第2話 晴樹

ガチャッと玄関を開けたら

リビングに続くドアもガチャりと開いた

「晴ちゃん〜

なんでおむかえ晴ちゃんじゃないの〜?」

バタバタ駆けて来た清人を

ヒョイと抱き上げ リビングに向かう

「金曜だからな」

「きんよ〜キライ」

「はいはい」

「あー いおちゃん あそぼっ」

「ん〜清ちゃん遊ぼう」

「なにしてあそぶ?」

「何しようか?清ちゃん何が言いい?」

「小春ただいま

あと代わるから宿題しろ」

「おかえりー

いおちゃん!久しぶりー清人よろしく〜」

「はいはい小春ちゃん宿題頑張って」

「はーい」

「伊織 今日鍋だけど食ってく?」

「ん〜帰る〜」

背を向けて遊び始めた伊織の顔は見えなかった



「みてみて いおちゃん

ここが〜はねで〜ここが〜くつ」

「かっこいいね〜ロボット?」

「サンタイいるの まだサイショだから イッタイ

…すすんだら 飛べるようになる」

「すすんだら?」

「すすんだら」

清人がガチャガチャとブロックを漁る音が響く

「晴樹〜 あれ何設定?」

「あ〜清人オリジナルだから

適当に合わせといて」

「へ〜 に しても 清ちゃん設定

結構ちゃんとしてる」

「アニメとかゲームとかめっちゃ見てるからな

ゼルダとか1人でやってるの見るとビビる

…最近の4才児スゲーよ」

「… 何その枯れ発言」

「うっせ〜」

「ブーン…

さて どうやって〜飛んでるでしょう?」

「ん?」

「いち〜ふしぎなツバサ〜

に〜まほうのツバサ〜

さん〜かいふくするヤツ〜

あ〜カイフクのツバサ〜」

「ブッ」

伊織の肩が揺れている

「ん〜魔法の翼?」

「ピンポ〜ン」

見なくても清人の満足そうな笑顔が浮かぶ

「4歳児の三択面白いな〜ほぼ二択だけど」

「だいたい正解にしてくれるし

しかもだいたい二番目が正解

…間違えたら教えてくれるし」

「優しいな」

「ん〜無邪気だな」

リビングダイニングに湯の沸騰する音と

無邪気な声が響く

「もんだい〜これはナンで たってるでしょ?」 「ん〜〜〜?静ちゃん〜ヒント〜」

「ん〜オがつく」

「お〜?…おもちゃ?」

「ちげ〜よ おしろ」

「グフッ…それ晴樹の口癖じゃん

しかも意味がわかんない」

「なにが〜?」

「お城か〜そっか〜」



ある程度段取り付いて

ふと気付くと

リビングが静かになっていた

「何やってん…だぁ」

ソファーとローテーブルの間で

寝転んでいる伊織と

その腹の上で寝ている清人

「よくその隙間で寝れるなぁ

制服にヨダレ垂らされっぞ〜」

清人の口の下にタオルを挟み

伊織の顔に掛かった前髪を払う

伊織の髪は亮さんが切ってた

最後に切って貰ったのは冬休みか?

年明けからバタバタしてるって言ってたし

だいぶ伸びてるし

指が額に触れるとヒンヤリした

亮さんの就職が決まったくらいから

伊織の体温は下がり始めた

冬は異様に寒がってたな

首元を触ってみる

36°C…ないくらいか

「もう少し寝かせとくか」

汗ばんだ清人の額を拭い

伊織の足元にブランケットをかけた



「あー清人寝てるー」

「清人 起こして」

「はーい」

と 小春が可愛らしく返事をした

「清人〜朝ですよ〜

清ちゃん〜お〜き〜て〜」

いやいや朝じゃないし

心で突っ込む

「伊織どーすっかなぁ」

「起きないね いおちゃん」

清人を抱えた小春は

ご飯を餌に清人を起こした

「最近あんま寝れてないっぽい」

「じゃぁ 拉致ろう」

「可愛い女子中学生が

拉致る とか言うな」

「じゃ〜王子様には

お目々がトロけるまで

お眠り頂きましょう」

「…伊織は王子か?」

「王子度上がったよね?

モテてるでしょ?」

「お兄ちゃんは?」

「お兄ちゃんは

イツモドオリカッコイイヨ」

「はいはい」

「お兄ちゃん 今!写メって」

「ん?」

「ヨダレ垂らした いおちゃん」

小春はLINEに上げといて〜とクスクス笑った



「伊織?どーする?帰るなら送ってく」

「ん〜?む〜り〜」

上半身をソファに伏せた伊織が

目を開けずに答える

「何が?」

「…」

「いおちゃん泊まっていきなよ」

鍋をつつきながら小春が口を挟む

携帯がブッと着信を知らせた

小春から 拉致ろう!とLINEが入ってる

「それがいいよ いおちゃん」

清人が椅子の上に立ち上がる

「清人 座れ 危ない」

大人しく座るが

晴ちゃんといおちゃんとねる〜と騒ぎだした

「静かに食べろ〜

今日はママが帰ってくるからママと寝ろ〜」

伊織がパチリと目だけ開けた

「晴樹がママって言った」

ブッ

「伊織うるさい 泊まるなら家に電話しろ」

ブッ

「あ〜もうこんな時間だ どうしようかなぁ」

ブッ

「どっちでもいいから一度家に電話入れろ

今日おばさん 家にいるんだろ」

ブッ

「ううん また出張行ったよ」

ブッ

「あっそ じゃ取り敢えず飯食え」

ブッブッブッ

「…うん…」

ブッ

「小春 食事中に携帯いじんなっ」

伊織はノソノソと起き上がりテーブルについた

「いおちゃん お鍋よそうね」

「きよもっ ブタと〜トウフと〜ブタ」

「じゃあ清ちゃんのは俺がよそうね

豚と豆腐しかないね えいっ」

「あ〜いおちゃん キノコいれたっ いらない」

「この白いキノコ美味しいんだよ」

「いらない いおちゃんたべてっ」

「あー小春ちゃん俺ネギいらない」

「2人ともうるさい 黙って食え」

伊織がネギを俺の碗に入れ

清人がシメジを伊織の碗に入れる

「真似するだろっ 子供かっ」

伊織と清人は満足そうに微笑み合った


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