第34話 誘拐が最善手


「報復というが具体的には何をするつもりだ?」

「同じように組を襲いに行くのもいいですが、より良い妙案があります」

「なんだ?」

「誘拐ですよ。誘拐」


 市ヶ谷がそう口にすると、皆の表情が強張る。特に佐竹が外道を見るような視線を市ヶ谷にぶつけた。


「ちょいと待て。それだけは駄目だ」

「なぜ?」

「なぜって誘拐は人の道から反する。男なら正面から行くの筋だ」

「私、女ですけどね」


 市ヶ谷は馬鹿にしたような笑みを浮かべる。佐竹は今にも殴り掛かりそうな表情だった。


「冷静になって話を聞こう。誘拐すると言っても簡単ではないぞ。松林組の組長には護衛が付いているだろうしな」

「それは私どもも承知しています」

「なら――」

「だから娘を狙いましょう。我々は松林組の組長の娘がどこの学校に通い、今どこにいるかも把握しています。プロである我らなら、簡単に行える。朝飯前という奴です」

「そんなカタギに手を出すような真似、認められるかっ!」


 佐竹は我慢できなくなったのか、今まで以上の大声をあげる。


「俺も反対だ」


 雄平も佐竹の意見に同意する。


「意外です。お客様は私の作戦に賛同してくれると思っていました」

「感情論ではなく、理屈で考えた結果だ。誘拐は市ヶ谷の言う通り、すんなり成功するだろう。だが松林組の脅威は組長ではない。勇者だ。もし松林組を壊滅させることができても、勇者に逃げられ、海外マフィアと手を組まれると今以上に厄介な状況が生まれるかもしれない」

「それなら奇襲を仕掛け、組長から勇者に関する情報を聞き出し、勇者を逃さないようにすべきだということですね」

「そうだ。誘拐のように敵に時間を与えるような行動はすべきではない」

「素晴らしい。お客様の仰る通りです」


 市ヶ谷はニコニコと楽しそうに笑う。


「お客様は傭兵に向いていると思いますよ。どうです、わが社に来ませんか?」

「遠慮しておこう。俺は可憐を守るためなら命賭けで戦うが、金のために命を賭けたいとは思わない」

「残念です」


 市ヶ谷は携帯を取り出し、また誰かと話を始める。今度は先ほど部下の男たちと通話していた時よりも丁寧な口調だった。


「私の情報提供者から松林組組長が事務所にいることを確認できました。ではお客様の望む通り――」

「松林組を正面から壊滅させてやろう」

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