3-4 舞台裏の休憩

「姐さん、こんなとこでホントに大丈夫なんすかねぇ?」


 チャコは訝しげに辺りを見回しながらそう言った。


「ええ。あの女のおかげでドワインだけでなくこの町中の男がドワインの屋敷に集まってくれているもの」


 サンディはけろりとそう言い、衣装やの壁に寄りかかった。

 彼女が言ったように、町を行き交う人々は圧倒的に少なく、ドワインの手下なぞは見当たりもしない。

 それもこれも先に捉えたベルマニュの拷問・・の見物に行っている次第だ。場合によってはそんな見物をしている下っ端も拷問・・させてもらえるかもしれないからだ。要するに死肉をあさる禿鷹と同じだ。


「ホント、えげつねぇですよ、姐さん」

「使えるものは使う。それに、あの女は馬鹿じゃない。自分が何者かをばらせば死ぬという事を分かっているでしょう。それに、本当のことを言っても彼女的にはまずいでしょ。何せ雇い主を売ることになるのだから。そんな事はプライドの高いあの貴族のお嬢様が死んでもしない事でしょうからね」

「……で、いつからアイツが見張ってるって知ってたんです?」

「いつからって。最初からよ。もっとも、あの女がいるとはアナタの報告を聞くまで知らなかったけれども、誰かしらをこちらの見張りに寄こすことは想像するにたやすかった」

「じゃあ、誰が来ようとこうするつもりで?」

「まあ。もっとも、あの女が来てくれたから多少は余裕ができたのだけれどもね。ほら、耳を貸しなさい」


 サンディはそう言い、チャコの耳元でこれからの計画を囁いた。


「女の件は察してましたが、よりにもよってダイナマイトですかい?」

「ドワインの武器庫をあさればあるでしょう。なければ火薬。最悪の場合は油でも可」

「兎に角、燃やすんですね」


 サンディは「ビンゴ」と上機嫌に親指を立てた。


「ホント、ダイナマイトで痛い目を見たのは誰でしたっけ?」

「それはそれ。アナタのクソったれの従妹にはそのうち最上級の復讐をくれてやる予定よ」

「そりゃいい。そんときゃ呼んでくださいよ。久しぶりにアイツの顔見てみてぇや」

「アナタ私の言った事理解していないでしょう。遠まわしに殺すと言いましてよ?」


 チャコは肩を竦めおどけて見せる。


「冗談でしょ。それこそ矛盾ってやつですぜ。お互いぶつかったところで死にっこねえって」


 サンディは頭を抱え、溜息を落とした。


「兎に角。アナタにやってもらう事は言いましてよ」

「任されましたっての」


 チャコはにこりとそう言うと、ぶかぶかの袖口から素早く取り出したナイフで口元の髭をなぞって見せた。


「決行は今夜で良いんっすよね?」

「ええ」

「ホント、酷い奴だよ、アンタは……」

「賛辞の言葉と受け取っておくわ」


 彼女はにこやかにそう言い、教会を見上げるのであった。

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