第6話 ミニマトウ
そんなこんなで……どんなこんなだ?
とにかく……、いやまあ俺としてはじっくりこのまま鑑賞モード。裸体を晒す武藤さんを見つめ続けるという選択肢もあったのだが、そんなコマンドを入力してしまうと好感度激減。バッドエンドは必至。挽回が大変!
というわけでフォローに入る。だが俺だって慌ててしまっている。心臓バクバクもんだ。
「えっ! あっ、服は? どこ? どっかにある? わかる?」
「リビング……」
震えて泣きながら、答える武藤さん。
「とってくるよ」
と、リビングへ駆けつけようとした俺を制して、
「いや~、待って、行かないで! そこで待ってて! とりあえずドアを閉めて。そこから動かないで!」
と矢継ぎ早に注文が出される。フロム涙に濡れる武藤さん。
言われたとおりに、俺はドアを閉めた。部屋の前で待機する。
なんとなく……、ほんとになんとなくなんだが、部屋の中から人の気配が消えた気がする。
ってことは武藤さんがテレポートしたってことなんだろう。
再びのなんとなく。なんとなーく武藤さんがリビングに移動した気配。衣擦れの音が微かに聞こえてくるような、幻聴のような。
いや、妄想してませんよ。ちらっと頭に浮かんだだけね。
素っ裸の武藤さんが服を着ていく様。
パンツを履く武藤さん。白い、まだまだお色気とは程遠い幼い可愛らしいパンツ。
ブラジャーを装着する武藤さん。これまた真っ白。シンプルなデザイン。
下着姿のまま靴下を履く武藤さん。
これは俺の趣味ね。
下着姿で靴下。なんかそそられる恰好じゃない?
意図したわけでないが、勝手に、ごく自然にそんな光景が頭に浮かぶ。
そして、スカートを履き、セーラー服に首を突っ込み袖を通す武藤さん。
セーラー服のリボンを結びなおす武藤さん。
ここまで来たら、露出度は激減して単にいつも学校にいる姿。そこまで想像して、やっと俺のバクバクも収まってくる。
以上、妄想をお届けしました。
しょうがないじゃない、頭に浮かんでしまったんだから。もちろん、さっき見えてしまった艶っ艶の白い肌はそのまま脳内再生されたけど、見えてない部分はさすがに想像では補えず、ぼんやりとぼかしが入った状態なのは、健全なる男子の証拠。というか、俺がそこまでエロくない、すさんでいない証拠だ。だから、俺の妄想についてとやかく、言うのはご遠慮いただきたい。
ほどなくして、リビングから武藤さんがやってきた。テレポートではなく、ごく普通に徒歩で。二本の足でしっかりと廊下を踏みしめながら。
「お待たせ、もう大丈夫だから」
まだ鼻声。号泣の余韻。涙の後が見て取れる。
武藤さんの受けた精神的ショックは、俺は男だからわからんが。たとえて言うなら、どこの馬の骨ともわからん――一応はクラスメイトではあるのだが――、若い男に全裸を見られたか弱き少女って感じ? いや暗喩でも直喩でもないね。そのまんま。事実を述べただけ。
とりあえず、非は俺にあるのか無いのか釈然としないが、悪気があってしたことでもないが、謝っとこう。
「ごめん、まさか裸だったなんて思わなかったから」
言い方がまずかったのか、『裸』という単語に敏感に反応して武藤さんは顔をかぁっと赤く染め、また泣き顔へと変化しつつ……。
「いや、見えてないよ。ちゃんと隠せてたから。そりゃあ、背中とか足とかは見えたけど、あの……その」
まさか、股間だの胸だの乳首だの乳輪だの……。自分で単語を並べてもこっぱずかしいがそんな具体例を挙げてフォローしてしまうのはさすがに逆効果。それくらいはわかる。
ぼんやりと。肝心なところは見えてないアピールに必至の俺。言葉に詰まる。
「うん……」
と、武藤さんは一応は納得してくれたご様子。そのまま、気まずい雰囲気のまま、二人でまたリビングへ。無言が続く。
俺としては何故に裸になってしまっていたのか非常に気になるところであったが、俺から質問するのもはばかられ。
でも、武藤さんが自発的に説明してくれました。
「テレポーテーションはできるんだけど……」
うんうん。確かに、あれを見せられたら納得だ。リビングとあの部屋に隠し扉があって隠し通路があったとしても。あんな短時間での移動は困難。不可能。
あとは……双子説。だけど、隠れるところも無かったし、そんな都合よく双子の片割れが居るってこともないだろう。
テレポート能力については、完全に武藤さんに軍配。信じるしかない。
「自分だけなの」
何が? とちょっと疑問符。はてな記号が顔に浮かぶ。
「服とか鞄とかは……一緒にテレポートできないの……」
納得。武藤さんの瞬間移動の制約。限界。特筆事項。注意事項。
テレポート先では常に全裸になる。なかなか使えない能力だ。風呂に入るときには便利そうだけだけど。
説明を聞けて納得はできたがそれ以上に話すことはなく。
本来であれば、武藤さんがきちんと自分の力を俺に対して証明してくれたんで、次はマイターン。
俺が、俺に備わった、俺の限界能力。しょーもない超能力を披露する番なんだけど。
「ごめん……、帰るね」
と武藤さんは、荷物をまとめて出て行ってしまった。
そりゃあそうかもしれない。うら若き乙女にとって、さっきのあの状況は過酷すぎて、精神的なショックたるや相当なもんだろう。
一応玄関までお見送り。
「じゃあ、また」
か細い声で別れを告げる武藤さんを送り出して、俺は部屋に帰った。
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