第一回仕分け結果発表!


 「うぇっ……くしぃっ」


 「あら、風邪ですか? アロマ姉さん」

 

突拍子もなくくしゃみした私に、恋が心配そうな顔を向けてくる。

 

「なに? 風邪とな? それはいかんねぇ~。これを食べねぇ~ボインの姉ちゃん」


何故か一緒に居る、どらさんとか呼ばれている青い髪の少女は飴玉を一つ渡してくる。


 「風邪ではないと思うが……。というかこの飴玉はなんだ?」


受け取った飴玉には『ツキヤブリムキムキ』と書いている。

 

「名前のとおりさ~。服を突き破るほどムキムキになれっぞぉ~。元気元気~」


「そんなにムキムキになってたまるか! そうでなくともちょっと気を使ってるんだぞ!!」

 

そういってから気づく。口走ってしまったと……。


 「え~なんに気を使ってるんですか~? 力が強いことですか~? 少しは女の子らしくとかですか~? 」


コイツ(恋)は全てわかってて聞いてくるんだろうか……?

なんにせよ恐ろしい子だ。このニコニコ顔の裏側には漆黒の闇が広がっているに違いない。


「私だって女なんだぞ。Tシャツを着ているときなど気になるもんなんだ。二頭筋や三頭筋が盛り上がっていないかとか」


そういう今も長袖ではあるが気になってくる。長袖は長袖でシルエットが大きくなりがちだから気になるのだ。


「それは前からですか? それとも最近気になりだしたんですか~?」


「それは気になるねぇ~。屋上にいるもんだからよぉ~最近なのかねぇ~」


ああ……また自ら苦手な展開へいくような事を言ってしまった。二人に詰め寄られ、どう打開したらいいかわからない……。

 

「どうなんですか? うちの幼馴染が好きなんですかい?」

 

「どうなんだい? ミーの精神安定剤が好きなのかい?」


幼馴染……? 精神安定剤……? 

 

「お前たち誰のことを言ってるんだ? 」

 

努めて冷静にそう問う。奴の事だというのはわかりきってはいるが、私はこういう話題は本当に苦手だ。す、好きとかいう感情を抱いていなくても、いつものように答えられない時があり、誤解され噂が広まる危険性が人より高いように思う。

過去にそういう事があったわけではないが、それは単に、今みたいに親しく絡んでくる人間が周りに居なかっただけで、姉達には昔からよくからかわれていたことがあるが故だ。


「そんなの決まってるじゃないですか」


「そうだぜ姉ちゃん。もも―――」


どらさんの言葉を遮る形で屋上のドアが開く音がし、私を含めた3人の注目がそちらへと移る。


「やっと仕分けできたで~……」


そう言いながら屋上へと出て来たのは疲れた様子でダンボール抱えたゴリラだった。


「すまんな。ありがとう」


この時だけは、ゴリラよくやったという気持ちも込めて心からのありがとうを言っていた。

どらさんが名前を言い終わったとき私自身どうなっていたかわからないので、気持ちを込めるだけの価値は充分にある。


「ほんま、大変やったで~。殆どはアリスやロピアン宛てやったけどさ、中途半端に寝子や恋のもあって……」


言いながらゴリラは抱えていたダンボールを私達三人の前に置く。


「中途半端とかひ~ど~い~。死ねぇゴリさん」


「いったぁっ! お前攻撃的な子やったんかっ!?  」


ゴリラは恋が右足の脛辺りをパンチしてきたことに凄く驚いた様子だ。

 

「自分宛ての依頼はなかったのか? 」


何故か恋からの猛攻ラッシュを必死に耐える状況に陥っているゴリラに問う。


「うおっ……ちょっ……あっ……あったで。おおっとっ……じゅっ、10枚くらいかな。まっ……まあ全部部活の助っ人っ……みたいなもんやけどっ……」


器用なやつだ。多彩な攻撃を全て交わしながら答えている。


「そんなのもあるのか……」


ダンボールに入った山積みの紙切れに目をやる。


「凄い量だな……」


身体を動かすこと自体は嫌いでなく、むしろ運動神経がいい方と言える自信はあるが……何故か、どう頑張っても足だけは遅い……。


「…………」


走ることが前提の部活だけは止めてほしいものだ……。


「あっ……ほうっ!……アリスのは相談とかほとんどでっ。あって、もっ……さっ……茶道とか演劇とかっ……英国貴族マナー? ……とかっ、そっ……そんなんばっかりやで」


「そうなのか? 」


少しほっとしたが、茶道や演劇、英国貴族マナーってのもどうなんだろうか……。

一通り学んだことはあるが、助っ人が必要なシーンていうのがどうも想像できないんだがな……。


「ふう~。やめやめ。面白くないゴリラさん」


「いや、お前。面白くないとか、散々攻めかかってきて言うか? 」


どうやら飽きたらしい恋が戻ってきて隣に腰を降ろした時だ。


「ふむふむ。一応、皆依頼を受けることには成功したんだねぇ~」


湯飲みを両手に持って、縁側のおばあちゃんのようにどらさんが誰に言うでもなくそう言った。


「あ、ああ……いやぁ……」


だが、どらさんの言葉に、歩み寄ってきていたゴリラは立ち止まり俯く。

 

「なんだ? 皆それぞれに依頼書受け取ったんだろう? 受け取っていない者など―――」



言いかけて思い出す。



可能性ある奴が一人要る、と。



「まさか……奴か……?」


問うと、ゴリラは苦笑いで頷く。


「だ、だが、しかし……今日学校に来てないから受け取っていないだけだろう? 一つくらい依頼は―――」


「いや、それやねん。時間掛かったのはそれや。全部で200枚くらいはあってんで? 一枚くらいはあるやろって。見落としやろって。5回くらいは寝子とロピアンとで仕分けたのを裏表全部確認したんやけどさ……」

 

無かったらしい……。俯きがちになるゴリラの少し落ち込んでいるような表情は本物だった。


「ほんま……なんでなんやあいつは……」


「さすがにぃ……そうなることは想像できなかったですね……。百ちゃんそこまで人脈無いんだ」


「まあ、同じクラスの人間の名前すらろくに覚えてないやつだからな……」


こればかりはどうしようもない……か。


「やれやれだな」


「ですね。ほんと、やれやれ」


恋と共にため息を吐いた時、どらさんが不意に口を開く。



 


「依頼が無いなら仕分けががりにすればよいのだよ~」





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