第29話 神の果実
「ゆうちゃん!」
雄平が現実世界へ戻ると、可憐に抱きつかれる。彼女の香りが彼の鼻腔をついた。
「ゆうちゃん、戻ってきてくれたんだね」
「ああ、当然だ」
雄平は二人の様子を見つめる花原に頭を下げる。彼女が護衛をしていてくれたからこそ、雄平は異世界へ戻ることができたのだ。
「もうお昼か」
「ゆうちゃん、お腹空かない。佐竹さんがご飯を用意してくれるって」
「いや、俺はいい。食べるなら強くなるためにも異世界の食事を食べたい」
「そうだよね」
雄平は花原にも異世界の食事を食べると強くなれることを説明する。そして彼女も交えて、三人で昼食を取らないかと提案する。
「私も良いんですか?」
「護衛をしてもらったしな」
「ではお言葉に甘えさせてもらいます」
雄平はスマホのアイテム一覧から食べると能力値が上昇しそうな食事を選択する。合計で五品の料理がテーブルの上に並ぶ。
『Cランク:ミノタウロスのヒレカツ和膳』
高級ミノタウロス肉を使ったヒレカツ。上品な味は老若男女を問わずに人気。
『Cランク:ドラゴンのソーセージ』
ドラゴンの肉をドラゴンの腸に詰めたソーセージ。肉汁溢れるソーセージは一度食べたらやめられない。
『Dランク:温泉卵のシーザーサラダ』
温泉卵とチーズが絡み合うサラダは絶品! ベーコンも入っているぞ。何の肉かはお楽しみに。
『Eランク:コーンのオーブン焼き』
バターとコーンが絡み合い、あなたに至福の時間を与えます。
『Cランク:悪魔貴族のコーヒー』
悪魔貴族が淹れたとても味わい深いコーヒー。この酸味と苦みが堪りません。
「お箸を持ってきますね」
花原が箸を取りに行き、雄平たちに配る。並んだ料理に唾を飲んだ。
「旨そうだな」
「ええ」
「今のところ異世界料理に外れはないからな。今回もあたりだろう」
雄平たちはまず『ミノタウロスのヒレカツ』に箸を伸ばす。一見するとただのヒレカツにしか見えない。口に入れてみる。
「ヒレカツなのかこれ?」
「ヒレなのにジューシーだね」
「豚トロに近い気がしますね」
雄平たちはヒレカツを咀嚼し続ける。するとある時点で味に変化が生じる。脂っぽさが抜け、赤身の旨味が口の中に広がったのだ。
「あ、ヒレカツになった」
「私もだよ」
「異世界料理、奥が深いですね」
『ミノタウロスのヒレカツ和膳』を平らげた雄平たちは、その旨さに感動しつつ、次の料理に手を伸ばす。
「『ドラゴンのソーセージ』か。ドラゴンの腸に肉を詰めるという発想が凄く冒険者らしいな」
冒険者は食えるものなら何でも食う。ドラゴンの腸であっても例外ではない。
「さて食ってみようか」
雄平は『ドラゴンのソーセージ』を口に含む。パリッという弾ける音と、肉汁が口の中に溢れ始める。
「これも旨いな」
「だね」
「なんだか精がついている気がしますね」
『ドラゴンのソーセージ』は体力強化の効果があるのかもしれない。Cランクの料理だし、上昇値を確認するのが楽しみである。
「次はサラダか」
『温泉卵のシーザーサラダ』という名前だけなら普通の料理だが、異世界飯が普通ということはありえない。
「この卵、何の卵なんだろうな?」
「随分と大きいよね」
「鶏の卵の三倍くらいありますね」
雄平は卵の黄身をサラダとベーコンに絡め、口に含んでみる。卵の黄身は鶏の卵よりも遥かに濃厚で、ジューシーなベーコンとあっさりとしたサラダに良く合っていた。
「次はEランクだからさほど期待できないかもな」
雄平は『コーンのオーブン焼き』を箸で器用に掴んで、口に放る。旨いが、普通の料理だった。
「何の効果もないのか……」
「いえ、この料理、筋力を向上させるんだと思います。いつもより箸が軽く感じられますから」
雄平には箸の重さの差は分からないが、花原には分かるほどの効果が表れているらしい。
「まぁ、効果があったなら何よりだ。最後だな」
「コーヒーですか。これをどう分けますか?」
「回し飲みするしかないな。嫌かもしれないが我慢してくれ」
「いえ、雄平さんが相手なら私はちっとも嫌ではありません」
「私も、私も!」
二人が構わないならと、雄平はCランクのアイテム、『悪魔貴族のコーヒー』に手のをばす。
少し啜ると、苦みと酸味が口全体に広がる。そして身体を覆っていた魔力が増加したような気がした。
「飲んでみろ」
雄平は可憐に『悪魔貴族のコーヒー』を手渡す。可憐は苦みが苦手だが我慢して飲んでいた。一方花原はブラックで飲むのが好きなのか、喜んで美味しそうに飲んでいた。
「苦いモノを飲むと、甘いモノが食べたくなるな」
「だね」
「何か取ってきましょうか?」
「いや、折角だから異世界のデザートを食べよう」
雄平は上限なしガチャに九百万円課金して回してみる。
『Sランク:神の果実』
神が好んで食べる果実。この世のモノとは思えない味はあらゆる人を虜にする。
「やはりか……」
課金ガチャは課金額が大きいほどレアなアイテムが出る。さらに欲しいと願っているアイテムが出やすくなる効果もあるのだと、雄平は確信した。
「さて食べてみるか」
雄平は『神の果実』をスマホから取り出す。一見するとリンゴのようである。
「まずは一口」
雄平は果実を手刀で三つに割り、その一つの内を口にする。
「うっ!」
雄平はあまりの旨さにうめき声を漏らす。果物の瑞々しさと、熟したマンゴーのような濃厚な甘さが口一杯に広がった。
「私も食べてみますね」
「私も」
花原と可憐も『神の果実』を口にする。感想は二人の幸せそうな顔を見れば明らかだった。
「さて完食だな」
雄平たちが食事を食べ終わると、食器類が霧となって消える。
「さてどれくらい強くなったかだな」
雄平は自分を含めた三人のステータスを確認する。
――――――――――
名前:奥井雄平
評価:A
称号:魔王を殺した勇者
特異能力:
・課金ガチャ
・観察眼
魔法:
・炎魔法
・透視魔法
・五感強化
スキル:
・狙撃(ランクB)
・剣術(ランクC)
・超人化(ランクA)
・装備強奪(ランクE)
能力値:
【体力】:330
【魔力】:360
【速度】:440
【攻撃】:330
【防御】:350
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――――――――――
名前:奥井可憐
評価:D
称号:ゾンビ化の呪いを受けた少女
特異能力:
・なし
魔法:
・なし
スキル:
・なし
能力値:
【体力】:95
【魔力】:260
【速度】:85
【攻撃】:55
【防御】:45
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――――――――――
名前:花原麻衣
評価:D
称号:ヤクザの一人娘
特異能力:
・なし
魔法:
・なし
スキル:
・剣術(ランクC)
能力値:
【体力】:120
【魔力】:20
【速度】:110
【攻撃】:130
【防御】:110
――――――――――
「今回の料理は随分と上昇したな」
雄平は自身の能力値の上昇率に驚いていた。いくらSランクのアイテムが含まれていたとはいえ、Aランクのアイテムを食べた時の上昇値を考えると、料理に対する適正のようなモノがあるのかもしれない。
「これなら隊長ゾンビ相手でも戦える」
雄平はショッピングモールで見た隊長ゾンビを思い出していた。今の自分のステータスと比較して考えてみると、楽に勝てると確信できた。
「お嬢さん、少しいいですかい?」
扉の向こうから佐竹が呼びかける。
「どうぞ」
「では失礼して」
佐竹が扉を開ける。彼の表情は真剣そのものだった。
「お嬢さんに話があります」
「話ですか?」
「へい。今後の花原組についてです」
雄平は佐竹の表情から一波乱あることを察した。そして同時にこの状況を上手く利用できないかと考え始めた。
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