第7話 ウタタネル

 昼にすったもんだあって、さらには家まで押しかけてきてあれやこれやとイベントを消化した、させていただいた武藤さんもご帰宅され、家にはまた俺一人。

 晩飯まで数時間ほどの微妙な時間。

 自炊の習慣があれば、既に下ごしらえや買い出し、メニューの思案やらでばたばたと、忙しいはずの時間帯。おそらく、一般家庭の主婦、お母様方は家事に精を出し、せっせと夕飯準備に追われているだろう。

 一時自炊を、自作の飯を志した俺ではあったが、やめた。諦めた。挫折した。向いてなかった。

 カレーを作り、まあまあ食えるんじゃねぇ? と三日ほどカレーを食うワンパターンの食卓風景に萎え、その後ハンバーグなどを作るも焼き加減が意外に難しく。それ以前に出来上がったハンバーグの元、焼く前の状態のパティは見た目も最悪。もちろん焼いてみても最悪。一度こんがりしたなと思って皿に盛りつけて一口食おうとしてその中身が赤々と、レアーなどという上等な文句では表せない生焼けで。それじゃあ、これでどうだっ! と強火でジュージュー二度焼きするも、まっ黒焦げ寸前の炭化直前。

 カレーがましだったからと試した、シチュー、ハッシュドビーフはまあ食べられる出来だったが。

 レパートリーは尻すぼみ。そのうちうどんやら、焼くだけのピザやらグラタンやら調理が簡単な半既製品へ流れて行って。

 コンビニ弁当のカロリー量と野菜の少なさに危機を覚えつつ、結局スーパーのお惣菜を買い込んでの質素な食卓に落ち着いた。米だけは自分で炊いてるけどね。それだって一人暮らしであれば毎日炊き上げるようなもんでもない。もちろん炊き立てが一番うまいわけではあるが、昨日のご飯が残っちゃっている。

 別に急ぐ理由もない。好きな時間に買い出しに行って一人で飯を食えばいい。

 今日は、愛読している週刊マンガの発売日でもないし、夕方のテレビ番組なんて高校男子の俺が見て楽しいようなもんでもない。

 趣味もない。一応ギターなんかを所持してはいるわけであるが、これも挫折。上手い奴なんかに聞くと、始めは弦を抑えていると指が痛いんだけどね練習を重ねるうちに指の皮が厚く固くなってねこれがもう痛くなくなるんだよそっからだよほんとにギターと向き合えるのは……なんて楽しそうに語るが、俺の場合、それ以前での脱落組。指が痛くなるほどの練習なんてしたこともない。三日坊主の1.5倍程度の体たらく。

 なんて、晩飯事情やらどうでもいいギター情報なんかを晒したわけだが、とどのつまり、何が言いたいかっていうと暇だってことだ。

 やりかけているゲームはあるが、なんとなくそれをする気にもならず。

 武藤さんとの一連のやりとりを目の当たりにするとなんか、ゲームの世界が急にしょぼく感じてしまった。なんてのも一因なのか? とか自問自答。

 なんだか長々とした誰も得しない俺の個人情報、生活、趣味なんかを吐露してしまったが、改めて一言でいうと暇だってことだ。

 することが無い。やる気も起きない。やらねばならぬこともない。

 ああ、学校の宿題があったっけ? まあそんなものの優先順位は俺の中では最底辺。寝る前までにやればいいし、面倒なら明日学校に行ってから写させて貰えばよいだけだ。

 こういう時に頼りになる真面目が取り柄、それでいてガリベンってタイプでもなく普通に打ち解けあえるし、親切な友人ぐらいは心当たりがあるのでね。

 本当の親切は、俺自身の手で宿題を解くように促すことだとかそんな固っ苦しいことは言いっこなしで。

 ベッドに横になった。ぼんやりと武藤さんのことを考える。ってか、頭の中は武藤さんの事でいっぱい。

 気が付くと、武藤さんのあられもない姿を思い返している。いわば目に焼き付いた感じだ。忘れようにも忘れられぬ。わすられぬ。

 で、さすがにそれはいかん、不謹慎だと頭から振り払い、今度は武藤さんの超能力とかについて考えだす。

 百円玉の瞬間移動、あと見てないが念力なんていうものも使えるらしいし。極めつけは瞬間移動。

 思考がそこに至った段階で、再び武藤さんの裸体が頭に浮かび、しばし反芻してからぶんぶんとそれを打ち消す。

 なんてことの無限ループを繰り広げているうちに……。

 いつのまにか眠りに落ちていた。

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