再開は突然に
「さてと……」
駅前へとやってきた訳だが……。
「見当もつかねえや……」
爺は鬼尻の感覚で駅前とだけ言ったんだろうが、ここ、鬼腹部の駅は全くと言っていいほど、あのど田舎の駅とは違う。
「見つけられる気が全くせん……」
まず、無人ではない……。それどころか、鬼我島ほぼ全ての電車が集まるため、駅の規模も桁違いだ。
出入り口だけでも大まかに分けて4つはあり、細かいの合わせると最早迷路だ。俺でも全ては把握し切れてない。
「つうか……無理だろ……」
そして、極めつけは……人の多さだ。会社やバイト先へ向かうため急いて歩くスーツ姿の男性や女性に、にーちゃんやねーちゃん。山にでも向かうのだろうリュックを背負っ爺さん婆さんの団体。サボって遊びに来たのだろう、他校の男女混合集団やチャラ男同士ギャル同士のイケイケ3、4人組。噴水の広場でベンチに座り人や街を眺めているいつもの爺さんや、下を向き頭を抱えている絶望感溢れる若者。普通に歩いてるだけなのに男前過ぎる外国人男性や綺麗過ぎる外国人女性。小汚い格好で寝たり、タバコをふかしている駅の主っぽい人達に建物の影に引っ込んだり出てきたりしてるフードで顔を隠した怪しい人物。……と、まー上げればキリが無いくらいに人でごった返している。
「…………」
こんな中で、爺一人を何の頼りも無く探すのなんて無理すぎる……。ってことで、爺の携帯に何度も電話し何コールも鳴らしているのに。
「出ねえな……」
まさか、追われてるのがマジで、もう捕まっちまったんだろうか?
「くそっ……」
と、悪態ついちまうのももう5回目くらいか……。さっきからずっと“電話くそ”のループだ。
「…………」
このループから俺は抜け出せるのだろうか……。下手したら、一生駅でこうやって電話くそやる羽目になるんじゃねえのか……。そして、いつの間にか名物”電話くそ”になり、世界最長電話くそ記録を更新し、死して数年、銅像が建つんだ。銅像の台に刻まれた名はもちろん……。
「忠人電話くそ……」
なに考えてんだろうな……俺。
「はぁ…………」
終わらないらしい歌も聴き終わるんだ。んなことあるわけねえ……よな。
「Um...Excuse me?」
案外、こんなこと考えてたら終わったりするかも知れないじゃないか。
「Onigasimagakuen―――Oh! yes! yes!......Station?...Back?...Oh Back! HAHAHA」
そうだよ。爺も馬鹿じゃねえんだから、ああやって外人さんみたい道を聞いたりするよな。俺が探しまくってやる必要はねえんだ。奴はここへ一回来てるし。そんな、馬鹿みたいに迷子になることはねえだろ。
「Go straight?...Okay! Thank you for your help! Thank you! Thank you very much!」
凄い感謝してるなぁ……。よっぽど困ってたんだろう。ギターケースなんかを担いだ今風の若者っぽいけど、礼儀正しいいい奴じゃないか。全く関係ないんだけど、あんなに感謝してるの見るとこっちまでよっかたなぁって祝福してあげたくなる。
「Byebye-! Thank you!...」
すごいね。まだ、お礼言ってるよ。相手はもう、自分の方へ見向きもせず歩いていってるのに、まだ手を振ってるし。
「一体、どこの国の人なんだろ……」
なんだか、気になり、彼がふり返るのを待っていると……。
「いやぁ~助かった助かったぁ」
と、普通に日本語を喋ったのにも驚いたのだが……。
「あっ」
俺の顔を見て、驚いた顔をした坊主頭の顔にも更に驚き、気が付けば俺は叫んでいた。
「何してんだ爺ぃいいいいいいいいいいいいいっ!!」
だが、当の爺は……。
「おっす、俺爺。久しぶり」
右手を上げて軽く挨拶を返してきただけなので、俺の怒りは更に膨れ上がる。
「おっすじゃねえ! なに急に来てんだよ! なんなんだよあの電話! なんで英語で道聞いてんだ!!」
よくよく考えたら、道聞いてた人、見るからに観光に来たっぽい白人男性じゃねえか!!
「いやぁ、やっぱ外人って親切だわ。わりと早く、お前の学校への道のりわかったぞ」
「いや、馬鹿かっ! 日本人に聞いたらその何十倍の速さで道のりわかるだろうが!!」
こいつ、久々に会うけど、やっぱりやることなすこと本気で意味わからねえ!!
「ま、そんなこといいじゃないか。とりあえず行くぞ」
「いや、よくないだろ! 全っ然!」
と、否定するが、爺はまあまあと肩を組んでくると、声を抑えてこんな事を言ってくる。
「いいからいいから。とりあえずこの状態見られるのも、あれだろ?」
「そ、それは……」
腹が立つが、爺が言わんとしていることも、確かだ。
今の俺と爺が並んだ状態を同じ学校の―――特に、知り合いには見られたらなにかとややこしい……。
「くそっ……。わかったよ」
渋々同意してやると、爺はそれで言いとばかりに笑顔で頷き、共に俺が住むアパートへ向かうことにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます