第16話 警察官の暴走

「なにふざけたこと言ってんのよ!」


 警察官の男に食って掛かったのは高木だった。人でも殺しそうな勢いで、怒鳴り声をあげる。


「全裸になれですって! あんたみたいな男に見せてやるほど、私の裸は安くないのよ」

「ブスが粋がっているでありますな」

「ブ、ブスですって!」

「ケケケッ、五月蠅いであります」


 警察官の男は銃口を高木の足元へと向けて発砲する。放たれた銃弾は高木に命中することはなかったが、脅しとしては十分だった。


「本官はすでに二人の男を殺しているでありますよ。あまり調子に乗らない方が良いでありますね」


 警察官の男は喉を鳴らして笑う。狂っている。誰もがそう思った。


「まぁ、貴様はブスでありますからな。裸になるのは免除してやるであります。残りの――前髪パッツンと黒髪ロングの女、貴様らも免除してやるであります。ゾンビよりブスのストリップショーなんて本官は見たくないでありますからな」


 警察官の男の一言に雄平は怒るが、可憐が雄平の袖を引き、何とか怒りを宥める。彼女にとっては自分がブスと馬鹿にされるより、雄平が危険な目に遭う方が耐えられなかった。


「さぁ、残りの三人は早速全裸になるであります」

「い、いやよ」


 三人の内の一人、黒髪を短く切りそろえた少女が拒絶する。顔は美人でもブスでもない。警察官の男はめんどくさそうにため息を吐いた。


「やれやれであります」


 警察官の男は銃口を、拒絶した少女に向けると躊躇いなく引き金を引いた。放たれた銃弾は少女の頭に風穴を開ける。即死だった。


「きゃああああっ」


 花原が同級生の死に悲鳴をあげる。


「ど、どうしてっ! どうして殺したんですか!」

「うざかったからでありま~す☆」


 警察官の男は花原の悲痛の叫びを面白そうに聞いている。男は良心の呵責など欠片も感じていなかった。


「貴様も死ぬでありますか?」


 花原は口を塞ぎ、必死に首を横に振る。


「なら黙って見ているであります。さぁ、二人は裸になるであります」


 雄平から見ると決して美人とはいえない、つまりこの世界では美人として扱われる二人がブラウスのボタンに手をかけ、順番に外していく。


 上半身が下着姿になった二人を見て、警察官の男は鼻息を荒くする。


「す、素晴らしいスタイルでありますっ! 中年親父のようにまん丸と膨らんだお腹に、まな板のような胸。理想的なスタイルでありますよ」


 雄平の眼には最悪なスタイルのように感じられたが、美醜が逆転した世界では、メタボリックな体形こそが理想なのである。


「さ、さぁ、次は下着を脱ぐであります」


 警察官の男は二人の少女に集中していた。その隙を雄平は見逃さなかった。


 足に力を込め、一瞬で男に接近する。そして同時に男から拳銃を奪い取った。


「な、なにをするでありますか! 公務執行妨害で逮捕するでありますよ!」

「婦女暴行のどこが公務だ!」


 雄平は警察官の男の頬に、平手を叩き付ける。気絶しないよう威力を手加減した一撃は、男の頬を真っ赤に変えた。


「い、痛いであります」

「これで分かったと思うが、俺はお前より強い。いつでも自由に殺すことができる」


 雄平が残酷な視線を向けると、警察官の男は冷や汗を流して、首を縦に振る。


「お前を殺さなかったのは聞きたいことがあるからだ」

「き、聞きたいことでありますか?」

「ああ。まずお前の名前を教えろ」

「安藤であります」

「そうか、安藤。では聞くぞ。ゾンビについて知っていることをすべて話せ」


 雄平は警察官である安藤なら、ゾンビについて何か知っているのではないかと考えていた。


「本官は何も知らないであります。気づくとゾンビが街を跋扈していたでありますから」

「他の警察官はどうした?」

「ほとんどの同僚たちが死んだであります。馬鹿な奴らであります。尽くしても何の得もない市民のために戦うなんて、アホの極みであります」

「なるほど。お前は仲間の警官たちを見捨てて、一人ショッピングモールに逃げてきた訳だ」

「本官を侮辱するでありますか?」

「いいや、お前の選択は正しい。同じ状況なら俺でもそうするからな」


 現に雄平はクラスメイトたちを置き去りにし、可憐と二人で行動している。


「最後にもう一つ確認したい。この付近に安全な場所はないか?」

「そんなものがあるならここには逃げていないであります」

「それもそうか」

「ただ距離は遠いでありますが、隣町に自衛隊基地があるであります。あそこならきっと安全であります」


 雄平は隣町までの道順を考える。直線距離で数十キロだ。徒歩で行くなら半日は最低でも必要になってくる。


「ゾンビが蠢く中を徒歩で移動か。不可能だな」

「装甲車でもあれば話は別でありますが……」


 ゾンビが蠢く中を安全に移動する術を雄平は持っていた。


 課金ガチャ。この能力を使い、移動用アイテムを手に入れれば、自衛隊基地に行くことも可能である。


「自衛隊基地か、覚えておこう」

「ねぇ、ゆうちゃん。何かうめき声のようなモノ聞こえない?」


 可憐が不安そうな声で訊ねる。


「そんな声……微かだが聞こえるな」


 雄平が耳を澄ますと確かに声が聞こえてきた。声は下の階から聞こえてくる。そして次第に大きくなっていく。


 階段に視線を向ける。視線の先には階段を昇ってくる、ゾンビの群れの姿があった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る