レーダーには、つかまっていなかった。

 つまりは、レーダー範囲外からの狙撃。  

 そんな長距離狙撃でクマガイのソリッド・ギアの頭部に見事命中させ破壊した。 それほど精密な狙撃力と破壊力。  一体どんな兵器なのだろうか?

 向かいの席に着くマーラが紫煙をくゆらせ、グラスに入った残り少ない赤ワインをゴクリと飲みほした。

 「飲めないの?」

 「いや、飲めるよ」  僕は、テーブルの上に置かれているウィスキーのはいったグラスを手に取り、ゴクリと飲みほした。  喉が焼けるような感じがした。

 あの時、クマガイもこんな思いをしたのだろうか。

 何故だろう、あの時クマガイに誘われたからだろうか。  任務終了後、基地に戻ると、どちらからともなく僕とマーラは町へと出向く事にした。

 初めて来た町だ。  石造りの家々、細い路地。  野良猫に野良犬だろうか、穏やかな目をしているから飼われているのかもしれない。  表通りに面した建物には様々な鉄製の看板が掲げられている。  靴屋、洋服屋、家具屋、理髪店、飲食店、酒屋。

 その並びにあったジャズバーへと入った。 

 ジャズバーの店内は煙草の煙が充満していて、まるで霧の中にいるみたいだ。

 あの時、クマガイもこんな思いをしたのだろうか。

 小さな舞台ではピアノ、ベース、トランペット、ドラムによるバンド形式でジャズシンガーが歌っていた。

 「で、大佐にはなんて報告したの?」

 「正直に報告したよ」

 「ふぅ~ん」  マーラは、あまり興味なさげに舞台を見つめながら返事をした。

 クマガイのソリッド・ギヤが狙撃された直後、僕は、すぐさまヴィジョンデコイ幻影の囮のシステムをON、レーダーを確認、レッドマーカーの反応なし、アサルトライフルのセーフティロックを解除、構え、周囲を警戒。  マーラは運搬車を岩陰にまで誘導。  被弾したクマガイのソリッド・ギアは頭部から胸部にかけて融解し火花を上げていた。  そして膝から崩れ落ちた。

 「クマガイ無事か?」  僕は呼びかけた。

 通話マイクからの返答はない、ノイズだけが聞こえてくる。

 「クマガイ応答してくれ!」 

 返事はない。  気を失っているのだろうか。

 いまだレーダーにレッドマーカーの反応なし。

 僕はサブマシンガンを構えながら周囲を警戒する。

 通信マイクからノイズ以外の何かが聞こえた。

 「クマガイ無事か?」  僕は呼びかける。

 「……た…す………くれ」

 クマガイのソリッド・ギアからは炎が上がりはじめている。

 「クマガイ脱出しろ、ソイツはもう駄目だ」

 「…た…たすけて……くれ!!」

 「コックピットポッドごと射出しろ!!  燃料に引火するぞ!!」

 「ダ、ダメだ!!  何回やっても作動しないんだ、助けてくれ!!  中にまで火――」

 通信が途絶える。

 僕は、黒煙を上げながら燃え盛るクマガイのソリッド・ギアに近づき、コックピッド付近の装甲をはがして救出しようと試みた。

 先程の被弾で装甲とフレームが融解して変形している、だからコックピットの強制射出ができなかったんだ。

 たちまちクマガイのソリッド・ギアが爆発、炎上。  僕は、たまらず一歩、二歩と下がる。

 通信マイクから声と壁を叩きつけるような音が聞こえた。

 「い、いやだぁ!!  だれかぁ、たすけてぇ!!  火、火が、熱い、燃える、燃えちまうよぅ!!  熱い熱い熱い!!  ぎゃぁぁぁぁーーーー!!!!」

 僕は、クマガイが搭乗しているコックピットに銃口をむける。 

 そして、僕はトリガーを引いた。


 

 

 

 

 

 



 

    

   

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る