通話後、ムロイ化しなきゃいけない時もある。
鬼我島中心部、鬼腹辺(おにふくべ)市、鬼腹辺駅構内。
“鬼腹辺~鬼腹辺です”
停車と共にアナウンスが流れ、左側のドアが一斉に開くと我先にと大勢の人がホームに降りていく。
「いや~凄いね……」
流石は鬼腹辺。鬼我島で一番栄えてる街なだけはある。
「人がゴミのようだ……」
未だに知られていない土地や秘境等が数多くある鬼我島では、一番の田舎とされる鬼尻(おにじり)から、一番の都会へとされる土地に来ると、駅へ着ただけでもう大勢の人にうんざりする。
「帰ろうかな……」
なんて、ごった返している改札を見てつぶやいてしまうくらいだ。
「いや、そんなんではいかん。いかんよなっ。爺さん」
「はぁっ? なんじゃっ?」
腰が曲がり杖を頼りにしながらも隣を果敢に歩くこの爺だって、目的遂行の為に遠路はるばるやってきているんだ。俺も負けて入られんよな。
「爺の底力をとくと見よってな」
「誰なんじゃ? お前さん知り合いだったかの?」
というか、せっかく来てやってるのにあいつは迎えにも来ないのか?
ほんと近頃の若者じゃないか。ったく。
「やっぱ、あれだな爺さん。孫であろうがなかろうが、なっていない若者は一発かましてやらないといけないよな」
「お、おぉ……。で、お前さん誰―――」
ほら、やっぱり同意見だよ。爺はわかってる奴が多いんだ。
「まあ、そんなことだろうと思って刀も持ってきたんだ。ギターケースに入れて持ち歩くとか考えたもんだろ?」
「か、刀っ……。お、お前さん、それに刀入っとるかぇっ?」
よし、じゃあ行くか。来るのは二回目だけどまあ道覚えてんだろ。
「ありがとな爺さん。少し不安だったんだが大分紛れた。俺はやるぞっ」
人ごみに負けてたまるかってんだ。
「お、おまわりさんっ。こやつっ、こやつっ!」
おお、じいさんもテンション上がってきたようだな。いいじゃないか。これからは爺の時代だ。
「ふぁ~~……」
超眠いな……。
「今日、むっちゃ欠伸するやん。ていうか、お前何着てるん? それ」
恋ちゃんとの会話後、教室に戻る気にもなれず、ずっと奥上で過ごしていたら昼食タイムのゴリラ、ロピアン、寝子の三人と会い、そのまま流れで一緒に飯を食っている。わけだが……。
「ふぁああぁぁぁ……」
噛むという行為より欠伸の数の方が多い。つうか、菓子パン袋からだしてさえもいねえ……。
「いや、今日むっちゃ欠伸するやんて。つうか、何着てんねんて、それ」
「あぁ……? あぁ……。むっちゃ眠いんよな、今日」
なんか変な疲れ方したのかもしれないな、昨日は。
「なんか最近忙しいみたいやもんな。ていうか、それなんなん? マント?」
「そうだな。ほんと“なんか”忙しいんだよな」
どう忙しいとは言いにくいが、忙しいのは確かだ。
「なんか忙しいて、なんなん? ていうか、なんやねんそれ。袖ありの新しいマントなん?」
「いや、自分でもわからないんだよな。とりあえずなんか終わらないんだよ。一件目の依頼が」
確かに中島から貰った依頼は難しいもんだとは思ったけど、こんなわけわからない方へいくなんて想像もしなかったからな。
「えっ、ちょっと待って。まだ一件目の依頼なん? そのマントは意味あるん?」
「ああ。一件目の依頼……」
いや、待てよ。中島の依頼自体はもう終わってるとも言えるよな……?
え、じゃあ、今の俺は何のため誰のために何をしているの? 依頼者は誰っ……?
「あ、あぁぁ……」
言い知れぬ恐怖感が襲ってくる……。
「あの、百太郎君はさ……わかってて、ゴリラ君の質問無視してるのかな……?」
ロピアンが控えめにそんなことを言ってきた。
「無視? 無視なんかして―――」
否定しようとした瞬間、ポケットの中で携帯が盛大に振動して存在をアピールし始めたのでロピアンにすまんと手で合図を送り、すぐさま携帯を操作し耳に当てた。
『わし、わし、わしだけど』
「…………」
いや、わかるよ、声で。でも……。
「爺さん……金でもぶんどる気かよ……」
爺を使った新手の詐欺みたいじゃないか。
『そうっ、爺さんだ。いや、今大変なことになっててさっ』
「ちょっと待て爺っ! 本当に詐欺マニュアルみたいになってるから!」
自分の爺か不安になるだろうが!
『はぁ? 詐欺マニュアル? いや、そんなことはどうでもいいんだよっ。マジでなんかやばいんだっ。爺ピ~~ンチ』
いや、完全ふざけてるよな……。なんなんだよ最後のテンションの違い……。
「なにがやばいんだ? あんたの頭がとしか思えないんだけど……」
『いや、なんか警察が追ってくるんだっ』
はっ……? 警察?
「いや“なんか”で警察は追ってこないだろ、普通。そんな、なんとなくで動いてたら警察官、何百万人居ても足らんぞ」
『違うんだって! マジなんだって! あっ、やばっ……駅の近くに居るからとりあえず来てっ』
そこで通話が切れ、耳にはツーツーという機械音だけが響く。
「ぅ……ふぅう……ん……」
「ど、どうしたんだい? なんか問題……かな?」
通話が終わっても尚、目をギュッと瞑り、微かに唸っていたのでそう思ったのだろう。
ロピアンが不安そうな顔を向けてきたので……。
「行くしか、ないようだ……」
質問には答えずそれだけ返して立ち上がり……。
「んんー……」
俺は歩を早め向かう事にした……。
「あおしまぁっ……」
現場で起きているだろう、事件の元へ……。
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