葉月玲奈

第21話 テガカリサガシ

 何事も無かった平凡な一日。

 まあ、まだ一日が終わったわけではないが。単に六コマの授業が終わっただけだが。部活に入る気もない俺としてはノルマ達成。あとは自由時間。

 おそらくは、家に帰って、武藤さんの作った飯を食ってのんびり……という平和な日常が残されているだけだというのは、思い込み。勘違い。

 ストレスフリーな世の中で暮らしたい、という俺の願望は打ち破られる。武藤さんの手によって。

 さっさと帰ろうと教室を出たところで武藤さんに呼び止められた。

「どこいくの! ヒャッキン!」

 いや、普通に家に帰るんだけど? 昨日はなんだかバタバタしたし、ゆっくり落ち着いてくつろぎたい。

「ダメダメ! 待ってたって物語は進展しないよ! 自分から動きださなきゃ! おっと、訂正、自分達からっ、ねっ!」

 と、腕を掴まれて……クラスメイトの好奇の視線を浴びながら……。

 連れていかれたのは通称、部室棟。文化部の巣窟といえば聞こえは悪いが、いろんな特別教室、理科の実験室とか調理室とかね、視聴覚室とかね。そんな教室に縁のある文化系の部活が部室に利用したり空き教室もいろんな部活に利用されている、普段の教室があるのとは別校舎。渡り廊下でつながっているとなりの建屋。

 気づくと俺と武藤さんは『オカルト研究会』の前に居た。看板というかプレートが下がってんだ。教室の入り口に。ご丁寧に。

「何? なんなの? 武藤さん?」

 俺はたじろいでしまい、慌てて武藤さんを引っ張って物陰へ。

「ん? だから、手掛かり探し。情報収集、あと新メンバーの発掘を兼ねての視察をするのだ!」

 と、息巻く武藤さん。

「だからね、学校で一番超能力について詳しいとこってどこ? オカルト研究会でしょ? それしかないでしょ?」

 とさも当然のように続ける。

「いや……オカルト研究会? 怪しいよ。こんなとこで、超能力者なんて見つかんないだろうし……」

「でも……他に候補ないんじゃん! 味方になる超能力者も必要だし、ふぁいあすたあたあの情報も欲しい、ここは藁にでもすがる気持ちでね!」

 と、説得され……、なし崩し的に俺も潜入調査に同行することになってしまった。俺がすがりたいよ、藁に。一人で行けば? なんて言ってみたら、

「そんな、ヒャッキン! 薄情だよ、薄っぺらいよ、面目躍如丸つぶれだにょ! か弱い乙女を一人で行かすなんて……。

 敵の巣窟の可能性だってあるんだにょ! 掴まって、実験台にされるかもしれないんだにょ!」

 と、訳の分からないゴリ押しで……。ってか『にょ』ってなんだよ! そんな語尾で喋ってなかったじゃん! キャラを作るなよ! 読者が戸惑うよ!

「だからぁ、まあ、なんか情報が手に入ったら儲けもんだし、ひょっとしたらあたしのえすぱあ集団の根城に使えるかも知れないじゃん! 例えばだよ、たとえば、部員が一人だけだったり、でもってその部員が情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースだったり、幽霊部員だけだったりしててさ、寂れてたら……」

 引用元がまずい。だけどよくある展開ですよね。つぶれかけた部活を乗っ取るのって。

 あちらのヒロインと違って武藤さんは、

『宇宙人、未来人、異世界人には興味ありません!』の完全超能力者限定モードだけど……。

S○S団なんかを立ち上げなきゃいいけど……。ちなみに『S』に挟まれてるのは伏字だからね、アルファベットの『オー』じゃないよ。よく見てね。


 武藤さんの第一声。

『あのう、ちょっとお伺いしますが……』でも『ちょっといいですか~?』でもなく、

「たのも~!」

 太字にしたいぐらい。元気よく武藤さんは扉を開けた。別の言い回し無かったのかね?

 で、そんな場をわきまえない殴り込みにも穏和に応えてくれる新キャラ登場……。

「入部希望かい? 学年は? 一年生だよね、そりゃそうだよね、新入部員だからね」

 とすり寄ってくる男子生徒が約一名。

 部屋の中を見渡すと……、他に二人ほど、机に座って本なんかを読んでいる。読書部か! えっと、文芸部? 間違った? だけどその本、一人が読んでいるのは文庫本じゃあなくって最近アトランチスがどうとかで注目を集めた科学――とは程遠い、オカルト系を取り扱う例の――雑誌とか……なるほど、オカルト研究会! って納得の書籍。

 もう一人は……文庫本だけど……『 七瀬ふたたび』著:筒井 康隆? セーフ?

 とにかく二人は読書に熱中。静かなもんだ。だけど、残りの一人が喋るわ喋る。

「オカルト研究会へようこそ! 活動ノルマは一切なし、優しい先輩に囲まれて、豊かな学園生活を送ろうじゃありません? ええ、もちろん、仮入部も受け付けてますよ。悩んでるんならとりあえず仮入部で様子を見る。賢い選択枝ですね! それは賢明です。えらいっ! きっかけはね、なんだっていいんですよ。興味を持ってくれた。興味をもって見に来てくれた。それで十分じゃないですか! 一期一会、とは言いますが、折角であったんだからね、今後とも仲良くしようじゃありませんか! お二人様ですね。男子生徒に女子生徒! お付き合いされてるんですか? お友達? それとも……ご兄弟じゃないですよね? お顔が似てらっしゃりませんもんね。まあ、こんなところで立ち話もなんなんで、さ、ささっ、お座りくださいよ。あっ、申し遅れましたがわたくし、部長の安藤、安藤健一でございます。三年生。優しい部長、気が付く部長、頼りになる部長と慕われております。ええ、もちろん、あなたがたのどちらかが部長になりたいっていうんであれば……」

 そこで、部長、安藤の眼が光る。いやいや、部長の座なんて狙ってないけどね。武藤さんならいいかねないなぁ。超能力勝負とか言いだして……。

「あたし、別に部長になりたくってきたわけじゃありません!」

「そうですか、そうですか、それは結構。いえね、惜しいわけじゃありんせんよ、部長の座なんてね、だけどね、やっぱり、必要ですからね。求められるのは知識量、カリスマやら人望なんて二の次です。ええ、自分にね、勝てるなら喜んでお譲りしますが、そうとなると、面倒でしょ? 手続きが、勝負のルール決めからね、例えばクイズにしたってね、誰が出題するのか、何問出すのか? 配点は? 決着方法は? その他もろもろ、厄介なもんですよ。ええ、自分の時はね、他に立候補者がいなかったからね、拝命しましたが……そういう意味では仮の、暫定部長なんでね、お譲りするのはやぶさかではない。やぶさかではないが、やはりその論拠、正式な資格者たる素質を…………」

 なんてひとしきり喋った後で――ちなみに、話は二転三転しながらどうにか着地したが、内容はほとんどなかったね――、

「南くん、お茶の用意を~」

 と、俺達に着席を促す。

「あのっ、あたし、別に入部しに来たんじゃないんです!」

 と、武藤さんがやっとこさ口を開いた。そうです。武藤さん、のっけからの部長のペースに飲まれているのかと思いきや、ただただ真剣に話を聞いてたようで。偉い! そんでもって自分のことは自分でできる子。自己主張もできる、スーパーガールなんですよ。武藤さんはねっ。

 で、それを聞いて部長の安藤の顔が鈍る。

「入部希望では……ないと?」

 さっきまでのフレンドリーな態度はどこ行ったよ! 明らかに不機嫌だ。お茶の手配をキャンセルしそうだ。

 だけど武藤さんはマイペース少女。どっしりと椅子に座って……、俺も仕方なくそれに続く。

「まあ、条件次第で入部してもいいんですけど……。あのですね、ちょっと訳あって、あたしたち、超能力について調べてるんです。で、ここに来たら何かわかるかなぁって……」

 と、言いたいことを言えることだけ率直にぶつける。

「超能力?」

 それを聞いて安藤の眼が光る。正確にはメガネが光る。さっきまで裸眼だったくせに。何時の間にかけたのか?

「ええ、オカルト研究会だったら、超能力についても詳しいんじゃないかなって……」

 と、そこでお茶が運ばれた。南くんと呼ばれた線の細い、気の弱そうな男子だけど……。背も低い。だけど先輩なんだろうな。俺は軽く会釈して礼を尽くす。

 武藤さんはそっちょくに「ありがとうございます」と言いながら、一口飲む。

 で、部長のマシンガントークが、口火を切る。

「超能力って言ったね? 超能力。そりゃそうだ、オカルト研究会だもんね、超能力だって取り扱ってますよ。というか、もうこれは超能力専門と言い換えてもいいかも知れない!

 なぜなら……」

 

 また、数分間は部長の話を聞きずっぱりになるのかと、肩を起こしかけていたところに、突然の乱入者。扉がガラっと音を立てて、

「ちょっと待った~!」

 と女の子の声が。そちらを見るとセーラー服の上に白衣をまとった女子生徒の姿が。お声の主はこの人ですね。

 

 またまた一波乱ありそうな……。

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