3-11 痛む体は生きてる証拠

 ウィルは何が起こったのかをしっかりと目に焼き付けた。

 ロナスのサンダラーはダブルアクションだ。銃身は短く、それでいて引き金を引き絞るだけで銃弾は発せられる。

 もちろん、それは利点だ。問題はその引き金が重いという事。

 引き金は銃の内部で撃鉄を引っ張らなければならず、非常に強力なばねを用いているため、重さに力み、銃口は少なからずぶれる。

 ロナスはそれを見越したうえで端から銃口の向く先に余裕を持たせ、弾丸が発射されるという寸前で狙いを定めるという手法を用いていた。これは、ロナスの腕を間近で見たというのと、リタの動きから推測したところによるものだ。

 一方のリタはシングルアクション。あの銃には改造を施しているが、この勝負を分けたのは、どうにもホルスターによるところが大きいとウィルは思っていた。

 ウィルはホルスターの全面をこれでもかと削っており、留め具がなかければ下手をすれば落下しかねないほど。そのため、銃口は遊ぶこと無く真っすぐに標的を狙う。

 故に───、理解していた。勝者がどちらであるということを。


「痛ってぇーーーー!」


 叫び声とともに、リタが飛び上がった。

 そう、勝ったのはリタだ。

 ウィルは微笑むと、リタの方に歩み寄った。

 リタは肩を押さえてのたうちまわる。大げさなだけで、傷の方はむき出しの左肩を弾がかすめただけ、軽傷だ。


「まともな服を着ないからだ」


 ウィルはそう言って地面に座り込むリタに手を差し伸べた。


「ほら、立てるか?」


 リタは座り込んだ状態で、しばらくウィルの手を見た後、上目づかいに瞳を覗き込んだ。

 その仕草に一瞬ウィルはたじろいだが、すぐさま差し出された手を掴んで立ち上がった。


「ひでえ顔だな」


 立ち上がりざまにリタがぼそっと言う。


「お前も変わらねえよ」


 ウィルがそう言うと、二人は向きあって鼻で笑いあい、リタは腰のベルトをはずしてウィルにかえした。


「……ありがとよ」

「お互い様だろ」


 ウィルのこの言葉は、処刑されかけた時に助けてくれたことの礼を言おうかとも思っていたのだが、それはどうにも気恥しく、諸々の感情を込めてこうして短い言葉として集約された結果だ。

 その言葉によせやいといった具合で照れくさそうに手で言葉を払い、リタは足元のライトニングを拾い上げると、ロナスの方に視線を移した。

 弾は彼の心臓を貫いたようで、胸元に花でも添えたかのように、鮮やかに花弁を広げている。


「死体、持ってかなきゃな」

「だな」


 リタはゆっくりとロナスに近づき、その手からサンダラーを取ると、しばらく見つめた後に、ぽいと宙に浮かせて投げるや、すさまじい速さでライトニングを抜き出し、宙のサンダラーに向けて連射した。

 サンダラーは数発の銃弾をその身に受け、空中で四つほどの小さな塊と化し、クズ鉄になって地面に落ちた。


「おい、良いのか?」

「いいさ」


 ライトニングをホルスターに戻し、そう言ったリタは、何処かすがすがしい顔つきだ──もっとも、顔は腫れあがっていて表情なんて分かりはしないんだが……きっとそう言う顔をしていたんだと、ウィルは思った。


「さ、行くぜ。最後の一仕事仕上げねえとな!」

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