9
湿った生暖かい風が頬を撫でた。
泥臭い匂いに交じって、ソリッド・ギアの人工物の焼けた匂いが鼻についた。
ヘッドマウントディスプレイを首にかけ、裸眼で周囲を見渡す。
ソリッド・ギアが踏み荒らしてデコボコになってしまった湿地帯が広がっている。
数羽の渡り鳥が濁った水面に大きなクチバシを突っ込んで何かを食べているのが遠くに見えた。
その近くでは敵機に破壊され原型を留めていないソリッド・ギアが2機、コックピット部分は潰れているように見える。 パイロット達からの応答はなかった。
他の2機は黒い煙を上げながら黒焦げに焼けていた。 こちらもパイロット達からの応答はなかった。
「ねぇ、ってば!! 聞いてるの!?」
僕が搭乗する
「なに?」
「もうすぐ、救護班と回収班が来るって」
「そう」
恐らく救護班は、来ても仕事がないだろう。
僕は、搭乗ワイヤーに足を引っ掛けるとコックピットからマーラの所まで下りた。
「あんたは大丈夫? 無事なの?」
「うん」
「それにしても、一体何なのアレ?」と、マーラが視線を移動させる。
視線の先には大破した敵機と、大破したネクロマンサーが倒れていた。
「アレって?」
「だから何であんたの機体があそこにもあるのよ?」
「ああ、アレは立体映像みたいなもんだよ」
「でも、あの
マーラは、実物のネクロマンサーと立体映像で再現されたネクロマンサーを見比べた。
「
「でも、いつの間にフェイクと入れ替わったのよ。 ライフルスコープであんた達を見ていたけど全然気付かなかったわよ。 私、あんたが
「僕がマーラに援護射撃を頼んだ直後ぐらいかな。 マーラも敵も、そのせいで僕から一瞬、注意がそれたんじゃないのかな」
「あんた、それ狙ってやったんでしょ」 マーラは、上着の胸ポケットから煙草とライターを取り出すと、真っ赤なクチビルで煙草を軽くはさみ、火をつけた。
「偶然だよ」と、僕はマーラの真っ赤なクチビルの奥から紫煙がくゆるのを見つめながら答えた。
「偶然……ね。
しばらくすると、何処ともからとなく数機の大型輸送ヘリコプターのプロペラ音が聞こえてきた。
そのせいか、大きなクチバシの渡り鳥達は、まだ食べ終えていないのか、名残惜しそうに大きな翼を広げると、太陽の見えない夕闇の空へと飛びたっていった。
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