
改太「ほんとにごめんね。それじゃ今日は急いでるからまた明日ね。」
俺は二人に挨拶をしてすぐに帰る。今日は本当に一度家に帰って着替えて麗さんに指定された場所へ向かう。万が一にも遅れたらどんな目に遭わされるかわからないから早め早めに行動だ。
十五分前には指定された場所に着いたはずなのにすでに麗さんが待っていた。
改太「ごっ、ごめん。遅くなったかな?」
本当はまだ約束より前の時間だから俺が謝らなければならないようなことは何もないけど昨日の麗さんの恐怖を思い出した俺は即座に謝った。
麗「ううん。私も今来たところよ。」
俺を振りかえった麗さんは………、微笑んでいた。いつもの無表情でも怖い顔でもない。自然な笑みだ。不覚にも俺は一瞬ドキッとしてしまった。
改太「あっ、ああ。………そうだ。それで今日はどうするの?」
麗「それじゃ行きましょうか?」
麗さんに促されるままに移動を開始する。電車で移動するみたいだ。俺は基本的に滅多に電車は使わないけどまったく乗らないわけでもない。御曹司だからって電車の乗り方も知らないってことはないぞ。
そして着いたのは昨日二人と一緒に行った繁華街とは別のタイプの繁華街だった。簡単に言えば二人と行ったのは若者向けの、悪く言えば安っぽい繁華街だ。今日麗さんと来たのはそれなりの財力を持つ大人向けの落ち着いた高級店の並ぶ繁華街だった。
改太「こんなところで何かあったっけ?」
麗「まずはこっちへ。」
麗さんは相変わらず微笑んだまま俺を連れて店に入っていった。その後も何軒か店を回っていく。………何だこれ?これってただのデートじゃないの?
改太「麗さん。これってデートじゃないの?」
麗「デートだなんて…。恥ずかしいわ。」
麗さんはほんのり頬を赤く染めてそう言った。………えっ?違うの?じゃあ何?何で俺は麗さんとこんなところでこんなことしてんだ?
麗「あそこで休みましょう。」
改太「え?うん。」
麗さんが急に休みたいと言い出して店に入る。ここも高級で落ち着いた店だ。少し休憩してからまた店を回って行った。
麗「お食事にしましょう。」
改太「ああ…。もうそんな時間か。」
麗「はい。予約してありますのでそこへ行きましょう。」
麗さんは最初から予約していたようだ。そこそこのイタリアンのリストランテに入った。食事で出されたワインを飲んで少し顔を赤くした麗さんが妙に色っぽい。今日は何だか優しく微笑んでいていつもと調子が違って俺まで何かドキドキしてくる。
改太「麗さん今日は一体どうしたの?これが九条ホールディングスのパーティーをキャンセルしてまでするようなことだったの?」
俺がそう言うと麗さんは急に表情を曇らせて泣きそうな顔になった。
麗「私とパトロールするのはお嫌でしたか?」
改太「パトロール?」
麗「はい。先日例の二人とパトロールをされたのと同じパトロールをしただけです。ですが改太様はあの二人とパトロールするのは良くて私とパトロールするのはお嫌なのですね。」
麗さんは今にも涙をこぼしそうな表情で顔を伏せた。
改太「いやいや!そうじゃないよ?!ただいつもの麗さんならパーティーに行けとか言うのにどうしたのかなと思ったんだよ。」
麗「本当ですか?私とパトロールするのが嫌というわけではないのですね?」
改太「当たり前だよ。今日は楽しかったよ。」
麗「本当の本当に?それならばまた私とパトロールに来てくださいますか?」
改太「ああ。来る。また来るから。」
麗「約束ですからね!」
最後の最後で急に麗さんは元気になった。………あれ?俺嵌められたんじゃね?それに麗さんパトロールパトロールって言ってるけどそれってもう完全にデートのつもりで言ってるよね?
でもうれしそうに笑ってる麗さんの顔を見ていたら『まぁいいか。』っていう気になってくるのだった。
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