第6話 セカンドライブ直前

「ふえええぇ、緊張するなぁ」


 部室でひっそりとライブ衣装に身を包んだ宙果たち。


 壁に立てかけられた鏡に向かって表情のチェックに余念がない春乃。

 新曲の振り付けを手先から足先まで入念に確認する梅。


 ストレッチ、発声練習とみっちりと準備をした上での余裕の最終調整段階である。


 そして部室の角で三角座りで膝に顔をうずめる宙果。その口からは弱音しか出てきていない。

 三者二様である。


 梅はつかつかと宙果に向って歩き、見下ろしながら発破をかける。


「今からそんなことでどうするの!

 本番まであともう十分しかないんだよ」


「お客さん増えてないといいなぁ……」


「また! そういうことを! ネガティブ発言は禁止!

 前に約束したでしょ、もっと沢山呼んできてって!」


「まあ、あれで言葉が通じたかどうかはわかりませんけどね」


「たとえ言葉が伝わらなくても!

 歌とダンスが届くんだから気持ちは通じるはずよ。

 あれだけ盛り上がってくれたんだから」


「それは否定はしませんけどね」


 この後に控えるのは彼女ら、ダウンスターのセカンドライブである。

 酷く異色なこのイベントを数に勘定してよいのかは誰も知る由もないが、ライブ自体は過去に一度行い、それなりな成功を収めているのであった。


 一度目のライブはなし崩し的に行われたゲリラライブ以前のアクシデンタルなものだったが。


「とにかく! 一回できたんだから、二回目だって大丈夫でしょ!

 客なんてピーマンだと思ってたら緊張なんてしないわよ」


「確かにあの方たちは緑っぽい皮膚をしておりますが、どちらかというとかぼちゃですわね」


「そんなこと言ったってさあ。

 前の時は勢いでやっちゃった感があるから……」


 と宙果は過去のライブを振り返る。


 そもそもの発端は、部室の奥にある開かずの扉。

 奥に何があるかは誰も知らない。現在の部室はそこそこの広さがあり、その奥について調べる必要も今のところも生じていない。

 そもそもその扉には鍵がかかっており、梅の伝手を頼って探りを入れてみたものの。

 おそらくは倉庫ではないか? ぐらいの曖昧な回答しか得られていない謎空間である。


 どういう経緯であったかはその後の流れが強烈過ぎて三人ともろくに覚えてはいないが、ひょんなきっかけでその扉を開いてみようという話になったのである。



 ◇◆◇◆◇



「まあ、開かないから開かずの扉なんだけど。鍵がかかってるからね」


 という梅の想いは覆され、扉はあっけなく開いた。


「あら? 意外にあっさり開きましたわね」


 と、恐る恐る三人で扉の向こうに首だけを突っ込み様子を伺う。


「なにこれ? 洞窟? それにしては明るいけど……?」


 宙果たちの目に飛び込んできたのは、岩肌に囲まれた空間だった。学校の施設というよりも、自然が生み出した、まさしく洞窟のような場所。

 ちょうど教室ぐらいの広さはあるだろうか。

 そして、宙果たちの居る部分、つまりはドアからすぐの付近は二十畳近い広さがあり、他よりも一段高くなっている。


「スポットライトみたい!?」


 と宙果が見上げた天井にはぽっかりと幾つか穴が開いており、そこから光が差し込んでいる。


「そういわれてみますと、こちらも舞台のようですわね。

 あちらも含めるとライブハウスのようなつくりにそっくりですわ」


「でも変ね? 地下が洞窟に繋がってたってのはわかるけど。

 あの光はどこから差し込んでるんだろ?」


「いいじゃない! ここで練習してみようよ!

 なんか本番の雰囲気が味わえそうじゃない?」


 と宙果が提案し、スピーカーを持ちこんで疑似ライブを行ってみたのである。


 みたのであるが。


「ひゃっ! 誰か居る?!」


 一曲歌い終わって客席に相当する場所に目を向けた宙果が驚きの声を上げる。


「ずっとそこに居ましたわよ」


「なら教えてよ!」


 と梅のツッコミに、


「曲の途中でしたから」


「そういう問題?

 まあ、邪魔されたわけではないんだけど……」


 と、梅は不安なまなざしを客席に向ける。

 薄暗くてはっきりしないが明らかに岩などの自然物ではない何者かがそこに佇んでいた。


「どちらさまでしょう?」


 と果敢にも春乃が声をかけて探るが応答はない。

 しばらくの間、三人とその謎の人物は無言の時を過ごし、彼? はゆっくりとどこかへ立ち去った。

 のであるが、しばらくすると、仲間を引き連れて帰ってきた。


「ふ、増えたよ!」


「に、二十人くらい? っていうかこの人達、人間……じゃない……」


 ステージの近辺――所謂最前ポジション――にわらわらと集結した何者か達の姿を見て梅は目をこする。きっと夢を見ているのだろうというか、現実感が無さすぎて理解が追いつかず、驚きもある意味で半減していた。


「ううぅぅぅぅ、ぅぅぅぅぅ……」


 その中で一人? あるいは一匹が何やらうめき声を上げた。

 ずっと一定の調子でそれを繰り返していたのである。


「これって……」


 と三人は顔を見合わせた。


「さっき歌った歌のサビだよね?」


「そうとしか聞こえませんわね。お世辞にも旨いとは言えませんが」


「歌えってこと?」


 危ういバランスでなんとかコミュニケーションが成立し、そして宙果たちは謎の集団の前でライブを行うことになった。

 その後も、時間はかかったが、おしつけるように握手会――これは春乃が提案した――、生写真のお渡し会――これも春乃が提案した。本当はお金を取りたかったのだが、彼らとの間に共通の通貨があるとは思えず、在庫もあったので無償で提供した――とイベントは進んだ。


 そして、初ライブの高揚感からか、盛り上がりを見せるオーディエンスの前で、アンコールにもう一曲を押しつけて、


「じゃあ、来週! またこの時間に! 新曲を増やしてまたここにくるから!

 絶対に見に来てくださいね! 友達も沢山連れてきてください!

 それでは、地上に舞い降りた夜明けの女神! わたしたち!」


「「「ダウンスターでした!!」」」


 とお約束の挨拶――練習は積んでいるが初披露――をしてイベントは締めくくられたのであった。



 ◇◆◇◆◇



 後から考えると宙果たちはもちろんのこと。ひょっとすると観客たちも何が行われたか理解できていない可能性も垣間見える。


「あの時のわたし、普通じゃなかった。

 そう、どうかしてたんだわ。絶対に普通じゃなかったの。

 地底人さん達の前でライブをやるなんて……」


 と宙果は頭を抱える。なおほぼほぼ調子に乗ったのは梅であり春乃であり、宙果はといえば、単に曲に合わせて踊ったりおどおどしたただけともいう。


「でも、約束しちゃったからね。それに襲ってくる感じでもなかったし。

 地底人なのかどうなのかすらはっきりしないけど」


「地底に住んでるから地底人といえば地底人でしょうね」


「とにかく……。

 やっぱり怖くなってきちゃったよ。

 それに、緊張してきた。

 もうだめかも、ちょっとトイレに……」


 と部室を去ろうとする宙果の肩を、梅が、春乃ががっちりと掴む。


「トイレはさっき行ったとこでしょ?」


「それに衣装に着替えてしまったのですから、その格好でうろつくと目立ちますわよ」


「よよよ……」


「観念なさい。万一舞い上がって歌えなくなったらフォローはするから」


「そういう問題でもないんだけどなあぁ。

 はぁぁぁ」


 と宙果は大きなため息をついた。


 開演まであと五分。

 どうか誰もいませんように。あわよくば、あの空間へのドアが開きませんようにと宙果はアイドルとしてあるまじき願いをひっそりと抱くのだった。


 ちなみに、ドアが開くことは事前に音響設備を持って行った梅と春乃によって確認されているので、宙果の願いが叶うとしても客が居ないという一点についてのみである。



 かつてないほどの邪悪――と悟流が信じる――気配に、恐れではなく期待を抱きながら。


 悟流は閑散とした校舎の中を走っていた。見とがめる教師も、そして生徒の姿もない。


 この日は土曜であり、部活に従事する生徒以外は通学の必要はない。

 悟流は部活には所属していないため、本来であればわざわざ学校に出向く必要などは無かった。


 が、休日のノルマとして自分に課しているパトロールの一環としてたまたま学校の近くを通りがかった際に気付いてしまったのである。


 それは次元の揺らぎ。

 怪士の世界への扉が開きかけているという気配。あるいは既に扉は開いているのかもしれない。

 悟流がかつて感じたことの無いような、大きな揺らぎである。それは揺らぎを通り超え、激震と表現するほうが相応しいのかもしれない。


 今まで同時に数体の怪士を相手にすることはあったが、今悟流が感じているのはその数十倍にも及びそうな感覚。


 既にこちらの世界にやってきているのであれば、大事になっていてもおかしくはないが、騒ぎが起こっていない以上、手遅れにはなっていないと考えることもできる。


 かといって放置できるわけでもなく、余裕をかましている場合でもない。


 本能的な感覚に身を委ね、悟流は地下へと続く階段に辿り着く。

 次元の揺らぎはこの下で起こっているようだ。


 音を立てぬようにゆっくりと悟流は階段を降りる。

 その先には、悟流が今まで存在すら知らなかった扉が存在していた。


 ドアにそっと手をかけ、ノブを捻るも、内部から施錠されていて開かないようである。

 悟流は躊躇なく、ドアノブ部のすぐ脇へと手をかざす。

 彼の掌から真っ黒い球状の物体が現れたかと思うとそれはドアに吸い込まれるように張り付き、ドアに黒い円模様を描く。

 悟流がその黒円に手を入れると、悟流の腕は吸い込まれるようにドアの向こうに到達した。


 手首を捻り、内側からロックを解除する。

 悟流が手を抜くと、黒円はまさに役目を終えたかのように消え失せ、ドアは元通りになる。

 数瞬前と異なっているのは施錠されていたか否かだけの違いである。


 ゆっくりとノブを回して悟流は中に入った。


 中を見渡すと、奥にドアが一枚。この部屋には誰も居ない。もっとも悟流はそれをあらかじめ察知していたのではあるが。


 長机があり、椅子があり。

 片隅にはダンボール箱が積まれていたりする。ハンガーラックや大きな鏡。

 つい先日、悟流が怪士と戦うことになった学校お抱えのアイドル、フリプリの本拠地に似た雰囲気を感じるが、あちらが理路整然とした印象であったのに対し、こちらはどちらかというととっ散らかっている。


 机の上に置かれた女子生徒の制服三式のうちの一つが、脱ぎ散らかされたように積み重ねられているのがその印象の大きな要因なのかもしれない。


「さらに奥か……」


 悟流は扉に目を向けた。

 そもそもにして、怪士の気配はそちらから感じられる。


 三着の制服があるということは、それを着ていた人間がいるということ。

 彼女らがどこか学校の別の場所へと行っているのであれば問題はないが、奥へと続く扉の向こうにいるのなら。猶予はあまり存在しない。


 最悪のケースに至っていないことを願いながら、ふと悟流の視線はドア脇に乱雑に重ねられたダンボールの中に向く。


 中に入っているものに見覚えがあった。

 それと同じものを――厳密には映っているポーズやシリアルナンバーはそれぞれ異なるが――、悟流が所持している。


 怪士の懐から零れ落ちた生写真。

 結局それがなんであったか理解せぬまま、深く追求する必要もないと判断して放置してしまっていた悟流だったが、なんとなく持ち続けていたものだ。


 悟流の中でこの部室と生写真、そして宙果の姿がひとつに結びつく。


 アイドルにも学校にもまったく興味を持たない悟流でも知っているフリープリズム。それとは別グループではあろうが、宙果たちも似たような活動をしているのであろう。


 おそらくドアの先には更衣室か、練習部屋か。

 前者であろうがなかろうが。


 悟流は部屋の奥の扉へと歩む。

 間違いなくこの奥。多数の怪士が蠢く気配。


 自分一人で倒しきれるかどうかわからぬほどの、かつてないほどの多数の怪士の躍動。その鼓動。


 一瞬戻って応援を頼もうかと考えないではなかったが、呼べて祖父の高代たかよのみ。彼にしたって現役を退いた身である。

 戦力にならないことはないが、その手間で浪費してしまう時間とを天秤にかけると、このまま一人で対処するほうに秤が振れる。


 覚悟を決めてドアを開けようと、したちょうどその時。


 ドアが勝手に開いた。


「やっぱり緊張したよ~」


「確かに、前と違って断然増えてたからね。お客さん!」


「一時はどうなることかと思いましたけど、宙果も持ち直したようでなによりでした」


 と飛び出してきたのは派手な衣装――白地に青と赤と黄色をそれぞれちりばめた――の女子三人。


「おおう!?」


 と悟流は身じろぎしつつ飛びのいた。


「「きゃあ!!」」


 悟流の姿をみつけ、宙果と梅が悲鳴を上げる。


「あなた……、前に宙果が話していた公神さん? ですわね?」


 ひとり冷静な春乃が悟流に問いかける。


「ちょっと何してるのよ! まさか下着ドロボー!?」


 気を持ち直した梅が悟流を怪訝な目で睨みつけた。

 もちろん下着は着用したままなので、悟流にその気があっても窃盗行為は行えないのではあったが。


「そ、そっちこそこんなところで何をしている?」


 答えに窮した悟流は逆に問いかけた。


「話は後ですわね。ほら、アンコールが沸き起こっていますわ。

 軽く身だしなみだけ整えて、最後の一曲を披露してさしあげませんと」


「ア、アンコール!?」


 確かに、扉の向こうに耳をやると、アンコールとも取れそうな叫びが巻き起こっているようである。


「そういうわけだから! 詳しいことは後で聞くし、こっちも聞きたいことがあるから逃げないでよ!

 いくよ! 宙果! 春乃!」


「はい」


「もうお終いでいいんだけどなあ……」


「せっかくのアンコールなんだから! ファンの声援の答えるのがアイドルのお仕事!

 最後の最後にとびっきりの笑顔とパフォーマンスで、がっちりハートをつかむまでがライブ!

 楽しかった! もう一回来ようって思わるのがイベント!」


 マイペースに扉をくぐる春乃。未だしり込みしている宙果の腕を強引に引いて梅も続く。


「待て!」


 ひとり取り残されそうになった悟流も慌てて三人に続く。


 そして……。


 彼の目に飛び込んできたのは。

 いつも悟流の体を斬り裂くために振るわれる光の刃。

 次元刀をまるで、サイリウムやペンライトのように振りながら、怪しい発音で「アンコール」との叫びを繰り返す怪士の姿。それも一体だけでなく……。

 一瞬で数えきれたものではないが、三桁には余裕で達しているだろう。


 はたしてこれだけの数が一気に襲ってきて自分は倒しきることが出来るだろうか?

 その逡巡が悟流の足を止めた。


 それがひとつの運命の分かれ道であったことは彼も、そして宙果たちも、そして地底人さんたちも今の段階で気付くことはできなかったが。


 悟流が踏み出せなかった一歩は三者の未来を大きく変えることになった。


 あるいは悟流がいっきに怪士を殲滅しようと決意していたら。

 激しい戦闘の後、自らも傷つきながらも多数の怪士を切り刻み、とりあえず宙果たちは逃がすことができただろう。そして低い確率ではあるが悟流も一旦退却し、体制を立て直す。


 怪士はそこでこの場を放棄することとなり、そして宙果たちは客を失う。


 が、そうはならなかった。


「ストップ! それ以上近づかないで!

 見切れちゃうから!」


 梅が悟流に向って叫ぶ。それは、一旦躊躇し、それでも本能で足を踏み出そうとした悟流を制するのには抜群のタイミングだった。


「その位置でも十分見切れてますわ。お下がりくださいませ」


 春乃に促されても悟流は反応することができなかった。

 何が何やらわからんちんなのである。


「あっ、下がるついでにちょうどよかった。

 合図するから、スイッチ押して頂戴!

 曲はセットしてるから再生ボタン押すだけでいいから」


 梅からの指示をきょとんと佇んで。悟流は状況を認識することで精いっぱいだった。


 動かない悟流を見て業を煮やした梅。彼女はつかつかと悟流へと歩き出す。

 腕を掴んで舞台そでへと引っ張っていく。

 春乃がいち早くフォローに入る。


「ごめんなさーい。ちょっと機材にトラブルがあってぇ!

 すぐに復帰させますから、その間はちーちゃんの即興パフォーマンスでもご覧になってくださいませぇ」


「えっ! わたし!?」


 貧乏くじを引いたのは宙果であったが、


「大丈夫ですわよ、どじょうすくいでも阿波踊りでも適当にやってればいいんですから」

 と春乃に小声で励まされる?


「どじょうすくいなんてやったことないよぉ!」


「そういう弱音はマイクを通さない! 大丈夫ですわ。

 見よう見まねでぶっつけでやるからこそ初々しさが出てウケるんですから」


 と、春乃の無茶振りで宙果がどじょうすくいを披露しつつあったその裏では。


「ほんっと! ライブに乱入なんて何考えてんのよ!

 邪魔しないで!」


 と梅が、観客には聞こえないギリギリの声量で悟流を問い詰めていた。


「ライブ……だと……。

 お前ら、奴らが何者か知っているのか?」


「ああ、地底人さん? ひょっとして知り合い? 関係者?」


「地底人?」


 聞きなれない単語に悟流は首を傾げる。


「とにかく! 黙って言われたことだけやってくれたらいいから!

 せめてもの罪滅ぼしだと思ってスイッチ押すぐらいは協力して頂戴!」


 それだけを言うと梅は身をひるがえし、ステージへと足早に戻っていく。


 彼女らが地底人と認識するモノは、どこからどう見ても怪士である。悟流にとっては。

 が、本来出会えば躊躇なく襲ってくるはずのその怪士たちが、まるで人間のアイドルオタクのように、大人しく――騒がしいっちゃ騒がしいが――観客としてライブ風景の一部に収まっている。


 悟流はそっとポケットに忍ばせた次元刀の柄に手を伸ばす。

 仮にあれだけの怪士が襲いかかって来れば彼女ら三人を護りきれるかどうかわからない。

 いや、いざとなれば先に三人を避難させればよいことか。

 ならば、さっさとこの場から三人を逃げさせて……。

 と、思案を練るのであったが。


「どうも! お待たせしました!

 みなさんアンコールありがとうございます!

 それでは、アンコールにお応えして、最後のもう一曲。

 あたしたちのデビュー曲、『夜明けのスターライトパレード』を聞いてください!」


 どうやらそういう雰囲気ではないようである。

 そして。


「ほら、スイッチ! 早く!」


 と梅に急かされて、悟流はしぶしぶと手元のスイッチに手を伸ばす。


 アップテンポなポップでキャッチーなどこかで聞いたことがあるような、ないようなありふれた曲のイントロが流れだし。


 怪士たちが曲に合わせて叫びだす。


 悟流にはその絶叫がなんなのかさっぱりわからなかったが。

 それは、俗にアイドル現場でMIXと呼ばれているアイドルを応援するには欠かせない声援の一形態だった。




「ありがとうございました!

 ライブ楽しんでくれましたか!?

 以上、わたしたち、地上に舞い降りた輝ける女神!」


「「「ダウンスターでした!」」」


 最後の挨拶を終え、宙果たちが引き上げてくる。


 怪士たちはといえば、行儀よくそれを見守っている。

 彼女たちを、悟流を襲う気配などみじんも感じられない。


 悟流の知る怪士とはまた違った彼らの一面。

 とにかく、悟流は部室へ戻る三人に連れられ、地下世界を後にするのだった。

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