夢の星でチューロスを(7)

『……このほどサバティカルを取り、シカンタザ星に移住し、自分を見つめなおそうとしています。今までセルフ・カウンセリングには重要性を感じていませんでしたが、こういうパワーを感じる場所で、人生の新たなステージに踏み出したという感覚は悪くありません。会社を一度離れてみるのもいい経験ですね、なんといっても人生は一度きりですから。近々またお会いしたらランチでもいかがですか。 アトル・ルカン』


 メッセージを読み終わると、センはそれをすぐスパム報告した後メッセージボックスから削除した。


 先日のマススレーブ星でのロボットの反乱を鎮圧に対抗したエリアマネージャーの言葉は、哲学的攻撃に対する防御策が取られていなかったロボットと人間を一撃で葬った。ロボットのほうはOSを再インストールして人格ファイルをバックアップからコピーし再起動で問題は解決したのだが、人間のほうはそうはいかなかった。あのときエリアマネージャーの言葉を聞いた人間の内、七十三パーセントはいまだに社内カウンセリングとメンタルトレーニングを受けているし、十九パーセントは病院のベッドの上だった。アトルはまだましな方だったが、長い休暇をとって哲学的ダメージを回復する必要があるという診断で、マススレーブ星から帰るとすぐ航宙船のチケットを取って行ってしまった。しかし先程のメッセージから判断するに、センとしては残念なことだが、回復期もそろそろ終わりのころだろう。


「哲学的攻撃はかなり効果的です。特に現代のような、生きるスピードより世の中のスピードのほうが早いような時代においてはね。ただし、悟った人間と、あまりに愚かな人間――地球人など――には効かないという欠点がありますがね」


 周囲のありとあらゆるロボットと人間が地面に沈んだ後、エリアマネージャーはそう言った。外に出ても、見渡す限り無事なのはセンとエリアマネージャー、それとセンサーを塞がれていたTY-ROUだけだった。


 ロボットの再起動や人員の入れ替えに伴い、チューロスの正式な調理人員が見つかったとのことで、センとTY-ROUはバファロール星に戻ってくることができた。第四書類室のシュレッダーロボットたちもOSを再インストールされ、以前と変わらない状態に戻った。生産手段や共同所有や革命については口にしなくなったし、センのデスクは片隅のほうに戻った。


 ただし今回の事故で、ロボット管理業務のマニュアルには新たな一ページが追加された。そのマニュアルに従い、一日の仕事を終えて戻ってきたロボットたちを集め、センは本を開いた。


「えーと、今日のお話。今日は『ジェニーツィンの一日』の七十ページ目……強制労働所での労働の様子からね」

「やったー」

「わーい、体制の矛盾が現れてるー」

「共産主義の労働力の源泉となっている強制労働だー」


 新しいマニュアルによる読み聞かせにより、ロボットたちは生産手段だの共同所有だの革命だのについて口にしなくなり、よりせっせと働くようになった。読み聞かせながら、センは何だか自分が大事なことから遠ざけられたような気がしていたが、それが何なのかはさっぱりわからなかった。

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