第13話 ゾンビの丸焼き


 雄平たちが階段を昇った先は倉庫のようになっていた。段ボールが至る所に積まれている。雄平が中身を確認すると、中には食料が詰まっていた。他の段ボールには衣服類や洗剤などの生活雑貨が入っていた。


「可憐、少し下がれ」


 雄平は咄嗟に段ボールの影に隠れる。彼の視線の先にはスタッフルームと記された部屋とその部屋の前に集まる数十体のゾンビの姿があった。


「ここに集まっていたから、下の階では見かけなかったんだな」

「ゆうちゃん、どうするの? 逃げる?」

「いや、ゾンビに気づかれていない今の状況なら、俺の炎魔法で一掃できる。倒しておこう」


 雄平は魔力の弾丸をゾンビの群れへと放つ。放たれた弾丸が着弾すると、魔力は炎へと変わり、ゾンビたちを焼いていく。黒焦げになったゾンビたち。その頭上のスプリンクラーが作動し、水が降り注ぐ。炎は完全に消え去った。


「なんだか匂うね」

「人間を焼いた訳だからな」


 教室でゾンビを焼いたときとは違い、倉庫内の窓は閉ざされ、特に換気もされていない。匂うのも仕方がなかった。


「さてこれからどうするか……」


 雄平はスタッフルームの扉を見つめる。ゾンビが集まっていたことを考えると、中に人がいる可能性は高い。


「人か……」


 優秀な味方は雄平の欲しかったモノの一つである。味方がいれば、戦略の幅が広がるし、何より雄平が異世界に行っている間、可憐を守ってもらうことができる。


 だが人はいつだって好意的とは限らない。雄平たちに悪意を以て近づいてくるかもしれない。


「悪意があったとしても俺なら問題ないか」


 ゾンビが跋扈する世界で最も力を発揮するのは暴力だ。最悪力で抑えつけることができるのだから、相手の思惑などは特に考えなくても良いのかもしれない。


「決めたよ、可憐。中にいる人と会おう」

「そうだね。それが良いよ」


 可憐は雄平の決定に同意する。


「念のため可憐は後ろに下がっていてくれ。もしかすると悪い男が中にいるかもしれないからな」

「うん、わかったよ」


 雄平の邪魔にならないよう、少し離れた物陰に可憐が移動する。安全な場所に移動したのを確認した後、スタッフルームの扉をノックする。


「誰! 人なの!」


 スタッフルームの中から女性の声が聞こえる。若い女性の声だった。


「人間だ、ゾンビではない」


 スタッフルームの中から複数の女性の話し声が聞こえる。男である雄平を警戒しているのだと察しがついた。


「外にゾンビは?」

「いない、俺が倒した」

「嘘! ゾンビが何人いたと思っているの!」

「嘘ではない。扉を開いてみれば分かる」


 スタッフルームの向こうから反応がなくなる。このままでは埒が明かない。


「扉を壊すか……」

「待って、ゆうちゃん。私が交渉してみるよ」


 可憐が雄平の元へと近づき、中にいる女性に声を掛ける。


「私は奥井可憐といいます。中にいる人、よければ開けてくれませんか?」

「奥井? もしかしてブスの奥井可憐?」


 雄平はその言葉を聞き、扉を壊したい衝動に駆られるが何とか我慢する。


「そうです。あなたのご存知の奥井可憐です」


 可憐がそう応えると、ゆっくりとスタッフルームの扉が開く。


「あ、あんたは!」


 中から現れたのは茶髪の少女だった。整った顔と猫のような生意気そうな瞳、加えて中が見えそうなほど短いスカートに、胸元がはだけたシャツ。可憐が清楚系だとすれば、眼前の少女はその逆方向に特化した美少女だった。


「高木……」


 雄平は高木と呼ばれた少女は知り合いだった。彼女は雄平を苛めていた主犯の女だった。

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