第26話 異世界の秘密
「相変わらずだな、ここは」
雄平は周囲を見渡す。そびえ立つビル群に、道路を走る車。東京の街を彷彿とさせる町並みは一見すると異世界のようには見えない。
だがよく見ると、この世界が異世界だと気づく。空を浮遊魔法で移動する者や、ケルベロスをペットにしている者が目に入るからだ。
「サイゼ王国の城下町に飛んでこられたのはラッキーだった」
雄平は見慣れた街を歩きながら、目的地を目指す。その道中、公園でフリーマーケットが行われているのが目に入る。
「駆け出し冒険者の頃はここで装備を整えたんだよな」
緑溢れる公園で、ブルーシートを敷き、皆が持ち寄ったモノを売っている。ネットがある世界で随分と前時代的な売り方だが、雄平はこういう非効率さが嫌いではない。
「そのクッキーは手作りか?」
雄平は子供連れの女性がクッキーを売り出しているのが目に入る。雄平は一つ実験をしてみたいことがあった。
「ええ。私の手作りよ」
「いくらだ?」
「ひとつ一〇〇円ね」
雄平は財布から百円硬化を取り出し、女性に手渡す。そしてそれと引き換えにクッキーを受け取った。
「現実世界の金が使えるのも変わらずか」
異世界での通貨は現実世界の日本円と同じだった。これは約千年前に唐沢という国王が敷いた通貨制度によるものだ。雄平はその唐沢という男も日本からの転生者だったのではと予想している。
「さて早速実験だ」
雄平はクッキーを口に含んで咀嚼する。甘い味が口の中一杯に広がる。雄平は次に自分のステータスを確認した。
――――――――――
名前:奥井雄平
評価:B
称号:魔王を殺した勇者
特異能力:
・課金ガチャ
・観察眼
魔法:
・炎魔法
・透視魔法
・五感強化
スキル:
・狙撃(ランクB)
・剣術(ランクC)
能力値:
【体力】:130
【魔力】:130
【速度】:150
【攻撃】:130
【防御】:130
――――――――――
「能力値に変化はなしか」
異世界で食事をしたからか、それとも課金ガチャから出たモノでないからかは分からないが、食事でステータスを上げるには何らかの法則があるらしい。
「あれは……」
雄平はある老人が売っている商品が気になった。ガラス棚として売られている商品は、雄平は見たことのあるモノだった。
「俺が金に変えたコンビニの巨大冷蔵庫じゃねえか」
雄平はアイテムを金に変えられる仕組みを理解した。雄平がスマホに吸い込ませて、金へと変換したアイテムはこの世界で売られていたのだ。そしてその売値に応じた金額が、雄平の手にする金となる。
「電化製品が本来の価格より安くなるわけだ」
異世界の製品は電気ではなく、魔力で動かしている。なのに電化製品を売り出したとしても、巨大冷蔵庫がガラス棚として売られていたように、本来の用途とは違う価値でしか評価されないという訳だ。
「有益な情報を得られた」
雄平は口元に笑みを浮かべる。彼の予想では、ゾンビが跋扈するようになり、通貨の価値が暴落して紙切れ同然になると思っていた。
だが価格が異世界での売買基準で決まるのなら、雄平だけ通貨はいつまでも暴落することはない。ハイパーインフレを起こし、ハンバーガーを札束で買うようなことになっても、雄平にとってはその札束の価値が変わらないのだから、今まで以上に金を集めることが容易になる。
「もうそろそろだな」
雄平は公園を抜け、大通りへと出る。彼が目指していた場所、それはサイゼ王国一の規模を誇る薬屋であった。
「まずは『世界樹のしずく』を手に入れる」
雄平は商店の中へと入っていった。
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