第3話 罪とか罰とか

4限目の授業が終わり、教室内の緊張きんちょうが一気にゆるまった。


僕達3年生はそろそろ受験が近づきつつあり、学校の一つ一つの授業も独特の緊張感きんちょうかんがある。

本来ほんらいなら、受験一つにクラス全体がそういった雰囲気ふんいきにのみこまれることなどあまりないはずだ。


だが、うちの学校は一応いちおう進学校らしいので、生徒はもちろん、先生の方も受験に対する熱意はおどろくほどすごい。


僕はそんな雰囲気が窮屈きゅうくつに感じていた。

ただでさえ、学校以外の時間は勉強や予備校の授業にあてられるのに、学校にいる時くらい、休ませてもらいたい。

そういうことで、僕は学校の授業中は基本的に睡眠学習すいみんがくしゅうてっしている。


起きるとちょうど、起立、礼をしているところだった。いつもなら、このまま昼休みに突入するはずなのだが…


神村かみむらくーん?」


授業が終わると同時に現代文の岩本いわもとがこちらに歩みよってきた。

にこにこと笑いながら、友達に遊びを誘うような口調くちょうだった。


まずい…

すごく嫌な予感がする。本能が逃げろと指示している。

僕はそれに従い、気づかないふりをしてすぐに席を立ち、教室を出ようとした。


「はいはい、ちょっと待て。すぐに終わる」


僕の2倍以上はあるような腕で肩をがっちり掴まれてしまった。


「なんすか?ちょっと急いでるんすけど」


冷や汗をかきながら、懸命に作り笑いをみせた。


掴まれた肩は全く動きがとれない。

こいつ、現代文じゃなくて体育の教師だろと本気で考えてしまう。


「神村、最近受験勉強じゅけんべんきょうやらなんやらで、疲れてないか?」


「そうっすね〜大変です」


あははと笑みを崩さず、なんとか相手に話を合わせる。

ここでしくったら、この現代文教師に多分│われるだろう。

岩本も満面の笑みでうんうんとうなずく。ちょっとしたホラーだ。


「そうだよな〜、疲れるよな。毎日毎日、やること一緒だもんな〜」


体育もとい、現代文教師はひとり言のように言った。

もうちょいで終わるかな、と少し期待して僕も、そうなんですよねとか、大変なんですよと、あいづちを打ってチャンスをうかがった。


「そこでな、お前日頃ちゃんと模試でも結果だしてるし、流石に授業中くらい多めにみてやろうと思ってな…」


お、いい感じじゃん!さすが人の心を読みとく専門家だな。

もうそろそろで終わりそうだ。


「お前は代わりに、このプリントやってろ」


そう言って置かれたのはA4プリントの束だった。


「……は?」


「毎日、大問2つずつでいいから、終わり次第、俺のとこ持ってこい。採点してやるよ」


「えーと…」


「話はそれだけだ。じゃ、頑張れよ。先生も期待してるぞ」


そう言って、肩をバシッと叩かれさっさと教室を出てしまった。

残ったのは何枚あるかわからないほどのA4のプリント…

昼休みでざわめく教室に一人たそがれてる自分がいた。

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十年恋 あるもりのぞう @arumorinozo

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