幼馴染は・・・頑固で馬鹿でした
「っ……うん……」
微かな風に……暖かい日差し……。
「ふぅ……うん……」
そして……なんだろう……? 絶妙な柔らかさの……枕……?
「うう~~んっ……」
なんにせよ心地が良くて伸びをしてしまうくらいだ……。
「ふふっ。お触り合わせて5万4000円ってとこですかね」
高っ……!? いや、確かに左手や腕に何かしら沢山の柔らか感触はあったけども……。
ていうか、誰? なにをお触り? どうなってんの今?
「おはようございますぅ~。朝専用の恋です」
…………。
「おはようございます……」
何故こうなってるのかはわからない……が、今どういう状況なのかはわかった……。
「左のぉ~、まあ、微妙ではありますがお尻としてぇ~。あと左脇腹と腰のおさわりと膝枕ですね」
だよな……見上げてる感じそうだわ……。
「29万7800円になります」
ぬぅぅぅぅぅぅっ……!?
「いやいやちょっと待てお前っ! 5万4000円じゃねえのかよ! どっから後の24万3800百円出てきたんだ! 馬鹿っ!」
5万4000円もどうかと思うが20万越えは更にどうかしてるだろ! 詐欺るのもギリギリ払える金額でやるもんなんだぞ!
「迷惑代ってとこですよぉ~。私言いましたよねぇ~。操っている人間が居るとぉ~」
「うっ……それは……」
いつものニコニコ顔だけどなんか怖い……。
「何故百ちゃんに言ったかも、百ちゃんは賢いからわかりますよねぇ~」
「え、えっと……それは……」
なんだろう……。少し時間があればわかりそうなんだけど、今は考え付かない……。
「大まかに言えば、あの時唯一影響を受けていなかったのとぉ~。気をつけるようにってことですよねぇ~」
「あ、あぁ……」
そういうことか。ハチャメチャやってきても、そこは幼馴染。優しい奴なんだな。
「なのにぃ……」
言いながら恋ちゃんはめいいっぱい顔を近づけてくる。
「てめぇ……なに操られてんだ……。あぁ?」
長い時間共に過ごしてきたが、こんなの初めてと言えるほどのドスの効いた声でそう仰った……。
「いや、その……ごめ―――」
「ごめんなさいじゃねんだよ……。なんで、一番ノリノリでベンチ担いでたんだって聞いてんだ……こっちはよぉ……」
くっそっ……怖すぎるっ……。こんなに威圧感ある膝枕なんか初めてだ……。
「うっ……?」
つうか、いつの間にかTシャツの胸ぐら掴まれてるしっ……。
この為に膝枕したっていうのかっ……逃げださないようにっ……。
「そもそも、なんだこれは……。てめえ何着てんだよ。ナメてんのか? あぁ?」
襟と袖と背中だけ残ったシャツを指して恋ちゃんは言う。
「いや……決してナメてはいません。ただ……隠れ筋肉質の人に、綺麗に前だけ破られまして……」
ま、まあ、でも、破られたとはいえ、麗奈先生は悪くない。
でも、俺が悪いんだとも言いたくない……言いたくないんだっ。
すまない麗奈先生っ。今の恋ちゃん怖いっ!
「前だけ破られた? てめえやっぱナメてるだろ? な? はっきり言うてみ。ナメてます、と。実はわしのこれも、本気で怒ってるわけやなくて、いつものノリやと思ってます、と。な? ほらっ」
「いや、思ってないし、言えるわけ―――」
と、必死に拒否しようとしたまさにその時だった。
「その通りだにゃん」
鼻先が触れんばかりの位置で恋ちゃんは満面な笑みを浮かべた。
「えっ……あ、ああ……」
そうか……また騙されたのか……。
「オー……マイッ……ガァ……ン……」
安堵と共になんとも形容し難い気分になり両手で顔を覆う。
「でも、怒っているのは本当なんですよ。もうっ」
そう言い、頭を退けろといわんばかりに恋ちゃんが足をもぞもぞ動かすので、一旦頭を浮かしてから再び地面に頭を降ろす。
「硬い……やっぱ全然違うな」
まあ、眺めはいいんだけども。
「パンチラもなんで、129万7800円ですね」
なっ……。
「い、一回100万かよっ! とんでもないぞお前っ!」
幼馴染がちょっと見ない内に守銭奴になっているなんて……。
地球の回転の速さが恐ろしくて悲しくて俺は……。
「そんなことより百ちゃん」
「うみゅにゅん……。ん?」
盛大な欠伸をかましたと同時に名を呼ばれたので、滲んだよくわからない世界のその辺に居るだろう恋ちゃんへと顔を向ける。
「明日の放課後から戦いを始めます。覚悟してくださいね」
「ふぁっ?」
てっきり操ってる奴の話をすると思ってたので間抜けな声が出てしまう。
「ちょっ、ちょっと、待ってくれよ。こんなよくわからん状態なのに同時進行でそんなよくわからん戦いもするわけ?」
ただでさえカオスな状態になりやすいというのに、更にややこしくするというのか?
いきつくとこはどうなる? 活気よく棺桶をわっしょい担ぎで宮入か?
「違う。違うよ、エロソン君。君はなにもわかっちゃいない。本当パンツしか見えてない」
「いや、何もわかっちゃいない事は、ないだろぉ……」
まあ、パンツしか見えてないのは認めるけどさ。
「まあいい。じゃあ、何がわかってないというのか是非聞かせてくださいよ。ミズターマ・ホームズ」
可愛いの穿きやがって。
「なに、簡単なことさ。こんなよくわからん状態なのに同時進行うんすかかんとか君は言ったが……」
「言ったが……?」
「そもそもが間違い。恋の大戦争の方が先。意味のわからない混沌は、昨日の夕方にちょろっと毛が生えたようなものだ」
「え……。先か後かってだけの……話?」
まじかよこいつ……。ただの頑固……?
「いや、あのさ、どっちが後か先とかじゃなくて、何すんのか知らないけど明らかにややこしいことになるの目に見えてるのに、何故、その恋の大戦争とかいうのすんのって俺は言いたいんだよ。わかる? ミズターマ」
なんでも出来る割には、やっぱこの子結構アホなんじゃないか?
「馬鹿にしてるね? 馬鹿にしたね? き、み、は、ば、か、に、し、た、ね?」
何回聞くんだよっ。やっぱ、こいつも結構本物だ。
「ミズターマ、ミズターマ。いいか? よく聞いてくれ。俺は馬鹿にしたんじゃなくて、馬鹿だと思ってる。正直」
ここまではっきり言えてしまう相手ってそんなに居ないぞ、普通。どっかで賢いとことかあるもんだ。
「いいでしょう。そこまで言われたら私も黙ってはいられない止まらない」
いや、そこまでもなにも、普段から黙ってねえけどな……。つうかこいつのせいでややこしくなってるし。
「まず、戦いの内容はこうだ……」
戦いの内容説明しだしちゃったよ……と、凄く思ったが、ちゃちゃを入れず聞いてやった内容を要約すると……。明日の放課後から数日間、恋ちゃん、麗奈先生、中島、アリスとその他、俺に何かしらの感情を抱いている人間を刺客に送ってくるらしく、その時その時で内容が違う勝負をしなきゃいけないらしい……。
「なんともめんどくさい……」
そして、勝てばよいが負ければ相手の言うことを聞かないといけないらしい……。
「俺に何のメリットがあるんだ……」
そもそも、そんな勝負受けないといけない理由もないじゃないか……。
「いいんですよ? 逃げても」
そうそう……大体、逃がさない自信ある奴はこういうこと言うんだよな……。わかっててさ。
ほんと、捕まえられる自信100%からの余裕の笑みで言うんだ……。
俺としてもこいつの超人っぷりと恐怖は嫌というほど知ってるし、そんなことまずしないのも分かった上でさ、聞いてきてんだよ。
「拒否権は……?」
ただ、一応聞いてみた。でも……。
「無いですね。抗う権利は多少ありますが、ねじ伏せますしね」
やっぱりと言うべきか、ニコニコでそう返されるだけだった。
「ものすごい不本意だけど、まあ、それはわかったとして……」
もう一つの問題なわけだが……。
「なんの話だったっけ?」
繋がりが見出せなさ過ぎて、わけわからないので恋ちゃんへ素直に聞くことにした。
「簡単に言えばですね~。百ちゃんにとっても一石二鳥でしょ?ってことなんです」
ん……? 何を言ってるんだろう?
「損しか見当たらないのだが……」
「そんなことはありませんよ。勝つしかないですが、勝ち進めば勝ち進むほど、いいとこ見せれますよ~」
いや、そもそも勝負なんかしたくない……。
「恐らくそういう場面でこそ、混沌はやってきますからね~。犯人捕まえれますよ~」
いや、是非そういう捕まえるとかいう役割は他の人間に委託したい……。
「あと、勝ったら、年相応にスケベなご褒美なんかも強請れますよ~」
それは……ちょっといい……。特に先生とか……いいかも……。
「いや、ちょっと待ってくれ。やっぱり、どう考えても嫌だし、どう考えても俺あんまり関係ない」
恋ちゃんが実行犯ってことぐらいしか関わりが無さ過ぎるっ。
混沌に至っては急になんか始まったことであってまったく無関係だ。
「そうでもないんですよね~……これが」
「はっ? いや、流石にそれは騙されないぞっ」
少なく見積もっても、8割お前の気まぐれと悪戯心じゃないかっ!
「百ちゃん……」
急に真面目くさった顔で恋ちゃんが肩に手を置いてくる……が、騙されんぞっ。今度こそは。
「これは冗談ではなく、本当に本当の話なんですが……」
本当を二回使っても……だ、騙されないぞ。
「この混沌……というか悪戯好きはね……」
悪戯好き……?
「百ちゃんのお爺ちゃんの家に居た“モノ”ですよ」
爺の……家……?
「ちょ、ちょっと待てよ、なんだよそれ。つうか、そうだとして、お前が何故知ってるっ」
爺の家に居た悪戯好きが入学して来て悪戯してるって意味がわからねえしっ。
それこそ混沌としてるじゃないか、色んな意味で。
「子供の頃に聞いたと思うんですけどね~……」
そんな話……聞いた覚えなんか……ないはず。
「私もうろ覚えですからね……これは、もう一度、お爺ちゃんに聞いてみたほうがいいと……思います」
「そんな……嘘だろ……?」
ニッコリもなく、いたたまれない様な顔してるのは……。
「マジ、なのか……?」
“嘘に決まってマッスル”
なんて恋ちゃんがニッコリする確立が限りなく0%に近いとわかっていても、近いというだけで0%ということではない。例え0.1%くらいだろうが残ってるならそれに賭けたいと思ってしまう。
「ええ……本当です」
そんな考えこそが馬鹿げていて、本当は0.1%も残っていないこともわかっていたのに……な……。
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