中庭スリーピン
「わっしょい、わっしょいっ」
胸が高鳴るとはこのことか。
「わっしょい、わっしょい」
今はもう中庭の中心部だ。桜の木を右折し白くてでっけえ建物に突入かましてやりゃぁ、ティンティン神とご対面。……楽勝じゃねえかっ!
「わっしょ~いわっしょ~い」
「わっしょい!ぅわっしょいっ!」
御輿が先ほどよりも更に強く、跳ねるように上下し始める。
「二人もウキウキボンバーなんだなっ!」
背後の二人にそう問う。
「ボンバーだよぉ!」
「全員集合ってとこだなっ!」
聞くまでも無かったみたいだな。健康的な汗を流しながら輝いた笑顔を向けてきやがる。
眩しい事、この上ねえな。
「おっしゃぁあああっ!」
先頭切ってる以上は俺も負けていられんと、さらに気合を居れ、掛け声を大きく、そして力強く、歩を速める。
「わっしょいわっしょいっ!」
「わっしょいっ!わっしょいっ!」
ふふっ……中庭もさぞ楽しんでるようだな。俺たちの声を響き渡らせてやがるぜ。
「本、名、わからないっ!」
「ティンティン神っ!」
「呼んだら怒るよっ!」
「ティンティン神っ!」
桜の木が近くなってきたな。ラストスパートだ。
「朝から起つのはっ!」
「ティンティン神っ!」
よっしゃ、どん突き。華麗に右折して特殊棟に突入だ。
「スタァァァァーーーップ!」
歩を止めると、後ろの二人もピタッと止まる。
「方向転換! 目指すは特殊棟!」
続いてそう声を掛けて身体を右側へ向けると、布丸と麗奈先生が素早く俺の背後になるよう左側に移動する。
「うむっ! では出発!」
華麗なる方向転換が終了したのを確認してから、再び前進する。
その行動、時間にして2秒だ。これを華麗といわずして何という?
「はいはぁ~い。そろそろ、おやすみだよぉ~」
なに……? おやすみ……だと……?
「おい、どっちだ! おやすみとかいったの!」
これから突入というところで、何故睡眠前の挨拶を口にする必要があるっ!?
「返事としておかしいだろ! to be continuedの意味をはき違えすぎだ!」
ここまでやってきた仲だが、そんなこと口にした奴を俺は許さん!
麗奈先生であったとしてもぶん殴ってやる!
「私も聞こえましたぁっ! 即ち言っておりません!」
「俺もだ! つうか、言うわけねだろそんなこと! 誰なんだよ言ったのはよ!」
なんだと!? 二人とも言っていないどころか俺と同じく聞いた側の人間っ……!?
「では誰だ! 隠れてないで姿を現せっ! 大佐として怒りの鉄槌をっ―――けっむぅうううっ……」
なんだこの煙っ……! つうか、何故、辺り一体煙に覆われている!?
しかもこの煙の色はなんだ!? なぜピンク色なんだ! 明らかに有害ではないのか!?
「うぇほっ、けほけほっ……た、大佐ぁ……これってもしや」
「げほっ、ごほごほっ、なんだ……? 麗奈中佐は……ごほごほっ、わかるというのか……? この煙の……ごほっ……正体がっ」
うむ……やはり流石だ。一番年上なだけあるというものだな。麗奈中佐。
「大佐のおなら……? けほけほっ」
前言撤回。こいつぁアホだ。
「こんな色の付いた……げほげほっ……高濃度で、広範囲に広がるっ……ごほっ……こいたことが人目でわかるっ……屁なんか……」
あ、あれ……なんだか……おかしい……。
「屁……なんか……」
手足の感覚が……無い……?
「へ……なんか……」
それに……視界がブレて……。
「こいた……こと……ない……」
なんか……アングルが……おかしい……。横長になったような……。
「ぶっ倒れ……ちまった……のか……」
いかん……目が……閉じそうに……。
「そう、それでいいんだぁ」
「え……? それで……いい……?」
聞き覚えのある声……だが……駄目だ……思考が……。
「おやすみだよぉ」
頭……撫でられ……てる……?
「おや……す……」
心地……いいや……。言われたとおり……ね……よ……。
…………。
……。
「やれやれ……ですねぇ」
百太郎君が寝たと同時に、背後から恋がため息混じりに声を掛けてきた。
「うむ……。流石に今回ばかりは放っては置けなかったねぇ」
百太郎君の頭を一度撫で立ち上がると恋と向き合う。
「で、これはどういうことなんだい?」
なにも状況が読み込めていない状態で彼―――いや、彼等を自作の道具『ねんね玉』で眠らしたわけではない。だが……。
「彼は影響を受けないのではなかったのかい?」
この点に関しては聞いていたこと違う。百太郎君は家系的にこういったことの影響は受けないと、確かに恋は言ったのだ。
「私が見た感じだと、先ほどまでニワトリ君やのんびり教師と同じ―――いや、むしろ、一番と言っていいほどに……」
無意識に手に力が込められていくのを感じる。
「影響を受けていたように思えるんだけどねぇ」
何故なんだろう? なにかが、おかしい……。
「どういうことなんだい?」
自分で言うのもなんだが、いつも通りの無感情でそう問うたと思う。
だが、何故……白衣のポケットへ突っ込んだ手は握られている? 怒っているというのか? この私が……?
「それは……ごめんなさい。どらさん先輩が怒るのも無理ありません……。これは、もしかしたら私の……」
「…………」
うむ……やはり怒っているのか。そうか、そうなんだ……。
これが怒るということなんだ……。私は百太郎君のことに関しては、怒ることが出来るんだ……。
「そうか……そうかっ……」
これは新たな発見だっ。
「きゃははっ。私は怒れるんだっ。百太郎君のことで怒れるんだっ!」
「えっ、ちょっと、どらさん先輩っ? な、なぜ飛び跳ねているんですか? それがどらさん先輩の怒りMAXっ?」
「はっ……」
しまったぁ……。百太郎君以外の者の前で私はっ……。
「いや、なんでもないよぉ。これは私の癖のようなものでねぇ……―――で、もしかしたら私のなにかなぁ~?」
「切り替えはやっ! しかも話まで戻したっ!?」
怒りの研究は後。今は恋の話を聞くのが先なのは確かさ。
「さあ、いいためぇよぉ。もしかしたらなに?」
「それは……あの、もしかしたら……これは……」
ふむむ……何を言いよどんでいるのかはわからないけど、これは、面白いことを言いそうな感じだねぇ。
「これは、根本的に私の勘違い―――」
「お゛めぇら゛ぁー! またがぁーー! また、何かやらがしでぇっ……うわぁああああああんっ!」
……ちっ。なんでこのタイミングで変態アルマジロが泣きながら現れるのだ……。まったくぅ……。
「えっ、どらさん先輩っ。ちょっと、どこ行くんですかっ?」
急に歩き出せばそう問うてくるのは当然。だが、私にはそうしないといけない、使命の様なもがある。
「すまないねぇ~恋」
だから、私は歩を止めず顔だけを恋へ向けて言う。
「話は後にしよう」
奴がここへたどり着いてしまえば落ち着いて話が出来なくなるのは目に見えてるから、今の私に課せられた使命はきっちりと果たすべきだろう。
「ちょっとあいつ、殺ってくるよ」
それだけ言って、私は、あの変態アルマジロ―――有馬次郎の下へと向っていった。
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