第19話 安全な場所
「ショッピングモールから出るとして、この付近で安全な場所を知っているか?」
雄平は皆に問いかける。その問いかけにまず可憐が答えた。
「ここから近い場所だと、公民館があるよ」
「公民館か。立てこもるなら悪くないかもな」
だがショッピングモールのように食料を得られる訳ではない。
「なら私の家はどうでしょうか?」
花原が提案する。雄平は彼女の家が裕福だということは知っていた。だが安全な場所という条件には該当しないように思えた。
「一個人の家が安全だとは到底思えないんだが……」
「私の家は特殊なんです。家には屈強な下働きの男の人たちが何人もいますし、皆さん武装もしています。食料も非常時のための備蓄があります」
雄平は少し驚いていた。花原の言葉を信じるなら、武装した召使いがいるほどに裕福な家庭だという。
この日本において、そこまでの金持ちは数えるほどだろう。
「花原の家はどこにあるんだ?」
「三丁目の病院近くです」
「少し遠いな」
「なら警察署で武器を調達するであります」
安藤がそう提案する。
「警察署はまだ無事なのか?」
雄平は電話がつながらなかったことや、安藤の言葉から既にゾンビに侵略されていると考えていた。
「職員は全員死んでいるであります。だからこそゾンビの数は少ないはずであります」
ゾンビは人を襲う。人がいない警察署にいつまでも居続ける理由はない。
「ちなみにどんな武器が手に入る?」
「だいたいのモノは手に入るであります。機関銃や手榴弾、果ては対戦車ミサイルまで何でもござれであります」
「ずいぶんと豪華な武装だな」
「最近この町でヤクザの抗争があったでありますから。その対策のための武器、ほかには押収品なんかが色々得られたでありますからな~」
手榴弾や対戦車ミサイルなんかはヤクザの押収品だろう。この町で戦争でもする気だったのだろうか。
「それだけの武器が手にはいるなら確かに戦力になる。ここから警察署までどれくらいだ?」
「三分もあれば到着するであります」
「夜なのが不安だが、三分なら許容できるリスクだ。よし、まずは警察署を目指すぞ」
雄平たちはショッピングモールの外へと出る。街灯と月明かりのおかげで、完全な暗闇ではない。ゾンビが跋扈するこの町で、明かりがあるのはありがたい。
「いくぞ」
雄平たちは警戒しながら道を進んでいく。どこからゾンビが現れても対応できるように、彼らは決して走らない。
「ゆうちゃん、あれ!」
雄平の眼前に三匹のゾンビが現れる。雄平たちの姿を確認すると、食い殺すべく近づいてくる。
「ほらっ、男ども! ゾンビがきたわよ! 私のために死ぬ気で働きなさい」
「こいつブスのくせに生意気でありますな」
高木が雄平の陰に隠れながら、彼の背中を押す。雄平としては下手に前に出られると邪魔になるので好都合だった。
「魔法を使うか」
距離が離れている今、炎魔法を使えば、リスクなしで消し炭にできる。雄平は手のひらに魔力を集め、炎として放つ。三匹のゾンビは黒こげになり、動かなくなった。
「雄平さん、今の炎は何なのですか?」
花原が驚愕の表情で訊ねる。驚いているのは高木も安藤も一緒だった。
「説明していなかったが、俺は異世界で勇者をしていたのだ」
雄平は異世界で魔王を倒したことや、魔法が使えることを説明する。最初こそ半信半疑だったが、手から炎を出せることや、スマホからアイテムを取り出せることから、三人は渋々納得した。
「ゆうちゃん、警察署が見えてきたよ」
雄平の視線の先には確かに警察署があった。だがゾンビに襲われたせいで、建物が滅茶苦茶になっていた。
窓ガラスが割れ、入り口の扉が外されている。署内の入り口前には大勢の警察官の死体が転がっていた。
「へへへっ、間抜けな奴らであります」
安藤が入り口に転がっていた警察官の死体を蹴り上げる。恨みが籠もった蹴りだった。
「安藤、お前はこいつらのことが嫌いだったのか?」
「当然であります。本官はこういう正義面しながら、異端な人間を排除しようとする奴らが一番嫌いなのであります」
安藤の性格を考えると職場で浮いていたのかもしれない。
「さてお目当ての品はと……やはり持っているでありますな!」
安藤は死体を漁り、拳銃と銃弾を回収する。血で真っ赤に染まっているが、使う分には問題なさそうである。
「安藤、俺たちの目的はそんなチャチな武器ではないだろう」
「へへへっ、そうでありますな」
雄平たちは勇気ある警察官たちの死体を尻目に、警察署の中の探索を開始するのだった。
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