第8話 金を稼ぐ決意

 可憐を連れた雄平は、近くのコンビニに訪れていた。コンビニの中には誰もいない。街でゾンビが暴れていることを聞いて、どこかへ避難したのだろう。


「それにしてもマズイことになった」


 雄平は可憐のステータスを確認し、ため息を吐く。


――――――――――

名前:奥井可憐

評価:F

称号:ゾンビ化の呪いを受けた少女

特異能力:

・なし

魔法:

・なし

スキル:

・なし

能力値:

 【体力】:5

 【魔力】:14

 【速度】:3

 【攻撃】:3

 【防御】:4

――――――――――


 可憐は父親に噛まれてしまった。そのせいでゾンビ化の呪いを受けてしまったのだ。


「外傷だけなら良かったんだがな」


 外傷は回復魔法や薬草ですぐに治すことができる。しかし呪いは進行を遅らせることはできても完治させることができないのだ。


「ガチャで引いておいて本当に良かった」


 雄平はスマホのアイテム欄から世界樹のしずくを選択する。


『Bランク:世界樹のしずく』

 あらゆる病の特効薬。万病を治し、傷を一瞬で治癒することができる。また呪いは治すことができないが、進行を遅らせることができる。


「可憐、これを飲んでくれ」


 世界樹のしずくを取り出すと、透明な水が御猪口に入った状態で現れた。衰弱した可憐に、雄平は世界樹のしずくを飲ませる。見る見るうちに顔色が良くなり、いつも通りの彼女へと戻っていった。


「この薬、苦いね」

「これで口直しでもしろ」


 雄平はコンビニの商品として売られていたプリンを、可憐に手渡す。プリンは可憐の好物の一つだった。


「可憐が食べている間に、俺は俺のやるべきことをするか」


 雄平は目に付いた陳列棚の商品を、一つ一つ金に変えていく。金になりそうな巨大冷蔵庫やレジなんかもスマホに吸い込み換金していく。


 コンビニの店内にある目ぼしいモノを換金し終えた雄平は、いくらになったのか確認する。スマホには所持金額が五十万円と表示されていた。


「随分と安いな」


 商品はともかく大型冷蔵庫なんかの設備についてはもっと高く売れても良いはずだ。換金にも雄平の知らないルールが何かあるのかもしれない。


「ゆうちゃん、この薬はゾンビになるのを防ぐ薬なんだよね?」

「ああ」

「ならお父さんとお母さんもこの薬で治せないかな」

「無理だ。二人は既にゾンビになってしまっている。ああなっては誰にも救えん」


 両親が助からないという雄平の言葉は、可憐に現実を直視させるに十分な力を持っていた。彼女の瞳から涙が零れ、頬を伝って床を濡らしていく。


「私、独りぼっちになっちゃうのかな」

「俺がいるだろ」

「本当に? また消えたりしない?」

「ああ。俺はもう自殺なんて馬鹿なことはしない。ずっと可憐の傍にいるよ」


 雄平は可憐を安心させるために抱きしめる。頭を撫でるたびに、可憐の嗚咽は強くなっていく。


「ゆうちゃんは優しいね……どうしてそんなに優しいの?」


 雄平は自分が優しいと思ったことは一度もなかった。それどころか冷徹な人間だと思っている。むしろ自分のようなブサイクをいつも庇ってくれた可憐こそ優しいではないかと言いたかった。


「私、ブスだしスタイルも悪いし、何も良いところがないんだよ。こんな私と一緒にいても恥ずかしいでしょ」

「そんなことを思ったことは一度もない」

「私、なんだか怖い。ゆうちゃんが私の元から離れていくんじゃないかって考えるだけで不安になるの」

「俺と可憐は家族なんだ。家族はどんな時でも一緒にいて、どんな時でも裏切らない。だから心配は不要だよ」


 雄平は可憐を安心させるために、抱きしめる手に力を籠める。両親が死んだ今、雄平にとっても可憐は唯一の家族だった。どんなことがあっても可憐をゾンビにするわけにいかなかった。


 世界樹のしずくは呪いの進行を遅らせることができるが、一日に一度飲まないと完全に進行を止めることはできない。


 毎日Bランクのアイテムを用意する。しかもそのアイテムは確実に手に入るモノではなく、ガチャからランダムに現れるのだ。


 途方もない莫大な金が必要だ。まともな方法で稼ぐのは不可能だ。


 雄平は誓う。可憐を救うためなら、どれほどの悪辣な行為にも手を染めると。誓いを胸に刻み付けるために、雄平は彼女をさらに強く抱きしめるのだった。

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