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「うわぁ、めずらしい、紙の本なんて博物館でしか見た事ないわ。 一体何を読んでるの?」
休日の午後、僕は自室のベッドに腰を下ろして本を読んでいた。 マーラが僕の部屋の扉をノックもせずに入って来たのは本を読みだしてから何時間たった頃だろうか。
「夢みる騎士の話かな」
「おもしろいの?」
「う~ん、まだよく分からないな。 ほら、あれを見てみて」と、僕は窓の外を指差す。 窓からは丘が見えて、その丘には廃れた風車が何基も立っていた。
「風車? あれが何?」
「この物語では、あんな風車がでてくるんだ。 風車を怪物と思い込んだ騎士は戦いを挑むんだけれど、あっけなくやられちゃうんだ」
「ふ~ん、気が狂っているのね。 その騎士」
「ああ、でもね、なんか共感できる部分もあるんだ。 たまに思わないかい、実感できていないだけで実はこの世界は夢なんじゃないかって。 死ぬまで目が覚めない夢みたいな世界なんじゃないのかって」
「別に。 仮にこの世界が夢だろうがなんだろうが、私からしたらどうでもいい事よ、だってそうでしょ。 現に今ここにいるんだから、それが全てよ、考えるだけ無駄なのよ、そんなの。 ほんと男ってそんなくだらない事ばっか夢想しているわよね。 女はね、現実しか見ないのよ」
「そんなのつまらないじゃないか。 じゃ、僕は男に生まれて良かったな」
「私は、つまらない女に生まれて良かったわよ」
僕とマーラは目も合わさずに笑いあった。
「それより、僕に何か用があって来たんじゃないのかい」
「そうそう、そうだったわ。 クマガイを
「そうなんだ」
「あら、興味なさげね」
「いや、そんなことないよ」
「あんた表情が乏しいから、いまいち感情が分かりづらいのよね」
「で、一体誰なんだい?」
「正確には奴じゃなくて組織。 バベルっていう名のカルト教団らしいわ」
「カルト教団? そういえばクマガイが言っていたな、独自の思想をもった奴らと小競り合いをやっているって」
「もう、そんなレベルじゃないわよ。 クマガイが
「でも、僕達は軍人だろ。 そういうのは他の機関の仕事じゃないのかい?」 「私もまだ、詳しい情報は聞いていないけれど、一国の軍隊と
「でも、奴等の目的って一体何なんだろう?」
「さぁね、気が狂った連中の考える事なんて私達には理解できないわ。 私達は、ただ上からの命令に従うだけよ」
「うん、そうだね」と、僕は手に持っている本の表紙に目をおとした。
僕もいつか、この物語に登場する騎士のように真実を知って絶望する時が来るのだろうか。
その時、僕は――
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