春の快メール(12)

 土曜日、僕は戸塚と一緒にライトマーケット松見店のある街道に立っていた。ここから街道を背にしてまっすぐ歩けば安藤さんの住む松見ハイツにぶつかる。

 時間はもうすぐ午後1時。来週には5月に入ることもあって日差しが強く、半そででも充分なくらいの陽気だった。

「ホントにここにいればわかるの?」

戸塚の不安そうな声が尋ねる。木曜日の放課後、僕は戸塚に「例のメールの件、多分わかった」と言うと「誰がやったの?」とか「なんでそんなことしたの?」とすごい勢いで浴びせかけてきたが

「今はまだ確実なことが言えないから、土曜日の昼ちょっと付き合ってくれ」

とだけ言った。もちろん「なんで?」としつこく聞いてきたが「理由が知りたければきてくれ」の一点張りで押し切った。戸塚に教えなかったのは別に出し惜しみしているわけではなく、これまで知りえた状況証拠を元にひとつの可能性を導いたというだけで確信は全くない。僕としては事前によけいなことは伝えず、本人を交えながら事の真相を戸塚と一緒に確かめたいと考えたのだ。

「安藤さんには言ったの?」

「何も言ってない」

「じゃ、今日一緒にきてもらえばよかったじゃない」

「オレの予想が正しければ、今は安藤さんはいないほうがいいと思うんだ」

「予想って……。じゃ、間違っている可能性もあるってこと!」

「……ああ」

 戸塚は明らかにへきへきとした様子で大きなため息をついた。12時30分過ぎから待っているわけだから30分近く立ちっぱなしということになる。何も知らされていない戸塚はさぞうんざりしていることだろう。きっとイライラしているに違いない。

「いつまでここに立っていればいいのよ!」

「1時過ぎくらいまで」

「本当にここにくるんでしょうね」

「……多分」

「多分って……。じゃ、こないかもしれないの!」

「……そのときはまた別の方法を考える」

「もぉー!!」

 戸塚が切れかかったとき、キィーっという金属音が響き「こんにちは」と聞こえてきた。戸塚は弾かれたように声のほうに向かい「あ!」ともらしたかと思うと、すぐに「こんにちは」と返した。

「戸塚さんと沢木くん……だよね。どうしたのこんなところで?」

「ちょっと聞きたいことがあって」と僕が言うと数秒の間があり

「……私に?」

と少々怪しむような口調で言った。僕はすかさず

「安藤さんにメールを送っていたのは岡島さんだったんですね」

と僕は断言した。隣にいる戸塚は一言も言わずにただ黙って突っ立っているだけだった。

 僕は岡島さんがどういう反応をするか静かに待っていた。すると

「ねえ、喉渇いてない?」

と言い出した。予想外の反応にどう答えていいのか躊躇していると

「すぐ傍に小さな児童公園があるの。立ち話もなんだから、そこで……。缶ジュースくらいならおごるわよ」

「捕まって」と岡島さんが言うと、戸塚が「後ろからついて行きます」と言ったので、岡島さんは自転車を押しながら前を歩き、その後ろを僕たち2人がついて行った。

 児童公園で木陰のベンチを見つけた僕たちは腰を下ろし、先ほど岡島さんが買ってくれた缶コーヒーのプルタグを開けた。

「よくわかったね。やっぱり沢木くんって頭いいんだ」

一息つくと岡島さんはそんなことを言った。僕は自分の立てた推理を説明するため、頭の中を整理しながら少しずつ話し始めた。

「安藤さんにライトマーケット松見店のお買い得情報をメールで送るためには、まず松見店の広告と安藤さんのメールアドレスを手に入れなければならないんですよ。まず広告ですけど、これは松見店が独自に作っているもので、主にこの近所に住んでいる人のおうちに新聞の折り込みチラシとして提供されてます」

「なるほど」と岡島さん。

「でも直接お店に行けばサービスカウンターに同じ広告が置いてあります。これなら近所の人だけではなく来店した人全てが広告を手に入れることができます」

「……ちょっと待って。だとしたら岡島さんは毎日ここまできたってこと? だって岡島さんは平日は授産所で働いているはずよ」

戸塚が質問した。

「うん。オレも最初は全然思いつかなかったけど、2つの情報を合わせると岡島さんが毎日松見店に立ち寄って授産所に通勤することは不可能なことじゃないんだよ」

「2つの情報?」

「たまたま知ったんだけど、今日ジョギング部は練習会をしているんだ。9時30分に学校に集合して練習場所まで歩いて行くんだけど、その練習場所っていうのが岸根公園なんだよ。ここは神奈川区で岸根公園は港北区、区がまたがると遠いような気がするけど、岸根公園は港北区の端っこにあって神奈川区に隣接している。実際、うちの学校から歩いて30分もあれば行けるらしい。もうひとつは、この間商店街で会ったとき、授産所では交通費が出ないから自転車通勤していると言っていたこと……」

「そっか、あのとき岡島さんは岸根公園の近くに住んでいるって言っていたよね。徒歩で30分ってことは、自転車使えばもっと早く楽に行ける……」

戸塚は目の前の霧が晴れたような快活な声音で、自分に言い聞かせるよう一言一言確かめるように言った。

「それに松見店は東横線の妙蓮寺駅が最寄駅だ。岡島さんが働いている授産所は東白楽駅、妙蓮寺駅からたった2駅先。お仕事が11時からってことを踏まえても、時間的に難しいことはないと思ったんだ」

「それならこういうこと?」と戸塚は僕の説明を元に推理を組み立てた。

「岡島さんは自宅から自転車に乗って一度ライトマーケット松見店に行き、そこで今日のお買い得情報が載っている広告をもって行く。そして……授産所にあるパソコンで送信した……ってこと?」

最後のほうはかなり自信なさそうだったので、僕は助け舟を出すつもりで

「岡島さんは食事介助をしているって言ってましたが、もしかしたらお昼休みがずれているんじゃないですか?」

との僕の問いかけに「ご明答」と岡島さんは言い

「利用者の方たちのお昼休みは12時から1時間なの。その時間は私が食事の介助をしたり見守りしているから私のお昼休みは13時からなのよ」

「それに……」と僕は戸塚のほうを向いて

「戸塚は授産所のパソコンから送ったと推理したけど、オレはパソコンじゃなくて岡島さんの携帯電話から送信したと思うよ」

「え! だって安藤さんからメール見せてもらったけど、あれって携帯電話のメルアドじゃなくて普通のフリーメールだったよ」

との戸塚の反論を聞きながら

「いいかい。安藤さんのところに送られていたメールアドレスは大手検索エンジンが提供しているフリーメールだ。このフリーメールは登録さえしてしまえば自分の携帯電話からも送信することができるようになるんだよ。もちろん表示されるメールアドレスはフリーメールのままでね」

「でも、なんで携帯電話から送っているってわかったの?」

「あのフリーメールはちょっと前からメール末尾の広告が表示されなくなったんだ。でも、理由はよくわからないけど、携帯電話から送信すると末尾に広告が表示される。安藤さんに送られたメールには広告が表示されていた。ちょっと前に広告表示がなくなったって聞いたことがあったから何となく違和感があって調べたらそういうことだったんだよ」

「うちの授産所にはパソコンが2・3台しかなくて、いつも正職員の人が使っているの。私的なことで勝手に使うわけにはいかないから私の携帯電話から……」

 僕はここで一息つき、手の中で弄んでいる缶コーヒーの空き缶を見つめるような格好で

「安藤さんのメールアドレスの件ですけど、これは本人から聞きました。安藤さんの自宅にはタワー型のデスクトップパソコンがあった。晴眼者なら説明書を見ながら配線を繋いで組み立てることができるけど、僕たちがたった一人でやるにはちょっと難しい。組み立てたとしてもスクリーンリーダーをインストールしなければ何も作業できないし、インターネットに接続するためにはプロバイダーから郵送されてくるIDやパスワードを確認する必要がある。安藤さんの場合も、きっと誰かに頼んで組み立ててもらったり、インターネットの接続設定をしてもらったと思ったんです。手伝った人がいればその人は安藤さんのメールアドレスがわかりますからね」

「それを岡島さんが……」

戸塚の意見に僕は黙って頷いた。

 そして僕はゆっくりと岡島さんのほうに向かって

「今説明したとおり、安藤さんにメールを送っていたのは岡島さんだということまではわかりました。でも、どう考えてもわからないことがあるんです。……なんでこんなことしたんですか?」

岡島さんは何も答えず、ほんの数秒僕たちの間に少々気まずい沈黙が流れた。そして

「2人はどう思った?」

と岡島さんから逆に聞かれた。僕たちが答えるのに躊躇していると

「突然名乗りもしないで近所のスーパーのお買い得情報をメールで伝えるなんて変なことする人だなって思わなかった?」

「いえ」と僕は即座に否定し

「変とは思いませんが、ちょっと回りくどいかなって……」

「私は不器用な親切だなって……」

戸塚が言った。

「回りくどいに不器用か。確かにそうだよね、決してスマートなやり方じゃないし、かえって安藤さんや君たちを困らせてしまったわね、……ごめんなさい」

「いいえ、そんなことないです」と戸塚は慌てて

「この前安藤さん言ってました。不振なところはあるけど、あのメールみたいなささやかな援助のほうが助かるって」

「そう」と岡島さんはか細い声で呟き

「ガイドヘルパーをはじめホームヘルパーや手話通訳みたいに1対1で利用者にサービスを提供するお仕事で大切なことのひとつはね、お互いのプライベートに踏み込むような個人的な関係を結んではいけないってのがあるの」

か細いがしっかりした口調で話す岡島さんに向かって僕は黙って耳を傾けた。

「つまりね、例えばガイドヘルパーなら視覚障害者を目的地まで誘導したりお買い物を手伝ったり外出先で書類を読んだりと、一見簡単なことしているって思われがちだけど、誘導するときは相手の速度に合わせたり、自分だけじゃなくて段差や障害物はないかって相手の足元や正面にも気を配らないとならないし、お買い物するときだって相手がどんな物を希望しているかきちんと理解しないといけないし、書類の読み上げだって書いてあることをただ読めばいいってもんじゃなくて、相手が知りたいことを把握して必要な部分を的確に見つけたり、ときには要点をまとめて説明しなければならないの。だって、本来なら自分自身の力で確認しないと気が済まないのが人間なのに、それを他人に委ねなければならないんだもん。地味な仕事だけど責任は大きいし、相手から信頼されなければ成り立たない仕事なのよ」

僕は目からうろこが落ちるような思いだった。福祉の仕事に興味をもっている人が多いようだが、ガイドヘルパーなら誘導するだけ、ホームヘルパーなら調理や掃除をするだけと、特別な知識や技術を必要とせず誰にでもすぐできると思われがちだが、それは仕事の内容そのものであって、実際は僕たち身体障害者のニーズに応じたサービスを提供することが重要なのだ。果たして今福祉の仕事に携わっている人の中で、岡島さんのような意識をもって働いている人はどれくらいいるのだろう。

「だから私たちはきちんと研修を受けて資格もらったし、実際にこれでお金いただいているんだから、誰がなんと言おうとプロの仕事なの。プロならば利用者が誰であれ、わけ隔てなく平等なサービスを提供しなければならないし、個人的な感情をもつことは許されないの。……君たちの前でこんなこと言うのは失礼になるけど、障害をもっている人は私のような健常者と比べればどうしてもできないことはあるし、誰かを頼らなければならない場面がたくさんあると思うの。仕事柄いろんな立場の障害者と接することがあるけど、どんなに『力になってあげたい』って気持ちがあっても、それは単なる私個人の感情だし、見方によっては単なる私のエゴに過ぎないのかもしれない。ガイドヘルパーって立場で、気持ちや感情だけでガイドヘルパーの仕事以上のことをしてしまうと、それは利用者の生活そのものに首を突っ込むことになるし、時と場合によってはトラブルの原因にも成りかねないの」

「でも、それは福祉に携わる人の倫理みたいなもので、必ずしも自分の感情を押し殺せるものでもないですよね……」

突然戸塚が詰め寄るような調子で言い放ったので、岡島さんは虚をつかれたように一瞬言葉を失った。僕はやや険悪な雰囲気を感じ思わず体を縮めてしまったが、岡島さんはそのまま話しを続けた。

「安藤さんと知り合ったのは今から2ヶ月くらい前、彼がガイドヘルプを横浜ライトハウスに初めて依頼してきたときだったわ。横浜ライトハウスに登録しているガイドヘルパーって比較的専業主婦の方が多いから、土日って依頼を受けられる人がとても少ないの。私は土日は特に決まった予定を入れてないから自然と安藤さん担当みたいになっちゃって……。一番最初の依頼は『パソコンを買いに行きたい』ってことだったから、一緒に横浜まで行って、いろんなお店回って、そこそこ性能がよくてリーズナブルなもの買って……。翌週には届いていたんだけど、安藤さんが言うにはお母さんはこういうの苦手というし、高校時代の友達も忙しくて月末にならないとこられないと聞いて、ちょっとでしゃばっちゃったけど組み立てるの手伝ったの。安藤さんものすごく喜んでいてすごく嬉しかった。その後プロバイダーから郵送された契約書を読んでほしいと言われたんだけど、安藤さんどうやって設定したらいいのかわからなくて困っているみたいだったから、これも私が手伝ったの。沢木くんの言うとおり、このときメールアドレスを知ったの。でも、そのときは別にこれを使ってどうこうなんてことは全然考えなかったわ」

缶コーヒーで喉を潤すためか、岡島さんは一息つき、そのまま缶をベンチの上にコトリと置いた。

「ガイドヘルプしているときって歩きながら利用者の方といろんな雑談するんだけど、ある日安藤さんのほうから高校生の頃のこととか失明した経緯について話してくれたの……」

本人のいないところで安藤さんの個人的な話をするのに躊躇したのだろう。岡島さんは言ってもいいものかとちょっと口篭もったが、「オレ知ってます、安藤さんから聞きました」と僕は言った。何も知らない戸塚が「なんのこと?」と不安そうに尋ねてきたので、岡島さんの話を理解するためには必要だろうと判断し、僕のほうから安藤さんが高校生の頃お父さんが亡くなって大学進学を諦めたこと、交通事故で失明したこと、引きこもっていたが施設に入って訓練を受けてきたことなどをかいつまんで話した。

「そうだったんですか……」

僕の話が終わると戸塚は胸をつかれたような掠れた声で言った。

「たくさんの視覚障害者と接してきて、安藤さんのように失明した経緯や身の上話をする人はわりといるのよ。中には何年経ってもなかなか立ち直れなかったり、もちろんその人のせいじゃないんだけど、障害をもったことで考え方が屈折してしまった人もいるの。安藤さんの場合、家庭の事情で進学を諦めなければならなかったり、うまくいっていた職場も失明したことで退社せざるをえなくなったり……。僅か20歳そこそこで挫折を味わったり心の傷も受けてきたわ。まだまだ割り切れないことはたくさんあると思うんだけど、彼なりの方法で気持ちを整理して、今のままでも自立した生活が送れるよう、生活訓練を受けたり、理療科で勉強して、鍼灸師として働きたいって意欲に感銘を受けて……。それに彼自身いつも朗らかで、どんなにつらい思いしていても決して捻くれることなく、私にも気を使ってくれる。そういう誠実な姿に……とても惹かれて、この人のためにもっと力になりたいって……本気で思っちゃったんだよね」

「それで例のメールを」と僕。

「ほら、商店街で君たちと会ったときに一人でお買い物するのは厳しいって話をしていたじゃない。あれ聞いて思ったの。安藤さんがあまりお金にゆとりがないってことは知っていたから、私がいないときでも経済的に効率よくお買い物できるようにと思ってね……」

急に岡島さんはふふっと苦笑しながら

「でも、今思えば君たちの言うとおり回りくどくて不器用なやり方だったよね。しかも、偶然知ったメールアドレスを黙って使っちゃったんだから、私はガイドヘルパー失格なんだろうね……」

「そんなことありません!」

戸塚は勢い込んで岡島さんに言い放った。あっけに取られているような岡島さんにはおかまいなく

「好きな人を助けてあげたいって気持ちは、自分がガイドヘルパーだからとか、相手が利用者だからなんて全然関係ないです! 一人の人間として当たり前の感情だと思います。……そういう気持ちをもってくれる人がいるから……私たちのような障害者も明るく元気に生きていけるんです。だから……」

最後はほとんど叫ぶような口調だった。はっとしたのか戸塚は急にしぼんだ風船のようになって「……ごめんなさい……。少し言い方がきつくなっちゃって」と小声で付け足した。

「でも私思うんです。いくら全盲で一人暮らししているからってインターネットのIDやパスワードを他人に読んでもらうのは抵抗があるはずです。人によってはメール覗いたり悪用するかもしれないし……。ガイドヘルパーなら大切な書類を代読する機会はたくさんあるだろうから岡島さんにとっては何でもないことかもしれないけど、さっき岡島さんがおっしゃったように信頼がなければ絶対にお願いできません。きっと安藤さんは岡島さんのこと信頼しているはずだし……。それに……私は岡島さんにはもっと素直な気持ちを安藤さんにぶつけてほしいと思っているんです」

戸塚の言葉に岡島さんは「えっ……」と呟き、そのまま力なく

「それは……無理よ」

と呟いた。すると戸塚は先ほどのような感情的な口調になり

「お仕事には守らなければならないルールやモラルがあって、決められたとおりにしないとトラブルや混乱の原因になることはわかっているつもりです! ……でも、そんなルールやモラルじゃどうしても割り切れないことはたくさんあるはずなんです。私は……私はそんなことで素直な気持ちを押し殺してしまうのはおかしいと思っているんです!」

 戸塚の説得するような訴えが終わると、僕たちの間にまた沈黙が流れた。僕は何て言えばいいのかうまい言葉が見つからず、ただ黙ってもじもじと手の中の空き缶をもて遊ぶことしかできなかった。

「もうお互い話すことはないみたいね……」

と岡島さんは僕の手から空き缶をすっと抜き取り

「戸塚さんも空みたいだからちょうだい、私捨ててくるから」

と立ち上がりゴミを捨てに行ってしまった。残された僕と戸塚は何も言えず、ただ黙ってじっと座っていた。

 「行きましょうか」

と岡島さんが言い、僕と戸塚はベンチから立ち上がった。そして僕たちはきたときと同じように自転車を押す岡島さんの後ろにつき、お互い何もしゃべらずにもくもくと歩いた。

「ここが君たちと出合った交差点。この道を点字ブロックに沿って真っ直ぐ行けば学校のほうにいけるわ。あとは大丈夫?」

との問いかけに僕だけ「はい」と答えた。

「そう。じゃ私ここで失礼するね。……迷惑かけてごめんね……。……ありがと」

岡島さんは自転車に乗って走り去ってしまった。残された僕と戸塚はしばらくの間ただその場に立ち尽くしていた。

「……私、岡島さんに失礼なこと言っちゃったかな……」

と戸塚が独り言のように呟いたので、僕はすかさず

「失礼じゃないと思うよ。でも、ちょっと岡島さんを困らせちゃったかもしれない……」

戸塚は何も答えず、ただ細く長いため息をついた。(続)

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