第3話 伊織

部屋に戻ると晴樹と清ちゃんが

ベッドで寝ていた

「清ちゃん寝た?」

「おー」

晴樹は古文の教科書をめくりながら

清ちゃんの背中をトントン叩いていた

「今日は久しぶりに伊織が

泊まりに来たから

ハシャギまくったな」

「いつぶりかな?

冬休みに亮介達と泊まったよね?

相変わらず清ちゃんも小春ちゃんも

本当に可愛いなぁ」

こう言うのを 愛らしい というのかな

ぐっすり眠っている愛らしい頬の曲線

細くて柔らかい髪の毛が頬にかかる

「俺より茶色いな」

「ん?清人?生まれた時は

もっと茶色かったけど段々黒くなってるな」

「へ〜」

「そういえば清人も髪伸びたな 日曜に切るか」

「晴樹が切るんだ?」

「おー清人も小春もまだ俺が切ってる」

「春子さんは?」

「あいつにまかせたら悲惨な事になるなぁ」

「あ〜うちと一緒」

「朝起きないだろうから

伊織は明日清人のオモチャ確定な」

「ん?」

「明日 清人は保育所休ませる」

「あ〜分かった…

ドライヤー 洗面所に行こうかな」

「ドライヤーくらいじゃ起きねーぞ」

「うん でも」

「俺も今のうち風呂入るか」

「清ちゃん1人で大丈夫?」

「あぁ 壁側寄せてるから大丈夫だろ」



鏡に向かってドライヤーをかけていたら

パタパタと足音がしてガラッと扉が開いた

振り返ると春子さんだった

「あらっ 伊織君いらっしゃい」

バシャンと湯船の音がする

「春子さん…お邪魔してます」

「いいのよ〜ゴメンね遅くなって

清人がうるさくしたでしょ?」

「清ちゃんいつも通り可愛いかったですよ

今 晴樹のベットで寝てます」

「ありがとう 晴樹は?」

「風呂です」

春子さんは躊躇せずに浴室のドアを開けた

「ただいまぁ」

「ばっ 開けんな」

「はいはい ご飯いただきまーす」

悪びれもせず春子さんは去って行った

「春子さん最強だね」

「だろっ ダメージ半端ねぇからな」

「湯船に逃げて見られてないだろ」

「お前母親に見られて平気なんかよ」

「ん〜どうだろ? 平気かな?」

「なんだそれ」

「風呂なんて絶対入ってこないしなぁ」

「それが普通だろ」

「春子さんにそう言えば?」

「言ったけど聞かね〜んだよ あいつ」

あははは〜と笑いとばす春子さんが想像できる

「じゃ仕方ないね」

「おまえ…」

晴樹 眉間にシワだな

「部屋行くね〜」

「笑ってんじゃね〜」

「あははは〜」


いつもは机に向かうはずの晴樹が

今日はベットに寝転んで教科書を眺めている

「なーお前いつ勉強してんだよ」

ベットの横に敷いて貰った布団に

寝転んだまま考えた

「ん〜朝起きて?」

「朝から余裕だな」

「最近早く目が覚めるから」

「何時?」

「ん〜3時?」

「普通もいっ回寝るだろ 何時に寝てんだ?」

「…ひみつ」

ゴソゴソと鞄から本を取り出す

「それ面白いのかよ」

「うん入門編だから 分かりやすいよ 」

「ふ〜ん」

「量子って小さい粒だけど

小さ過ぎて物質を素通りしちゃうんだって

全部そうなのかな〜? 」

「ノーベル賞とか獲っちゃうヤツ?」

「そ〜 しかも小さすぎる量子は

普段は光のような波の性質なのに

センサーとかで観測すると

砂つぶと同じように粒の性質の

フリするんだって」

「ん?フリをするのか?」

「そう 見られてるってわかるんだって」

「何でそれがわかるんだ?」

「実験で」

ガツッ

「いてっ」

晴樹の左手が教科書を持ったまま

ダラリと垂れ下がる

「最近こいつ寝相悪いんだよ」

「最近?」

「デカくなったから破壊力ハンパねーうっ…」

清ちゃんの踵が伊織の脇腹に乗った

可愛い足の裏が見えている

教科書を手放した左手が髪を梳いてくる

「…髪…伸びたな」

「そお?」

「邪魔じゃね?」

「ん〜別に」

「…実験…どんなんだ…量子の」

「波は互いに干渉するから

山と山がぶつかると濃くなって

山と谷がぶつかると打ち消し合って薄くなる

センサー付けないと波の性質の形が出るのに

調べようとしてセンサー付けると

お互いが干渉しない形になるんだ」

「センサーから出てるヤツとか関係なく?」

センサーから出てるヤツ?

電磁波とかかな?

「ん?うん 」

「本当に見られてるってわかんのかな?」

「どうかな あと1つの量子を2つに分けて

1つが見られたって分かると

もう1つも見られたって分かるんだって…

どんなに離れてても 完全に 同時に」

「完全に同時…双子みたいだな」

「うん 世界は分からない事だらけだ」

「…面白いな」

「うん」

晴樹の指が髪から離れると

教科書を拾い上げ机の上に置いた

「晴人寝かせてくる」

「んっ」

こんなに晴樹ベッタリなのに

起きた時は春子さんが横にいないと

大泣きらしい

ドアを押さえ 清ちゃんを抱えた晴樹を見る

「晴樹 背伸びたね」

「あー…去年よりな…」



「いおちゃんの方が伸びたでしょ?」

小春ちゃんが携帯片手に立っていた

「そうかな?」

「うん 最近急に伸びた」

「計ってみようかな」

小春ちゃんはドアの裏に寄りかかった

「晴ちゃん最近元気ないの

いおちゃん何か知ってる?」

「…わかんない」

「そっかぁ 最近ぼーっとしてるんだぁ」

「そうかなぁ?

あんまぼーっとしてる晴樹見た事ないかも」

「そっかぁ 恋かなぁ」

「えっ…ない…と思うけど」

「ちっ じゃただの勉強のし過ぎだね」

小春ちゃんの可愛らしい舌打ちに

思わず吹き出した

「こらーそろそろ寝ろ」

布団を抱えて晴樹が戻ってきた

「小春も早く寝ないとお肌にひびくぞー」

「男子高校生が小さい事にこだわらないのっ」

「日々の積み重ねが未来の小春を作るんだぞ」

「そうだけどっ 今日はいいのっ 特別っ」

「はいはい おやすみ〜また明日〜」

ドアを閉めると羽毛布団をバサリと下ろした

「寒かったらこれも使え」

「いいの?」

「もう 使ってないからな」

「ありがとう」

「読み終わったら電気消せよ」

晴樹はガーゼの肌掛けにくるまる

「伊織は明日用事は?」

「あー夕方 市立図書館に本返しに行く」

「んーおやすみ」

「おやすみ」

厚手の毛布に羽毛布団を掛け それでも足の冷たさは取れず膝を胸に寄せて本を読む

スゲーなパワー と晴樹の声がした

「晴樹?」

「なんでもねー おやすみ」


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