第7話 就任


「俺がマネージャーに?」


 悟流さとるは困惑していた。

 悟流側から開示できるだけの情報――口外しないようにと念を押し、現物の怪士あやかしを目撃しているのであるから話は早い――を伝え、梅と春乃から彼女らの事情を聞いた。

 宙果は顔を真っ赤にして蹲っていたが。

 お互いの歩み寄り地点を模索して辿り着いた結論が、梅曰く、


「じゃあ、あんたがあたしたちのマネージャーになったらいいじゃん」


 であった。


「どうしてそうなる?」


「だって、宙果は地底人の前でしかまだライブできないんだからしょうがないでしょ」


「地底人じゃない。怪士だ」


「どっちだって一緒ですわ。今だってほら」


 と春乃が宙果へと視線を投げる。

 地底人相手にはなんとかライブをできたものの、後からその場に悟流が居たという『人間にアイドルやっているところを見られた大ショック』から立ち直れずにいるのだった。


「今日はたまたま襲ってこなかったがあいつらは恐ろしい奴なんだ。

 近づかないほうが君らのためだ」


「だから、それじゃあ宙果に経験積ませられないんだって。

 今日は百人ぐらいだったけど、それが何百人、何千人と増えていったら、宙果だって普通の人の前でもライブできるようになるでしょ。

 で、それが危険だっていうなら護衛でもなんでもやってくれたらいい。

 だけどそれを許可するのはマネージャーに就任してくれたらっていうのが条件よ!」


 梅的に、春乃も同意見だが、ちょうど運営としてサポート係が必要であったこともありこの機会に巻き込んでしまおうと考えていた。

 あくまで悟流が加わったとしても自分達のの人間である。

 マネージャー相手に赤面して喋れなくなるアイドルなどいない。

 宙果がアイドル史上初のマネージャーが見てると照れて実力を発揮できないアイドルになってしまう可能性はゼロではないが、そこもいずれは乗り越えなければいけない壁で、悟流がマネージャーになるのはいろいろと都合が良かった。


 悟流は、何千人と表現される怪士を想像してめまいを起こしそうになった。

 今日の百人ですら、まともにやりあって無事で済むとは思えないのだ。

 聞くところによると前回、そして悟流も立ち会った今回と、怪士――彼女らのいう地底人は大人しくライブを見ていたようだが、それがいつ破綻するかはわからない。

 その時に真っ先に毒牙――男女的な意味でなくもっと本質的な意味で――にかかるのは彼女らなのである。

 それは到底悟流には見過ごせない事案でもある。彼の生きる意味とは怪士を狩り、人間を護ること。それが至上命題なのであるから。


「ほら、宙果もお願いしなさい。

 じゃないと、また勝手に現れて、ライブどころじゃなくなっちゃうから」


「えっ? わたし!?」


 宙果はすっとんきょうな声を上げる。


「落としどころはそこなのよ」


 梅はそういうが悟流は納得などしていない。

 が、そんな彼を無視して、


「というわけで、マネージャー引き受けてください。お願いします」


「わたくしからもお願いしたしますわ。どうぞ、今後ともよろしくお願いします」


 テレビでよく見るアイドルよろしく、梅と春乃が深々と頭を下げる。


「ほら、あんたも!」


 と、梅に促され。勢いに押される形で。


「あ、あの……ふつつかものですが、よ、よろしくお願いします。

 わたしたちのぷ、ぷろでぅさあになってく、ください」


 悟流だって男の子である。

 人並み以上に可愛い、そしてどことなくというよりも全力で保護欲を掻き立てる宙果に頭を下げられると。


「あ、ああ」


 と素直にうなずいてしまうのであった。

 心の中では、彼女たちの命を無駄に散らせないため。

 多数の怪士におじけづくような自分ではないことを明らかにするため。

 と幾つも建前上の理由を考えるのではあったが。


 本音の上では、やっぱり孤独に戦うよりも、誰か――できれば愛おしさすら感じるだけの少女を護る戦いがいいよね~と思わないでもなかったとか。

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アイドルのぷろでゅぅさぁってのに就任したんだがいろいろチカ過ぎた件 東利音(たまにエタらない ☆彡 @grankoyan

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