第10話 ゾンビが襲う人間の種類
コンビニの外は既にゾンビで溢れていた。目的もなく彷徨うゾンビや、バリケードで守られているコンビニに何とか侵入しようとするゾンビなど行動は様々だ。
だがある一点、ゾンビの共通点に雄平は気づいていた。
「ゆうちゃん、もしかしてゾンビになる人って……」
「この世界でブサイク扱いされている奴らだけだろうな」
つまり雄平の美的感覚でいえば、美形の男女のみがゾンビ化しているのだ。そしてブサイクはゾンビ化することなく、そのまま食い殺されている。
「俺は間違いなくゾンビにならないだろうな」
「だね。ゆうちゃんは世界で一番イケメンだもん」
自虐のつもりで口にした雄平のつぶやきに、可憐が同意する。雄平はまだこの世界の価値観に慣れていないため、喜んで良いのか悲しんで良いのか悩ましいところだった。
「まずはこの現状を打破しないとな」
ガチャを引くためにも金のある場所に行きたいが、外はゾンビで溢れている。雄平の強さがあれば遅れを取ることはまずないが、可憐も一緒だと確実に守り切れるとは言いきれない。
一度ゾンビ化の呪いを受けた可憐がもう一度噛まれればどうなるかは雄平にも分からない。呪いが侵攻するのか、それとも食われてしまうのか。どちらにしろ可憐の命を賭けて実験すべきことではなかった。
「ガチャを回すしかないな」
雄平はスマホを取り出し、上限なしガチャに10万円を五回課金し、引いてみる。目当てはもちろん呪いの侵攻を遅らせる『世界樹のしずく』だ。
上限なしガチャの一〇万円は最低課金額である。上限なしガチャの外れであるBランクが出る可能性も高いはずだ。
『Cランク:商店転移』
一〇キロ以内にある商店へと転移することができる。行ったことがない場所でも、場所さえ知っていれば移動が可能。他にもバーゲンセール中の服屋に行きたいなど抽象的な要望にも応える。ただし該当の商店がなければ、移動はできずアイテムが消失する。
『Aランク:バハムートの一夜干し』
伝説の大魚バハムートの尻尾を一夜干しにした絶品料理。魚嫌いの子供でも喜んで食べるほどに旨味が詰まっている。カルシウムも豊富で、食べると身長が伸びるという逸話がある。
『Dランク:スライムへの目覚め』
対象を指定して発動可能。対象者は一定時間の間、スライムに夢中になる。スライムがいる場所でないと使用できない。スライム召喚とコンボで使おう。
『Cランク:悪魔貴族のコーヒー』
悪魔貴族が淹れたとても味わい深いコーヒー。この酸味と苦みが堪りません。
『Bランク:初恋の幻想』
自分の顔が一定時間指定した相手の初恋の相手になるアイテム。初恋の相手が脳内で美化されていると、実物とは異なる可能性があります。注意しましょう。
課金ガチャの結果はAランク一枚とBランク一枚、そしてCランク二枚にDランク一枚だ。Aランクが出たからまだましな結果なのだろう。それに今回はCランクで目当てのアイテムを手に入れることができた。
商店転移。このアイテムを使えばゾンビと戦うことなく移動が可能だ。そしてこの移動先が重要になってくる。
雄平が今必要としているモノは三つある。
金、情報、人だ。金は最も優先度が高く、課金ガチャを回すために必要不可欠な要素だ。金さえあれば『世界樹のしずく』が手に入る可能性も高くなる。
次に情報だ。特に安全に関する情報が重要になってくる。もし安全が手に入れば、可憐を待機させ、ゾンビの脅威を気にせずに雄平一人で金を集めて回ることができる。
そして人だ。もっと正確に表現するなら可憐の身を守る護衛が欲しいのだ。護衛がいれば行動の幅が広がる。具体的には雄平が異世界へ転移することも可能になる。
現状、雄平が異世界へ転移した場合、可憐の身を守る者が誰もいない。だが安全を確保した状態で異世界へ転移できれば、色々なモノが手に入る。
真っ先に思いつくモノは『世界樹のしずく』だ。雄平は課金ガチャから引き当てたが、異世界なら商店で買うことができる。
ただ『世界樹のしずく』は金貨一〇〇枚、日本円なら100万円相当の高価なアイテムだし、雄平のスマホは同じアイテムは一つしか持てない。カバンに入れて持って帰れるとも思えないので、『世界樹のしずく』一つを手に入れるのに、Bランクのアイテムと百万円を消費する計算になる。
ただ異世界へ移動するメリットは他にもある。あっちの世界の普通のアイテムが現実世界なら高く売れる可能性が高い。特に物資が不足しているゾンビの跋扈するこの世界だ。金よりモノを優先する人も多いはずだ。そうなれば物資を右から左に流すだけで大金が手に入る。
「藤田がいればな……」
雄平は優秀なクラスメイトのことを考える。彼ならきっと役に立っただろう。
「今は過去よりも未来のことを考えるか」
「これからどうするか決まったの?」
「ああ。俺たちはショッピングモールに移動しようと思う」
金、情報、人、すべてを求めて雄平は『商店転移』のアイテムを発動させる。浮遊感と共に視界が歪んでいくのだった。
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