第10話「新たな動き」


 翌朝も俺はいつも通り学院に向かう。慣れた道をただ何も考えずに歩く。


聖香「おはよう九条君…。どうしたの?」


静流「おはようございます九条君………。何かあったのですか?」


改太「ああ。おはよう。…ううん。別になんでもないよ。」


 聖香と静流は俺の顔を見るなり心配してきた。俺はそんなひどい顔をしてるのかな。


聖香「そっ、そう?…今日は木曜日だね。」


静流「………明日は金曜日ですね。」


 二人は少し遠慮がちにいつもの確認をしてきた。


改太「ちゃんと覚えてるよ。」


 明日は先週約束した二人と一緒に帰る日だ。予定もちゃんと空けてあるしコンクエスタムの活動が封印されるならもっと時間を空けられるだろう。


聖香「べっ、別に私達は何も要求してないけど?」


静流「そっ、そうですよ。私達はただ曜日を確認しているだけですよ?」


改太「………そうだね。」


 これなら『明日約束の日だけど覚えてるだろうな?』ってはっきり確認された方が気が楽だな………。ともかく二人と一緒に教室へと向かったのだった。



  =======



 昼休みになるといつも通り二人に連行されていつものベンチに向かう。今日は俺だけじゃなくて二人も少しいつもより暗い感じがする。にっくきコンクエスタムを壊滅させたんだからもっと喜んでるかと思ったけど………。


改太「二人とも今日はあまり元気がないね?」


聖香「え?!そっ、そうかな?」


静流「そんなことないですよ?ねぇ?」


 二人は慌てて繕う。やっぱりちょっとおかしいな。


改太「そう?それならいいけど………。」


聖香「九条君こそ何かあったの?」


静流「そうですよ。九条君こそ何かいつもと違いますよ?」


 藪蛇だったか………。


改太「そう?そんなことないよ。いつも通りさ。」


聖香「………そっか。」


静流「………それではこの話題はここまでにしましょう。」


 二人が少し寂しそうな笑顔でそう言ったのが印象的だった………。



  =======



 授業が終わるといつも通り二人と挨拶をしてすぐに帰った。そしてこれまで五年以上も毎日通い続けた場所に向かって歩く。いつものマンションに着くとコンソールをいじって地下深くへと潜って行った。


麗「おかえりなさいませ。改太様。」


改太「…ただいま麗さん。」


 そこにはいつも通り麗さんが待っていた。少しだけうれしくなって頬が緩む。


麗「あぁ!改太様!私にそのように微笑んでいただけるなんて…あぁ!」


 麗さんがちょっとおかしくなった………。頬に両手を当ててクネクネと体を動かしている。まぁ昔から時々壊れることがあったから気にしないでおこう。俺は麗さんの前を通り過ぎて自分のオフィスへと向かった。


 オフィスで着替えてデスフラッシュ大佐に変身すると少し緊張しながら広間へと入っていった。そこには………。


スクイッドエスタム「デスフラッシュ大佐。これなのですが…。」


ウツボカズラン「あっ!こっちを先にお願いするっすよ。」


スパイダーエスタム「ウツボカズラン君…。順番を守ってちょっとは落ち着いたらどうだ?」


 ワイワイガヤガヤと………。そこには皆いた………。今日から活動休止だって言ったのに…。ボランティアで黒幕を探ってくれるやつだけ来てくれって言ったのに………。誰一人欠けることなくいつも通りに皆が居た。


デスフラッシュ「今日から活動休止だって言っただろ?ほんとに皆……、物好きな奴らばっかりだな。」


スクイッドエスタム・ウツボカズラン「「………。」」


 皆が交互にお互いの顔を見合わせる。


スクイッドエスタム「そういうデスフラッシュ大佐だって来てるじゃないですか。」


バットエスタム「デスフラッシュ大佐が泣きそうだぞ?感動してんじゃね?」


スコーピオンエスタム「はははっ!俺達はこれが生き甲斐ですからね。」


デスフラッシュ「だっ、誰が泣きそうだ!とにかく来たんだったらこれまで通りコキ使うからな!覚悟しろよ。」


怪人達「「「「「はっ!」」」」」


 ほんとに…、バカな奴らばっかりだ………。ははっ!でも俺はこんなコンクエスタムが大好きだ。



  =======



 皆来ていつも通りなのはいいがこれからどうするかはまるで決まってない。今後について皆で会議することになった。


スクイッドエスタム「とにかく敵の尻尾を掴まないことにはこちらも動きようがありません。」


バットエスタム「オクトパスエスタムとコケティッシュシスターズがバスで戦った後に現れた黒幕らしき奴をもう一度おびき寄せるしかありませんね。」


スコーピオンエスタム「どうやって?下手にあの二人を負けさせると黒幕に消される可能性があると皆の意見も一致しただろう?」


ウツボカズラン「変身魔法少女物ってことは魔法少女の正体知ってる仲間として潜り込んだらどうっすかね?」


 『!!?』


 全員の視線がウツボカズランに集まる。


デスフラッシュ「そ・れ・だ・っ!」


スクイッドエスタム「一理ある。万が一彼女達が黒幕に始末されそうになっても近くにいれば守れる可能性も上がる。」


 そうだよ。魔法少女物のお約束で正体を知ってるサポートキャラとかいるじゃん!それで二人に近づいて見張ればいい。


デスフラッシュ「それで誰があの二人に近づくことにす…る……?」


 何か俺に視線が集中してるぞ?


スクイッドエスタム「学院が一緒で明日一緒に帰る約束までしているデスフラッシュ大佐以外に誰がいるんですか?」


 スクイッドエスタムが代表して皆の言葉を代弁する………。


デスフラッシュ「ですよね~………。っていうか何で明日一緒に帰るって知ってんの?!」


ウツボカズラン「え?コンクエスタムは全員知ってるっすよ?約束した日から毎日ああやって確認してくるなんて相当っすよね。」


 そんなことまで知ってんの?!それってつまり俺の日常皆に見られてんじゃね?!


キラーレディ「私は反対です。あの二人を亡き者にすれば黒幕も新しい魔法少女を作り出すためにまた現れるのではないでしょうか?」


デスフラッシュ「こえぇよ!」


 何言ってんのこの人?最近本気でちょっと怖いんですけど?!


スクイッドエスタム「………これからの予定を考えましょう。」


 スクイッドエスタムもキラーレディに突っ込めずに目を逸らしてスルーしながら話を進めようとしている………。それはさておき俺がどうやってあの二人に接近するか色々と話し合ったのだった。



  =======



 今日は昨日とは打って変わって少しワクワクしながら学院に向かう。あの二人に近づくのは正直あまり乗り気じゃなかったけど役割としては何かスパイっぽくて、っていうか完璧俺ってばスパイ役でちょっとワクワクしてくる。


聖香「おはよう九条君。」


静流「おはようございます九条君。」


改太「おっはよ~!」


聖香「今日は何か元気がいいね?」


静流「良いことでもあったの?」


改太「ん~…。良いこととはちょっと違うけどね。」


聖香「え?そうなの?何かしら?」


改太「まぁ秘密ってことで。」


静流「気になりますね。言えないようなことなのですか?」


改太「ん~…。秘密。」


 そんなやりとりをしながら三人で教室へと向かったのだった。



  =======



 昼ご飯もいつものように一緒に食べて午後の授業も終わる。


聖香「九条君…、今日が何の日か覚えてるよね?」


静流「もちろん覚えていますよね?」


改太「わかってるよ。さぁ一緒に帰ろう。」


聖香・静流「「うん。」」


 さぁて、二人と一緒に帰るところまでは予定通りだ。今日一日でいきなり魔法少女の秘密を握れるとは思ってないけど少しずつでも二人に近づいていかないとな。


 そう思って二人に付いて歩いていると二人はどんどん校門から離れる方へと歩いていく。…これはおかしいぞ。寄り道して帰るにしてもまずは校門へと向かって外へ出るのが当然だ。それなのに校舎から出て校門とは逆にどんどん人のいない方へと二人は進んでいく。


改太「………二人ともどこへ向かってるの?」


聖香「え?どこって?帰るだけだよ?」


静流「変な九条君ですね。」


 聖香と静流は何の違和感もなくどんどんと人のいない方へと向かっていく。こっちには裏門みたいなものもない。その時俺のセンサーがアラートを発する。


聖香「―ッ!」


静流「聖香っ!」


 俺達は擬似空間に捕らわれた。所謂いつもの結界ってやつだ。そして俺達の目の前には魔法科学で映し出された触れるホログラム、立体映像が飛び出した。


 そこには生徒達を襲っている着ぐるみのような怪人が暴れていた。俺のセンサーにはこれは立体映像だと表示されているが普通の人間がこれをみたら本物と間違えるだろう。それほど精巧に出来ている。何より実際に触れることができるんだ。これを偽物と思うことは現代人には難しいだろう。


 ただ普通に考えたら校舎からも校門からも離れたこんな場所に急に大勢の生徒達が現れて怪人に襲われているなんておかしいと気付くだろう。でもこの二人はさっきから様子がおかしかった。何かに操られていたり認識を狂わせるようなことをされていたら何の疑問も持たずに受け入れてしまうだろう。


聖香「静流行くわよ!」


静流「待って聖香!………九条君はどうするの?」


聖香「―ッ!そんなこと言ってる場合じゃないわ!緊急事態よ。」


静流「仕方ない…かな……。」


 聖香と静流は俺を見つめると陰のある笑顔を向けた。


聖香「コケティッシュパワー!」


静流「フォームチェンジ!」


 二人が光に包まれる。今着ている服は光に溶けるように消えていき代わりにそこに纏わりついた光が別の衣装となって二人を包む。


 白を基調とした衣装にだぼだぼのグローブとソックスのようなものを身に着けたブルーの戦士と長いグローブとストッキングを身に付けたピンクの戦士が現れる。


ブルー「待ちなさい!」


???「あぁ?俺は人間共を殺すのに忙しいんだ。黙って殺されるのを待ってろ!」


 ブルーが着ぐるみに声を掛けると着ぐるみもあたかも本当にそこにいるかのようにブルーに答える。これを投影している奴がどこからかこの場を見ているはずだ。でなければあんなにきちんと会話にならない。決められたプログラムを上映してるんじゃなくて今現在リアルタイムで操作している。これを辿っていけば黒幕に近づけるかもしれない。観測班が気付いていることを期待するしかないな。


ブルー「正義の光がある限り!」


ピンク「悪の栄えたためしなし!」


ブルー「コケティッシュブルー!」


ピンク「コケティッシュピンク!」


二人「「コケティッシュシスターズが成敗します!」」


ブルー「覚悟しなさい!ネオコンクエスタムの怪人達!」


ピンク「貴方達の悪事もこれまでです!」


 ………何?ネオコンクエスタム?言葉が滅茶苦茶だぞ?たぶんそれで言うとノウムコンクエスタムとかになるんじゃないか?


 ってそんなことはどうでもいい。ネオコンクエスタムって何だ?俺達はそんなもの立ち上げてない。この怪人だって見たこともない。今目の前に居る怪人はカマキリのような姿をしている。こんな怪人はコンクエスタムにはいない。


???「来たかコケティッシュシスターズ。今日こそ血祭りに上げてくれるわ!」


 さらに変な奴が出てきた。ピッケルハウベのような兜を被った変態だ。


ブルー「出たわねニゲル中将!」


ニゲル中将「やれ!カマキリアン!コケティッシュシスターズを始末しろ!」


カマキリアン「人間共は殺すっ!死ねぇ!」


ブルー「いくわよピンク!」


ピンク「ええ!」


 展開が早すぎてついていけない。まずネオコンクエスタムなんて俺達は知らない。そしてピッケルハウベのような兜を被ったニゲル中将なんて奴も俺達の仲間にはいない。カマキリのような怪人のカマキリアンなんてやつもいない。


 これは立体映像だからそもそも実在しないと言えばそうかもしれないが誰が何のためにこんなものをでっち上げているのか意味がわからない。俺が困惑している間にも戦闘が始まっていた。


ブルー「素手ではあの鎌は危険だわ。あれを使うわよピンク!」


ピンク「いいわよブルー!」


ブルー「コケティッシュスティック!」


ピンク「コケティッシュステッキ!」


 出たよ…。いつか見た例の鈍器だよ………。ピンクのは突きも出来るから鈍器に分類するかどうか悩ましいところだけどとりあえず二人は鈍器でカマキリの鎌と戦っている。それとあの鈍器たちに名前とかあったんだ………。


ピンク「あぁ!」


 ピンクのバールのようなもの………じゃなくてコケティッシュステッキが弾き飛ばされた。そこにカマキリアンの鎌が迫る。


カマキリアン「もらったぁ!」


ブルー「させないわよ。たぁー!」


 横からブルーがカマキリアンを思い切り叩く。


カマキリアン「ぐぇっ!」


 モロに殴られてカマキリアンが怯んだ隙にピンクはカマキリアンの間合いから逃れる。


ピンク「助かったわブルー。」


ブルー「いいのよ。今のうちに決めるわよ!マジカルッ!」


ピンク「コケティッシュッ!」


ブルー・ピンク「「ダイナマイトッ!」」


カマキリアン「ぎゃぁ~~~!!!」


 おおっ!カマキリアンが二人の必殺技を食らって溶けて光の粒子になって消えていく。結構それっぽく表現されてるな。いつも二人は俺達と戦ってる時もこうなってるつもりで戦ってたんだろうな。


ニゲル中将「おのれコケティッシュシスターズめ!覚えておれ!」


 ニゲル中将は逃げ出した。こうして立体映像との戦いは終わったのだった。そして二人は俺の所へと戻ってきた。


ブルー「バレちゃったね。」


ピンク「九条君………。私達がコケティッシュシスターズだってこと…、皆には内緒にしてもらえないかな?」


 何か知らないが初日でいきなり二人の秘密ゲットだぜ!になってしまった。もちろん俺の答えは決まってる。


改太「………ああ。まだ色々と聞きたいことはあるけど一つだけ先に言っておくよ。二人の秘密は誰にもしゃべらないよ。」


聖香「本当?それじゃ頼むわよ。」


静流「九条君ならそう言ってくれると思っていました。」


 二人が変身を解いて元に戻ると結界も消えた。この結界を張ったのは俺でもこの二人でもない。立体映像を映していた奴が張ったものだ。立体映像で二人を戦わせたり結界を張ったり黒幕が何をしたいのかさっぱりわからない。


 とにかく二人と一緒に静流の家に言って詳しい話を聞くことになったのだった。



  =======



 知ってはいたが静流の家は中々の豪邸だ。最初は静流が男を連れて来たということで屋敷中が大騒ぎになっていたが聖香もいるし同じ学院だしということで勉強会だと言い張って何とか納得させた。


聖香「はぁ~。まさか九条君を連れてきただけでこんな騒ぎになるなんてね。」


静流「私はずっと女子校で殿方を連れてきたことはありませんから…。」


改太「それで…、あれはどういうことだったのか聞いても?」


聖香「そうね………。それじゃ話すけど驚かないで聞いてね。」


 それから聖香と静流はこれまでのことを話し始めた。まず聖香が魔法の国から来たクポと名乗る妖精に魔法を授けられて魔法少女になった。その次の日に静流のところに現れて静流も魔法少女になった。


 静流が魔法少女になっている頃聖香は町で始めて敵と遭遇した。それがコンクエスタムの怪人だったらしい。初めての変身で苦戦していた聖香のところへついさっき魔法少女になったばかりの静流が駆けつけて二人で怪人を倒した。


 その時二人はお互いが聖香と静流だと知り翌日から魔法少女として怪人達と戦うために色々してきたそうだ。


 まず大筋は俺達が考えていたことと一致している。そこに驚きはない。だけど静流が魔法少女になった日に町で出会った怪人というのは俺達の仲間じゃない。俺の予想では今日の怪人と同じように立体映像で映し出された偽物だったのだろうと思う。


 ただそれならばなぜその黒幕は俺達コンクエスタムのことを知っていたのか。これはわからない。


 そして戦った相手の数や特徴を聞いてもう一つわかった。俺達が二人と戦った回数より二人が怪人と戦った回数の方が多い。つまり本物の俺達コンクエスタム以外にも恐らく時々今回と同じ立体映像と戦っていたのだろう。


 つい先日デスフラッシュ大佐と戦ってコンクエスタムは壊滅したはずだった。それなのにまた新たにネオコンクエスタムという奴らが現れて今はその組織と戦っているということだった。


静流「急にこんなことを言われても信じられませんよね…。」


改太「いや。今日も戦ってるところを目の前で見たし信じるよ。」


聖香「とにかくこのことは口外しないでね。クポは恐ろしい相手よ。そもそも九条君が私達の秘密を知ったということが知れたら何をされるかわからないわ。」


改太「うん。誰にも言わないよ。」


 やはり黒幕はこの二人を色々脅したりしていたみたいだな。…でもその黒幕に秘密にするっていうのは無理だと思うぞ。立体映像を映して戦わせてるのもそのクポってやつだろうと思う。それにオクトパスエスタムに負けて逃げ出した時にすぐ二人の前に現れたことからもそいつは二人のことを監視しているはずだ。


 クポってやつにはこの会話ですら聞かれてると思ったほうがいい。そもそも俺が居たのに立体映像を映して戦わせたのは俺に正体を気付かれてもいいと思ってたからだと推測できる。


 敵が俺のことをデスフラッシュ大佐とわかった上で今日の立体映像の件に巻き込んだのか、それとも別の理由があって一生徒と思って俺を巻き込んだのか。どういうつもりかは知らないけど暫くの間は騙されてる振りをして相手の策に乗るのがいいだろう。ここからは狐と狸の化かし合いだ。


聖香「それじゃこれは三人だけの秘密ってことでお願いね。」


静流「ふふっ。なんだか照れてしまいますね。」


改太「うん。それじゃこれからは俺に出来る範囲で二人のことを手伝うよ。」


 こうして俺はコケティッシュシスターズの中へと潜り込むことに成功したのだった。


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