第27話 カイギノサクセン

 その日の放課後……。

 いろいろと考えることがあるから……と、夕食作りをご辞退なさった武藤さんのために、俺は三人分の夕食を買い出しに行くことになった。

 出前でピザでもとればよかったのだが、まあそこはそれ。

 飯は炊いて、レトルトのカレー……は却下され、お総菜コーナーで思案に明け暮れる。

 油ものは避けたい。だけど、食指が動くのは、唐揚げ、とんかつ……、そんなもの。

 餃子なんかは若い女の子に受けないだろうし……。


 ということで、結局、サラダに煮物、煮魚というヘルシー路線で統一性の無いものに……。

 で、家に帰ると、既に武藤さんと三月が歓談中。

 なんか、ファッション関係のお話に熱中してなさる……。


 おいおい、作戦会議は……?


「遅いぞ! ヒャッキン! 腹が減っては虎の赤子もなんとやら! でしょ!」

 知らん! そんな故事は。

 まあ……、飯にしようか……。

「今ね、ミーちゃんと話してたの。大体作戦決まったから……」

 いや、それはそれで別にかまわんが、俺の立場ってば……。

「だって、ヒャッキン帰ってくるの遅いんだもん!」

 メニューに悩んでいたのだよ……。

「それでこれ? これならピザでも頼んだほうが良かったよ……」

 あんたが今日はピザの気分じゃないって言ったんだろうがよ!

「まあ、そのことについてはおいおい……」

 先延ばしにする意味もねぇ。

「とりあえず……作戦ってのを聞かせてくれる?」

 なんとか会話に参入しようとする俺。

 詳細を聞いておかないと、どんな過酷な役目が割り振られるか、そんなことがあったらたまったもんじゃない。

「では……、発表しま~す! …………」

 数刻の間。

 武藤さんは、三月を睨み付ける。三月は「はあっ」っとため息をついて……、肩をすくめて、

「ドロドロドロドロドロドロドロドロ……」

 と、口でドラムロールを刻みだした。

 なんの段取りがあったのか知らんが、三月も武藤さんの相手をするのには若干の迷いが生じている。武藤さんテンションについていくのは……面倒なんだね。

 みんなで楽しめたらいいんだけど。


「名付けて!」

 指をピーンと高く、天井を指さす武藤さん。

「心霊能力者による、生死不明の愛らしいワンちゃん捜索大作戦!」

 と、いまいちぴんとこない作戦名……。

「どういうこと?」

 と、俺は尋ねた。

「うんとねぇ、ヒャッキンはねぇ、特になんもしなくていいの。作戦は二日に渡って執り行われま~す。第一弾は明日。これの肝はミーちゃんの演技力。はい!」

 と武藤さんは三月に振る。

「困ってるんです。飼っていた愛犬のポチが居なくなって……」

 と泣き崩れる三月。もちろん演技だ。

 わけわかんねぇ。

「なに? その顔面いっぱい『はてな』って顔は……。わかんないの? じゃあ説明したげる……」

 と武藤さんは何やら小袋を持ってきて、中から首輪とリード――犬の散歩に使うやつね――を取り出した。

 真実味を持たせるために、ある程度使い込んだこれらのアイテムを入手するのにどれだけ苦労したかを語り出す。

「というあたしの要望を、ミーちゃんがこともなくクリアしてくれたのよ!」

 あ、そう。実際に入手したのは三月なんだね。じゃあ。武藤さんは苦労してないじゃん!

 突っ込みはスルーで作戦の説明に乗り出す武藤さん。


「とりあえず……、玲奈さんが超能力者か、そうでないか。見分けるためにミーちゃんの力が必要なの! だから……ミーちゃんを玲奈さんに引き合わせる口実として、ワンちゃんを探してもらうっていうのを考えました!」

 普通に会わせてもいいような。まあ、今日の玲奈先輩の様子だと俺達からの頼みなんて断ってきそうだが……。

「だから、そこで架空のワンちゃんを使うのよ! 可愛い子犬、パピーちゃんが絡んでる事件で……、断るなんて残酷なことができる人なんていないわ!」

 で、どうするの? 仮に……と懸念とその続きについて聞こうとしてると三月が口を挟んできた。

「わたしの……、テレパシーも最近……、あの火事の一件以来安定してないんだけど……」

「えっ? どういうこと?」

 と心配顔の武藤さん。

「なんか、人の心が読めたり読めなかったり。たまにヒャッキンの心も読めたりするし……」

「すごいよ! ミーちゃん! パワーアップだよ!」

 と、喜ぶ武藤さんだが、俺としてはそれ以上の衝撃。三月に……こころが読まれている……。

『たまにだから心配しないで』

 と三月から心のメッセージ。

「届いた?」

 と俺に聞いてくる三月。

「ああ」

 それで同じように武藤さんに向けてメッセージを飛ばす三月。

 武藤さんにも届くのは届いた。

「じゃあ、わたしからの送信には問題ないみたいね。今のところ……。だけど、その先輩の人の心が読めないからって即超能力者だって決めつけるのはどうかと思う。現にヒャッキンの心は読めちゃう時もあるんだし……」 そこで、何かをひらめいたのか、武藤さんは蝋燭と水を持って来た。

 何をするのかは一目瞭然。俺に火を消せという。

 蝋燭に火をつけ、俺に水を勧める。

 なんの余興だかしらんが、言われるままに、消化を念じる俺……。

 ん? 消えない……。


「やっぱり! ヒャッキンの能力が……」

「なくなってる……」

 そのようだ……。

「ミーちゃんがヒャッキンの心を読めるようになってるのとなんか関係があるかもね……」

 なんて武藤さんは軽く言うが……。

 俺の……唯一の超能力が……使えない……。まあ役に立たないが……。

 俺は……超能力者ではなくなってしまった……? まあ、別に困らないが……。

 俺の能力が……消えてしまった……? だけど……、よく考えたら誰も困らない。

「困るよお! 折角団員その一の候補なんだから!」

 と、ひとり嘆き悲しむ武藤さん。だが、俺を励ますように、

「大丈夫、一時的なものだよ、きっと。それに、あたしも何度か似たようなことがあったよ。で、その後には必ず、新しい能力とか身に着いたり、能力のパワーアップとかあるの!」

 そうだといいけどね。

 で、話が脱線してしまったね。


「とにかく! ミーちゃんと葉月先輩を会わせるのが第一段。その後は……」

 その後は?

「ヒ・ミ・ツ!!」

 なんだよ、それ!

 秘密主義なのか、ノープランなのか……。

 俺は作戦の概要すら教えられずにただ付き従うことになった。

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