第22話 ヒトリブチョウ

「安藤先輩! 新入部員勧誘の決め事忘れたんですか! 抜け駆けは許しませんよ!」

 と、ずいずいと俺たちの向かいに座る安藤のそばまで歩み寄る女子生徒。

「ああ、葉月くん、いや、知っているよ、わかっているよ、忘れてなどいない。だけどね、この二人、まあ入部の可能性もなくはないが……」

 と安藤はそこで俺達を見て、

「超能力をご希望されているんだよ」

 と勝ち誇ったように言う。

 何がなんだかわからない。が、始まる詰問。葉月と呼ばれた女子生徒から俺達への。

「それ本当? 自分から言ったのの? ここに来る前から決めてた? オカルト研究会でしょ? 花形は超能力なんかじゃないでしょ? 時代は……いえ、世界は心霊へと動いているわ! シフトしているのよ、わかるシフト・ザ・フューチャーなの! シンレイ・イズ・マイスタイル、シンレイ・イズ・エブリースタイルなのよ!」

 で、こんなことでは物怖じしない武藤さんが、

「ええ、わたしたち、ちょっと超能力に興味があって……」

 なんてさらりと言う。

 愕然と、見えるようにがっくり肩を落とす白衣の女生徒。

「がっでーむ!」

 と天を仰いだ。

 で、そこへ安藤からの解説が入るのだった。

「いや、実はね、このオカルト研究会、去年まではね、なんでもありの方針だったんだよ。超能力も、彼女の言う心霊も、他にもいろいろと……。だけど、部員も減って来てね。研究対象をあまり広げるわけにもいかない。それで、この古今東西、あらゆる超能力に精通したこの僕がね、重点的に超能力を研究対象にしようって提案したんだが……」

「横暴よ、陰謀よ!」

 なんて、ちゃちゃを入れる女子生徒を無視して安藤は続けた。

「彼女……葉月玲奈はづきれいなさんって言ってね。二年生だ。自称……霊能力者なんだよ。僕から言わせてみれば超能力者なんだけど……」

 武藤さんがピクリと反応。俺も……びびったね。さらりとすごい情報が飛び出た。喉から手が出るほど欲しかった情報だ。俺の喉じゃないよ。武藤さんの喉だよ。

「彼女自身は、自分を霊能力者だと言って聞かない。で、すったもんだの挙句……」

「そうよ、独立したのよ! 心霊現象研究会を立ち上げたのよ! 悪い!」

「だけど……、まあうちも弱小で部員も元々少なかったし……彼女に賛同する部員も居なくて……、結局はね、名乗ってはいるんだけど学校からは無認可でね。書類の上ではオカルト研究会の部員。そんな彼女がいるからうちも……、看板をね、超能力研究会、またはエスパー研究会にでもしようとしてるんだけど……」

「反対! 断固として反対!」

「……というわけでね、看板はオカルト研究会のまま。でもその内実は、超能力の専門研究機関、それに居候の霊能者が約一名……という状況なわけだ……。彼女は非公式に心霊現象研究会をでっちあげてその会長を名乗っているんだ。困ったもんだよ……」

 なるほど。よくわかった。いろいろあるんだね。マイナー……といってしまえば俺自身がそれに所属してしまうのであれだが、オカルトにも派閥がね。

 でもって、気になるのは……。

「でも、でもでも、その会長さんはえすぱあなんですか!」

 そう、武藤さん! そこです。いや、俺は積極的にメンバーを集めようなんて考えちゃいないけどね。えすぱあ集団だっけ。ネーミングはおいおい……ともかく、そういうことだ。

 だが、それが、女会長、葉月玲奈の逆鱗に触れた。いやいや、それって安藤も言っただろう。そこはスルーで武藤さんに過剰に反撃?

「あんたなめんじゃないわよ!」

 どしどしと、机を回り込んで、武藤さんの元へ。

 歩くと乳が揺れる。そうそう、言い忘れてました。この人巨乳です。かなりの……。はい。

 スレンダーとは対極の、それでいて魅力的な、高校生とは思えないグラマラスボディ。丸っこい顔に大きな瞳、分厚い唇。いや、デブではないよ。体全体が豊満って表現がしっくりくる。

 日本人離れ、高校生離れしたルックス。ブラウンの髪は、肩の上でくるんと外側に跳ねている。パーマーなのか、天パーなのか。まあ、きちんとセットされてんだから、養殖パーマーだろう。

 ともに貧乳でかつスレンダー、純和風の美人の三月と、天真爛漫、元気印少女の武藤さん。ふたりとも十分魅力的だが……二度あることは三度ないよね。そろそろそっちの意味でスタイルいい女性キャラででてきてもいいよね。バランスって重要。……脱線。

 その女会長玲奈さんがだ、

「きぃいぃ~、ふざけんじゃないわよ! 小娘!」

 切れだした。カタカナのほうがいいかもしんない。キレだした。

「超能力なんてくそっくらえよ! わたしは霊が見えるの! 霊と語れるの! 霊と心を通わせれるの! エスパー! なにそれ? 流行んない! 頭おかしいとしか思えない!」

 流行り廃りで行くと……今はVRMMO、異世界転生、超能力も心霊も流行ってないよね。ぎりぎりファンタジーで剣と魔法ってなら需要はあるかも知れないが……。

 今は新しい設定を求めてみんな苦労してるんですよ。オカルトもSFも流行んないんですよ。ってか今さら気づいたけどオカルトって超能力も入るのか? まあいい、気にすまい。


「まあまあ、葉月くん、落ち着いて……」

 となだめに入ってくれた安藤の苦労もむなしく……、

「やってらんない! 見てらんない。今日は欠席、部活は無し! 帰る!」

 と、さんざん騒ぐだけ騒いで、またどたどたと巨乳を揺らしながら女心霊研究会会長はご退出。

 一同、はあぁっとため息。えっと、一同ってのには、部長の安藤ともちろん俺と、あとお茶を出してくれた南先輩? ともうひとりの名も知らぬ雑誌をを読みふける部員が含まれており、武藤さんは含有しておりません。 武藤さんは、

「さっきの……葉月先輩? が、超能力者ってどういうことですか? 教えてください!」

 っと我が道をゆく。仮に、あの人が超能力者だとして……、仲間に入れたくないなぁ。もちろん俺も入るつもりも今のところ微妙、保留状態なんだけどね。

 5人目のメンバーを志願している三月だって同じような印象を受けるだろう。

 5人なんてのは詭弁、集まりっこないから言ってるようなもんで……、実際に、葉月先輩が超能力者だと……。

 団員一号、武藤芙亜、団員二号、俺こと桃木大相、同じく三号、葉月玲奈先輩、とんで五号が神凪三月というわけで早くもリーチ状態だ。

 えすぱあ集団なんて結成された暁にゃあ、恥ずかしくって表を歩けませんぜ。

 まあ、これまでのところ、武藤さんも、俺も三月も部外者に秘密はうちあけず、極秘裏に進めてますけどね。この安藤とかいう部長が曲者だ。こいつにばれたらやばそうだ。

 だけど……、何かを知っている。利用するだけなら利用価値は……あるのかも知れない。

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