第四章
4-1 氷は高価なお楽しみ
朝陽が眩しく彼女は目を細めた。
とはいえ、常に細めている目を細めたと言えるかどうかは定かではない、と我がことながらしみじみ思うエンジェル・アイであった。
ゴールドシティはここいらでは大きな町だ。
砂漠のクーロンシティ。赤土のゴールドシティといわれる程度には僻地のオアシスといったところ。
その名の通り山の麓にあり、多くの先住民集落に隣接しているため、一般人はあまり近寄らない。そのため、この周辺の先住民は既に政府によって移住か排除されていることをほとんどの人間は知っていないのだ。
故に、秘められたる政の采配などがここで取り決められたりしている、知る人ぞ知る秘匿の町である。
その秘匿に係わる人物は政治家であったり、有力な企業の会長であったりするため、町は秘境にもかかわらず先進的な成りをしていた。
その恩恵として、彼女は朝陽が昇る地平を眺めながら、酒場のテラスで優雅にアイスティーでのどを潤した。
白色のテーブルクロスにガラスのグラスを置くと、からんと大玉の氷が琥珀の液体の中で踊って見せる。
もうすぐ時間なのだけれども……来ないのかしらね。
エンジェル・アイは金鎖に繋がれた懐中時計をベストのポケットから取り出し、時間を確認した。
残り十分。
来ない、か……。ま、期待していなかったって言うと嘘になるけれども、そのことを予期していなかったかって言うとそうでもないのよね。
彼女が指を弾くと、足早に軍服の男が側に駆け寄り、敬礼をしてみせた。
「そういうの、オフのときはいらないのよ。飽くまでこれは休暇、そうでしょう?」
兵は「はあ」と困惑した様子で頷き返した。
何を言っているんだこの女は、そう言う顔ね。無理もないわ。何も教えていないのですもの。分かれと言うのが無理のある話ですわ。
彼女は微笑み、時計をポケットにしまうと、代わりに四つ折りにされた羊皮紙を一枚取り出した。
「これを電報で連邦裁判所のコートニー・E・ホワイトに伝えて。一文一句打ち漏らさずにね」
人差し指を掲げ、彼女は顔に張り付けた笑みを見せつけた。
でもね、何も分からなくていいのよ。
彼女は走り去る兵士の背中を眺めながらそう思う。
思い通りに動いてもらうのに、余計な感情は必要ないもの。駒は無知であるべきなの。
彼女が再びアイスティーに口を付けた時である。
視界の中に一つの影が浮かび上がる。
「ストップ」
彼女は立ち上がると、自分が走らせた兵士を呼び止めた。
「その紙、今そこで燃やしなさい」
そう言う、エンジェル・アイの視線の先に、リタとウィルの乗った馬車がゴールドシティまでの坂道を登ってきている姿が在った。
「待ちくたびれたわよ……」
彼女がぼそりとそう言うと、彼女の隣に複数人ならんでいた兵士がどよめいた。
「何か?」
彼女が尋ねると、兵士の一人が訝しげな表情で返した。
「お言葉ですが、その……何が来たのですか?」
彼女は「ああ」と微笑み──常に微笑んでいるのだが、この瞬間ばかりは心底本当の意味で微笑んでいた──人差し指を上げた。
「そうよね、まだ視えていないのよね、貴方たちには」
兵士はその答えに首を傾げる。
彼女が凄腕の狙撃手であるという事を知らないのだ。
そう、ここの兵士たちは彼女の兵ではない。この町の警備に当たっている僻地の雑兵である。
まあ、そう言う奴らの方が使い捨てには楽なのだけれどもね。
彼女は嫌な笑みを浮かべ彼らを見やった。
彼らは軍のお偉いさんを歓迎しているだけに過ぎない。もちろん、彼女はオフで来ているので、これは公の行事ではない。そう、ここで何が起ころうとも、それは軍のあずかり知らない事、そう言う訳である。
我ながら、自分は
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