赤目

あの時――。


「それはですね~……ここに居る、皆……」


鼓動が早くなっていくのを感じる。


「な、なんだ……。皆が……どう……」


恋ちゃんが何を言おうとしているのかは全く予想ができない……が、良くないことだというのを身体が訴えているようだった。


「好きなんですよ。貴方、百太郎のことが……」


「は……? お、俺のことが……好き……?」


不安は不安でもなんか違うのがきた……。

まあ、心臓が耳元で鳴ってるのかというくらい、うるさいのに変わりはないけど。


「そうです。だから――」


だから、こんな意味不明なことが起こるとこやつは言うのか? 俺ってやつが変人だから?


「…………」


んなの、納得できるはずねえよ。こういう時は偉い学者が言いそうな「何事にも理由はある」みたいな言葉を是非信じさせてもらいたいところだ。じゃなきゃ納得できるはずがない。


「だから……簡単だったんです……」


「はい? 簡単? なにが?」


そう問いながらも、恋ちゃんが仮面に手をかけたのでそちらの方が気になっていた。


「ここにいる……」


バレバレだが、自分で身分を隠すつもりで身に付けた仮面だったはず。

それを何故、今外そうとしているのか全く理解ができない。


「皆をね……」


恋ちゃん躊躇することなくあっさりと仮面を外し……。


「操ることがですよ」


ニッコリと笑った。


「れ、恋ちゃん……そ、それっ……」


情けないとは思うが、声が震えてしまう。


「うん? なんですか?」


声はいつもと変わりないが、見た目……特に顔が明らかにいつもと違う。


「だ、だからっ、その、そのぉっ……」


震える右手で指を指す。


「う~ん。百ちゃんには刺激が強すぎたようですね~。チビリそうですか? 一緒にトイレ行ってあげましょうか?」


このっ、ばっかやろうめっ!!


「ふざけるなっ! お前なんなんだよその目!!」


明らかに左目の色がいつもとは違う赤色になってたら誰だってこうなるだろうが!


「オッドアイかな~。可愛くないですか?」


「そりゃ、なんか好きだけどさ……。いや、違うっ! そうじゃないっ!!」


こいつっ……自分から見せたのに白を切るつもりなのかっ?


「ふざけんなよ、まじでおい! それはなんだ! 説明しろっ!!」



結局叫んでしまっていた……。でも、これは間違ってはいない、筈……。幼馴染だからとか縁の深さは関係なく、知ってる奴の身体に明らかに異常が見られてんだ。訳を知りたいのは当然のことだ。


「珍しく怒ってますねぇ……わかりました。では……」


と、恋ちゃんは一歩、また一歩と近づいてくる。


「いやあ!! こないでぇ!!」


知りたいけどおっかねえよっ、ばかやろうっ……。


「え、ちょっ、ちょっと百ちゃんっ。逃げたらいやぁ!」


「ばか、お前嫌っ、走ってくんなや!」


俺ってこういうところが駄目なんだと自分でも思う。

……が、やっぱ怖いんだよ! 左目赤い幼馴染とか、それに追いかけられるのも怖いんだよ!!


「お前を制すぅるぅはぁ……すさまじいたっくるぅ!」


「うおぁああ」


やっぱり逃げれなかったかっ……。


「んにがさねぇよぉ……」


「ああぁぁぁぁ」


背後から押し倒されゆっくりと視界が下がっていく中で俺は思った。


「ぁぁぁぁ……」


こいつは他で見る幼馴染達とはなんか違う……。普通の幼馴染はもっと大人しかったりするはずであり、ふぐたさんの同僚であり親友のあなごの人みたいな声で押し倒しては来ないはずだ……と。








「わかったぁ……はあ、わかったよ……。是非聞かせてもらおうじゃないか……」


うつ伏せの状態から仰向けへと体勢を変え、隣で方膝をつき立ち上がろうとしている恋ちゃんへと顔を向ける。


「はぁはぁ……素直に……そう言ってくださいよっ。変に息切れちゃったじゃないですか……」


恋ちゃんも、今日一日結構体力を使ったんだろう。凄く短い追いかけっこだったのだが、息は切れ会話をするのもしんどいといった感じだった。



「あぁ……ちょっと駄目です。休憩っ……させてくださいね……」


そう言うと、ゆっくりと立ち上がり、右に大股一歩を踏み出しそのまま腰を下ろす。


「あぁ……まだ楽ですね……」


しんどいながらも満足そうに微笑む恋ちゃんだが、俺はその笑顔を見て―――。


「おい……。おい、こら」


純粋にムカッとした。


「おい、こらとか……女の子である“この”恋ちゃんに言う台詞じゃないですよ」


そんな返答に俺のムカムカはファイヤーした。


「いや、ちゃうやんちゃうやん。“これはなんや”って聞いてんねん」


馬鹿にもわかりやすいように自分の腹の辺りを指し示して言う。


「なんやろね? わからないよね」


「はっはは~」なんて笑いやがったので、もう、私は限界です。


「わからないじゃないぞ五月恋! お前は人の腹の上で休憩するのか! それがお前のやり方か! そうやって育てられたというのか!!」


昔っからそうなんだ! 何の抵抗もなくこういうことをしやがるんだ!


「そうですね~」


これもだ!! 俺の必死の訴えを微笑んでスルーするのも昔っからだ!


「いや、そうですねじゃねえよ! お前毎回そうやってスルーするよな!」


なんで、毎回、ニコニコしながら見ていやがるんだ!


「何も変わっちゃいない! お前は何も変わっていないっ……」


筈なのにっ……。


「なんなんだよっ……その目はっ……」


くそっ、腹が立つのになんか泣けてきやがったっ。幼馴染ってなんなんだっ。


「何故真っ赤なんだっ。何故、一言言ってくれなかったんだっ……真っ赤になりましたよってっ……」


そういうことこそ言ってくれないと困るだろっ……。近い存在なんじゃないのかっ……近すぎて言えない距離だったとでも言うのかって……俺って泣き虫なのかっ。なんで泣いてるんだっ!


「くそがぁああっ」


拭っても拭っても滲む視界に腹が立ち、乱暴にごしごしと擦っていると。


「百ちゃん……」


恋ちゃんが頬にそっと手を触れてきたので、その手にそっと触れ―――。


「恋ちゃ―――」


ようと、した瞬間。


「っノォーーーーーーーーーゥ!!」


頬に触れている恋ちゃんの手が、琥珀がかった白い光に目映く光り輝いていたので、思わず変な声を上げてしまった。


「おまっ、そ、そ、それっ、こっちに持ってくんなっ―――う゛ぅえっ」


驚き過ぎ、理解ができなさ過ぎ、限界がきておかしくなってしまったんだろう。

俺は恋ちゃんの手から逃れようと顔をおもいっきり右に捻りながら、何故かえずいていた。


「もうっ、百ちゃん。驚きすぎっ」


恋ちゃんは少しむっとしているようだが……。


「馬鹿っ、目は赤いわ手は光るわ、そんなの―――う゛ぅえ゛っ」


普通じゃなさ過ぎる!!


「幼馴染だったら片目の色くらい変わりますし、手だって光るもんなんですよっ。馬鹿っ」


「いたっ。お前っ、ちょっ、馬鹿なんじゃねえのっ? そんなわけあってたまるっ―――う゛ぅう゛う゛ぇえ゛っ」


ありえねえんだよ! こいつは何ができないんだ! マジで!


「ていうか、さっきからなにえずいてるんですか!? 恋ちゃんの手が臭いとでもいうんですか!? おたく失礼じゃない!?」


「知るかよっ! もう俺のHDD―――うぅっ―――っがもう限界なんだよ多分―――う゛ぇっ」


驚き&意味不明のオンパレードの締めがこれとか聞いてねえし、想像出来るかんなもん!!


「そもそも、あのタイミングでなんで光らしたんだっ! ムードもくそもねえのかお前はっ!」


ふざけるなと言わんばかりに指を突きつけてやると、恋ちゃんは……。


「いや……あれは……」


と、なんだか言おうか言わまいか戸惑っているような素振で俯いたのだが……。


「そうですね。ムードもくそもないんです」


と、すぐに顔を上げ微笑んだ。そして……。


「だから、更に空気を読まず話を戻しますね」


乗り出していた身を引き空へと視線を向け語り始めた。



「さっきも言いましたが、ここに居る皆、貴方のことが好きなんですよ」


「う、うん……聞いたな」


さっきは想像とは違った答えだったから反応も薄くなったが、改めて言われるとなんか恥ずかしい。

どんな反応を取ったらいいのか困るもんだな……。


「だから、教室に居ないだけで、痕跡だけで興味を持って、何か困ったことに巻き込まれてやいないか散歩がてらに……」


恋ちゃんは言いながら、視線を俺へと戻す。そして……。


「気になって、探しちゃうんですよね」


言って笑うと『誰のこととは言いませんけど』と付け足した。


「え、なんだ……? 言わずもがな……ってやつ?」


まあ、確かに、俺としてもわざわざ説明されなくても誰のことを言っているのかはわかる。だが……。


「何故、そう言い切れるんだ?」


単純にそこが気になった。恋ちゃんの見解自体が間違ってる可能性だって大いにあるのだからな。


「百ちゃ~ん……」


だが、そんな俺の質問に恋ちゃんは……。


「あぁ……もう、ほんと、百ちゃ~ん……」


ため息と共にそう吐き出すと顔を左右にふりふりしやがる……。何故?


「えっ、なにその反応?」


「もうね~……。はぁ~~ぁ~です。はぁ~~ぁ~ですわ」


いや、何故なんだよ……。たった一回の質問で、何故こんなにも呆れられてる? 全く理解できん。


「相当に女性慣れしてないから自信も持てないんですねぇ……かわいそすぅ。……ていうか私という女性が近くに居ただろっ! このぅっ!」


「痛っ、いったっ。お前っ、ちょっ、マジで痛いっ……」


割かしマジで顔面チョップしてくるとか正気かこいつっ……。


「当たり前です! 皆の気持ちを乗せての一撃なんですから、重くて痛いのは当たり前っ」


「おっ、おい、ちょっと待て! 一撃なんじゃないのか! 何故また振りかざすっ!」


レフェリーの居ないマウントポジションなんか死人が出てもおかしくないぞおいっ。


「百ちゃんこそ、なに言ってるんですか! 皆の気持ちと言ったでしょう! あと4発はありまっせ!」


「4発ぅ!? お前絶対馬鹿だ! 耐えられるわけないだろ! そんなことより続きを話せっ!」


俺が悪いのもあるのかもしれないが、さっきから脱線しすぎてなんのこっちゃ一つもわかってないっつぅんだ! いい加減飽きるぞっ。


「はぁ~~ぁ~ですね。まあ、いいでしょう。わかりました」


ごねると思ったのだが、恋ちゃんは意外にもすんなり手刀を下ろすと再び空を見上げ口を開いた。


「百ちゃんのことを皆気になってる状態なのでね。けし掛ける……といったら語弊がありますね。なんでしょう?」


少しの間首を傾げたかと思うと「そうですね……」等と、一人納得し


「ちょこっと、その、くすぶってる気持ちを突いてあげただけなんですよ」


“私は”と、付けたし、更に口を開く。


「正直、思ってたよりもずっと簡単でしたよ。むしろそこまで気にされてる百ちゃんにやきもち焼いちゃいそうなくらいにね」


何が面白いのかはわからないが、恋ちゃんはくすくすと笑い両手を大きく広げ……。


「だから、こうなりゃ、学園中を巻き込んでの恋いの大戦争っ!」


と、叫び、俺は絶対に止めてほしいと物凄く思ったが、敢えて口を挟まずただ恋ちゃんを見ていた。

すると……。


「……と、いきたかったんですけどね……」


と、お次は肩を落とし……。


「今回はお預け……ですね」


項垂れた。


「…………」


口を挟むと先ほどのように脱線してしまうと思い黙っていたが……。


「なんのこっちゃだな……」


そう言わずにはいられなかった。


「まあ、なんだ……」


自分なりに解釈してみると、恋ちゃんはちょこっと気持ちをお触りして、皆のやる気? を出さして学園中を巻き込むほどの規模で恋いの大戦争とやらを目論んでいたらしいというのはわかるが……。


「なんで破綻したんだ……?」


決してそんな戦争を引き起こして欲しくはないのだが、聞いた感じ順調だったような口ぶりなのに、この項垂れようは明らかにおかしい。恋ちゃんならどんな不測の事態だろうがひょいと乗り越えてやってしまいそうなのに、なにが起きたというのか……。


「破綻したわけではないですよ……」


恋ちゃんは依然項垂れる、というか若干拗ねてる? 様な感じで「ただ~……」と言葉を繋げる。


「思っていたのと違うというか……。なんていうか~……」


拗ねてるな、これ。破綻したわけではないのに全く納得していなのはどういうことだ……。


「なんだ? どうした?」


そう問うと「うぅあぁ~~」と駄々っ子見たいな声を恋ちゃんは上げ……。


「なんか、なんかぁ~」


なんなんだよ……。こっちも腹立つぞ、なんか。はよ言えっての。


「邪魔されてるんですよ~。誰かはわからないけどぉ~」


髪の毛を指にクルクル巻いて遊びだしたとこみると、結構イライラしているのが窺われる……。


「…………」


いや、しかし、あれだ。恋ちゃんの邪魔をできる奴がこの学園に居る事が驚きなんだけど……。


「さっき言いましたよね~。“私は”皆の心を突いただけだって~」


「ああ」


ちょこっと突いただけだって言ってたな。思ってたより簡単だったとか。


「でも、そいつはぁ~。心というか、その人自体を操ってるみたいなんですよねぇ~。だからこの中庭の件だっておかしな方向へばかりいくし、進まないしぃ~」


あんだって?


「ごめん、恋ちゃん。耳遠くなったかもしれないからもう一度言ってくれ」


聞き返すことによって更に機嫌が悪くなろうが知ったこっちゃない。もう一度聞かないと俺の耳には入ってこない単語が混ざっていたんだから当然の行為だ。


「だから~。皆を人形の如く操ってる奴が居るんですよっ。私は力なんて使わずに人間として言葉巧みに……」


まだなんかぶつぶつ言ってたが、もうそれは耳に入らなかった。


「皆を……人形の如く操ってる……?」


だから、皆おかしかった……?

いや、確かにおかしな方向へはいっていたが……わりと皆、元からおかしいってのもあると思うが……。


「そんな……」


漫画みたいな……力がどうとかってありえるのか……?


「いや、ありえんだろ……。まじで……さ」


とうとう頭の中に色とりどりの花が咲き誇るガーデンでも出来たとしか言えないじゃないか……。


「まあ、なんとなくわかるんですけどねぇ……。でもまだ、ちょっとわからないこともあってぇ……」


えっ……若干特定できてるっ……。


「ちょっと待てよ、恋ちゃんおいっ。急な学園ファンタジーに俺付いていけてないっ」


俺への正規の初依頼難易度なんぼなんだよ! 星五つ以上で、ナイトメアとか訳分からん表記になってるだろっ!


「トロいな~百ちゃん。順応する速さだけは定評があったはずなのに~」


「馬鹿っ。ちゃんと説明されてないから疑問の上乗せによる上乗せで器からはみ出しまくりのメガ盛りが出来上がっちまってんだ!」


恋ちゃんの赤い目に光る手から、更に皆を操ってる黒幕の存在まで出てきたら流石の俺もどこから手をつけていいかわからなくなるって!


「そんなこと言われたってしょうがないじゃないですかっ」


なんでお前がキレるのっ!?


「全然しょうがなくねえだろっ! 少しはちゃんと説明してくれよっ。なにをすればいいかだけでも教えてくれっ」


何故ここまでしなきゃならないのかはわからないが。


「お頼み申すぅううううっ」


土下座の代わりに両手を合わせ、懇願する勢いで頼み込んでいた。

……すると、恋ちゃんは数秒、方眉を吊り上げて俺を見下ろした後。


「しょうがないですね……」


合わされた俺の手を包み込むように両手でそっと掴み……。




「お断り申すぅううううううううう!!」


大声でそう言って、邪悪な笑い声を上げそうな笑みを浮かべた。


「なん、で……?」


このタイミングで断るとか……なんなの……まじで。


「百ちゃん。更にカオスなことを言うとですねぇ、私たちは……」


恋ちゃんはそう言いながら、例の仮面を再び身に付ける。


「敵同士なんですよ」


鼻先を軽く押しやがってから立ち上がり、スカートの折れ等を直し始める。


「敵って……恋ちゃんは操り人形に自らなるってのか……?」


あんだけ不機嫌になってたくせに、誰かもわからない奴に従うなんて……。


「ははっ、その言い方だとムカっとしますね」


何故、そう笑ってられるんだ……?


「意味がわからない……。意味わからないぞっ……」


皆を操る奴の存在も操ってる意味もそもそもいつからなのかも……。そして、俺にそれを話す恋ちゃんや話された俺が平気なのか操られているのか……。兎に角わからないことだらけだ……。


「…………」


けど、一番わからないのは……。



「お前は一体なにを―――」



“五月恋”こいつだ……。



「うわぁっ! ちょっ、先輩たち止めてくださいよっ!!」



「あぁっ? くそっ……」


お前もか……お前も俺が喋ろうとすると邪魔すんのかっ!


「煩いぞティンティン! 止めてほしいのは―――」


と、怒りに任せ乱暴に声のした方へ顔を向けると。


「ティンティン言うなっ。……うわぁっ! ちょっと、先輩助けてくださいっ」


「なっ……あ……」


自分が座るベンチを御輿のように野朗どもに担がれ、揺れるベンチに必死にしがみ付き泣きそうな顔をしているティンティンが目に入り、俺の怒りは身支度を一瞬で済ませどこかへ旅立ってしまった。


「おいおい……これも操られてるってのか?」


まあ、まだ大丈夫だろうと、視線をティンティンから恋ちゃんへと戻し問う。


「そうでしょうねぇ……。サダシも鉄っちゃんも演劇の二人も完全に混沌に飲まれていますよぉ、あれは」


「え……? あれ?」


一人足りなくね?


「布丸も、だろ?」


そう、問うと、恋ちゃんには珍しく、不意を突かれた様に驚いた顔をする。



「え? 彼は皆の雰囲気に飲まれてるだけで、初めから操られていませんよ?」


当然、とでも言いたそうな顔で恋ちゃんはそう言った。だが……。


「わっしょいわっしょい! おい、野朗共! このまま宮入だぜ!!」


先陣切って担ぎ上げと掛け声をやってるあいつが一番、操られてるようにしか見えないんだが……。


「あ、操られてませんよ……多分。お、お祭り漢なんですよっ……」


布丸のすさまじいノリノリ加減に若干自信を失ったようだが、認めずに恋ちゃんはそう言う。


「ま、まあ兎も角、百ちゃん」


仕切り直しとばかりに名を呼ぶので、返事をして、顔だけ向けると……。


「駄目。ちゃんと身体ごとこっち向いて」


と、強引に身体の向きを変えられそうになったので、しょうがなく真っ直ぐに向き合って立つと、恋ちゃんは「よろしい」と頷き、いつものニコニコ顔ではなく真剣な表情で話し始めた。


「操っている、と言っても相手方は操って何かをしたいとかではなく、ただ、混沌とした状態を作りたいだけのようなのです」


『今のところは……』と付けたし、恋ちゃんは更に言葉を繋いでいく。



「ですから、こちらはこちらのしたいように動く」



そう口にし、一旦目を閉じてから後、恋ちゃんはこう言った。




“今この時を持って、正式に貴方に戦いを挑みます”






左目を……。




真紅に染めて……。




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