山羊座DEAD
翌日ーーー。
「ちっ……」
めんどくせえ。なんでこんなとこにまで来なきゃならんのだ……。
「あれって、そうじゃない?」
「本当だ。絶対そうだよ」
通り過ぎただけでこんなにも噂されるって、どんなやつなんだよ俺。
「おい、マジかよ。あれ百太郎先輩だぜ」
「おお、ほんとだ。一年のクラス破壊するつもりか?」
破壊しねえよ……。つうか、破壊ってなんだ。したことないぞそんなもん。
「…………」
昨日、あの屋上での一件で更に早く終わらしたと思ったので、帰ってからもどう処理すればいいのか思案したのだがさっぱり思い浮かばなかった。……が、そこで思い出したのが、一年のある奴だ。
「…………」
あいつに―――あいつ等に力を借りるしかない。そう思い、いつもより早く登校して一年の学年まで降りてきたのだが…………。
「どこにいるんだ……」
全く見当つかない……。近くの一年に聞こうにも、近寄ったら逃げてしまう。それまでは噂話をしていたのにだ。俺の。
「うわあ。あれ、鬼我島学園の番長じゃない?」
「え? あれが?」
いや、番長じゃないし。そんな腕っ節強そうに見えねえだろうが……。
「ちっ……」
なんか、だんだん腹立ってきた……。ちょっと話しかけてやるっ。
「ちょ―――」
「よくないです!すいません!!」
早ぁっ!? まだ何も言ってなくなくねえ!?
「お~い。ちょっとぉ~」
聞こえる筈はない。
「あのさぁ~……」
というか聞こえても止まるはずがないのはわかっているが、遠のいていく女子生徒二人にそう声を掛けずにはいられなかった。
「たのんますわ……」
伸ばしたはいいが、早々に行き場の失いただ空を彷徨っているだけの自分の右手を見る。
「ほんまに……」
本当、誰でもいいんだ……。奴が居るクラスだけ教えてくれ……。
「…………」
じゃないと俺は……―――。
「あっ。変質者だ」
何かに支配され消火器に手を伸ばしかけていた時、背後からそんな失礼な言葉が飛んできた。
「やめてくださいよ~。ここ、私のクラスの前なんですから」
こんなこと言うのはあいつしか居ないと思い振り返ると、やはりいつものニコニコ顔で恋ちゃんが立っていたので
「おお!心の友よっ!」
俺は感激に身を任せ恋ちゃんを抱きしめた。
「やっぱり変質者だ~。妊娠しちゃう~」
「はっはっは。お前の子供なら望むところじゃ~」
と、二人の間ではいつのも馬鹿なノリなのだが……。
「おい、五月妊娠するってよ」
「まじかよ~……いいなと思ってたのに。番長はなんでもありか……」
「どうして抱き合ってるの。やらしい……」
「後輩を狙いに来たというの? 不快だわ……」
びっくりするほど冗談が通じていないようで、色んなところから冷たい視線が突き刺さってきた。
「俺から仕掛けたが、やめよう、恋ちゃん。このままいつものノリでやってると俺の評価が更にすごいことになりそうだ……」
それに、こんなことをしに来たわけではないので、さっと恋ちゃんから距離を取った。
「別にいいじゃないですか~。言わせとけば」
口を尖らせつまらなそうにする恋ちゃんは本当にどこまで冗談なのか俺でもわからない時がある。
「うん。ところでさ……」
……が、今はそんなことどうでもいい。
「サダシと鉄がどこにいるか知ってるか?」
唐突に質問したので一瞬驚いたようだが、すぐにいつものニコニコ顔に戻ると、恋ちゃんは……。
「知ってますよ。教えませんけど」
なんて言ってニコニコしやがった。
「知ってるんだな? 教えてくれ」
知ってるだけしか聞こえなかったことにして頼んでみる。
「知ってますよもちろん。嫌です」
こいつ…………女だけど殴りたい。
「知らないんだな。じゃあ他あたるわ」
と、一気に突き放しその場を後にしようとしてみる。
「他にあたれないでしょう、百ちゃん。しょうがないな~……」
「おっ、じゃあ教えて―――」
くれると思って振り返ったら。
「だが、教えない」
…………。
「あっ、ちょっと冗談ですって」
と、すがり付いてくるが無視して歩く。流石の俺でも腹に立つときが―――。
「これでも止まってくれませんか?」
「っ……!!」
な、なんだこの右腕に当たる柔らかい物はっ!
「お、お前なにをっ……」
驚いて視線を向けると……。
「うりうり~」
今日の昼食だろうあんぱんを腕のところに押し当てている馬鹿が居た。
「もう、いいよ……。しまいに泣くぞ俺……」
溜まり溜まった気持ちを解放するぞ、今この場所で……。
「わかりましたよ~。教えますよ~」
「頼むわ……。本当に」
そして、今度はちゃんと、俺が探していたサダシと鉄の場所を教えてくれたので、すぐさまその場所に向った。
の、だが……。
「屋上……」
わざわざ聞きに行かなくてもよかったのかよ……。
「ふぁ~…………」
「ほぉ~…………」
目当ての人物二人は、俺がいつも居る屋上で並んで体育座りして空を眺めていた。
「むむっ、視線を感じるっちゃね!」
「ばか、サダシ。こういう時は「何奴!」って言うんだぜ」
二人のおかっぱ野朗が二人してこちらに顔を向けてくる。いつもながら気持ち悪いくらい同じおかっぱに眼鏡だ。
「百太郎さんだっぱ!」
「ばか、サダシ。こういう時は「よく来たな」っていうんだぜ」
相変わらず、独特の世界観があるな、こいつら。
「いや、サダシ別に間違ってないだろ。まあ、よく来たなでもいいけどさ」
そういいながら、奴らの前に腰を下ろす。もちろん体育座りだ。
「百太郎さんがきたっちゃ~ことは、なにか情報がほしんだね」
とサダシだと思う奴が聞いてきたので。
「ああ。そうだな」
と、素直に答える。何故こんな変な二人のとこに来るかというと、本当それしかない。
「久しぶりだが、早速頼む」
こいつらも俺や恋ちゃんと同じところの生まれであり、あまり知られたくないが、ガキの頃は一緒に遊んだりして仲良くしていた。情報屋なるものをやりだしたのは中学の頃だったが、昔から何かと色んな情報に長けていたわけで、ひけらかしたいというよりは収集するのが好きな情報オタクなのだ。
「情報にもよるけんども、百太郎さんなら安くしとくっぺよ」
「ばか、サダシ。そこはタダにしろよ」
因みに、情報オタクはサダシの方で、鉄はサダシの相談役&精神安定剤みたいな存在だ。
「だども、それだと他の人に悪いっちゃ~よ。鉄っちゃ~ん」
「ばか、サダシ。知り合いによくすんのは悪いことじゃねえ。ハピネスだ」
ハピネス…………関係あるようでないような。
わかるようなわからないような……。まあ、昔から鉄はずれていたんだが……。
「そうだね鉄っちゃん! 幸せの情報だっちゃね!!」
「オウ、イエェ~イ!サダーシ!」
二人は二人にしかわからないことで納得しハイタッチを交わす。
「もういいか?」
「いいっちゃね!タダで教えるっちゃ!!」
サダシが俺にもハイタッチを求めてくるので仕方無しに応じる。
「で、聞きたいのは、麗奈先生のことなんだがな。なんかあるか?」
「四條麗奈(しじょうれいな)28歳。英語教師。木登り部顧問。おっとりとしている見た目、話し方からは想像できないほど鍛え上げられた肉体を持ち、腹筋がかっこいい」
情報を話すときだけ、サダシ特有のどくどくな訛りがないのにはいつも驚かされる。
「最近、6回目になる有間先生からの誘いを断り、ビンタまで放っている。今日の下着の色は上下黒」
「すげえな、そんなことまでわかるのか?」
今日の下着って……。あぁ……でもなんかいいな。20後半の黒って。
「わかるっちゃね~。なんなら百太郎さんのこと好きなおなごの下着の色までわかるっちゃよぉ」
「え!? まじか!? っつか俺のこと好きな奴いんのっ!?」
まじか!まじかっ!! 久しぶりにテンション、ガン上がりだ!!
「ピンク、紫、白、黒。でも、これじゃないんっちゃね。聞きたいのは」
「4人もいんのかい!!」
空へ向けて両の拳を上げる。
「誰なんだちくしょうっ!」
ピンク、紫、白、黒…………なんて素敵。
「誰でもいいっ!! 愛してるぜぇえええええええええっ!!」
誰だっ。どんな子なんだっ……。密かに恋心抱いてるオナゴはっ……。
「くぅ~~~っ……!!」
お前らっ……。
何クラスの誰なんだっ……。
「えっ……くしゅん」
「ふぇっ……くしぃ」
ん……? あの険悪な二人が同時にくしゃみ……? なんか面白いな。
「ふぁ……ぁ……」
まあ、どうでもええわ。百太郎も居らんし寝よう。
「か、賭け事に目がない?」
きっとあほな顔をしてるに違いない。だが、サダシから聞いた言葉が意外すぎてこんな顔にもなるってもんだ。
「麗奈先生はことごとくイメージの向こう側へいくっちゃね」
何か振り向かせる手がかりになればと、好きなことを聞いたわけだが……。
「賭け事か~……」
目がないということは、じろさんと遊園地へ行くのを賭けて勝負できるということかもしれんが……。
「いやぁ……。賭け事かぁ……」
俺は勝負事が嫌いだしな……。そういうのは全くの素人と言っていい。そんな奴がギャンブラーに勝つことなんかできるんだろうか……。
「勝負事なら大概のことに乗ってくるっちゃね」
「う~ん。それなら先生もやったことないようなことで勝負できるかも知れねえが……」
なにがあるんだろうかな。大概ってことは、今までなんでも乗ってきたわけでもあるだろうし。
「因みに勝率は?」
「そうっちゃねぇ~……。パチンコやスロットなんきゃ~負けはあるみたいだけんども、対人戦では無敗みたいっちゃね~」
「うわぁっ、きたっ。ほらきたよっ」
そうなんだろうよ! 大概そういう奴って無敗がテッパンなんだよ!!
「カードゲームもぉ、ボードゲームもぉ、叩いてかぶってもぉ、普通のじゃんけんもぉ、いっせーのーでも指相撲もぉ~しりとりもぉ―――」
「ああー! もういい!」
しょうもないことまで全部ってことじゃないか!
「さっき言ったのは、先生に恋した男子が挑んだ勝負だっぱ」
「モテモテかっ!じゃあどんなしょうもないゲームも全滅じゃねえか」
思春期特有の姑息なやつもやりつくしてることだろうし……。これはまずい……。
「つうかなんでも受けるなよな……。人生までギャンブルかよ……」
「それがそうでもないんだあ」
「え? まじか?」
つうか、それを早く言えよサダシめっ。
「サダシに代わって言うと、かくれんぼだ」
何故代わって言ったのかわからないが、鉄がそう言い、サダシも「んだ、んだ」と何度も頷く。
「何故かくれんぼはしないんだ?」
「いんやぁ、したんだぁ。一回、恋する男子と学園でしたんだけどもぉ、見つけてもらえず、かといって自分からは出てこれずぅ、2週間無断欠勤してしまったんだっぱ」
なっ…………にぃ!!
「ちょぉっ!! どこまで本気なんだよ! 2週間って!」
「男子の降参で出てきたんだけども。隠れる前より痩せててフラフラだったて言われとっちゃ」
ギャンブラーはかくれんぼも飲まず食わずのサバイバルか!!
「それ以降。申し出る男子もいなかと。先生可哀想だっし。まんじでぇ見つからんちゃ」
「そういう理由ぅっ!? つか、そんな思いしても麗奈先生はまだ受けるってのか!?」
もう馬鹿としか言えない。
「んだ。あの先生は受ける。出てきたとき満足げに気を失ったみたいだったっぴゃ」
「満足げて……。降参しなかったら逝ってたかもしれんのに……」
本当馬鹿としかいえない。若くて綺麗だが、変な姉ちゃん好きになったもんだな……じろさん。
「わーと鉄っちゃんと恋とでかくれんぼした時、伝説になった百太郎さんならいけると思うんだっぱ」
「いや、ガキの頃の話だろそれ? 何でも伝説になるってあの頃は」
見つかることなく、諦めた皆が帰った後もずっと木の上に居て、翌日の夕方ようやく見つかったというだけの話だ。俺も馬鹿といえば馬鹿だが、2週間は流石にない。
「逆に見つければいいんだぜ」
鉄がまた急にそんなことを言い出した。
「いや、鉄。逆じゃない。そのことずっと話してたんだよ」
鉄って、昔から思ってたけど、やっぱり馬鹿だ。
「百太郎さんが隠れて、見つける側に回ればいいぴゃ」
鉄が言いたいことを代わりにサダシが言うという珍しいことが起こったが……。
「いや、それも辛くね? 先生が折れるまで隠れるわけだろう? 下手しい2週間で収まるか?」
「期間決めればいいんだびゃ」
あ、そうか。
「そうだな。サダシお前やるな~」
と、褒めると
「ぺぺぺだっぱ」
照れてるのかわからないが、サダシの初めて見るリアクションが返ってきた。
……と、思ったら。
「サダシ!ぺぺぺだっぱは使っちゃ駄目だって言ったろうが!」
鉄は急に凄い剣幕で怒鳴りつけるとサダシを馬乗りでぶん殴り始めた。
「まあ、仲良くな~」
そう声を掛けると、俺は教室に向かうべく歩き出した。
本当、独特な世界観で生きている変な奴らだが、くれた情報はかなり良いものだったと思う。
後は、作戦を練り実行に移すだけ。
「やってやるか……」
小さく闘志を燃やし、屋上の扉をくぐると階段を降り教室へと向った。
「百太郎ぃ!!」
教室に入ると、授業はとっくに始まっていたようで、じろさんに声を掛けられる。
今日は酒の臭いはしないし、まともになったのかもしれない。
「…………」
……ということは怒られるな。めんどくせえ……。
「おめぇ。お、遅かったじゃねえけぇ……」
「えっ?」
覚悟したのにそれだけ?
「「え?」じゃねえ。はやく座れぇ」
「あ、ああ」
と、自分の席に向うが……。
「ぐぅ~……がああ……」
布丸が居たのを思い出し。ゴリラの後頭部を叩いてやると、そのまま前へ行き中島の隣に座る。
「なんで叩くねん……」
ゴリラの声が聞こえたが、無視し机に突っ伏す。
「ふんん…………」
考えるのはかくれんぼのことだけだ。
「…………」
先生から隠れるとなるとかなりの技が居るかも知れん。
「うむ…………」
だが、ここで、1年の頃に忍術を選択し身につけた消音歩行が生きてくるかもしれないとは、人生無駄なことはないのかもしれないな。……ただ、それだけじゃ駄目だ。本気で、それこそ蒸発したんじゃないかと思わすくらいの隠れる技術がないと。
「…………」
普通に家帰って、タイムリミット時に戻ってくるとかありかな……? できるよな? 普通に。
「よし…………」
できそうならそれをしよう。でも、予想外の事態を考えて、正攻法でも考えておいた方がいいな。普通に隠れるとしたら―――。
「百太郎様。起きてくださいまし」
「えぇ? やだ」
壁柄のポンチョとかそういうのを着て、まきびしも―――。
「百太郎様っ。起きてくださいましっ」
「いだだだだ!!」
左足に激痛を感じ中島に向き直る。
「痛いわ! あほぉっ!!」
「やっと起きましたわね。よかったですわ」
中島は満足したように微笑むと、涼しい顔で黒板へと向き直りやがった。
「よくないですわほんまに! なんなんだお前! 中島なんなんだお前は!」
「さて。なんでしょうね。貴方が自己紹介を聞いてなかったんですのよ。二度は言いませんわ」
中島は黒板の文字をノートに写しながらそう答える。
「ったく……」
まぁ、名前なんかどうでもいいんだけどな。でも、二度は言わないとか言われると知りたくなるというか……知っていたっていう事実を突きつけて、驚かしてやりたいというかなんというかな……。
「お前パンツ何色?」
「な、なんですの!? いきなり!?」
何故だろう……。自分でも思っていたことと発した言葉に違いがありなんか驚いている。
「ごめんごめん。いや、ちょっと聞いた話しを思い出しちまってさ。口から出ただけだ」
「聞いた話っ!? 遅れてきて何を聞いたというのですか! 貴方っ!」
あぁ……。うるさいうるさい。手を上げて、周りの皆、じろさんも含めてごめんの挨拶を送り、中島に向き直る。
「ちょっと静かにしような。隣だから。聞こえるから。うるさいから」
と、子供をあやすように頭を撫で落ち着かせる。
「うるさくさせてるのは貴方でしょうに……」
更に怒るかと思ったが、意外にも素直に撫でられ大人しくなるのは更なるちょっとした進歩だった。
というか、なんか頬が赤い。
「うむ……」
もしかして、照れてるのだろうか……? まさか、あの中島が? んな、まさかだよな。
「お前ピンクだったりしない?」
あっ、くそっ。また考えてることと発する言葉に違いがっ……。
「違いますわっ! それは昨日のことでしょうに……」
今度は少し控えめで怒ったからほっとした。……が。
「そうか。違うのか。じゃあ、紫、白、黒のどれかだったりしない?」
本当、何故こうも引っ張るんだ……俺は。
ちょっと、俺を好きな人物がいるとか聞いて舞い上がってるのか? 問いただす自分を止められそうにない。
「なっ……。ど、どれでもありませんわっ。もうお黙りになってっ」
「いや、ラッキーカラーがさピンク、紫、白、黒なんだよ」
ある意味、間違ってはいないと思う。
「幅広過ぎますわっ。朝の占いでそんなにカラー言われることありまして?」
「不思議だよな。なんか山羊座はそうだったんだよ、今日」
嘘だと自分でも驚くほどぺらぺらと話せるんだよなぁ、俺。
「そんなことありますのね……。確かに最下位だったとは思いますの。ただ、そんな沢山のカラーを言うほど悪いんですの? 死が迫る勢いだから何にでも験を担ぐ勢いみたいですの……」
「だなぁ。今日山羊座死ぬんじゃね? で、明日のニュースは山羊座突然死で持ちきりだろうな。12月22日~1月20日までに生まれた人間がこの世から皆消えるんだもんな」
そんなことあってたまるかと思うが、まあ、あの世で山羊座の皆で集まって「いや~いきなり死んだよな~」みたいに盛り上がれるならそれはそれで良いような気もしてしまう。
まあ、そんなことはないけどな。全部嘘なわけだし。
「そんなの嫌ですわ! 私が許しません!」
「ど、どうした中島ぁっ。急に立ち上がって中島、おいっ。どうしたってんだよ。山羊座の救世主かなんかなのか、お前」
まさか、立ち上がって宣言するほど山羊座に思い入れがあるとは思わなくて、少しびびってしまったじゃないか。
「中島グループの財力を持って山羊座の皆さんをお助けしますわ!!」
俺の口から出た嘘に多額の金を動かす宣言をするだとっ!? そうはさせるか!!
「中島落ち着け! それは俺のただの推測というか戯言というか―――」
中島の右腕を掴みとりあえず座らせようとしたのだが……。
「なんだってぇ? 山羊座を助けるぅ? なんでぇそりゃ」
「というか、うるさいぞ中島ぁ! 私はお前の叫びはこの世で一番不快だと思っている!!」
じろさんとアリスがとうとう食いついてきてしまった……。
「不快とはなんですの!? 私はただ今日死ぬであろう山羊座を―――」
「死んでたまるか!! お前がいう山羊座は私も含まれているんだぞ!!」
やばい……犬猿という感じの二人が喧嘩し始めた……。
つうか、アリスも山羊座だったのか……これは俺の嘘もすぐばれるじゃないか。
「おいおい、中島、鬼白。喧嘩はやめねぇ。因みに俺っちは乙女座でぇ」
聞いてねえよ! じろさん! なんか可愛らしいなおいっ!
「鬼白さん、貴女……死ぬ運命ですのね。お可哀想に……」
「貴様ちょっと待て、私は見殺し確定か! というか山羊座は死なん! 少なくとも今日はなぁっ!!」
うん。正解だよアリス。間違いなく今日は死なないと思う。ていうか、この事態どうにかしなければならんな……。蒔いちまった種だし……。
「ちょ、ちょっと、待った……」
言って立ち上がると、三人を含めたクラス全員の視線を集め、すぐさま座りたくなったが、なんとか堪える。
「まあ……あ、あのさ。二人静かにしてぇ……じろさんは授業やろう。……な?」
初めて授業中にまともな発言をしたような気がする。
「珍しいな。百太郎がそんなん言うて」
ゴリラも後ろの方で同じようなことを言う。
「むっ……ま、まあ、貴様が言うならしょうがない」
「そうですわね。も、百太郎様が言うなら」
「おめぇに言われちゃ~な。……さぁ、授業再開でぇ」
えっ……なにこれ? いや、確かに俺が望んだことだ。けど……。
「マジで……言って……る?」
素直すぎだろ……。なんで俺の為ならしょうがねえって感じなのよ……こいつら。
「じゃあ、さっきの続きでぇ~59ページだやな」
本当に授業初めてるよじろさん!
「うむ…………」
熱心に教科書を見ちゃってるよアリス!
「お座りになったらいかがですか?」
逆に指摘してくる中島ぁっ!?
「えっ……え……?」
どうなってんのこれ……。いつの間に発言力を手に入れたんだ俺は。
「ぇぇぇぇ……」
したことと言っても……ケーキはまあ、おっさんと作ったけど、アレはおっさんが殆ど作ったようなもんだし……。昨日の自殺未遂は俺は何にも止めちゃいない。助けたのはどらさんだ。中島に関しては、勝手に隣にきて邪魔しかしていない……。
「こ、これが人を助けるということか……?」
こえぇ……。前の糞野朗の鼻つまみ者でいた方が安心で楽だ。
というか、肝心な部分で活躍してないのに、若干株が上がってるのがなんとも居心地が悪い。
「なにか言いまして?」
と、微笑みかけてくる中島の顔もちゃんと見れねえよ。
「いや、なんでもない……」
こりゃ、自分の精神安定の為にも、正攻法で麗奈先生を負かす必要があるな。
これ以上、偽りで、救世主や聖者のようになってくのはごめんだ。
なんたって……。
山羊なのだから……。
目立たず、穏やかな生活ができればそれでいいんだ。
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