第17話 初めてのSランク
「なんだ、あのゾンビの数は!」
雄平は昇ってくるゾンビの数を見て、驚嘆の声を漏らす。十人、二十人では効かない。最低でも百人のゾンビがノロノロと雄平たちの元へと迫ってきていた。
「ショッピングモールのゾンビのほとんどを外に追い出したのではなかったのかっ!」
「だ、誰かがショッピングモールの入り口を開けたんです。そのせいでゾンビが中に入ってきたんです」
「誰がそんなことを」
雄平は安藤の顔を見る。彼の顔からは冷や汗が流れていた。
「お前が原因か!」
「ほ、本官はただ拳銃の試し撃ちをしていただけであります。そしたら扉が壊れたのであります。過失はあんな粗末な扉を入り口に設置した、この店のオーナーにあるであります」
雄平は安藤を罵倒したい衝動に駆られたが、何とか抑え込む。状況を改善するには感情を吐き出すよりもするべきことがあった。
「花原、この階から降りる方法は階段以外にないのか?」
「エレベーターがあります」
「エレベーターか……」
エレベーターで一回まで下りた後、ショッピングモールから脱出する。雄平はそんな案を考え付いたが、もし扉を開けた先がゾンビの群れだとしたら、確実に助からない。
「一旦スタッフルームの中に避難するぞ」
雄平たちはスタッフルームへと逃げ込もうとするが、それを逃さないとばかりに、群れの中から一匹のゾンビが飛び出してきた。
「本官に任せるであります」
安藤はブスの少女の内、一人の腕を掴む。
「え、な、なにっ」
「ほらゾンビども、餌でありますよ~」
安藤は背負い投げで少女をゾンビがいる方向に投げ飛ばす。綺麗に宙を舞った少女はゾンビに命中する。
「う、嘘でしょ! 嘘だと言ってよ!」
「本官を守るために美女が死ぬ。まるでロマンス映画のようでありますな~」
ゾンビは少女の身体を貪り始める。肉を咀嚼する音と少女の悲鳴を尻目に、雄平たちはスタッフルームの中に逃げ込んだ。
「あ、あなたは最低です!」
花原が安藤を非難する。二人も友人を殺されたことに、とうとう我慢できなくなったらしい。
「本官が最低。どこがでありますか?」
「あ、あんなことをしておいて!」
「本官は自分の命が大切でありますから、そのためなら赤の他人が何人死のうがどうでも良いであります。それに人を最低呼ばわりするでありますが、もしあそこで犠牲を出さなければ、全員死んでいたかもしれないであります。汚れ仕事を進んでやったのだから、むしろ褒められて然るべきだと本官は考えるであります」
とんでもない暴論だったが、花原は自分が友人の命を犠牲にして助かったという事実に何も言い返せなかった。
「ゆうちゃん、これからどうするの?」
「可憐は何も心配するな。俺に考えがある」
雄平はスマホを取り出し、課金ガチャを起動する。彼の現在の所持金は三千万円だ。移動用アイテムを引き当てるには十分な金額だった。
雄平は早速上限なしガチャに百万円を一〇回分課金する。残高が二千万へと変わり、アイテムが一〇個排出される。
『Aランク:モテ刀・虎鉄』
切りつけた相手の好感度を上げることができる。さらに相手の好感度が高ければ高いほど切れ味を増す。好きな相手を苛めたい、そんなあなたにオススメの一品。
『Aランク:透視魔法習得』
透視魔法を習得し、あらゆるものを透視することが可能になる。消費魔力が多いほど、より透けて見えるようになる。
『Aランク:居場所交換』
特定の相手と居場所を入れ替えるアイテム。相手の顔と名前さえ知っていれば発動可能。ただし異世界にいる相手は指定できない。
『Sランク:全知全能者への質問』
なんでも一つだけ知りたいことを知ることができる。古今東西・過去現在未来を問わず、どんなことでも必ず知ることができる。
『Bランク:狙撃スキル習得』
ランクBの狙撃スキルを習得できる。弓や銃など遠距離武器を使った攻撃の命中率が向上する。スキルランクが高ければ高いほど補正が大きい。
『Aランク:五感強化魔法習得』
五感を強化する魔法を習得する。消費魔力量が多ければ多いほど強化される。
『Cランク:剣術スキル習得』
ランクCの剣術スキルを習得できる。スキルランクに応じて剣技が向上する。スキルランクが高ければ高いほど補正が大きい。
『Cランク:ミノタウロスのヒレカツ和膳』
高級ミノタウロス肉を使ったヒレカツ。上品な味は老若男女を問わずに人気。
『Aランク:破壊神の怒り』
破壊神が惑星を破壊する。ただしどの惑星が破壊されるかはランダム。宝くじ感覚で自殺したいあなたにオススメ。
『Aランク:ぼったくり商人』
一度課金ガチャから引いたAランク以下のアイテムを、買い取り価格の百倍の値段で購入できる。どうしても欲しいモノがあるあなたに。
「初めてのSランクだ」
一度に百万円を課金しただけの成果があった。Sランクのアイテムを引き当てたのだ。そして他に注目したいアイテムは『ぼったくり商人』だ。これがあれば『世界樹のしずく』を手に入れることができる。
「だが可憐と一緒に移動できるアイテムは手に入らずか」
『居場所交換』のアイテムを使えば、雄平だけなら移動できるかもしれないが、可憐は移動できない。
「もっと金をつぎ込むか……」
雄平は現在金に余裕がある。だが『ぼったくり商人』を引いたことにより、課金ガチャを回すことに尻込みしていた。
もし『ぼったくり商人』のように、今後金さえあれば、狙ったアイテムを手に入れることができるようになった場合、手元に金がなくてはならない。
出るかどうか分からない移動系アイテムを引き当てるのにいくら使うのか。雄平は課金ガチャというシステムの恐ろしさを実感していた。
「ゆうちゃん、外がやけに静かじゃない?」
「そうだな」
外はゾンビが蠢いていた。本来ならゾンビが扉を壊そうとする音が聞こえてくるはずだ。
「ゾンビたちいなくなったのかな?」
「外の様子を確認してみるか……」
雄平は引き当てた『透視魔法習得』のアイテムを選択する。彼のステータスに『透視魔法』が加わった。
――――――――――
名前:奥井雄平
評価:B
称号:魔王を殺した勇者
特異能力:
・課金ガチャ
・観察眼
魔法:
・炎魔法
・透視魔法
スキル:
・なし
能力値:
【体力】:130
【魔力】:130
【速度】:150
【攻撃】:130
【防御】:130
――――――――――
「さて早速使ってみるか」
雄平は『透視魔法』を使用し、扉の外の様子を伺う。そこには信じられない光景が広がってた。
「どうなっているんだ、これは……」
雄平はスタッフルームの扉を開く。扉の向こう側には食い散らされたゾンビたちの残骸が転がっていたのだった。
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