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 ルアーフィッシング作戦終了後、大佐への戦闘報告、専門医による身体、精神チェック等を済ませてから2日後に休日をもらった。 

 食堂で昼食を済ませた僕は、ネクロマンサーの整備状況が気になったので第一ハンガー格納庫へと足を向けた。

 ハンガー格納庫内へ入ると相変わらずテクノミュージックが鳴り響いていた。

 奥には、ネクロマンサーの他にマーラのソリッド・ギアも収納されていた。

 その前で、抱き合うように重なる2つの人影が見える。  2人が僕に気付た様子でこちらへと振り向く。

 「あら、見られちゃった」と、マーラが、はにかんだ。

 そんなマーラの隣でキャロルは、表情を変えずに僕を見ている。

 「ごめん」と、僕は、2人になんとなく謝った。

 「あんた、此処に来るたびに謝ってるわね」と、キャロルが笑う。

 「そうだね」と、僕もつられて笑ってしまった。

 「別に隠してるわけじゃないんだけど、私とキャロル、付き合ってるの。  一応、ここ基地は職場恋愛禁止だしね。  で、今日は一体どうしたのよ。  あんた、今日は休日でしょ。  私もだけど」

 「ネクロマンサーの整備状況を聞きに来たんだ」

 「心配しなくても大丈夫だよ。  あんたの機体は、消耗パーツの取り換えと装甲部の修復は終わってるから、あとはCPUのシステムチェックに動作確認だけだね。  トラブルさえなかったら明日中にはすべて終わると思うよ。  そうそう、あんた今回の作戦で活躍したんだってね。  まぁ、機体を見たら分かるよ」

 「機体を見ただけで分かるの?」

 「そりゃ、この仕事を20年以上もやってるとね、嫌でも分かって来るよ。  分かりたい事も分かりたくない事も。  いろんな機体を見てきたからね」

 「そういうものなんだ」

 「ああ、そういうもんだよ」

 「ありがとう。  じゃ、行くよ」と、ハンガー格納庫の出入り口に向かおうとした時、視界の隅に埃をかぶったカバーシートが目に留まった。 

 「ああ、それね。  見てみるかい」と、キャロルがカバーシートを取る。  埃が舞う。

 カバーシートの中からバイクが現れた。

 「えらい古いバイクね。  骨董品じゃない、動くの?」

 「ここ数年、乗ってはいなかったけれど定期的にメンテナンスはしてたからね、ちゃんと動くよ。  4気筒エンジン、排気量250ccのガソリン車。  カッコいいだろ」

 「ガソリン車?  ガソリンて化石燃料の事でしょ?  そんな物まだ手に入るの?」  マーラが呆れたような口ぶりで尋ねる。

 「ああ、今でもあるとこには、あるよ」

 僕は、バイクのハンドルを握る。  

 やっぱり、ソリッド・ギアの操縦桿のグリップとは感じがちがうなと思った。

 「興味あるのかい?」  キャロルが尋ねる。

 キャロルは、僕が返事をする前にズボンのポケットから複数のカギが取り付けてあるキーリングを取り出すと、その中から一つのカギを取り外し僕に放り投げた。

 僕は、カギをキャッチする。

 「あはは、あんたのそんな顔を見たのは初めてだよ」  キャロルは僕の顔を見ながら笑った。

 マーラも笑っている。

 僕は、一体どんな顔をしていたのだろう。   

 

 

 

   

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