第一章:ショッピングモール編
第11話 ゾンビの身体で実験
ショッピングモールに飛ばされた雄平たちは、周囲の様子をうかがう。
「商店の中へ移動できるのか……」
雄平たちが移動した先はショッピングモールのメインエントランスだった。傍には服屋が並んでいる。開かれた空間に人の姿はなく、乗せるモノのいないエスカレータだけがむなしく動いていた。
「いや、一人いるか……」
視線の先にはゆっくりと雄平たちに近づく影があった。
ゾンビだ。顎鬚を蓄えた美形の中年が、雄平たちを食い殺そうと近づいてくる。
「これはチャンスだ」
ゾンビは基本的に集団で行動する。単独行動をしている理由が生前の性格によるものなのか、それとも広い建物だから別れて獲物を探しているのかは分からないが、雄平はこれがゾンビに関する情報を集める良い機会だと考えていた。
「確か日本刀があったな」
雄平はスマホのアイテム一覧から日本刀を選択する。
『Eランク:日本刀』
日本刀。切れ味抜群。料理で使うと危ないから注意な!
「随分と危ないな」
取り出した日本刀は鞘に納まっていなかった。反りがある片刃の刀剣は銀色に怪しく光り、人殺しの道具であることを主張していた。
「まずは足だな」
雄平は近づいてくるゾンビの両足を切りつける。彼のバカげた筋力で振るわれた刀は、ゾンビの両足と胴体を切断した。そして切り取った足を思い切り踏みつけた。
「ゆうちゃん、何しているの?」
可憐が心配そうな声で雄平に訊ねる。
「ゾンビについて知るための実験だよ」
「実験?」
「ああ。今のは胴体から切り離された肉体が命を保持し続けるかの実験だ。異世界だとキングスライムなんかは半分に切り裂いても、二匹のスライムとして生き続けるからな」
「結果はどうだったの?」
「どうやらゾンビはキングスライムとは違うようだ」
雄平は両足を失い、うめき声をあげるゾンビに近づく。ゾンビは雄平の顔を見ると、匍匐前進で必死に近づいてくる。
雄平がゾンビの進む速度で後ろに下がると、ゾンビは雄平を追うのを諦め、可憐へと標的を変える。
「ゾンビは呪いの対象者を優先的に狙う。だがこいつは俺を先に狙い、その後可憐へと標的を変えた」
雄平はゾンビが何らかの法則に則り行動していることを悟った。そしてもう一つ、このゾンビが標的を可憐に変えるとき、彼女の顔を見ていたことに気づいていた。つまりゾンビは目で美醜を判断し襲っているのだ。
「情報は十分揃った」
雄平はゾンビの心臓に日本刀を突き立てる。魚のようにジタバタと震えたかと思うと、すぐに動かなくなった。
「この刀はもういらないな」
ゾンビの血と油で汚れた日本刀を雄平は金に変える。彼のスマホには二〇〇〇円で売却されましたと表示されていた。
「ゆうちゃん、これからどうするの?」
可憐がゾンビに怯えながら雄平に訊ねる。
「今はもう夜の八時か……小腹も空いたし、フードコートにでも行こう」
雄平たちはフードコートへと移動する。道中ゾンビに出会うことはなかった。
「ゆうちゃん、何か食べる」
可憐は無人となったハンバーガーショップの冷蔵庫からドリンクを取り出す。
「万引きしているようで良心が痛むね」
「状況が状況なんだ。気にするな」
雄平はドリンクを飲みながら、スマホから食事を取り出すべく一覧を眺める。食べ物の選択肢は二つだ。
『Gランク:から揚げ』
から揚げ。普通に美味い。
『Aランク:バハムートの一夜干し』
伝説の大魚バハムートの尻尾を一夜干しにした絶品料理。魚嫌いの子供でも喜んで食べるほどに旨味が詰まっている。カルシウムも豊富で、食べると身長が伸びるという逸話がある。
「可憐はから揚げとバハムートの一夜干しどっちが食べたい?」
「その選択肢でバハムートを選べるほど、私はチャレンジャーじゃないよ」
「だよな」
「二人で半分に分けよう」
「そうだな」
雄平はまず、から揚げをスマホから取り出す。大皿に乗った揚げたてのから揚げが出現する。
「これ鶏さんのお肉なのかな?」
「食ってみないと分からんだろうな」
アイテムはから揚げとしか書かれていなかった。もしかしたらゲテモノ肉の可能性もある。
雄平はフードコートに置かれている割り箸を手にし、大皿のから揚げを一つ掴んで口に放る。肉汁が口の中一杯に広がった。
「これ鶏肉か……いや、なんだこれ?」
最初は鶏肉だが噛めば噛むほど、淡白な蛇肉のような味に変わっていく。雄平はこの味に覚えがあった。
「思い出した。これバジリスクの肉だ」
「バジリスクってどんなモンスターなの?」
「身体が鶏で、尻尾が蛇なんだ。大量生産されているから、異世界にくれば必ず口にすることになる。普通に美味いから食べてみろ」
「ゆうちゃんがそういうなら」
可憐は恐る恐るから揚げに手を伸ばし、勢いよく口に放り込む。もしゃもしゃと咀嚼すると、嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「うん。普通に美味しい。鶏肉より好きかも」
「蛇肉のあっさりとした味が飽きを感じさせないよな」
「ヘルシーだし、女子に流行りそうな味だよね」
思い思いの感想を述べながら雄平たちは箸を進めていく。気づくと大皿のから揚げは綺麗さっぱり消えていた。
「さて一応確認しておくか」
雄平は観察眼を使い、自分と可憐のステータスを確認する。
――――――――――
名前:奥井雄平
評価:B
称号:魔王を殺した勇者
特異能力:
・課金ガチャ
・観察眼
魔法:
・炎魔法
スキル:
・なし
能力値:
【体力】:111
【魔力】:110
【速度】:110
【攻撃】:110
【防御】:110
――――――――――
――――――――――
名前:奥井可憐
評価:F
称号:ゾンビ化の呪いを受けた少女
特異能力:
・なし
魔法:
・なし
スキル:
・なし
能力値:
【体力】:7
【魔力】:14
【速度】:3
【攻撃】:3
【防御】:4
――――――――――
二人の体力がそれぞれ雄平が1、可憐が2、上昇していた。上昇値が違う理由は個人差によるものか、元々の能力値が高いほど上昇しにくいのか、それとも全く別の理由なのかは分からないが、それでも異世界の飯を食えば食うほど強くなることだけは確実だった。
「次はバハムートの一夜干しだな」
「本当に食べるの?」
「食べる」
雄平は可憐に異世界の食事を食べれば食べる程、能力値が上昇していることを説明する。ゾンビが跋扈するこの世界で、強くなることは安全への近道なのだ。食べないわけにはいかない。
「さて出すぞ」
雄平はスマホでバハムートの一夜干しを選択すると、皿に乗った白身魚が現れる。ホッケの開きのような見た目だった。湯気と匂いが食欲をそそる。
「旨そうだな」
「醤油とか垂らすと美味しいかも」
「大根おろしも欲しいな」
だが醤油も大根おろしもない。雄平は素材本来の味のままで挑戦すべく箸を伸ばす。
「こいつ重いぞっ」
雄平は箸の上に白身を乗せると、箸が白身の重さで折れてしまいそうなほどに曲がっていた。
「少しずつ攻めるべきだな」
雄平は白身を箸で掴んで持ち上げ、そのまま口の中に放り込む。舌の上に乗った瞬間、まるで天国が見えたような気がした。
旨味成分のジュースでも飲んでいるかのような濃厚な味が口いっぱいに広がる。白身を噛みしめると、その度に魚の旨味が飛び出してきた。
「黒鯛と伊勢海老を足したような味だな」
「想像ができない味だね」
「可憐もたべてみろ」
「ゆうちゃんがそういうなら……」
可憐はバハムートの白身を一摘みすると、口の中に放り込んだ。余程美味しいのか、膝をパンパンと叩く。
「これ人間の食べ物じゃないよ。神の食べ物だよ」
「なんせAランクの料理だからな。旨いのも仕方がない」
気づくと雄平たちはバハムートの一夜干しを食べ終わっていた。皿の上から料理が綺麗になくなると、皿は霧となって消えた。
「美味しかったね」
「こんなに美味い飯を食えて、ステータスまで上がるんだ。言うことなしだな」
雄平はスマホを操作し、二人のステータスを確認する。そこに映った数字に彼は息を呑む。
――――――――――
名前:奥井雄平
評価:B
称号:魔王を殺した勇者
特異能力:
・課金ガチャ
・観察眼
魔法:
・炎魔法
スキル:
・なし
能力値:
【体力】:130
【魔力】:130
【速度】:150
【攻撃】:130
【防御】:130
――――――――――
――――――――――
名前:奥井可憐
評価:F
称号:ゾンビ化の呪いを受けた少女
特異能力:
・なし
魔法:
・なし
スキル:
・なし
能力値:
【体力】:7
【魔力】:80
【速度】:3
【攻撃】:3
【防御】:4
――――――――――
雄平の能力値は速度が150になり、速度以外が130になっていた。一方可憐の能力値は魔力だけが急上昇しており、80になっている。これで魔法さえ覚えられれば、ゾンビ相手なら十分戦えるだろう。
「ゆうちゃん、この後どうするの?」
「そうだな、腹も膨れたことだし金儲けでもするとしようか」
雄平は悪戯小僧のような表情を浮かべながら、そう口にするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます