12

 僕は、すでに止まっていたオープンカーの横にバイクを止めて降りると、建物の周囲を歩いた。

 岬にポツンと建っている円錐屋根の建物は、何故か悲しい雰囲気に満ちている気がした。

 そう感じるのは、僕だけだろうか。

 白い外壁に青い屋根。  長い年月が経っているのか、所々塗装が剥げ落ちている。

 空を隠すように葉が生い茂っている樹木が1本、建物に寄り添うように生えていた。

 根元には、簡素なベンチが設置されている。

 僕は、ベンチに座ると、広大な海原を見渡した。

 風が生む波音が耳をくすぐる。  

 岸壁に当たる波音が、それを邪魔した。

 生ぬるい潮風が頬を撫でる。

 水平線は少し湾曲していた。

 雲が、蒼い空を隠している。

 遥か彼方、雲と雲の隙間から太陽の光が海に射しているのが見えた。

 その光を浴びるように、2羽の鳥が舞っているのが見える。

 あれが天使の梯子か。  じゃ、あの鳥は天使なのかもしれないなと、僕は思った。

 ふと、建物の方へと視線を向ける。

 海側の外壁には、鮮やかな赤や青、緑や黄色のガラスで装飾されたステンドグラスがはめ込まれていた。

 しばらく、ステンドグラスを見ていると、何か後方に気配を感じた。

 僕は、ベンチに座ったまま振り向いた。

 若い女の人が立っていた。

 碧い目でジッと、僕を見つめている。

 僕は「何?」と、尋ねた。

 「あのバイク、君の?」

 「ちがうよ。  借り物」

 「ガソリン車でしょ、あれ?  珍しいわね」

 「うん。  でも、あの車もガソリン車でしょ?」

 「そうよ、カッコいいでしょ」

 「うん」

 「君、ここら辺の人?」

 「ちがうよ。  休みをもらったから、ちょっと遠出をしているんだ」

 「ふぅ~ん。  1人で?」

 「うん、1人で」

 「隣いい?」と、女の人は、僕が返事をする前にベンチに座った。

 「この建物は、何なの?」

 「教会よ」

 「こんな所、誰も来ないんじゃないの」

 「そうね。  まぁ、私は、たまに来るけどね」

 「何しに?」

 「何しにって、言われても……なんとなく?」

 僕は、何故か思わず笑ってしまった。

 「な、なによ、別にいいでしょ。  なんとなく来たって」

 「ごめん、ごめん。  そんなつもりじゃないんだ」と、いいながらも、僕は顔がニヤケてしまった。

 女の人は「もう」と、頬を膨らませた。

 「貴方は1人で来たの?」

 「2人。  多分そこら辺をぶらついてると思うけど。  あれ、君、軍人さんなの?」  女の人は、僕の上着に縫い付けてある、軍のマークが刺繍されたワッペンを見ながら尋ねた。

 「うん、そうだよ」

 「へぇ~そうなんだ。  何やってるの?」

 「ソリッド・ギアのパイロット」

 僕の気のせいだろうか。  その時、女の人の雰囲気が変わったような気がしたのは。

 「実はね、私もパイロットやってるんだよね」

 「君も軍人なの?」

 「ちがう、ちがう。  まぁ、なんて言うか、傭兵みたいなものかな」

 「そうなんだ」

 「つい、数日前かな。  仲間がられちゃったんだよね。  仲間って言っても、いけ好かない奴だったけど。  いつも自分勝手に動いてたから、自業自得ていうやつよ。  最後の通信で泣き叫びながら『ヤバい奴がいる』って……それが最後。  こんな世界でも死んじゃったら何もかも終わりなのにね」

 「だから、此処に?」

 「うん……まぁ……なんとなくよ」

 「そうなんだ」

 「今度は、笑わないのね」

 「うん、笑わないよ」

 それから2人してベンチに座ったまま、海を眺めていた。

 「空乃そらの隊長ぉ~~!!  そろそろ行きますよぉ~~!!」

 オープンカーが止まっている方向から男性の声が聞こえてきた。

 「相変わらず甲高い声ね。  じゃ、そろそろ行くわね」と、空乃そらのはべンチから立ち上がった。

 「うん、さよなら」

 「パイロット同士なら、また何処かで出会うかもね」

 「そうだね」と、僕は、去って行く彼女の後ろ姿を見つめた。

 彼女の上着の背中には、大きなマークが刺繍されていた。

 雲を突き抜ける塔の頂に、王冠をかぶった碧い目の蠅が佇んでいる刺繍だった。

 

 

   

 

 

 

 


 

   

   

 

  

 

 

   

 

 

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アニマ・フェイカー 柳瀬 真人 @masato

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