第31話 三つ巴の戦い


 花原のデコピンで気絶した佐竹は、別室に運ばれた。誰もが何を発言すればいいか分からず静寂が支配する中、佐竹がその静寂を打ち破った。


「さて仕切りなおして、まずは現状を共有しやしょうか」

「お願いします」

「ゴホン。まず花原組ですが、組員の約半数が死亡。現在は下部組織含め、一千名程です」


 思った以上の大組織だと雄平は心の中でにんまりと笑う。金の匂いがプンプンしていた。


「皆さん、ゾンビに殺されてしまったのですね」

「大部分がそうですが、全員というわけではありません」

「それはどういうことでしょうか?」

「松林組の奴らですよ。あいつらこの混乱に乗じて、花原組に戦争をしかけてきやがったんです」


 佐竹が松林組について補足する。松林組は花原組のシマに乗り込んできた新興勢力で、どんな悪行にでも平気で手を染める奴らなのだという。


「俺たち花原組は博徒です。丁半博打と、シマから得られるみかじめ料だけで今まで頑張ってきました。ですが松林組の奴らは薬はばら撒くし、売春だって平気で強要する。特にゾンビが現れてからの奴らは外道そのものです」

「ゾンビが現れてからどう変わったんですか?」

「語るのも反吐が出そうですが、奴ら物資が不足しているのを利用して、カタギに暴利で物資を貸しているんです。当然物資がまともに手に入らないから、借りているわけですから、ほとんどの奴は返せなくなる」

「するとどうなるんですか?」

「地獄ですよ。男には過酷な環境で強制労働を強いて、女には売春を強要する。使えないと判断したら、ゾンビの群れの中に放り込んで処分する。そうやって奴らは勢力を拡大しているんです」

「それは酷いですね」

「すまん、少しいいか。その話に疑問がある」


 雄平は佐竹に訊ねる。


「疑問ですかい?」

「松林組もゾンビの脅威にさらされるはずだろ。なぜ物資をそんなにも保有している」


 ゾンビが跋扈する街から集めてきたとでもいうのか。


「奴らはゾンビに襲われないんです」

「どういうことだ?」

「奴らの中に勇者を名乗る男がいるそうなんですが、そいつがゾンビを操る力を持っているそうなんです」

「勇者か……」


 木崎のようなチート級の能力を持っているのだとすると、恐ろしい敵になるだろう。


「他にも海外マフィアの連中も厄介です」

「そんな奴らまでいるのか……」

「ええ。海外マフィアの連中は俺たちと松林組との共倒れを狙っているんです。だから現状だと積極的には敵対してきませんが、注意が必要です。なんせ奴らの手口は日本の常識から外れていますから」

「常識から外れるというと?」

「爆弾ですよ、爆弾。奴らカタギを巻き込もうが平気で爆弾を使ってくるんです。現に隣町の組と抗争していた時は、駅のトイレやバスの中に平気で爆弾を仕掛けていたそうです。まさに悪魔のような連中です」

「なるほど」


 花原組と松林組、そして海外マフィアの三つ巴。勝ち抜いた者が、この街の支配者となるわけだ。面白くなってきたと、雄平は内心ワクワクしていた。


「兄貴、ちょっといいですかい?」


 ブス専門だと話していた哲也という青年が、部屋に入ってくる。へらへらと笑いながら、佐竹へと近づく。


「どうした?」

「お客さんです」

「待たせておけ。今大事な話中だ」

「いいんですかい? ヤバそうな奴なんですが?」

「……誰だ、客ってのは?」

「これ名刺です」


 佐竹は名刺を受け取り、サングラス越しにマジマジと見つめる。


「佐竹さん、お客さんは誰だったんですか?」

「PMCです、お嬢さん」

「PMC?」

「民間軍事会社。つまりは金で戦争をする傭兵どもが、金の匂いを嗅ぎつけ、やってきたんです」

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