第12話 課金ガチャを特化
雄平たちはショッピングモールの三階に来ていた。三階は富裕層向けの装飾品などが売られているコーナーで、普段なら学生である雄平たちには縁のない場所である。
だが今の雄平にとって、この場所は金の生る木と同義であった。
「まずは宝石ショップから行くか」
雄平たちは店の中へと入る。ガラスケースに飾られた輝くダイヤモンド。一つ数万円から数百万まで値段はピンキリだ。普段なら常駐しているはずの警備員はおろか、従業員すらいない。
「さっそく始めるか」
雄平はスポーツショップから拝借した金属バットをガラスケースに叩き付ける。防犯ブザーが店内に響き渡るが、お構いなしに、ガラスケースを潰して回る。
「包装用のプチプチを潰すのと同じで、ガラスケースに金属バットを叩き付けるのも中々に楽しいな」
「私は悪いことをしているみたいで、なんか嫌だな~」
可憐は雄平の様子を伺いつつ、周囲を警戒していた。音に反応してゾンビが集まってくるのではないかと危惧しているのだ。
「ゾンビが来ても問題ないさ。このショッピングモールなら逃げる場所はいくらでもある」
雄平は可憐にそう声を掛けながら、宝石を金へと変えていく。
「ピンクダイヤモンド。一つ三億か。凄いな」
雄平は目玉商品として飾られていた桃色の宝石に手を伸ばす。金に変えるが、その金額は額面の千分の一だった。
「この買取金額、いったいどうやって決まっているんだろうな」
不思議に思いながらも、雄平は店の中の宝石をすべて金に変えた。所持金額には二千万円と記されていた。
「これだけあれば『世界樹のしずく』もきっと引けるだろ」
雄平はスマホの課金ガチャを起動する。すると今まで表示されていなかった項目が現れていることに気づいた。
「課金ガチャを特化させますか? なんだこれ?」
雄平は説明書きに目を通す。一千万円を費やすことで、課金ガチャに属性を持たせることができるとある。
属性を付与すると、指定した課金ガチャからは特定のアイテムしか出なくなるのだそうだ。
ちなみに属性は現在分かっているだけで三種類あり、まだまだこれ以外にも種類があると書かれている。
「三種類、どれも魅力的だな」
三種類の属性は『食料・生活雑貨・薬』『武器・スキル・魔法』『便利アイテム』に分かれている。
「『世界樹のしずく』を狙うなら『食料・生活雑貨・薬』の属性を付与するのがよさそうだな。『異世界転移』が欲しいなら『便利アイテム』か」
雄平は悩んだ末、一万円ガチャに『食料・生活雑貨・薬』の属性を付与することに決めた。上限なしガチャではなく、一万円ガチャにしたのは、Bランクの『世界樹のしずく』なら一万円ガチャでも排出されることと、ゾンビ化を治すことが可能なアイテムがもしかすると上限なしガチャなら排出されるかもしれないと考えたからだ。
「まずは一万円ガチャを一〇回引いてみるか」
雄平はガチャを回す。一〇個のアイテムがスマホに表示される。
『Dランク:温泉卵のシーザーサラダ』
温泉卵とチーズが絡み合うサラダは絶品! ベーコンも入っているぞ。何の肉かはお楽しみに。
『Eランク:コーンのオーブン焼き』
バターとコーンが絡み合い、あなたに至福の時間を与えます。
『Cランク:魔法のダンベル』
魔法のダンベルは重さを自由に変えられる。筋肉の価値こそ男の価値という脳みそまで筋肉のあなたにオススメ。
『Bランク:世界樹のしずく』
あらゆる病の特効薬。万病を治し、傷を一瞬で治癒することができる。また呪いは治すことができないが、進行を遅らせることができる。
『Bランク:間接キスの虜』
綺麗なブルーハワイ色のジュース。この飲み物を男女で飲むと、互いが依存しあい、相手なしでは生きられなくなる。
『Cランク:ドラゴンのソーセージ』
ドラゴンの肉をドラゴンの腸に詰めたソーセージ。肉汁溢れるソーセージは一度食べたらやめられない。
『Bランク:ホームランバット』
打つと必ずホームランになるバット。人に向けては使わないでください。
『Cランク:チョコムースケーキ』
苦くて甘い大人の味。子供が食べると一定時間大人になります。
『Fランク:薬草とベーコンの炒め物』
野菜不足のあなたへ。薬草はあなたの傷を治してくれます。
『Bランク:仮想浴場』
仮想空間に浴場を作り出します。一日の疲れを温泉で洗い流してください。温泉の効能で体力と魔力が回復します。
「目当てのアイテムが引けた!」
雄平は『世界樹のしずく』を引けたことを喜ぶ。これで明日の分の薬は確保できた。
「さてこの調子で金を稼ぐか」
宝石店を後にした雄平は、目に付いた高級店を次々と襲っていく。ショーケースを粉々に砕き、金目のものを手当たり次第に金に変えていく。
「ゆうちゃんは、罪悪感とか感じないの?」
可憐は雄平が嬉々として店を襲うことに驚いていた。以前の雄平ならこんな思い切った行動はできなかったはずだ。
「今後の俺たちに必要な行動だからな。それに慣れているのもある」
「異世界でもこんなことを?」
「ああ。ダンジョンの中にも店があってな。店主の死神を殺して、良く商品を奪い取ったものさ」
雄平は異世界でダンジョン攻略中に襲ってきた死神のことを思い出していた。商品を奪われた死神は必死になって彼のことを追いかけてくるのだ。駆け出し冒険者の頃は何度も殺されそうになったが、強くなりすぎた雄平にとっては、スライムと変わらない。いつも瞬殺していた。
「私もゲームで同じことをしたことがあるけれど、ゆうちゃんから実体験として聞かされると、複雑な気持ちになっちゃうね」
「俺もやりたくてしているわけじゃない。必要だからやっているんだ」
「分かっているよ、私のためなんだよね?」
「俺たちのためだ」
雄平は大方の店から金を集め終わると、スマホの所持金額を確認する。そこには三千万円と表示されていた。
「これで当分は安心――」
雄平は廊下の突き当りにある階段がふと気になった。階段の前にはゾンビを近寄らせないためか、バリケードが敷かれている。
「ゆうちゃん、これって……」
「ああ。人がいるな」
雄平は四階がスタッフルームになっていることを思い出す。二人はバリケードを退けて、階段を昇っていくのだった。
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