第28話 元奴隷のエルフ
「お久しぶりです、ご主人様」
「アリスも変わらないな」
アリスはダークグレーのスーツ姿だった。金色の髪は絹のように滑らかで、肌の色は雪のように白い。
アリスはエルフ族である。その証拠にエルフの特徴であるピンと伸びた長い耳を持っていた。
「最後に会ったのは一年前になりますか」
「もうそんなになるのか」
雄平は丁度一年前アリスを奴隷から解放した。それはアリスがエルフ族のリーダーに選ばれたからだった。
選ばれた理由はただ単純にアリスが弓の名手であったからだ。エルフ族は狩猟一族で、リーダーも弓の腕で決まるのだった。
「弓の腕は落ちていないか」
「はい。おかげさまでスキルランクもSになりました」
「それは凄い」
弓術がスキルランクSのエルフは歴代でも五人といないと聞いている。かつての仲間の成長を雄平は嬉しく思った。
「今の私があるのもすべてご主人様のおかげです」
「そんなことはないさ」
「いいえ。もしご主人様と会わなければ、今頃私は最貧奴隷として地獄のような生活を送っていたでしょう」
雄平がアリスと出会った時、彼女は死ぬ直前まで追い詰められていた。まともな食事を与えられず、冒険者の荷物持ちとして働かされていたのだ。雄平はそんな彼女を不憫に思い、奴隷の権利を買い取ったのだ。
「そういえばアリスはなぜ武器屋にいるんだ? 冒険者はもうやってないんだろ」
「はい。弓はエルフのたしなみとして練習していますが、モンスターと戦うことはありませんね」
「ならどうして?」
「……実はこの店のオーナーは私なのです」
アリスは気恥ずかしそうに頬を掻く。話を詳しく聞いてみると、アリスはサイゼ王国一の武器商店を経営する富豪になったのだという。
「凄いじゃないか!」
「私自身、奴隷だった私がこんなにもお金持ちになれるなんて思ってもみませんでした」
アリスは目尻に溜まった涙を拭う。雄平も昔の仲間が成功していることに喜びを覚えた。
「ご主人様はまた冒険ですか?」
「それが色々あってだな」
雄平は現実世界へ帰還したことや、ゾンビが跋扈していることなどを説明する。そして武器屋には、強敵と戦うための力を得るために来たのだと話した。
「そういうことなら、私にも協力させてください」
「迷惑なんじゃないか?」
「いいえ、ご主人様から受けた恩に比べれば、たいしたことありません。少し待っていてください」
アリスは店の奥へと移動し、一本の刀と宝石を持ってくる。
「こちらをご主人様にプレゼントさせてください」
「いいのか?」
「ええ。ご主人様のお役に立てることこそ、私の喜びですから」
雄平はまず刀を受け取る。黒い刀身に、日本刀のような反り。雄平はこの刀が高ランクアイテムだと直観で悟る。
「こちらは『黒霧』と呼ばれる刀で、刀身を自由自在に変形させることが可能な力を持っています」
「それは凄いな」
雄平は『観察眼』で『黒霧』を調べてみる。
『Aランク:黒霧』
刀身を自由自在に変形させることが可能な刀。自由に伸び縮みが可能で、最大一三キロ先まで伸びる。また刀を霧の形状にすることもでき、広範囲の敵を攻撃することが可能。使い勝手の良さから、七代大業物の一つに選ばれている。
「そしてこちらが『超人化』のスキルになります」
「聞いたことがあるな。かなりのレアスキルだったはずだ」
「はい。魔力をすべて消費し、魔法を数時間使用できなくなる代わりに、身体能力を爆発的に向上させるスキルです」
雄平は宝玉を受け取り、『超人化』のスキルを習得する。そして自身のステータスを確認する。
――――――――――
名前:奥井雄平
評価:B
称号:魔王を殺した勇者
特異能力:
・課金ガチャ
・観察眼
魔法:
・炎魔法
・透視魔法
・五感強化
スキル:
・狙撃(ランクB)
・剣術(ランクC)
・超人化(ランクA)
・装備強奪(ランクE)
能力値:
【体力】:130
【魔力】:130
【速度】:150
【攻撃】:130
【防御】:130
――――――――――
『ランクA:超人化』
魔力をすべて消費し、魔法を数時間使用できなくなる代わりに、身体能力を爆発的に向上させる。スキルランクが高いほど上昇値が増加し、魔法を使えない期間が短くなる。
「ありがとう。おかげで強くなれた」
「ご主人様、元の世界に戻っても頑張ってください。私はいつだってあなたのことを応援していますから」
「ああ、また会おう」
雄平は『黒霧』をスマホに吸い込ませてから、『一日異世界転移券』を終了させる。浮遊感に包まれ、雄平は元の世界に戻っていくのを実感した。
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