乱Ball~怒りのおまんたせ~
そして……。
「はぁ……だるかった……」
中島とアリスの言い合い以降は真面目に―――中島に助けてもらってただけだが―――授業を受け、昼食の時間となり、久々にゴリラとロピアンと寝子と屋上で集まっていた。
「ていうか、久々やな。こうやって集まるの」
「うん? まあ、久々だよな。嬉しいとかは無いけど」
ゴリラとロピアンとは長い付き合いだし、そんな数日会ってないだけでどうということはないわけで、ほんと嬉しいとかは無い。
「お前そんなん言うなよ。まあ、嬉しいとかはないけどさ」
「そうだよ。まあでも、いちいち騒ぐほどじゃないよね」
言うまでもなく、ゴリラもロピアンも同じように感じてるようだ。まあ、野朗同士で数日会ってないだけでいちいち騒ぐのは気持ち悪いし、そんなもんでいいさ。
「僕は寂しかったですよ。まあ、どうということはなかったですけど」
「どっちやねん。つうか皆どうでもよかったってことやろ?」
寝子もってことは、そういうことになるだろうな。まあ、別にどうでもいいことだろう。
「というか……」
「あん? なんだよ。言っとくが告白とかされても付き合わないぞ」
俺の方へちらちらと視線を向けやがるから言ってやったのに、ロピアンは「するわけないよ」と返しやがる。
「…………」
だが、チラ見はやめはしない。
「なんなんだよ、お前。やっぱ俺のこと―――」
「もぐもご……。っはぁ~っ! うめえなっ! このあんころぱんっ」
あ、そういうことか。すっかり忘れていた。布丸もこの輪に加わってたんだった。
「あー、なんだ、まあ、こいつはあれだ。うちのクラスに新しく来た、布丸」
ロピアンと寝子を交互に見ながら説明し、ロピアンと寝子と布丸の挨拶が交わされ、再び皆各々の食いもんと向き合い始める。
「…………」
「…………」
ロピアンと寝子は布丸の見た目に圧倒されてるんだろう。なんだか挨拶した後だというのにロボットみたいな硬い動きで飯を食っている。
「ほっとどっぐ……? なんだこれ?」
まあ、俺としてはその方が楽だからいいんだけどな。
「あ、わかったぜ。犬かこれ。犬肉の腸詰め挟んでやがんだなっ」
布丸を輪に入れ通訳みたいなことをしながら会話するのは疲れる。
「んなわけないだろ……」
と、バカを見る目で布丸を見ながら、最後のひと欠けのパンを口に放り込んだ時……。
「つうかさ、俺、また明日から山行くわ」
ゴリラがゴリラらしいことを言い出した。
「山ぁ? 山行くってなんだ? 故郷に帰るってのか?」
俺が問うより早く、布丸がゴリラに問う。
「なんでそうなんねんっ。山が故郷て、俺ほんまもんのゴリラちゃうぞ」
「そうなのか? そりゃすまねえ。んじゃあ、なんで行くんだ?」
布丸に更に問われ、ゴリラは奉仕活動部や奉仕活動部の依頼の事、そして、冒険部の依頼で再び山に行くことなど事細かに説明をする。
「ほぉ~。ボランティアってやつか。偉いじゃねえかっ、義賊かっ」
「義賊……はようわからんけど、ま、まあ、ボランティアはあってるわ。生徒同士の問題解決みたいなもん」
もしかしたら、めんどくさがりの俺よりゴリラの方が布丸の扱いは上手いのかもしれない。説明好きなとこあるし。
「問題解決か。そんなもんがこの学校にはあんだなぁ」
布丸もちゃんと理解したようだし。まあ、こいつは覚え方とかおかしいだけで、説明すりゃ伝わるんだけどな。ただ、その説明が時に難しく、めんどくさい。
「明日から三日間はいくと思うわ。その間、百太郎」
ゴリラは布丸へ向けていた顔を俺に移し
「俺の席使っていいで。まあ、布丸でもどっちでもええけど」
と、今更なことをいいだした。まあ、今更と言っても、何故俺もそれに気づかなかったのか今更ながら思う。
「そうだな。明日から三日間は、布丸がゴリラの席使えよ。自分の席あんのに俺がゴリラの席使うのも変だしさ」
「おう。じゃあ、遠慮せず使わしてもらうとするか。寝るだけだけどな」
はあ……よかった。明日からはやっと自分の席で寝れるんだな。
「うん? いや、ちょっと待てよ……」
そもそも何故俺たちが譲り合いで席移動とか手配しないといけないんだ? じろの奴仕事してねえってことじゃねえか。
「ちっ……」
あの野郎……いつか教頭辺りに全部チクってやる。
「ところで、だ。貴様等」
とりあえず、じろクソのことは置いとくとして、昼の間にゴリラ達に言っとこうと思ってたことを思い出したので、今言う事にする。
「まあ、なんというか、席を譲ってくれたお礼って訳ではないけどさ、お前たち三人にあることを誘いたいんだけど……いいかな?」
急に改まった感じでそう言う俺に、三人は警戒を強めながらも了承したので、正直、こんなことを頼むのはこの歳になって恥ずかしいんだが、今は羞恥心を捨て三人の顔を見ながらはっきりと口にしてやる。
「放課後、やらないか……かくれんぼ」
三人の目が点になる。
「いや、だから……かくれんぼ」
そうなるのはわかる。わかるけど、俺も本気でしたくて言ってるわけではない。ただ、学園でかくれんぼしたらどういう感じなるのかだけでも本番前に試してみたかった。けど、そんな裏事情は三人とも知らないので……。
「とうとう、ほんまにおかしなってもうたんか? つうか、まじでお礼って訳ちゃうやん。ただの遊びの誘いやん」
と、ゴリラは呆れたように言い。
「ちょっと予想の斜め上を言った感じだね……」
苦笑いをしながら若干引いたようにロピアンは言い
「楽しそうではありますけどね。ただ、放課後には依頼が……」
フォローをしてくれながらも同意はしない構えっぽい寝子……。と、まあ、そらそうだろうな……という反応をする。
「かくれんぼ? なんだそれは?」
意味すらわかっていない奴も隣に居た……。
「かくれんぼってのは……」
とりあえず、布丸にかくれんぼの説明をして「ああ!Hide and Seekか!」と何故英語なのかはわからないが理解したところで、再び三人に向き直る。
「まあ、嫌とか忙しいならいいけどさ。拒否権はねえから」
「いや、なんでないねん! 徴兵制度ちゃうねんから。それに今日はマッスル部に呼ばれてるから無理やわ」
ゴリラがそう断るので、ロピアンや寝子も「今日は5人の後輩の子の相談が」やら「先輩3人の依頼が」とかいって断りやがる。
「そんなん断れ断れ。部員以外の野朗が必要な部なんか潰れりゃいいし、相談というなの告白や可愛がりなんかほっとけぇ。そんなことより俺とかくれんぼしろ」
つうか、するべきだと俺は思う。が……。
「いや、一番しょうもない理由でよう言うわ。悪いけど無理やって」
「そうだよ、今日って決めちゃったし断れないよ」
「僕も、無理そうです……」
と、もう完全に断られてしまった感が凄いある。
「なんだちくしょうっ」
ちょっと依頼もらったからって真面目になりやがって。こっちだって意味不明な点はあるが、ちゃんとした依頼だっての。
「ああわかったっ。もういいっ。行くがいいさっ。むしろ行け! 気が済むまで筋肉馬鹿女とよろしくやっとけばいいさ!」
「いや、言われんでも行くけどさ……。筋肉馬鹿女って合体してもうてるやん。アリスが聞いたら誤解生みそうで危険やぞ」
うるせえゴリラめ。布丸と二人でやることになりそうだが、すっごい楽しそうにしてやる。混ぜてといっても混ぜてやんねからな、くそが。
―――で、放課後。
「まさかの破綻か…………」
屋上のフェンスに張り付き、運動部の部活風景を眺める。
「あらまぁ……」
布丸は妹の誕生日を思い出したとかで帰ってしまい、クラスに残ったのは俺だけだった。そして、適当にぶらつこうと思い、クラスを出て、気がつけば屋上へと足を向けていたというわけだ。
「一人でかくれんぼとなると違う意味になってしまうしな……」
怪奇現象が絶えない家になったら大変だ。それだけはやりたくない。
「まあ、しょうがないよな…………」
俺だって、本気で皆付き合ってくれると思ってたわけじゃない。それに、かくれんぼの練習をしたところで何か意味があるようにも思えない。
「…………」
つうか、そもそも俺が勝負しないといけないんだろうか? 依頼を終わらすことだけ考えてやる気になってたが、まずそこだよな。じろさんが中年体型に鞭打って、ゲロ吐きながらでも必死に頑張って勝たなきゃ意味がないじゃないか。
「…………」
まあ、あんなへました後じゃ簡単には近づけないか……。流石の麗奈先生も訴えるかもしれないし。
「めんどくさいな…………」
フェンスに付けた額から冷たさを感じる。変なことに頭を使いすぎて熱でも出たんだろうか、こうしていると凄く心地がいい。
「おやぁ~? 今日は一人なのかい?」
はっとして振り返ると、どらさんが白衣のポケットに両手を突っ込み、見るからにキャンディーとわかるようなカラフルな渦巻状のでかいキャンディーを口に咥えて立っていた。
「よく、咥えたまま普通に喋れますね」
そんなどうでもいいことを言いながら、フェンスに背をもたれかけどらさんへと向き直る。
「咥えキャンディー会話世界大会」
言いながらどらさんはキャンディーを右手に持ち……。
「そんな大会あったら優勝してるだろうね」
と、普通にキャンディーをぺろぺろと舐めだした。
「実は咥えるの結構しんどかったんでしょ?」
本気を出せばどらさんの顔が隠されてしまいそうな大きさのキャンディーだ。少し格好をつけて咥えたに違いない。
……が、俺のそんな言葉も思ったこともことごとく裏切られることになる。
「舐めたらあかん」
そういってどらさんはキャンディーを全て口に入れ
「ボリボリ……ガリガリガリガリ……もごもご……」
ほんの数秒で全て噛み砕いて食べてしまった……。
「恐れ入った? 恐れ入ったよね?」
残った棒をマイクに見立てそう聞いてくる。
「お、恐れ入りました……」
流石にあんなの見せられたら正直にそう答えるしかなかった。
「ところで最近どう?依頼終わった?」
再びマイク(キャンディーの棒)を向けてくる。
「そうですね~……。全然終わってません……」
ほんのり甘い香りがするマイクにそう答える。
「何故終わらないの? なんか問題?」
いつの間にか真っ黒のサングラスを掛けているどらさんはのりのりのようだ。
「いや、それが……」
この際だからどらさんには依頼の現状を全て説明する。
「ふむ……。かくれんぼかぁ……」
全てを聞き終わったどらさんはそう言いながら白衣をごそごそやりだす。
「ん~~……。こっちじゃないか……」
かくれんぼに向いてる道具でも出してくれるんだろうか?なんて、少し期待しつつ、どらさんを待っていると。
「あったあった。乱Ball~」
見た目普通のサッカーボールを掲げて見せた。
「乱ぼーる?なんですかそれ」
そう問う俺に、どらさんは
「違う。ぼーる違う。ぼぉ~。「る」は発音しない。Ball」
「ぼ、ぼぉー。ぼぉ~?ぼぉー。ぼぉ~ぉ。ball。あ、できた?」
発音が意外と難しい……。たった二文字だが語尾にらの発音を含んだような感じで、普段意識せず言葉を発している為、なかなか感覚が掴みにくい乱ballだ。
「ていうか発音はいいんですよ。それよりどんな道具なんですか?」
見た目普通のサッカーボールだが、乱暴をもじった様な名前の道具だ。あんまり知りたくない気持ちもあるが気にもなる。
「追いかけてくるよね」
どらさんがそう言いサッカーボールを俺の顔の前辺りまで掲げてくるので、受け取ろうとしたら……。
「認証おっけ~い」
と、さっと引き、振り返るとおもいっきり蹴飛ばした。
「え?なに―――」
どらさんの奇行はいつものことだが、流石にちょっと意味がわからなさ過ぎるので戸惑っていると……。
「私の背後に屈んでパンツでも見ているのだ」
と、腕を掴まれなすがまま屈まされる。
「ちょっ、本当に意味がわからないんですが。なんですそのエロ発言」
「兎に角、私の後ろに隠れとくのだ。でもただ隠れるのは暇だろうて」
か、隠れる……? 隠れるだけは暇だからパンツ見とけ……? なんていう男らしさなんだ……どらさん。
「というか、俺は何から隠れてるんです? あのサッカーボール?」
とか言いつつも、変態だとは思うが本人から許可を得ているので、這いつくばる感じでスカートの中を見る。
「白だっ!!」
“ピンク、紫、白、黒”
サダシの声が頭にこだまする。
「ど、どらさん。あんた、ほんとに……」
這いつくばりながら泣きそうになるのを堪えていると……。
『ほぉれはっひゅくぅっ』
『はぁつきたぁまてぃでぇ~』
妙な歌がうっすらと耳に届いてくる。
『ほぉれはぁっひゅうくっ』
『きのんのぉ~~はぁいつぅっ』
しかも、どんどん近づいてきている。
「ふむ。計算通りのタイミングだぁ」
「計算通り……?」
依然として仁王立ちのままそう言うどらさんの、脚と脚の間から同じように目を向けると……。
『ほぉれはちかぁったぁ~』
『もぉのすこぉいゆうきぃ~りぃんりぃん』
妙な歌を垂れ流しながら、サッカーボールが一直線にこちらへと転がってきていた。
「うぇぇぇぇぇぇっ?!」
非現実すぎてなんだか怖くなり、どらさんを見上げる。
「な、なんなんですかっ。あ、あれぇっ」
「乱Ball。どんな障害物があろうとも、認識した人間を見つけ出す災害用に開発した道具だよぉ~」
どらさんがそう説明したときにはもう、乱Ballは目前に迫っていた。
『ほぉれはぁ、ほぉれはぁ、ほぉれはぁっ』
乱ballはどらさんの前で止まり、その場で物凄く横回転し始め……。
『ゆくぅううううっ』
そして、孤を描くようにどらさんをかわすと……。
『おまぁんたぁせいたしました』
俺の隣で止まり……。
『ハイジョシマス』
急な人間味のない機械音が流れると同時に、プシューとスチーム音をさせながら変形し始めた。
「ちょっ、なにが災害用なんですか! 排除とか言ってますけど!」
「ああ~間違って強制排除認識しちゃったね~」
しちゃったね~じゃないぞどらさん!
「は、はやくなんとかしてくださいよ!」
更にスチームの量が増え本体が見えないが、雰囲気で変形がそろそろ終わろうかというところっぽい。
「うむ……」
だが、どらさんはモクモクと白く包まれてる乱Ballを見下ろし、顎に手を添えて考え事をしているだけで止めようとはしなかった。
「いや、考えるのは後で、はやくピッととかポチッと止めてっ―――」
焦って言う俺を手で制止、どらさんは口を開く。
「無理だ。逃げるのだ」
よく見たら手で制していたのではなく、屋上の扉をどらさんは指し示していた。
「なんでだちくしょう!」
止まっていたら何されるかわからないし、兎に角駆け出し、屋上の戸を潜ると階段を駆け下りる。
「これは鬼ごっこやっ! サッカーボールと鬼ごっこやぁああああ!!」
そんなことを叫びながら駆け下りるもんだから、すれ違う者達に変な目で見られたが、気にせず走りぬけ、学園内を吹き抜ける擬人化した風となるのだった。
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