ミヤイリデイズ
「はぁ……」
ティンティンが本気でどこかに連れて行かれそうなりやがったから助けに行く事になって、言葉も返せずそこで話が終わっちまった……。
「本気で……」
言ってるんだろうな……。珍しくニコリともせず踵を返して行きやがったからな……あっちむいてほいで盛り上がりの絶頂を迎えていたアリス達の元へ……。
「…………」
あの時の状況を思い返してみると、特殊棟側の入り口付近で布丸とサダシと鉄と演劇の二人は御輿を担ぎ、一般棟側の入り口付近ではアリスと中島と先生とどらさんはあっちむいてほいの大会。そして、その中間、桜の木の付近では俺と恋ちゃんが話していたということになる……。
「カオスだな……」
誰かはわからないけど、そんな状況を作り出したいだけっていう奴は相当におかしいやつなんだろう……。
「ちょっとぉ~百太郎君?」
「はぁ……」
俺、一体どうしたらいいんだろうかな……。もう、めんどくさくてしかたがねえ―――。
「百太郎君っ!!」
「えっ……」
あぁ……思考に浸りすぎてたみたいだ……。モッキーをかなり上の方まで登っている先生が物凄く睨んでる。
「すいません。なんです―――」
と、謝罪と共に用件を聞こうとしたのだが―――。
「おりゃっ」
という小さな掛け声と共に、木の枝が俺めがけ降ってくる。
「ちょっ、ちょっと、先生っ。それはいつぞやのっ―――うおぉほぉいっ!!」
あっぶねぇっ……。直感で避けてよかった……。あの時と同じ、いや、あの時よりも更に少しでかい枝じゃねえかよ……。
「私は悪くないからねっ。木登りは常に危険が伴うって百太郎君が言ってた台詞だからねっ」
うぅ~ん……ご立腹だねぇ……。そりゃまあ、結構無視はしてしまってるけども、喋りながら登るってもんでもないいだろうに……。
「あの、どうしたんですか? せんせ―――」
「どうしたんですかぁっ?! よっくもそんな抜け抜けとぉーーっ!!」
え、ちょっ、むっちゃ怒ってるやんっ。なんだ? 一体なにが麗奈先生をそこまで怒らせる燃料と化してる?
「先生、何に怒ってるのかはわかりませんが、落ち着いて―――」
「何に怒ってるかわからないっ!? どうしてわからない!」
おおうっ……。俺の口から出る言葉が燃料ですか。よくわかりました……ごめんなさい。
「喋らなくなったと思ったら、ずぅ~~~っと私のお尻ばかり見てさぁ! 無視だよぉ!?」
え……いやいやいやいや……。
「先生……それは否定はしませんが、違うんです。あるでしょ、ほら、視線を適当なとこに投げてぼーっとしてて気づいたら、じっと見てはいけないとこに視線投げてしまってたみたいな……」
先生の尻ばかり見てたとか、聞かされて確かにと思ったくらいだし、これはマジだ。
「本人としては見ていないんです。見てるようで見えてはいないんですっ。あの、ほらっ、流れる景色と同じようなっ、流れるケツなんですっ」
マジ、なんだけどな。なんか喋れば喋るほど言い訳がましくなるってのが悲しいところだ……。
「仮にそうでもっ、見てたことに変わりはないのっ!」
ごもっとも……。そう言われたら返す言葉はない……。でも、これを完全に否定されてしまうと、俺みたいな野朗にとっては更に生き難い世になってしまうんだぜ……。世界はそれをエッチだというんだから……。
「それに挙句の果てにはなにっ!? 人のお尻見て「本気でカオスだな」ってなんなのぉ!? 君に何がわかるっていうのぉ!?」
はいぃっ!? 何いってんだこの人っ。
「そりゃ、昨日は少し食べ過ぎたかもしれないけどっ……だからって、そんなすぐにはカオスなお尻にはならないもんっ!」
聞いてねえしっ……! つうか、なぜそれを自分の尻に向けて言ったと思ったしっ!!
「先生っ、違う! 本気でカオスな尻があんのか知らないけど、間違っても先生のお尻はカオスではない! キュートだ!」
もう、最っ悪だ!! なに言わされてるんだ俺はっ!! 初めて使った“キュート”とかいう単語が尻に向けてとか終わってんのか俺っ!!
「やっぱり見てたんじゃない! この変太郎ぉ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ先生っ! それは誤解だ! たまらなく誤解だ!!」
くそっ……こうなりゃ、しょうがねえっ……。
「うぇええっ!? ちょっ、ちょっとぉっ! ここ木の上だよ!? どうして地面みたいに走ってこれるのよぉ! 気持ち悪いっ!!」
気持ち悪いっ!? 俺は先生の誤解を解くのに必死だというのに気持ち悪いだとっ……!?
「先生っ! あんた、流石に気持ち悪いは酷いってもんよっ!? そもそも男ってのはね―――」
「違うよぉ! お尻の事じゃなくて、どうして重力無視して幹の上をっ―――いやぁあああ! 目の前まできたぁあああっ!!」
いやぁじゃねえよ麗奈めっ! 本気を出せば男は何だってできるんだ! 壁ドンならぬ幹ドンだっ!!
「ぅ……うぅ……」
流石の先生もやはり憧れていたのか、先ほどまでとは打って変わり頬を赤く染め、節目がちに唸るだけで大人しくなった。
「ふぅ……」
んで? どうしたらいい……? 全くわからないぞ。
「あのぉ……なにか……ないのかな……?」
少しの沈黙の後、顔を真っ赤にした先生が、右手の指先まで伸ばしたパーカーの袖で口元を隠しながら上目遣いでそう問うてくる。
「はぅぁっ……ぁいや、その……」
そんな先生に、キュンとするという意味での返り討ちにあってしまい俺の喉は閉ざしてしまったようだった。
「勢いでするからだよぉ……どうするのぉ? この変な空気……」
「え、いや……その……なんか、ごめんなさい……」
先生の言うとおりだ。感情に任せすぎて何も考えなさ過ぎた感がある……。
「と、兎に角……もう、こうなれば……」
恋ちゃんの“あれ”を使わしてもらうしかない。
「隣よろしいか……?」
そう聞いてみると……。
「なにがどうなったのかわからないけど……よろしいよぉ」
そう言い、場所を空けてくれたので、いつかの時のように二人して並んでもこり木に座った。
「…………」
何か言わないといけない……。言わないといけないのに……。
「…………」
「…………」
案の定沈黙だ……。しかも、なんか微妙に緊張してもいるし、出来るだけ近づかないようにと身を小さくして座っちまっている。
「…………」
先生から何か喋ってくれれば楽なのに……まだ少し赤い顔で真っ直ぐ前を向いてるだけで何も喋らない。両足を抱えての真一文字の口っぷりからして、先生も同じ様に緊張しているのかもしれない。
「…………」
とりあえず、若干済んでしまってる感はあるが、話のきっかけとして先ほどの“本気でカオスだな”発言の説明でもしてみるか……?
「ぁ、ぁの……」
声ちっさっ! なんでだよ! なんでこういう時って声帯縮こまりやがるんだ!
痰もめっちゃ絡んできてるしよぉ!!
「ぁあ゛……んんっ」
こういう時は出だしが大事なんだ。あと、負けないことと逃げ出さないことも。
「カオスとオカズって……似てますよね」
あんれぇ!? 確かにずっと思ってたけど、何故、今それ言うし俺っ!!
「それ言っちゃうとさ……カズオっていうのも似てるよね」
先生まで、乗ってきちゃうほどガス欠気味っ!?
「カオスとオカズとカズオか……確かに文字にしちゃうとぱっと見わからないかもしれませんね」
どうでもいいっ! どうでもいいぞ俺っ! 多少強引でも何故さっきの話に繋げない!?
「「オ」が大忙しだね……真ん中いって、先頭いって、回ってきて最後尾にいって……トリオ漫才師の身体張る係みたい……」
合わせてくれる先生のそういうとこ好きっ! だが、違うっ! こういうしょうもない話よりしなきゃならない話があるはずっ!
「先生は……どれが好きですか?」
馬! 鹿! かっ!! 何故まだひっぱる! 何故そんなしょうもない質問するんだっ! 俺!
いいかげんにしろ!!
「オカズ……かな……」
カタカナで言うとアレっ! そういう目で見る俺はもっとアレっ!!
「炊き立てご飯とか……好きだからね……」
恥ずかしそうに言う先生はただただ可愛いからもう駄目っ! このままいくと俺は駄目だっ!
「先生っ」
「百太郎君っ」
被ったぁああああああああっ!!
「あ、どうぞ」
「いや、どうぞ」
お決まりもきたぁああああああ! ちくしょうっ! もう、こうなればっ―――。
「じゃあ俺が」
「いや、私が」
“どうぞどうぞ”
じゃねえぞっ!! 一人足りねえからっ!!
「あの、昨日の」
「あ、昨日の」
シンクロ率高しっ!! 急に話始めても被るってなんなんだよもぉおおおおおっ!!
「あの、ね……昨日のことなんだけど」
おおっ、一テンポ遅れたから先生が話し始めちまった!
でも、いいぞっ! これで、ようやく話ができるって―――。
“授業のぉぉぉん終わりぃにぃぃぃぃん”
“くぅいぃぃぃぃぃぃんぃんぃんぃんぃんくぉんくぁんくぉんぉんぉんぉんぉん”
「なんでやねぇええええええええええんっ!!」
しかも教頭の代わりにオオトモさんかよぉおおおおおおおおお!!
「マジかおぉおおいっ!!」
……ってことで、話したいことを話せないまま……。
「おっ」
先生と二人で木から下りたところを……。
「早かったじゃねえか」
どうしても滑って登れず、ふて寝し始めた布丸に迎えられ、木登り授業終了となってしまった……。
「ああ……早かったよ。1時間なんてあっという―――」
言いながら顔を上げて布丸を見た瞬間だった。
「おっ……お前っ……なに、それっ……」
目を見開き思わず後ずさってしまった……。
「ちょっ、ちょっと、布丸君っ……。だい……じょうぶっ……?」
言いながら先生も同じように後ずさり、身を寄せてくる。
「あ? なにそれってなんだそれ?」
それもそのはずだ……。
「大丈夫も何も、大丈夫に決まってんだろ」
平然としてやがるが、こいつはいつぞやのように頭から血を流し、シャツのあちらこちらに赤い染みを作っていやがった。
「何が大丈夫なんだよ! お前血だらけじゃねえかっ!」
ふて寝してたはずなのに何故血だらけなんだこいつはっ!
ちょいとコンビニ感覚で学校に殴りこみにでも行ったというのか!
「ああ、血はわかるぜぇ。血小板の―――」
「いや、そっちじゃなくてなぜそうなったかの説明をしてくれっ! 事件的過ぎるからっ!」
血液の成分とか説明されてもわからねえしどうでもいいっつうんだ!
「ああ、これか? これはあれだ。そこ、その木の下で寝てたらよぉ、でっけえ木の枝が顔面に落ちてきやがったんだよ」
と、布丸は笑う。
「いやぁ~二回目だぜこんなにあっけぇのはよ~。今の時期、枝さんも凶暴なんだなぁ。恐れ入りましただぜぇ」
と、落ちてきたらしいでっかい枝の前に胡坐を掻いて座り両手てを合わせた。
「…………」
“犯人はここにいるぞっ”
と、言っていたと思う。
「…………」
腕の中から押し出して“こいつが犯人だ!”と大きな声で言っていたと思う。
「…………」
麗奈先生が犯人じゃなければ……な。
「…………」
勿論、これは黙っとくコースで行くしかない……。そう、決断した時。
「わ゛んばんで……」
なんだか潤いのある震えた声が聞こえてきたので、視線を下げて見ると……。
「げぇおぉ……」
布丸に視線を向けたまま先生は泣いていた。
「な、泣くほどっ……」
見かけによらない隠れマッスルなんだから、良い勝負どころか布丸ですら倒してしまいそうなのに……。
「ぎょうどぉみだいに゛……わたじぃ、げぇおぉざれち゛ゃう……」
何故バレてもいない段階で泣いてるんだ、この人……。
「あの、もし? そなたは本当に先生でござるのか?」
なんでこんな聞き方になったのかはわからないが、まあ、それ程に俺も動揺してるのかもしれない。
「やっじゃったよぉ……わだじ、やっじゃっだよぉっ」
「おおうっ」
だが、今の先生は罪の意識からノンストップのようで俺の言葉なんか耳に入らず、抱きついてくるとシャツをギュッと掴みえんえんと泣き出した。
「あ~……いや~……その~……先生?」
確かに事件ではあるが、当の布丸は先生が落とした枝だということを知らず、それどころか、いつの間にか掘った穴に自分を襲った木を埋めて手を合わせて拝むという、奴にしかわからない自己完結を成しているわけで、先生がここまで泣く意味が全くわからない……。
「本人は気づいていないし、言わなければバレることもワンパンでKOされることも無いと思うんですが……」
と、声を掛けても聞こえてるやら聞こえてないやら―――。
「うわぁあああん」
ああ、やっぱり聞こえてない……か。
というか起爆剤のように泣きが強まった感じじゃないか……まったく、どうしたというんだ。
「あの、だから先生―――」
と、更に大きな声で声を掛けようとした時だった。
“ビッビリッ”
と、布が引っ張られ、耐え切れず破れたような、破れ始めたような音が―――。
「ってぇ! 待ちなさい先生っ! なんか、俺のシャツの何かがっ……! どこかが大変なことにっ!!」
くっそぉっ、どこだっ!? 前かっ!? 先生が掴んでる辺りか、ボタン付近かっ!?
それか、背中かっ!? もしくは間とって脇っ!?
“ビリリリッ”
「うっそぉ!? 両肩の縫い目っ!?」
こんなことってあるのか!? っていうか―――。
「先生っ! もう泣き止みなはれやっ! ていうか物凄い力で下に引っ張らないでお願いっ!」
隠れ筋肉美女フェチとしては是非その顔とのギャップに満ちた身体を拝見したいと思ってしまうくらいの力だぞっ!
「違うっ!!」
なに考えてるんだ俺っ!
「先生っ! 筋肉で戦うんだっ!」
誰とだーーっ!! くそっ、何かがおかしいっ! 考えてることもおかしくなれば口を開けばもっとおかしなことを発してしまうっ! あと、なんかわからんがテンションが上昇しっぱなしだ!
「ももだろうぐんのぉっ……」
「えっ……」
ちょっと待って。なんか先生力を溜めてるような……。
「ぴぃーーーなっつぅーーー!!」
急に先生がそう叫びながら素早く身を引いた瞬間。
“ビリリリリリ”
と、豪快に布が破ける音がして……。
“バササササッ”
っと先生の手から何か……そう、白い布みたいなものが背後へ解き放たれたように宙を舞って飛んでいくのが見えた。
「って違うっ……! あれは、あれはっ!!」
丁度、吹き抜けた強めの風にバサバサと楽しそうに舞いながら空中浮遊を楽しむ、あの見覚えのある白い布はっ……。
「天女(てんにょ)のぉ衣(ころも)んっ!!」
歌舞伎的なバイブスでもう一度言う。
「よぉ~~~っ、天女のぉ衣んっ」
字余り語呂悪すっ!!
「ははははははははっ」
もう、なんだろう楽しすぎるわっ。酔っ払ってもこうはいくのか、この野郎っ。
「ははははは。百太郎君、前だけ無いよぉ」
おやおや、本当だちくしょう。シャツの前だけ何故かねえっ。Tシャツが丸見えだ。
「着ているのは肩と背中だけっ! はははははは」
新しいワールドの始まりだぜな。
「おいおいおいおーーーい! 百太郎! そろそろ御輿担ぐ時間だろ、おーーいっ!」
布丸め。いつの間に昨日のベンチ持ってきやがったんだ。やるじゃねえか。
「おっしゃ! ピリオドの向こう側へ宮入だな!」
「おうよっ! 先頭担ぎなぁ!」
ん……? あれ?
「ちょっとまてよ……」
なんか……おかしい……?
「どうしたってんだ? 早く担がねえと……なんだ? あの……ほら、遅いぜ?」
と、布丸は肩にベンチをスタンバイさせ聞いてくるが、何かがおかしいんだ……何か大切なものを無くした様な……。
「そうだっ! ティンティンだ! 奴が居ない!」
奴が居ない黄色のベンチなんて御輿でも何でもねぇんだ!
「おおっ! そういや居ねえな! どこいったんだあいつ、ちくしょうがっ」
どこへ行った……か。奴が居るところなんて決まってる。それは―――。
「特殊棟の演劇科へレッツゴォーだぁ!」
サラッと布丸の前へ屈み、空の御輿の真ん中にスタンバっていた先生がそう拳を上げたので……。
「レッツゴーだー!」
俺も素早く先生の前、即ち先頭にスタンバイする。
「ゥレッツゥゥラグォーだぜ!」
最後尾の布丸の声を合図に俺たち三人は御輿を担ぎティンティン神(しん)の元へと向かったのだった。
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