第23話 サイコメトリ

「あんまり大きな声では言えないんだけどね……」

 と、前置きしたうえで安藤部長は懇切丁寧に教えてくれた。

「ここだけの話……、本来ならうちの部員にしか明かしていない秘密の話なんだが……、まあ君たちも一応仮入部の部員ということで……特別に……」

 情報をいただけるのはありがたいが、勝手に仮入部にされても困る。

 だいたいにして、この人たちは一般人なのか? それとも……自称であるにせよ超能力者なのか?

 疑問は即解決したい。そこで割り込み質問。

「あの、さっきの葉月先輩以外の……部長さんやあちらの部員さん達も超能力者……? なんですか?」

 それを聞いて、部長はくっくっくと笑い出す。

「そんなことは……、そんな風だったら嬉しいけどねぇ。まあ、先に軽く紹介しておこうかな。あちらの南くん……」

 と、お茶運びをやってくれた部員を手で差し示しながら、

「彼は、透視能力者、的中率二割を誇る、うちのホープだよ。未来予知もできる。小説なんかを読んでその先の展開となんとなく当てたりもする。それから、あっちの北山くん」

 こんどはもう一人の部員へ。雑誌を読んでいたほうの部員へ。

「彼はテレパスだ。自分の想いを表情や身振り、手振りなんかで伝えることができる」

 ん?

 武藤さんも同じく顔に疑問符。そりゃあそうだろう……。なんか言ってることが……。

「で、この僕、安藤健一はというと……、まあ念力の使い手だとでも言っておこうか。体内の組織を自在に自立稼働させる力の持ち主だ」

「それって……?」

「まわりくどい言い方をしたけど、一般人ってことだよ。そりゃあそうですよ。超能力者なんてもんが居たら僕がお目にかかりたいくらいで……」

 実は目の前に二人もいるんですけどね。結構な使い手としょぼい使い手が。

「南くんは、読書家でね。たまたま超能力小説にはまっていたからうちに来た。そんな彼だけど実は透視能力では一番成績がいい。どんぐりの背比べだけどね。それから北山くん。僕と同じ三年なんだが……、彼は非常に無口でね。なんとなく彼の言わんとしていることは僕や南くんには伝わってくる……気がする時もある。まあ、長い間一緒にいるからかな。一種のテレパシーだと思わない? 長年寄り添った夫婦みたいでね」

「部長さんの言ってたのは、単に心臓とか、肺とかが勝手に動くだけってことですか?」

 と武藤さん。複雑な表情。がっかりしているようにも思える。

「そういうこと。それって実はすごいことなんだけど、まあみんなが当たり前にできてるから、超能力とはいわないかな?」

 なんだかはぐらかされたような……。まあ、元をただせば俺の横入りが悪かったのか。話を元に戻してもらおう。

「で、葉月玲奈さんのことなんですが……」

「彼女は特別だよ。絶対に口外しないでくれたまえよ。約束できるかい?」

 俺も武藤さんもうなずく。三月なんかにはぽろっとしゃべってしまう可能性大だが、あいつはもともと人の心が読める。口外範囲の対象外ということでいいだろう。

「僕は……、彼女はサイコメトラーであると思っているんだ……」

 サイコメトラー……。精神感応者、思念同調能力者。物体に残る人の残留思念を読み取ることのできる能力者。

「一説にはアメリカの神霊研究家が提唱した能力だというからあながち心霊能力というのも的外れではないんだが……」

 まあ、心霊も超能力も似たようなもんだな。一般人からしてみれば。

「知ってるかい? サイコメトリー?」

「はい」「ええ」ふたり同時に頷いた。

「じゃあ、詳しい説明は抜きにしよう。さすが、我が部に入ろうと考えているだけはあるね。君たち」

 なんて褒められても入部の件は前向きにはなりませんよ。

「まあ、その能力の性質上、霊能力と捕えても不自然ではないんだよ。実際に亡くなった人の思念を読み取った例もあるくらいだからね。

 だけど……僕自身は霊能力というものに対しては否定的だ。超能力なんてものを信じている人間が言うのも滑稽だけどね。ほとんどは、科学的に解明できる。それが心霊現象だと思っている。勘違いや見間違い、夢、妄想、幻覚……、思い込み……。一般的にそういった概念で説明が付くことがほとんどだ。恐山のイタコだってね。実際に行ってきた先輩に話を聞いたんだが、肝心なことは何一つ知らない。本人がどう思ってやっているかはともかくとして、ああこれはインチキだって、即座に思い当ったようだよ。だけど……」

 そこで、安藤部長はお茶を一口。

「それ以外、偶然や見間違い、勘違いでは片づけられない現象も確かに存在する。世界各国で。それは何を意味しているのか? わかるかい?」

 わからねぇ。というか、話が頭に入ってこない。さっきと違って落ち着いた口調になっているが、その分、インパクトというか攻撃力に欠ける安藤部長の語り。

「ちょうのうりょく……?」

 反応できた武藤さんはさすがだ。長年エスパー少女をやってるだけはある。

「そう……。超能力、特に……葉月さんの起こす心霊現象は……ほとんど……いや、全てと言ってもいい。サイコメトリーで説明が付く」

「そんなにすごい能力者なのか? あの人?」

 と俺は聞いたが……、帰ってきた返答は微妙なものだった。

「う~ん、すごい……の定義にもよるが……、彼女の場合はね、明らかにね、能力は備えているはずだ。閾値以上の。一般人ではありえない。だけど……その力のコントロールに難がある。彼女自身でコントロールできていない……。超能力の検証としてね、何度か実験にも立ち会ってもらったよ。だけど芳しい結果がでなくてね……。それは彼女が心を閉ざしている、自らのサイコメトラーとしての能力を否定してしまっている……そのことに一番の原因があるんじゃないかと……。まあ、これは僕の立場からの見解で、彼女の思いは別だろう……」

「じゃあ、なんで……、なんであの人が超能力者だってわかったんですか?」

 武藤さんからの質問には期待が込められている。何故、超能力者だと考えているのか? ではなく、何故わかったのか? という質問には武藤さんが葉月玲奈さんが超能力者であって欲しいという願いが現れている。この人の仲間を増やしたい願望はやっぱりすごい。

 まあ、そんな微妙な表現の発露には気付かなかったのか、安藤部長は……、

「実際に、何件か……事例があるんだ……。僕自身も深くかかわった案件がね。当事者でしか知りえない情報を彼女が読み取った。詳しくは言えないが……、僕のプライバシー、パーソナリティにも関わってくることだからね……」

 と、そこで安藤部長は時計を見て立ち上がった。

「おっと、すまない、定例の文化部の部長会議の時間だ。僕はちょっと席を外すよ。あとは……そうだな、待っていてくれてもいいし、日を改めて訪問してくれてもいい。北山くんの無口もかなりのものだが、南くんもシャイな性格でね。君たちの話し相手には向かないかもしれないから……。興味があったらその辺にある本とか適当に読んでてくれてもいいから……。とにかく、仮入部の手続きだけでも近いうちに……」

 と、席を外しにかかる。

「あの……ちょっと……」

 と武藤さんが呼び止め、

「安藤部長! ふぁいあすたあたあって知ってますか? ふぁいあすたあたあに心当たりはありますか?」

 と、直球を投げつける。

「もちろん……その存在は知っているが……、あいにく知り合いにはいないねぇ……」

「そう……ですか……」


 と、そんな感じで部長は出て行ってしまった。

 小一時間もすれば帰ってくるのかも知れないが……。そんな時間を無駄にする武藤さんではない。という末恐ろしい行動力。

 早くも次の作戦を練り始めた。

 南さんや北山さんら、オカルト研究会の部員たちがいる中で……。


 

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