ソリッド・ギアネクロマンサーのコックピットハッチを開ける。

 湿った生暖かい風が頬を撫でた。

 泥臭い匂いに交じって、ソリッド・ギアの人工物の焼けた匂いが鼻についた。

 ヘッドマウントディスプレイを首にかけ、裸眼で周囲を見渡す。

 ソリッド・ギアが踏み荒らしてデコボコになってしまった湿地帯が広がっている。   

 数羽の渡り鳥が濁った水面に大きなクチバシを突っ込んで何かを食べているのが遠くに見えた。  

 その近くでは敵機に破壊され原型を留めていないソリッド・ギアが2機、コックピット部分は潰れているように見える。  パイロット達からの応答はなかった。

 他の2機は黒い煙を上げながら黒焦げに焼けていた。  こちらもパイロット達からの応答はなかった。

 「ねぇ、ってば!!  聞いてるの!?」  

 僕が搭乗するソリッド・ギアネクロマンサーの足元近くからマーラが呼びかけているのが見えた。

 「なに?」

 「もうすぐ、救護班と回収班が来るって」 

 「そう」  

 恐らく救護班は、来ても仕事がないだろう。

 僕は、搭乗ワイヤーに足を引っ掛けるとコックピットからマーラの所まで下りた。

 「あんたは大丈夫?   無事なの?」

 「うん」

 「それにしても、一体何なのアレ?」と、マーラが視線を移動させる。

 視線の先には大破した敵機と、大破したネクロマンサーが倒れていた。

 「アレって?」

 「だから何であんたの機体があそこにもあるのよ?」

 「ああ、アレは立体映像みたいなもんだよ」

 「でも、あのソリッド・ギアネクロマンサー、攻撃くらって内部がまるみえになってるじゃないの。  火花もとんで、煙も上がってるし。  あれが、ただの立体映像だなんて――」  

 マーラは、実物のネクロマンサーと立体映像で再現されたネクロマンサーを見比べた。

 「ヴィジョンデコイ幻影の囮は見た目だけじゃなくて内部構造、攻撃を受けた時のダメージ表現とかも立体映像で再現できるんだ。  その為に色々準備があって発動までには時間が掛かるけれど。  まぁ、今回は1体だけの発動だったから、そんなに時間は掛からなかったけれどね」

 「でも、いつの間にフェイクと入れ替わったのよ。  ライフルスコープであんた達を見ていたけど全然気付かなかったわよ。  私、あんたがられちゃったかと思ったもん」 

 「僕がマーラに援護射撃を頼んだ直後ぐらいかな。  マーラも敵も、そのせいで僕から一瞬、注意がそれたんじゃないのかな」

 「あんた、それ狙ってやったんでしょ」  マーラは、上着の胸ポケットから煙草とライターを取り出すと、真っ赤なクチビルで煙草を軽くはさみ、火をつけた。

 「偶然だよ」と、僕はマーラの真っ赤なクチビルの奥から紫煙がくゆるのを見つめながら答えた。

 「偶然……ね。  ネクロマンサー死霊使い。  ふん、言い得て妙ね」  マーラは自分も騙されたのが悔しかったのか、拗ねた少女のような顔つきで僕を睨んだ。

 しばらくすると、何処ともからとなく数機の大型輸送ヘリコプターのプロペラ音が聞こえてきた。

 そのせいか、大きなクチバシの渡り鳥達は、まだ食べ終えていないのか、名残惜しそうに大きな翼を広げると、太陽の見えない夕闇の空へと飛びたっていった。

   

 

 

 

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