第20話 オトシヨリ
翌朝……、
「起きろー! ヒャッキン!」
という大声、音波のフライングボディプレスを食らって目覚めた。
既に制服に着替えた武藤さん。
着替えるから出て行ってと、とりあえず制服を身にまとい……。
居間に行くと、そこには既に朝食が。
二人分。で、俺を除いて二名がちゃぶ台に着席している。
「遅いよ~! ヒャッキン! ミーちゃんはもう学校行っちゃったよ!」
と待ちくたびれた様子の武藤さん。
もうひとり、結構なお年のおばあちゃんが座っていた。
「ええっと……」
口ごもってしまう俺。昨日はもう寝ているとかで会えなかったが、三月はこのおばあちゃんと二人暮らしなのだという。つい先日までは武藤さんを入れての三人暮らし。
「この人が、ミーちゃんのおばあちゃん。あたしはハルばあちゃんって呼んでるけどっ」
と、武藤さんに紹介してもらって、一応俺も氏名、学年、学校名なんかを明らかにする。
あとお礼だ。
「すいません。なんか勝手に泊めて貰ったりして……、ご飯もごちそうになりましたし……」
正確には昨日の夕食は俺の財布から出ているのだが、まあそんな細かいことは抜き。あくまで低姿勢に、社会的常識を忘れぬように。
「ええ、ええ、聞きましたよ。三月から。なんだか楽しそうでいいですねぇ」
どこまで伝わっているのかはわからないが、人柄のいいごく普通のおばあちゃんって感じの優しい言葉。表情も明るい。少なくとも迷惑がられてはいないようだ。
一安心。
で、用意されていた朝食は待ってくれた武藤さんと俺の分だったようで。
三月の学校は遠く、既に飯も済ませて家を出たようで、多分おばあちゃんも一緒に三月と食べたんだろうな……なんて思いながら、箸を取った。
美味い。これまた美味。
「おばあちゃんが作ってくれたんだよ」
と武藤さんの言葉に、なおさら恐縮しつつ、
「ありがとうございます。美味しいです」
なんてありきたりのことを言いつつ。
武藤さんが楽しそうに語る三月と遊んだ話や学校での些細なエピソードなどいわゆる世間話に相槌を打つおばあちゃんを横目に、俺は黙々と飯を平らげた。
「おかわりもありますよ」
なんて言われたが……、確かにうまいけどそこまで厚かましくはなれずにやんわりと断って、立ち上がりそうになるおばあちゃんを制して食器の後片付けをしに行った武藤さんがキッチンへと消えて。
俺はおばあちゃんとふたりっきりになった。
あいかわらず表情は柔らかいが、その点は救いだが、共通の話題も無く。三月と俺との関係なんてせいぜい数時間。武藤さんだって親しくしたのはこの二日ほど。
会話の糸口に困っていると、
「あの子はねぇ……」
なんておばあちゃんが語り始めた。あの子=三月のことなんだろう。
「昔っから友達を作るのが下手でねぇ……」
聞くところによると、家に友達を連れてきたことなんてほとんどなかったという。あったとしてもそれは武藤さんが連れてきたって感じで。
中学までは同じ学校に通っていた武藤さんと三月。共通の友人も多かったろうに……。やっぱりテレパスとしての能力がそうさせるのか……。
「これからも仲良くしてやってくださいね」
と、依頼され、もちろんです! なんて胸を張って言えることではないが、快く了承の意を伝えた。
同じ超能力者どおし、三月から俺の心は読めないらしいので、なんでも包み隠さずというわけにもいかないし、包み隠さないとまずいいろんな俺の妄想なんかもあったりなかったりするけど……。
折角であった仲間だ。俺だって武藤さんと三月と仲良くしていたい。
「じゃあ、ハルばあちゃん、そろそろ行くね!」
と、朝食の後片付けを終えた武藤さんが荷物を持って玄関に向かう。俺も慌てて後を追う。徒歩の武藤さんと自転車の俺では出発時間に差が出るが……、このまま厄介になり続けるのも気が引ける。
武藤さんは学校の支度だけ、いつもどおりの身軽な恰好で。どうやら学校帰りに一度寄って、荷物を取りにくる魂胆らしい。今日も泊まるとかは考えてないのね。
俺は、昨日の着替えやらなにやらオプション付の装備で、あらためておばあちゃんに礼を言って三月の家を後にした。
一緒に歩いて行ってもよかったんだが、なんとなく……、付き合っているわけでもないのに一緒に登校するのは不自然でもあり、恥ずかしくもあり、変な誤解を生むと武藤さんにも悪い気がして、俺はゆっくりと自転車をこぎ出した。
いろいろあった一昨日、昨日の二日間。これでしばらくは、平常運転、いつも通りの生活に戻れるかな? なんて淡い期待は大外れ。今日は今日とてイベント発生。
だけど、そんなことなどつゆ知らず。
鼻歌まじりにいつもの違う通学路を自転車漕ぎ漕ぎ。
ええ、武藤さんがまたやらかしてくれる。
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